校長室
3月16日。2年生の卒業式の日。
1、2年生ともに式に出席し、体育館には少し張り詰めた空気が漂っていた。壇上では、修了証書の授与が淡々と進んでいく。修了証書授与の後、表彰の時間になり、健斗の名前が呼ばれた。
「職業能力開発協会長賞」
校内で一人だけの受賞だった。健斗は、大きな声で返事をすると、ゆっくりと立ち上がり、前へ出る。照れたように、でも誇らしさを隠しきれない背中だった。
式が終わり、体育館の外で人がばらけ始めた頃。琴葉と和也は、花束と小さな包みを持って健斗のところへ向かった。
「お世話になりました」
二人でそう言って、花束を差し出す。健斗は苦笑いしながら受け取り、
「いや……お世話になったのは、こっちだから」
少し間を置いて、真剣な声で続けた。
「二人とも、頑張れよ」
短い言葉だったが、それだけで十分だった。
1年生は教室で簡単なホームルームを行って1年間の授業を終えた。昼休みを取ってから研ぎ物をして帰ろうと話していた時に、坂崎が二人に声をかけた。
「午後1時半。職員室に来て」
それ以上は何も言わない。琴葉は一瞬、和也の顔を見たが、和也は小さくうなずくだけだった。
午後1時半。職員室に入ると、坂崎のほかに、神門と佐倉がいた。
「行くよ」
そう言って、5人で校長室へ向かう。校長室の扉を開けると、校長の山口が立ち上がった。その横には、午前中の卒業式に出席していた、職業能力開発協会の担当者が座っていた。机の上には、書類が一通、丁寧に置かれている。和也は、自然と背筋が伸びるのを感じた。
「座ってください」
促され、二人は椅子に腰を下ろした。校長の山口が、書類を手に取る。
「それでは、通知を読み上げます」
静かな声だった。
「相沢琴葉。小暮和也。両名を、20〇〇年度技能五輪全国大会建築大工部門出場候補者として、推薦する」
一瞬、言葉の意味が頭に入ってこなかった。琴葉は、思わず息を吸い込んだ。和也は、拳を握ったまま、動けずにいた。
「おめでとうございます」
校長の言葉で、ようやく現実だと分かる。琴葉の顔が、一気に明るくなった。目が潤み、笑顔がこぼれる。和也は、静かにうなずいた。胸の奥に、重く、確かなものが落ちてくるのを感じていた。
「点数だけど」
坂崎が、淡々と続ける。
「琴葉が98点。和也が96点だ」
琴葉が、驚いたように和也を見る。
「すごい……」
和也は、首を横に振った。
「まだ、足りないです」
その言葉に、坂崎はわずかに口元を緩めた。
「その感覚を忘れなければ、大丈夫だね」
校長から、激励の言葉が続いた。全国大会は、ここからが本当のスタートであること。2年生では体調管理と、学業、現場のすべてを大切にすること。一つひとつが、重い言葉だった。
校長室を出ると、廊下の先に人影があった。望、雄介、あいり、ほのか。全員が、こちらを見ている。
「どうだった?」
望が聞くより早く、琴葉が声を上げた。
「二人で全国、出ることになった!」
一瞬の静寂。次の瞬間、歓声が上がった。
「マジかよ!」
「やったじゃん!」
「あたりまえでしょ!」
次々に声が飛ぶ。
「点数、どれくらいだったんですか」
ほのかの問いに、琴葉が答える。
「98点」
「えっ……」
「和也は96点」
雄介が口笛を吹いた。
「化け物だな」
和也は、照れたように視線を逸らした。その流れで、沙紀に連絡を入れると、電話の向こうで、息を切らした声が返ってきた。
「今、向かう」
ほどなくして車が到着し、二人は乗り込んだ。向かった先は、恋の墓。和也は、墓前に立ち、静かに手を合わせた。
「……全国に連れていける」
それだけを、伝えた。風が、木々を揺らす音がした。
返事はない。けれど、不思議と、心は落ち着いていた。
その夜。月島工匠では、大祝勝会が開かれた。笑い声と、料理の匂い。和也は、その輪の中に座りながら、ふと思った。
ここまで来た。
でも――ここからだ。
胸の奥で、消えることのない火が、次の一歩を照らしていた。
第78話目の投稿になりました。琴葉と和也、全国大会への出場とうとう決めました。そして恋への報告。1年生編、これにて終了です。でもここから二人の全国大会挑戦は本格的に始まります。二階建て模擬棟の本格的な建築、仲間達の就活‥後輩も入ってきて先輩になり‥
次回は 2年生編開始 春休みと新入生との恒例イベントです。
お楽しみいただければ幸いです。




