「予定より早く、会いたくなる朝」
【おはなしにでてるひと】
瑞木 陽葵
スマホに来た「出かけよう」の通知に、寝起き0.3秒で「うそでしょ……」ってなった人。
だけど、天気アプリ見て、クローゼット開けて、気づいたらちゃんと悩んでた。
――出かけたくない理由より、“どんな顔で会うか”が気になってた。
荻野目 蓮
連休最終日は“陽葵と一緒”がデフォ。人混みは気にしない。大事なのは“誰と”か。
準備に時間がかかることを想定して、30分前には家の前で待機してた男。
――玄関から出てきた彼女の顔、ちゃんと目に焼き付けたくて。
【こんかいのおはなし】
「……いや、だから混んでるってば。どこもかしこも」
連休最終日、
スマホに届いたメッセージ。
《どっか行こーぜ。陽葵、今日は俺と歩こう》
「なにそのナチュラルエスコート発言……姫扱いとか……」
布団の中でグルグルしながら、
でも気づけば天気アプリ開いてた。
最高気温:24度、晴れ、風は弱い。
「……この感じだと、白シャツ系……?」
気づけばクローゼットの前に立ってる自分がいた。
さっきまで“出かけるのダルいモード”だったはずなのに。
こういうの、ズルいと思う。
《いつもの感じでいいよ、陽葵はそれが一番似合う》
メッセージアプリに蓮から追加通知。
続いて、
《あと、前髪ハネてたの、コンビニのお姉さんにかわいいって言われてたから問題なし(?)》
「え……ちょっと待って、それ本人に言う?」
顔が熱くなった。
なにこのじわじわ来る照れ攻撃。
「かわいいって……“問題なし”ってなに……」
悩んだ末に、
お気に入りのスカートに、ちょっと落ち着いた色のブラウス。
鏡の前で髪を軽く直して、
靴ひもをぎゅっと結ぶ。
「よし……しゅっぱーつ!」
玄関の扉を開けた瞬間。
そこに――いた。
「……は?」
「あ、おはよ」
そこには、すでに蓮。
コンビニ袋片手に、
いつもの感じで、笑ってた。
「え、ちょ、なんでいるの!? まだ約束の時間より早いってば!」
「陽葵の“よし、行くか”のタイミング、だいたい分かるから」
さらっと言ってのけて、
さりげなく、手に持った缶コーヒーを差し出してくる。
「それ、今朝の“ごほうび”な。出てきた顔、いい感じだった」
「なにそれ、ずる……」
でも、手はちゃんと伸びてた。
受け取った缶のあたたかさに、ちょっとドキッとして、
反射的に視線を逸らした。
「……しぶしぶ出かけるつもりだったのに、
これじゃ、うれしそうな顔しちゃうじゃん……」
小声で呟いたその言葉、
たぶん、蓮にはちゃんと届いてた気がする。
そして、ふたりは歩き出す。
まだ何も始まってない朝、
でも、すでに“特別”が始まってる気がしてた。
【あとがき】
“行くかどうか”じゃなくて、“誰と行くか”が答えになる朝。
陽葵の照れとしぶしぶのあいだには、
たしかな“うれしい”があって、
それを蓮は、ちゃんと見つけてあげるのが自然にできるんです。
この朝は、きっともう戻れないくらい、大事な朝。




