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湖畔のバーベキュー

 ゴールデンウイークの中日。空は高く、雲は薄かった。

 湖畔の駐車場に車が並ぶと、少し遅れて到着した月島家のワゴンから、沙紀が先に降りてきた。すでに望たちは到着しており、湖畔では準備が進んでいる。

「おー、いい天気じゃん」

キャップを被り直しながら、沙紀が湖を見渡す。湖面は穏やかで、春の光を反射していた。

「ここ、初めて来たけど綺麗なところだね」

風香が少し緊張した声で言う。

「そうだね。でもアウトドア久しぶりだから、段取り大丈夫かな」

琴葉が少し心配そうに続けた。

「大丈夫や。火ぃ起こして、肉焼くだけやから」

雄介が笑って答える。

「大丈夫だよ。望さんがいるし。ほら、僕たちも手伝おう」

和也が琴葉を促した。

「そうだね。望さんがいるから」

そう言って、望が箱から出していたバーベキューグリルの組み立てを手伝う。

「なんでや~」

 雄介がそう言いながらも、そこにいるみんなが笑っている。

「ほら、しゃべってないで薪と炭、下ろすの手伝ってくれ」

沙紀が声をかける。

「はいです、沙紀姉さん」

雄介は素直に従った。

「風香ちゃんは、少し休んどいて」

女の子には優しい雄介。

 設営は早かった。望、和也、琴葉が手分けしてタープを張り、あいりとほのかがテーブルを整える。沙紀と雄介は薪と炭、クーラーボックスを運び、風香もそれを手伝った。無駄がない。建築科らしい段取りと連携だった。

 火が起きると、場の空気が一気に緩んだ。

「ほら、肉焼くで」

「野菜も頼む」

「はいな」

沙紀の指示で、雄介がトングを握り、肉と野菜を並べる。焼ける音と匂いが広がる。

「外で食べると、なんでも美味しいよね」

ほのかが笑う。

「分かる~」

あいりも頷いた。

 湖を背に、簡易テーブルを囲んで8人が並ぶ。紙皿に盛られた肉と野菜。紙コップに注がれた飲み物。特別なことは、何もない。

 望と雄介は、最近の実習の話で盛り上がっている。

「連休明け模擬棟の建方やろ。忙しくなるわ」

「そうだね。12月から墨付けして加工してきた軸組が実際に上手く組みあがるかが心配だよ」

「そら、仮組してるから大丈夫やろ」

「それでも仮組は一階分づつだったから、実際に二階まで建てるとなるとスケール感違うよね。屋根の上で7m超えるんだから」

「そうやな~仮組では高くて4mだからな。7mとか8mとかの上での作業は未知の世界や。どうなんやお前らならバイトで二階建ての屋根の上で作業してるやろ」

雄介は和也と琴葉に尋ねた。

「う~ん、最初は怖かったけど、僕は慣れちゃったかな。むしろ高いところ僕は好きだよ」

「僕は今でも怖いかな。まあ、最近は脚の調子もいいからそれほどでもなくなったけどね。結構足踏ん張るから下半身力いるし」

琴葉はあっけらかんと、和也は怖そうに言った。

「和也君達は、通常授業に加えて、早朝放課後、五輪の課題やって、土曜に現場作業のバイトまでしてるんだろ。まったく凄いよ」

「それ言ったら、望さん学校ない日は実家の仕事手伝ってるんでしょう」

「そのためアカデミーに来てるんだから当然だよ。ところで、全国大会の課題、今年はどうなるんだろうね」

「7月まで分からんのが、一番きついよな」

「でも、和也君たちはもう準備してるもんね」

ほのかが言う。

「準備というか……やれることをやってるだけだから」

和也はそう言って、少し照れたように笑った。琴葉は、その横顔をちらりと見る。

沙紀が立ち上がり、追加の肉を焼き始める。

「和也、ちゃんと食べてるか?」

「うん、食べてるよ」

「若いし、作業で動くんだからいっぱい食べろよ。身体使うんだから体が資本。肉はアミノ酸バランスいいから無敵食材だぞ」

言い方はぶっきらぼうだが、自然だった。まるで、家族に向けるような声。

「若いって僕達、沙紀姉と二歳しか違わないよ」

和也が笑って言い返す。

「もうその言い方、お姉ちゃんすっかりお母さんだよ」

風香も笑って言った。

 その様子を見て、琴葉の胸が少しだけ締まる。ふと視線を移すと、沙紀と和也が並んで話している。

「練習、詰めすぎんなよ」

「分かってる」

「ほんとか?」

「……たぶん」

「身体辛くなったら言えよ。ケア手伝うぞ」

「うん、頼む…」

短いやり取り。けれど、そこには揺るぎのない信頼があった。

風香が横から口を挟む。

「沙紀姉ちゃん、過保護すぎ」

「うるさい。私がサポートをしなければ、すぐにやせ細って衰弱するだけだ」

笑いが起きる。場は和やかだった。琴葉も笑った。楽しい。それは確かだ。

でも――自分だけが、少し外側に立っているような感覚が消えない。

――なんだろうこの感じ…。


 片付けの時間になると、自然と役割が分かれた。

「灰、こっちでまとめる」

「テーブル畳むね」

最後に、湖を見渡す。日差しが、少し柔らかくなっていた。


第81話目の投稿になりました。湖畔での楽しいひとときでした。沙紀と和也の距離感に不安を感じる琴葉です。

次回は、連休後半の練習と、建方作業でアクシデントが‥。

お楽しみいただければ幸いです。

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