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飯炊きライスマン

 この世界の貧富の差は激しい。

 そして日本のようなセーフティネットは無い。

 そうすると、毎年冬になると金も仕事も食べ物も無く飢え死にする者たちが出るのだ。これは農村でも大都市でも変わらない。

 しかし、そんなお腹が空いて死ぬなどという悲劇をライスマンが許すわけにはいかないのだ。

 なにしろ彼らは腹が減っているのだから、口に合わなくても食べてくれるし、それで生きながらえればオニギリに感謝の念も芽生えよう。崇め奉る気にもなるだろう。如何にオニギリが美味しかったか、人に話す機会もあるだろう。そうして噂になったオニギリが美味しい腹持ちの良い食べ物として認知される日がくるかもしれない。そんな遠大な計画にニヤリと笑うライスマンだった。

 そうだ、麦ばかり食っているこの世界の人たちに、もっとおコメを!そしていつの日か地平線まで続く水田……


「ふ、ふぉーーっ!」

「わぁ、なに?!」

「どうした!」

「ふっふーんふふふっふーんふふライスマーン!」

「おい、おちつけライスマン、今はダメだ、どうどうどう!」


 そうだった。今はスラムで炊き出しをしているのだった。

 不本意だが、米自体は多少ある。旨くないが。だが、俺の力があればそこそこ美味しくできる。そうして多少美味しくしたモチモチのコメで飯の無い人に飯を食わせているのだ。


「あの、ライスマンさん。水汲んできました」

「ありがとうアーノルド、その鍋に入れてくれ。手のひらを立てて真ん中くらいまでな!」

「この、おコメが入ってる鍋ですか?」

「そうだ。どんどん炊こう!」


 肉屋のアブドーラとアーノルド兄弟に手伝って貰い、どんどん米を焚いてオニギリにする。具はキマイラ肉のしぐれ煮だ。キマイラは色んな生き物が混ざった奇妙な生き物で、獅子に山羊や蝙蝠が混ざった状態なら強い獣と言えるが、蛇の胴体にモグラの頭とかついてても無害で成長する前にその辺の鳥に食べられる存在でしかない。たまに道で干からびている。そんな当たりはずれの大きい魔獣なので、肉の質についてもブレが大きく、だいたいが屑肉扱いなのだ。


「ちゃんと扱えばうまいのにな、キマイラ」

「おう、よくわかってるじゃねぇか。骨を見ればどんな肉かはわかるからな。そこで調理方法とか考えて行けばいいんだ。内臓の位置とかわかりにくいから血抜きが困難でな、だいたい臭くなっちまうのが残念なんだよなぁ」

「でもアブドーラさんはそんなお肉も美味しく調理できるんですよね、凄いです!」

「よせやぃ!俺様はただ、一日中肉の事を考えてるだけだぜ」

「アブドーラさんとライスマンさんって似てますよね」


なぜかショックを受けている風の肉屋マンの手から鍋を奪い取り、オニギリに詰める。


「これ、ご飯の上に乗せても美味しいのでは?」


 ローランドが良い事を言う。丼物は正義だ。しかし俺はコメのおいしさを味わって

欲しい。丼だと具が主でご飯は従になりかねない。おにぎりなら具はどこまで行っても従。主はコメだ。コメを食え。


「ローランド、この辺の人たちが茶碗とか丼を持ってるとは限らないだろう。手で持って食べられる方が良いんだ。それに、オニギリなら持って帰ったり後で食べたりもしやすい」

「そこまで考えてるんですね!」

「お、おう。うん……」

「このお肉、チーズとか削って乗せても美味しそうですね」

「チーズか。旨いけどコメ単体とあわせるとちょっとな、工夫がいるからなぁ」

「いや、パンとかに乗せましょうよ」

「ダメだ」


 ローランドはまだ若い。何もわかっていない。パンじゃダメなんだ。

 なのにアブドーラも復活するとパン案に賛成しはじめる。パンの暗黒面に飲まれるぞ。


「パンに乗せるならしぐれ煮じゃなくてミンチにしてからこう薄く焼いてだな」

「おいしそうですね、レタスとかトマトなんかも乗せてはどうでしょうか」

「乗せすぎたらパンからこぼれちまうぜ」

「じゃあ、もう一枚のパンで挟むってのは?」

「おいおい天才かよ。そのパンにまた肉とか乗せて塔みたいにしようぜ」

「砂の魔女が薬の調合中に片手で食べられるようにパンで具を挟んだっていう話を読んだことがあって」

「じゃあ、肉のパン挟みをサンドウィッチと名付けようか」

「何がサンドイッチだよ、そんなに積んだら、それビックマックじゃねぇか」


 俺に味方は居ない。コメを布教したいだけなのに、子供はすぐ味の濃い物に引かれていく。


「あの、僕はオニギリ好きですよ。冷めても美味しいし、腹持ちが良いし」

「だよなぁ!アーノルド、お前だけだよ解ってくれるのは」

「でも、コメってサラサラしているから、ライスマンさん以外が作るとオニギリにできないんですよね。だから炊き出しとで大勢に配る時は丼でいいのかな、なんて」


 コメをモチモチにする魔法を身に着けた事に後悔はない。無いが、ボトルネックになってしまうのは本意ではない。魔力の続く限りモチモチにしたあとは、泣く泣くリゾットを配るのだった。

 そしてひっそりと決意する。モチモチ魔法の使い手を集めようと。


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