戦士ブラニク達は報告する
「山羊も……念のため処分しておいた方がいいな」
「死体埋めよう。外に引きずり出すから手ぇ貸してくれライスマン」
「あいよ」
このライスマンという男、警戒はうまいが足跡が読めないので斥候はできない。鉈のような短い剣は持っているが戦闘はからっきし。正直、役立たずだと思った。
俺がゴブリンがキチンと死んでいるのを確認している間に、ライスマンは二体の脚を引っ張って洞窟の外に運び出した。グレイステップがもう二体。そして俺は山羊だ。ゴブリンより重いからな。
「死体ごと洞窟埋めるってのは……大変だよな?」
「あとで奥までどれくらいの深さか調べてギルドに報告しよう。洞穴埋めるのは別のメンバーでやってくれるだろ」
スコップなんかは持ってきていないので、剣の鞘で穴を掘る。その横でライスマンが鉈の腹部分を使って土を掻き出していく。森の中なので土が柔らかいとは言え、結構面倒くさい。ゴブリンどもがスコップでも持っていれば良かったのだが、流れて来たばかりなのか碌な道具も揃えていないようだった。
「ゴブリンの戦利品だが、石のナイフと手斧、弓が二つ、食いかけの獣、蔦で編んだ籠いっぱいのゴブリン芋。光り物はなんもナシだ」
「埋めちまおう、全部」
「人型は鉄剣とか硬貨とか集めてる事もあるんだけど、この規模じゃ何にも集めてなかったみたいだな」
「被害者が出てないって事だから良い事だ。樽とか箱もねぇもんな」
「石のナイフが不壊石とかだったらひと儲けなんだけどな」
「不壊石って古代遺跡からたまに見つかるやつだろ。そんなの持ってるゴブリンがいるか!」
ゴブリンが持っていたのはただの石を割って削ったナイフ。うん、金目の物は何にもない。
ぶつくさと文句をいいながら、討伐の証明用にゴブリンの耳を切り落とす。死体とガラクタを穴に放り込んだ時に急にライスマンが叫び声をあげた。
「なぁ、待って、これ本当にゴブリン芋か?」
「はぁ? イモだろう。食ってみてもいいぞ」
ゴブリン芋はゴブリンの巣の周りに生えている芋で、とんでもなくエグみが強くて人間には食えたもんじゃない芋だ。これが大量に自生している所にゴブリンが住み着く事が多い。グレイステップが依然話していたが、ゴブリンが栽培しているんじゃないかともいわれているらしい。なのでギルドとしては処分対象で、ゴブリン被害を恐れる村などにもこの芋の事は伝えられている。『見つけたら焼け』と。こいつが生えていると、ゴブリンが巣を作るかも知れないのだ。
だが、ライスマンの目には別なものが見えていたようだ。
「なぁなぁ、この葉っぱの形。精力剤の材料になる薬草じゃないか?」
「どういう事だ?」
二番村で簡単な報告を行い、一日歩いてゾティルティまで戻る。
鎧に武器、予備の武器。野営中に体温を下げないための毛布や調理器具など、子供一人分くらいの荷物を抱えて歩く俺たちと違い、ライスマンは呆れるほど軽装だ。彼が飯盒と呼ぶ小型の鍋とわずかな荷物しか持っていない。街道沿いから離れないので野営をしないのだとか。財産もどこかに預けっぱなしで冒険に出ているらしい。お人好しなのか危機感が無いのか、価値観が違いすぎて驚くことしかできない。
だが、荷物の少なさは大きな利点でもあるようだ。こいつは戦闘職である俺と同じくらいに体力がある。グレイステップの申し出で休憩している間も、薪を集めたり周辺を警戒したり米を炊いたりと細々と動いている。タフな上にフットワークが軽い。身軽なのはあっているのだろう。役立たずどころかなかなかに面白いヤツだ。
ゴブリン芋を持ち帰り、ギルドに報告を上げる。知恵者資格を持つグレイステップからの報告なので、ギルドでも真面目に取り合って調査をしてくれた。
翌日には結果が出て、精力剤として稀に採取依頼が出る薬草で間違いないとの回答がきた。根っこと葉の違いがあるとはいえ、同じ植物であることが知られていなかったのは驚きだった。
「森の奥まで探しにいかないと見つからないはずだよな、みんなで焼いてんだから」
「精力剤なんて貴族とか色街から不定期に依頼が出る程度だからな、遠くまで行く探索者じゃないと覚えてなかったんだ。村の周辺での定期探索とは仕事を受ける層が違った」
この希少な薬草は今後見つけやすくなるし、ゴブリンが一気に繁殖する原因がこれならば駆除も一層捗るかもしれない。ギルドからはゴブリン駆除の報酬とは別に報奨金がでた。こういう時は少し高い店で派手に飲み食いするに限る。俺たちはライスマンを誘って街に繰り出した。
祝いの席だというのにこいつはまたも暖炉で米を炊き始めて店員に嫌な顔をされている。肉をどっさり食っている俺に、具だくさんのスープを注文して野菜も食えなどと言ってくる。知っているぞ、そのスープには米を入れているんだろう?
このライスマンという奇妙な男は、行きも帰りもやたらと腹が空いていないかを気にしては食べ物を差し出してくる。
今の俺は充分な稼ぎがあるんだ、そうそう腹を空かせるなんていう事は無い。だが、思い返してみれば子供のころはいつだって腹が減っていた。腹が減っているのだと思っていた。
食えるものはなんだって拾って食ったし、腕っぷししか自慢できるものが無い俺は人からも奪って食った。それでも足りないものは満たされなかった。
虫や鼠ではなく、デカいものを殺せば儲かることを知った。
街の近くまで魔物が来た時。それを石で殴り殺したら褒められた。たくさん金がもらえた。満腹になるまでメシが食えた。
だから、そうやって魔物を探しては叩いて、気が付けば車輪ギルドでは戦士という称号で呼ばれていた。難しいことは相棒のグレイステップが考えてくれる。なんでもぶん殴って金に換える。そうやって暮らしてきた。それでよかった。
だというのに何なんだ、こいつは。
「こっちの料理も美味いぞ、食ったか? 足りてるか? オニギリ食うか?」
「いらん」
「そうか、焼きおにぎりにしておいたから念のために持っておけ。明日はシーロ山の方にいくんだろ? 山道歩いていると急に疲れが来ることがあるからな、歩きながら食うといい」
俺は力を。グレイステップは知識を磨いて生きてきた。この奇妙な男はどちらも自信がないと堂々と公言した上で生きている。逃げ足? そんなものは自慢にならないだろうと思っていたのだが、なかなかに重宝なのだそうだ。
できる仕事の幅が広いとも思えないのだが、にもかかわらず他人のメシの心配ばかりしている。
「まぁ、明日から俺たちは遺跡の調査に行くんだが……お前も来ないか?」
気が付けば、俺とグレイステップで山分けするつもりだった儲け話に誘っていた。どうにもこの変人が気に入ってしまったらしい。




