表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/88

並ぶ背中、重なる視線

 一月の終わりが近づいていた。朝の冷え込みは相変わらず厳しいが、実習場の空気は、どこか張りつめている。ここ数週間、和也と琴葉の練習方法は明確に変わっていた。通し練習。完成。そして、講評。実習場で昼休みまじか。

「じゃあ、和也から」

坂崎に促され、和也は琴葉の作品の前に立つ。

「全体の精度は高い。でも……ここ」

桁と梁の取り合いを指す。

「胴付き、甘い。緩くしすぎ。後、桁から蟻頭出てる。鉋で落とすことしてない」

琴葉はすぐに頷いた。

「確かに。ゆるくしすぎて直角甘いよね。鉋かけ忘れた」

「ここは、出来ばえに直結する。時間よりも仕上げの精度重視したほがいい」

今度は琴葉が、和也の作品を見る。

「時間はかなり詰まってきてる。でも、垂木と筋違い」

差し金を当てる。

「天端、わずかにずれてる。原因は、ここ」

振れ垂木を指す。

「木削り精度悪い。削りすぎと削らなすぎ」

和也は、すぐに理解した。

「……木削り、ここで妥協した」

言い訳はない。

二人のやり取りは、容赦がなかった。

その様子を少し離れたところで見ていた雄介が、ぽつりと呟く。

「……なんでや」

望も、首をかしげる。

「なんで、あんなに言い方きついんだろ」

ほのかとあいりも、顔を見合わせた。

「喧嘩、してるように見えるよね……」

だが、当の二人はまったく違っていた。

「じゃあ、次はここ、やってみせる」

和也が言うと、琴葉は無言で場所を空ける。

鑿が入る。一発で、決まる。

「こう」

「……なるほど」

次は逆だ。

「和也、ここ見て」

琴葉が鋸を持つ。

「引き始め、少しだけ浅く。力入れすぎない」

鋸が、静かに走る。

「こうすると、最後が暴れない。だから一様に削れる」

和也は、食い入るように見ていた。

昼休み。あいりが、恐る恐る声をかけてきた。

「……あのさ」

「さっきの言い方……きつくない?」

和也と琴葉は、同時に首を傾げた。

「きつい?」

「うん。普通に、事実言ってるだけだけど」

琴葉が不思議そうに言う。

和也も頷く。

「改善点、言わない方が失礼だろ」

雄介が叫んだ。

「なんでや~! それ絶対仲悪いやつの会話やろ!」

一瞬、実習場に沈黙が走る。次の瞬間。琴葉が、ふっと笑った。

「え?」

そして、和也を見る。

「僕達……仲、いいよね」

その言い方は、今までと違っていた。

「和也君」ではなかった。

「ね、和也?」

和也は、一瞬だけ目を見開き、それから小さく笑った。

「ああ、仲いいよ」

雄介が目を見開く。

「……なんや今の」

望が、にやりとする。

「いつから?」

「あ、あのさ」

あいりが慌てて言う。

「私たち、邪魔?」

琴葉は、首を振った。

「全然」

そして、いつもの調子で言う。

「次、和也の番。現寸、時間計るよ」

「……鬼か」

「お互い様」

笑いが、実習場に広がった。


 1月の最終週。和也の通し練習は、ついに標準時間内に食い込んできていた。12時15分。完成。しかも、精度は明らかに上がっている。坂崎が、静かに言った。

「いいね。かなり高いレベルだ」

琴葉も、黙って頷いた。健斗も、標準時間内で完成するようになっていた。

「……三人でやってきて、よかったです」

健斗の言葉に、和也は答えた。

「一人だったら、ここまで来てない」

琴葉も、同じことを思っていた。三人で、見る。三人で、言いあう。三人で、直す。その繰り返しが、和也と琴葉二人を同じ高さへ引き上げていた。

 試験まで、あと一週間。緊張は、確かにある。

でも――今の二人は、同じ方向を見て、並んで立っていた。

背中は、寄り添いあって前に進んでいた。


第74話目の投稿になりました。ついに和也も標準時間内に組み上げられるまでになりました。これもそれも、喧嘩をしているのと間違えられるまでの、アドバイス合戦の効果です。相手の為を思ったら、ダメ出しをしてあげることも時には必要なのです。健斗も二人の助言で標準時間内完成のレベルに。

次回は大会前日のエピソードになります。

お楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ