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ライスマン、逮捕される

 最近、コメドゥコーロ王国の首都ゾディルティを騒がせている奇妙な噂が二つある。

 一つは貧民街で個人で炊き出しを行って食事を振舞う奇特な青年の話。

 そしてもう一つは、闇夜に紛れて人を襲う白ずくめの怪人の話だ。

 この怪人を恐れて、夜間には表を歩かないようにという通達が出ている位だが、不思議な事に被害者は皆無事なのだ。怪我をすると言った事も無い。何をされたのかというと、ねばねばモチモチとした何かを口に入れられ、食べさせられる事になる。


 我々、衛視隊は街の安全を守る者として、このような異常者をのさばらせておくわけにはいかないのだ。衛視隊のコートを羽織り、頬を叩いて気合を入れる。さぁ、巡回に出よう。


「先輩、巡回行ってきます!」


 そう、声をかけて詰め所の外に出た所に、そいつは居た。

 肉屋のアブドーラを地面に組み敷き、口に白い何かを押し込む怪人。


「いいから喰ってみろって、頼むから。絶対おいしいから!」

「はふへへ!あふへへふえーーー!」

「怪人だー!逮捕ーっ!」


 捕縛用の金剛棘棍棒で怪人を殴打しつつ、警笛を吹き鳴らす。とびだしてきた先輩衛視たちと共に怪人を叩きのめし、脚を掴んで引きずり地下牢にIN。この間たったの五分の早業であった。


「よくやったな!」

「お手柄だ」

「判断が早かった。だから逃がさずに済んだ」


 先輩たちからの誉め言葉を浴びながら、怪人の事情聴取に向かう。余罪を聞き出し、被害者たちに確認を行った上で神前にて神罰を申請しなければならない。人を裁くのは神だ。


「ほら、起きろ! 他に何処で何をしてきたか残らず吐くんだ!」

「やめて!水は掛けないで!お米が濡れちゃう!」


 牢屋の中にバケツで汲んだ水をぶっかけると、それまでおとなしくしていた怪人が騒ぎ始める。押さえつけようと苦心していると、衛視隊の同僚から奇妙な連絡があった。


「昨日、そいつに襲われてた肉屋のアブドーラさんから、釈放してやって欲しいという話が来たんですが」


 後ろ手に縛った怪人を椅子に座らせて話を聞いて見る事にする。異例の事だが被害者も同席だ。


「お前、名前は」

「ライスマンです」

「馬鹿にしてるのか」

「……古い名は捨てました」


 被疑者:ライスマン。書記官が律儀に書き記す。


「お前は暴行・障害の現行犯なわけだが……」

「いえ、俺はただおにぎりを食べて貰いたかっただけです」

「なんだ、オニギリってのは」

「ライスを持ちやすい形にまとめて塩味を付けた物です」

「なんでそれを食べて貰いたくて襲うんだ」

「お肉にはライスがあうから」


 お肉にはライスがあう。議事録として記録される。これは7年残される。

 ここで被害者のアブドーラが発言の許可を求めた。


「私、この男から口にライスを詰め込まれたアブドーラなんですが」

「なんでしょうか」

「塩味があるけど、ほんのり甘みがあって」

「何の話をしてますか?!」

「ライスです。私の口に詰め込まれた」

「どうです、美味しかったですか!」

「おいしかった!無理やり詰め込まれたんでなければもっとおいしかった」

「ごめんなさい」

「いいよ!」


 目の前で起きている事がよくわからない。


 結局、この懐の深すぎる肉屋が友人から情熱的なあーんをされただけだと主張し、怪人ライスマンは釈放された。驚くべき事に口にライスを詰め込まれる瞬間まで知り合いでは無かったという。

 そういうのは他人と呼ぶと思うのだが。


「いや、美味しいものを一緒に食べたら友人ですよ」

「しかし、こいつには余罪も」

「おいしいライスを食べさせたい気持ちが爆発しただけでしょう。私がキチンと見張りますよ、この友人をね!」


 牛を一人で担ぎ、今日も解体による返り血で真っ赤に染まった服を着ているにこやかな巨漢にそういわれてしまえば、断れるものは居なかった。


 ぺこぺこと頭を下げるライスマンの手を引いて立ち去るアブドーラ氏を見送り、扉を閉める。納得はいかないが変人にばかり関わっているわけにもいかない。街の治安を守る為に、しなければいけない事は沢山あるのだ。


「本当に帰しちゃってよかったんですかね」


 どうしても気になったので、先輩に尋ねてみる。


「面倒を見るというのだから仕方あるまい。それに被害者が被害じゃないというのだ、事件は起きていない」

「いや、あのアブドーラ氏、ライスマンって男に『ベーコン巻きのオニギリならだれもが食べた瞬間に虜になるぞ』って。あれ同類じゃないですか?」

「連れ戻せ!二人とも逮捕しろ!」


 急いで追いかけたが、怪人たちは影も形も見当たらないのだった。

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