見習い初日④ 食後の昼寝と最後の掃除
重と心太のコンビは、とにかく早かった。心太は寸法を測ってカットする。和也がそれを運んで抑え、重が張ると言う連携プレーで、みるみるうちに天井と壁の石膏ボードが貼られて行く。天井はサブロク版、壁はサンパチ版、窓の上と下の壁はサブロク版。午前中のうちに1階の 20畳のLDKの天井と壁、広縁付きの8畳の和室の壁ボード張りが終わってしまった。へとへとになって昼休みに、現場の床の上に三人で座って弁当を食べ終わると、
「ちょっと一眠りしてくるよ。和君もひと眠りしといた方がいいよ」
と言って、重も心太も車に帰って一眠りしている。和也は眠る気になれず、スマホをいじっていたがいつの間にか眠ってしまった。昼休みが終わると、心太に起された。午後は二人ともスッキリした顔をして仕事に臨んでいた。
「大工ってやつは、昼飯食ったら一眠りするのが定番だよ。それでなくても食事した後は眠くなるし、午前中の作業で体が疲れているから、しっかり眠って体を休めること。これが午後からの作業効率を上げるコツなんだ。僕も大工になりたての時に、このことを教わってそれを実践しているよ」
心太はそう言って、すっきりした顔で午後の作業を行っていた。午後の作業も早かった。一階部分の残りの廊下や納戸、洗面所の天井と壁のボード張りが終わってしまった。
「それじゃあ一階の作業が終わりだから、二階の作業を行う前にボード二階に上げなきゃなんねんだよな」
重が言う。すでに階段は出来上がっていて養生と呼ばれるシートが貼られていた。
「僕と和君で頑張ってボード二階に持っていこう」
階段にボードをぶつけて壊さないように、少しずつ少しずつ慎重にボードを運んだ。これが重労働で、今日一番辛かったかもしれない。約一時間掛けて、心太と残りのボードを2階にあげた。その間に重は、ボードを張っていた間に壁に描いていたコンセントとスイッチの位置にカッターで切り込みを入れていた。4時半になって
「今日は作業が進んだなぁ。やっぱり一人多くいると手元が増えるから助かるね。作業が早く進むよ」
それから三人でしっかりと隅々まで掃除をした。
「いいか和、掃除は基本だからな。良い現場は整理整頓、そして掃除。その日一日の作業の終わりは、必ず掃除と決めている。次の日の朝一に現場が汚いとやる気がなくなるだろ。しっかり掃除をしてくれ」
「そうだよ、和君。掃除はね、とにかく大切だからね。なんといっても月島工匠先々代からの家訓だからね。掃除を大事にしなさいというのは」
意外だったのは、掃除はバイトの仕事だとばかり思っていたのに、重まで一生懸命掃除をしている姿には驚いた。帰りの車の中、
「今日は疲れただろう。初日だったのに、ボードの上げ下げ大変だったからな」
「足、大丈夫?」
「大丈夫です。久しぶりに動いたから、体中がパンパン、下半身が本当やばいです」
「カラダで稼ぐっていうのはこういうことなんだよ。これが職人の世界ってやつさ」
「和が怪我した時には驚いたけど、人生ってやつは不思議なもので、ひとつの扉が開いてるうちは、次の扉は開かない。でも開いてる扉が閉まれば、まだ開いていない扉が開く。なんかの映画のセリフだけどな。本当になんとかなるもんだべ」
重が笑って言った。
第8話目の投稿になります。
お楽しみいただけたのならば幸いです。