試される現場、揺れる進路
雄介は、もう腹を決めていた。建方専門の工務店を見学した帰り、そのまま坂崎のところへ向かった。
「先生、わい、あそこ受けたいです」
坂崎は驚いた様子もなく、ただ一度うなずいた。
「そうか。じゃあ、向こうに話を通しておくよ」
それから数日後の放課後。建築実習場でいつも通り、和也と琴葉が研ぎと課題練習をしているところへ、雄介がやってきた。顔が、やけに晴れやかだった。
「わいの試験、決まったで」
二人が同時に手を止める。声につられて、望、ほのか、あいりも集まってきた。
「来週からな、土曜日は全部バイトや、夏休みも、ほぼ毎日入ることになった」
「え、そんなに?」
琴葉が思わず聞く。
「建方現場についていけるかと、社員とうまくやれるかを見るんやと。履歴書だけ先に出して、バイトで問題なかったら、そのまま入社決定や」
望が少し考えてから言う。
「インターンと就職試験を兼ねている感じだね。最近、大学生でもそういう形多いよ」
「そうらしいわ」
雄介は肩をすくめる。
「まずは現場で使いもんになるか、見てもらうんや」
「それ、いい話だと思うよ」
和也は素直に言った。
「僕はもう一年近く月島さんでバイトしてるから、仕事の流れも、人も、だいたい分かってるし」
琴葉も言葉を挟んだ。
「琴葉と和也は、もう入社してるようなもんやな」
「いや……」
和也は少し照れたように笑う。
「子どもの頃から事務所で遊んでたから、社員さんみんな顔見知りでさ。逆に頭上がらないんだよ」
「それ、純粋培養のサラブレッドだね」
望が冗談めかして言う。
「それなら、わいは……」
雄介が続きを言いかけた瞬間、
「駄馬。もしくは当て馬」
即座に琴葉がかぶせた。
「なんでや~! そこはダークホースやろ!」
一同、笑い声が上がった。
翌週の月曜日。放課後の実習場で、和也と琴葉がいつも通り練習をしていると、作業着のまま顔を出す。雄介は初めての建方バイトを終えた報告をする。
「どうだった?」
和也が聞く。
「きつかったわ」
即答だった。
「でもな……」
雄介は少し間を置いて続ける。
「めっちゃ楽しかった」
「どんな感じ?」
琴葉が聞く。
「朝6時半集合。眠すぎて死ぬかと思った」
「柱、クレーンで吊ってな」
「気ぃ抜いたら一瞬で終わる世界やった」
少し笑って、こう言った。
「終わったあと、親方に言われたんや。『今日の動き、悪くなかったぞ』って」
その一言が、胸に残ったのが分かる言い方だった。
「……それ、嬉しいね」
和也が言う。
「わいには、ああいう現場、合っとる気がする」
雄介は、はっきり言った。そこへ、ほのかが少し控えめに口を開く。
「私も……来週、建設会社訪問なんだ」
「ほのかの希望してる会社、結構大きいとこだよね?」
望が言う。
「うん。受付で名前言うの、想像してだけで緊張する」
「ホームページみたら、設計室CADの画面がずらっと並んでて……」
少し視線を落とす。
「正直、ちょっと怖くなった」
「分かる気がする」
琴葉がうなずく。あいりが苦笑する。
「今日、坂崎先生に紹介された内装施工会社ね、ほのかの見学した会社の内装やってるって」
「梅岡内装さんだね」
望が言う。
「会長、県内最初の壁装一級技能士だよ。職人10人くらいいるはず」
「え、望さん詳しい」
あいりが目を丸くする。
雄介は、腕を作業着の胸の前で組みながら笑顔で言った。
「ま、まだ分からんことだらけやけどな。頑張るわ」
それぞれが、それぞれの現場を探し始めている。
同じ場所に立ちながら、少しずつ、違う未来へ向かって。
夕方の光が、実習場の中に長く差し込んでいた。
第88話目の投稿になりました。雄介の現場でのアルバイト始まりました。現場は慣れるまでは緊張と分からないことの連続です。自分が今何をするのか、次に何をするのか。この作業の段取りが分かるようになると安心して作業に取り組めるようになります。雄介のバイト上手くいくでしょうか。
次回も雄介のバイトの話が続きます。
お楽しみいただければ幸いです。




