僕のペット
僕にはペットがいる。
白くて長くてふわふわとした毛の、僕の持っているサッカーボールくらいの大きさの、くりくりとしたまあるい目の僕のペットは、僕が生まれた時から僕の傍にいる。
生まれたばかりの僕を撮った写真の中に、僕のペットが僕に寄り添うように写っていたから、それは間違いない。でも僕のペットは、どうやら僕以外の人の目には映らないらしい。
たまにお父さんやお母さんの足が僕のペットに当たったりすることがあるのだけれど、二人は、あれ、今何かに触った? と言っては床の辺りをきょろきょろと見回すだけで、僕のペットに気が付くことはない。そんな時、僕と僕のペットは密かに顔を見合わせて笑っている。
それに、僕のペットはよく僕のおばあちゃんの膝の上で寝ているのだけれど、僕のペットが膝の上にいることを知らないおばあちゃんが急に立ち上がったときなどは、僕のペットはおばあちゃんの膝から転げ落ち、コロコロと僕の前まで転がってきたりすることもあるのだ。
だから、転がりすぎて絡んだ僕のペットの髪を解いてあげるのは、いつも僕の役目だった。
そんな僕のペットは、僕のことが大好きだ。
学校から帰り家の玄関を開けた瞬間、僕のペットは僕めがけて飛んでくる。足元にすりすりと頭をすりつけてくる。
僕が学校のテストで良い点を取った時などは、僕のペットはまるで本物のサッカーボールのように、嬉しそうに庭で弾んでいた。
そして僕のペットは、勇気があって、とても強い。
僕が同級生に虐められていた時、どこからか僕のペットが走ってきて、僕の同級生に体当たりをした。その拍子に同級生は道路に倒れ、ちょうどそこへ走ってきた車に轢かれてしまった。
僕はびっくりしたけれど、その同級生はずっと僕のことを殴ったり蹴ったりしていたので、かわいそうとは思わなかった。
ある時家に泥棒が入った時などは、僕のペットが大活躍だった。
夜中、忍び足で僕の家に入ってきた泥棒が、おばあちゃんの部屋のタンスの引き出しの中のものを盗み出したことがあった。でも、僕のペットは泥棒が盗みを終えて油断したところでその泥棒に噛みついた。
泥棒の上げた大きな悲鳴で目を覚ましたおばあちゃんは、泥棒に負けないくらいの大声で叫んだ。その叫び声を聞きおばあちゃんの部屋へ行ったお父さんとお母さんも、ご近所中に聞こえるのではないかというくらいの大きな声を上げた。
それからお母さんが僕の部屋へとやってきて、としちゃん。あのね。おうちに泥棒が入ったの。でも、大丈夫だからね。泥棒は神様がやっつけてくれたから。それでね。これから警察がくるからね。でも、としちゃんは何も心配しなくていいから。もし警察の人に何か聞かれたら、知っていることだけ話してねと言い、僕を抱きしめた。
しばらくすると、二種類の大きなサイレンの音が聞こえてきた。それからバタバタと大勢の人が家の中に入ってきて、お父さんとお母さん、それにおばあちゃんと話しをしている声が聞こえた。
でも、警察の人は僕には話を聞きにこなかった。
僕は僕のペットから話を聞いていたから色んなことを知っていたけれど、警察からは何も聞かれなかったから何も話さなかった。
泥棒はおばあちゃんの知り合いの知り合いで、おばあちゃんがコツコツと貯めていたタンス預金がおばあちゃんの部屋のタンスの中にあることを知っていたから泥棒に入ったこととか、泥棒が急に悲鳴を上げた原因が、僕のペットが泥棒の頭に噛みついたからだということも知っていたけれど、そのことも話さなかった。
翌日、僕とおばあちゃんが居間で一緒にソファに座りながらテレビを見ていた時、僕は昨夜のことをおばあちゃんに聞いてみた。
おばあちゃんの話だと、泥棒の悲鳴でおばあちゃんが目を覚ました時、泥棒は口から泡を吹いて床でのたうち回っていたらしい。そこへ泥棒とおばあちゃんの悲鳴を聞いてかけつけてきたお父さんとお母さんが警察を呼び、お父さんの話からどうも泥棒の様子がおかしいことを知った警察が、同時に救急車を手配したらしい。
泥棒の状態については、警察と一緒にやってきた救急隊員が、脳梗塞かもしれないけれどよくわからないと言っていたそうだ。おばあちゃんは、きっとおじいちゃんが守ってくれたのよと言い、僕のおじいちゃんの写真を見ながら嬉しそうに笑っていた。
おばあちゃんが大事そうに撫でている額縁の中の写真は白黒で、坊主に近い短い髪の、学校の制服のような服を着て、真ん中に星のマークのある帽子を被った、お父さんに良く似た顔をした僕のおじいちゃんが写っている。
おじいちゃんは僕のお父さんが生まれる前に戦争で亡くなっているから、僕は一度も会ったことがない。残っている写真もおばあちゃんが持っている一枚だけらしく、おばあちゃんはその写真をとても大切にしていた。そして何か良いことがあるといつも、おじいちゃんのおかげと言い、ちょっと悪いことがあっても、大事に至らなかったのはおじいちゃんが守ってくれたからだと言って、普段おじいちゃんの写真が飾ってある仏壇に手を合わせるのだ。
だから僕は、おばあちゃんを守ってくれたのは本当はおじいちゃんじゃなくて僕のペットだということを知っていたけれど、あまりにもおばあちゃんが嬉しそうにそう話すから、そのことを黙っておくことにした。
僕のペットも、おじいちゃんの写真を見てニコニコと笑うおばあちゃんのことを同じくニコニコ笑いながら嬉しそうに見守っていたから、自分の手柄だということがおばあちゃんに伝わらなくても、きっと悔しくはないだろうと思ったからだ。
どうやら僕のペットは僕だけじゃなくて、おばあちゃんのことも大好きらしい。
そういえばいつもおばあちゃんの膝の上で寝ている時の僕のペットは、とても幸せそうな顔をしていたものね。
おじいちゃんの写真を見ながらニコニコと笑う僕とおばあちゃんの周りを、僕のペットがまるでサッカーボールのように、いつまでもいつまでも嬉しそうに飛び跳ねていた。




