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夜に残る火

 日が落ちると、キャンプ場の空気は一気に変わった。昼間の熱が嘘のように引き、山の匂いと湿った土の匂いが混じる。

 焚き火だけが、明るかった。薪が崩れ、ぱち、と音を立てるたび、火の粉が小さく舞う。誰も急がない。誰も無理に話さない。

 夕食は簡単だった。焼いた肉と野菜。紙皿と紙コップ。それでも、妙にうまかった。

「外で食うと、なんでこんなに美味いんやろな」

雄介が言うと、

「腹減ってるからでしょ」

あいりが即座に返す。笑い声が、焚き火の輪を一瞬だけ明るくした。

食後、自然と焚き火を囲む形になる。望とほのかは少し離れた場所で並んで座り、低い声で話している。雄介とあいりは薪を追加しながら、くだらない言い合いを続けていた。それを見ている美山と風香は楽しそうに笑っている。玲奈は、少し後ろに下がって座った。

 昼よりも、夜の方がよく見えるものがある。

 和也は、火を見ていた。琴葉も、同じ方向を見ている。二人の間に、言葉はない。その隣に、沙紀がいた。火に近すぎず、離れすぎず。誰かを見張るわけでも、守るわけでもない。

ただ、そこにいる。玲奈は思う。

――この三人は、一緒にいる努力をしていない。

無理に話さない。無理に笑わない。でも、崩れない。それが、他のどの関係とも違って見えた。

「……静かだね」

ぽつりと、ほのかが言った。

「そうだね、この感じ」

望が応える。その言葉で、また少し沈黙が戻る。

焚き火の音。虫の声。遠くで風が木を揺らす音。

沙紀が立ち上がった。

「そろそろ、疲れたろ。無理しなくていい」

それだけ言って、火から少し離れた場所でコーヒーを入れ始める。

誰に言うでもなく、自然に。

 和也は、何も言わずに紙コップ取った。琴葉も同じように受け取る。

 その様子を見て、玲奈は確信する。

 ――この人たちは、「一緒に頑張ってる」んじゃない。「同じ場所に立ち続けている」だけなんだ。

 それが、どれほど難しいことか。それが、どれほど強いことか。

 火が、小さくなってきた。誰かが薪を足そうとしたが、沙紀が首を振った。

「今日は、ここまででいい」

火は、消えかけのままにされた。

完全には消さない。でも、大きくもしない。その加減が、この夜そのもののようだった。

 テントに戻る前、玲奈はもう一度だけ、振り返った。

 焚き火の跡。黒くなった焚き火台。残った熱。

 ――追いつきたい場所は、遠い。

 でも、見えた。それだけで、今は十分だった。

 夜の冷気の中、キャンプ場は静かに眠り始めていた。



第95話目の投稿になりました。前回とこの回は、玲奈視点で書いています。琴葉、和也、沙紀の関係に驚きを感じつつ、琴葉と和也を自分の目標に定めた玲奈でした。

次回はキャンプの朝からの続きです。

お楽しみいただければ幸いです。

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