並ぶ背中、重なる視線
一月の終わりが近づいていた。朝の冷え込みは相変わらず厳しいが、実習場の空気は、どこか張りつめている。ここ数週間、和也と琴葉の練習方法は明確に変わっていた。通し練習。完成。そして、講評。実習場で昼休みまじか。
「じゃあ、和也から」
坂崎に促され、和也は琴葉の作品の前に立つ。
「全体の精度は高い。でも……ここ」
桁と梁の取り合いを指す。
「胴付き、甘い。緩くしすぎ。後、桁から蟻頭出てる。鉋で落とすことしてない」
琴葉はすぐに頷いた。
「確かに。ゆるくしすぎて直角甘いよね。鉋かけ忘れた」
「ここは、出来ばえに直結する。時間よりも仕上げの精度重視したほがいい」
今度は琴葉が、和也の作品を見る。
「時間はかなり詰まってきてる。でも、垂木と筋違い」
差し金を当てる。
「天端、わずかにずれてる。原因は、ここ」
振れ垂木を指す。
「木削り精度悪い。削りすぎと削らなすぎ」
和也は、すぐに理解した。
「……木削り、ここで妥協した」
言い訳はない。
二人のやり取りは、容赦がなかった。
その様子を少し離れたところで見ていた雄介が、ぽつりと呟く。
「……なんでや」
望も、首をかしげる。
「なんで、あんなに言い方きついんだろ」
ほのかとあいりも、顔を見合わせた。
「喧嘩、してるように見えるよね……」
だが、当の二人はまったく違っていた。
「じゃあ、次はここ、やってみせる」
和也が言うと、琴葉は無言で場所を空ける。
鑿が入る。一発で、決まる。
「こう」
「……なるほど」
次は逆だ。
「和也、ここ見て」
琴葉が鋸を持つ。
「引き始め、少しだけ浅く。力入れすぎない」
鋸が、静かに走る。
「こうすると、最後が暴れない。だから一様に削れる」
和也は、食い入るように見ていた。
昼休み。あいりが、恐る恐る声をかけてきた。
「……あのさ」
「さっきの言い方……きつくない?」
和也と琴葉は、同時に首を傾げた。
「きつい?」
「うん。普通に、事実言ってるだけだけど」
琴葉が不思議そうに言う。
和也も頷く。
「改善点、言わない方が失礼だろ」
雄介が叫んだ。
「なんでや~! それ絶対仲悪いやつの会話やろ!」
一瞬、実習場に沈黙が走る。次の瞬間。琴葉が、ふっと笑った。
「え?」
そして、和也を見る。
「僕達……仲、いいよね」
その言い方は、今までと違っていた。
「和也君」ではなかった。
「ね、和也?」
和也は、一瞬だけ目を見開き、それから小さく笑った。
「ああ、仲いいよ」
雄介が目を見開く。
「……なんや今の」
望が、にやりとする。
「いつから?」
「あ、あのさ」
あいりが慌てて言う。
「私たち、邪魔?」
琴葉は、首を振った。
「全然」
そして、いつもの調子で言う。
「次、和也の番。現寸、時間計るよ」
「……鬼か」
「お互い様」
笑いが、実習場に広がった。
1月の最終週。和也の通し練習は、ついに標準時間内に食い込んできていた。12時15分。完成。しかも、精度は明らかに上がっている。坂崎が、静かに言った。
「いいね。かなり高いレベルだ」
琴葉も、黙って頷いた。健斗も、標準時間内で完成するようになっていた。
「……三人でやってきて、よかったです」
健斗の言葉に、和也は答えた。
「一人だったら、ここまで来てない」
琴葉も、同じことを思っていた。三人で、見る。三人で、言いあう。三人で、直す。その繰り返しが、和也と琴葉二人を同じ高さへ引き上げていた。
試験まで、あと一週間。緊張は、確かにある。
でも――今の二人は、同じ方向を見て、並んで立っていた。
背中は、寄り添いあって前に進んでいた。
第74話目の投稿になりました。ついに和也も標準時間内に組み上げられるまでになりました。これもそれも、喧嘩をしているのと間違えられるまでの、アドバイス合戦の効果です。相手の為を思ったら、ダメ出しをしてあげることも時には必要なのです。健斗も二人の助言で標準時間内完成のレベルに。
次回は大会前日のエピソードになります。
お楽しみいただければ幸いです。




