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見習い初日③ 石膏ボード張り作業


「ほら、壺根(つぼね)さん来たみたいだから」

「壺根さん?」

「あーそう。うちが材料買ってる業者さんなんだよ。さーて、ほら今からトラックからここに石膏ボード運ぶからね。今日は石膏ボードが約100枚入るから」

「100枚?」

リビングの掃き出し窓を開けると駐車場に面しているため、目の前にトラックが止まっていた。

「おはようございます。ボード持ってきました」

トラックの運転手さんは気さくに明るく大きな元気な声で挨拶をしてくる。

「あれ新人さんですか?」

「おはよう岡崎君。今日からしばらくの間うちでバイト手伝いしてもらうことになった和君だから」

「あ、そうなんですね」

「おはようございます、小暮和也と申します」 

「おはようございます。株式会社壺根の岡崎っています。よろしくお願いします。じゃあボード降ろしちゃいますか」

とってもきさくに挨拶してくれた。

「和君、これね石膏ボードって言うんだよ。今日買ったのはサンパチ版とサブロク版って言って、サイズがねここが910で、こっちが2420あるのね」

心太が長い方のボードを指さして言った。

「うわー大きいいですね」

「そうだね。これを壁に床から天井まで貼ってくわけ」

トラックには2種類の大きさのボードが積まれていた。

「こっちはサブロク版って言ってね、幅910、長さ1820」

「910って…」

「あ、ごめんごめん。建築の世界ってね、寸法は(しゃく)とミリなんだよね。だから和君達が良く知っている寸法で言うと91㎝。あんまり建築の世界って㎝使わないんだよね。図面は全部㎜で書いてあるしね。僕達大工は未だに尺貫法(しゃっかんほう)って言って、昔の日本の寸法の単位で仕事しているからね。910が910mm ね。でこれが半間はんけん。それでこっちの長い方の長さがその倍の1820㎜ね。この長さを一間いっけんって言うんだよ。分かりやすく言うとこれ一枚が大体畳の一枚の大きさ。実際はちょっと違うんだけどみんなそんなふうに覚えているよ。このサブロクサイズ2枚で一坪。1820㎜角の正方形になるでしょう。なかなか建築の世界って寸法が未だに尺貫法を使ってるから、分かりづらいかもしれないけどね。そのうち慣れるから。特に材料の大きさは今だに尺貫法の世界でね。だからボードもサブロク板とかサンパチ版とかそんな言い方するんだよ。ちなみに910㎜は3尺。1尺は303㎜。だから1820㎜は6尺ね。サブロク版は幅3尺、長さ6尺ってこと。ちなみにこのボードの厚みは9.5㎜。この他にも厚み12・5mm、15mmなんてのもあるんだよ」

「へーそうなんですね」

「それからこの石膏ボードね、運ぶ時によーく見てて」

心太は2枚のサブロク版の石膏ボードを同時に重ねて持ち上げると、

「いい、これ角をぶつけるとすぐ砕けちゃうんだよね。だから角潰さないように気をつけて。それからいろんな所にぶつけると、やっぱりボードかけちゃうからね。注意しながら運んで。今日は初めてだから、無理しないでね。無理して角潰されるんだったら、ゆっくり確実に1枚ずつしっかり運んでもらった方がいいからね」

「はい」

と返事をして、サブロク版1枚を持ち上げた瞬間、重い、結構重いぞ。心太さんこれを2枚持ってるんだよね。

「あ、和君はボードをトラックから担いで部屋の外まで持ってきて。リビングの中で僕が受け取って台の上に置くから」

「はい」

「和君、そこのリビングの窓の所の掃き出し窓のアルミサッシ、ここね、ここ潰さないようにね。踏まないようにね」

アルミサッシの敷居の上には板が引かれて踏んでも潰れないように保護してある。重、岡崎、和也の三人がトラックのに荷台からボードを担いで、リビングの窓の外から中の心太に渡す。重や岡崎から適切なアドバイスを受けながら、次第に慣れてきて2枚同時にサブロク版を運べるようになった。心配していた膝は大丈夫だった。それより腰の方が痛かった。約100枚の石膏ボード全部を運ぶのに4人で約15分かかった。驚いたのは60過ぎの重も軽々と石膏ボードサブロク版を2枚重ねて運んでいること。しかも休まない。一体どういう体の作りなんだろう。ちなみに岡崎はサブロク版を一度に3枚運んでいた。

「和君、焦らなくていいよ。どうせ慣れるから。僕達ボードなんて日常茶飯時だし」

 運び終わると、リビングの中央に石膏ボードがサブロク版とサンパチ版に分けられ積まれて置かれている。ボードの下には木材が数本引かれている。心太がそれを指さしながら説明してくれた。

「お疲れ。疲れたでしょ。ちょっと休もうか。これね、石膏ボードの下のところ枕木って言うんだけど、敷いているでしょ。うちの場合はこの枕木をひいた上に、ほらこれ構造用合板って言うんだけど、この合板をまず敷いてから石膏ボードを必ず置くようにしてるんだよね。万が一床に直置きした時に湿ってると、一番下の石膏ボードが駄目になってしまうし、合板を引かないと、万が一枕木の上でね、不均等になった時に下の石膏ボードが変形してしまうことがあるから。こうやって材料をね、駄目にならないように配慮しながら、養生って言うんだけど、水平に置いて保管しなきゃいけないんだよね。まあもう今日はすぐに使い始めるけどね。それからサブロク版とサンパチ版は重ねないで分けて置かないと使いづらいよね。サンパチ版は、壁を縦に貼る時にいっぺんに貼れるから便利なんだよ。通常だと天井の高さっていうのは2400㎜前後にすることが多いから。サブロク版だと途中で継がないといけない。サブロク板を2枚縦に貼った上に、横向きに取り付けるんだよ。木造の住宅っていうのは910の倍数、つまり半間の倍数で作られてることが多いからね。基準を決めて後は隅でカットして貼ってくようになるんだけどね」

「すごいですね、心太さん何でも知ってるんだ」

「こんなの別に大工になったら常識だから。ただ長くやってるし、気にしなくていいんだよ。すぐに和君も覚えるから」

その後、ちょっとした休憩を挟んでから、作業を始める準備を始めた。僕は石膏ボードを運んだだけでバテバテであったけど、重さんと心太さんは何事も無かったかのように、鉄砲を取り出してコンプレッサーを稼働させホースで繋いだ。

「ほら和、サブロクの石膏ボード1枚持ってきてみ」

僕が石膏ボードを運ぼうとすると、

「和君、ほら下角ぶつけちゃうから。こうやって起こす時は気をつけなきゃいけないんだよ」

などと言われながら、心太が手伝ってくれる。

「それで、ほらここにこうやって作業台を作るんだよ」

部屋の中央にバッテン台と言われる切込みの入った2枚の板を交差させて、これを2組並べてその上にサブロク板の合板を引く。その上に石膏ボードを置いた。

「いいかい和君、今から天井に石膏ボードを貼っていくと言うことでここに脚立を用意しよう」

そう言って、横に移動できるタイプの台形の脚立を二つ用意した。脚立の上に重さんが乗り、今持ってきたボードとってということでボードを上げた。重はそのボードを脚立の上なのに、器用に受け取ると、頭上に掲げた。頭と左手でがボードを持って支えて、重さんがボードの四隅を鉄砲でシュット釘打ちをした。四隅釘打ちしたボードは手を離してももう落ちてこない。

「いいかい、和君。こうやってボードの四隅をまず止めてあげる。そうすると支えてなくても落ちてこない。でもこれだと不安定だからすぐに釘は打たなきゃいけないんだけど、ほら見て。ここ野縁っていう桟木が入ってるのが見えるでしょう。これを見ながらね、釘を打っていくんだよ」

心太の説明に合わせて、重が器用に釘を打っていく。プシュプシュ素早いガンさばき。

「うわー早」

「慣れるとこんなものだね。大丈夫、みんな最初はゆっくりから始まっているから。まあとりあえずボード上げて。本当はね、これボード一人で貼るんだよ。その時は自分でボード運んで、脚立に上がって頭でボード抑えて貼っていくんだけど。まあ安全にね。楽に綺麗に貼ってくのには一人がボードを運んで上げてあげて、一人が押さえて釘を打っていくのがいい。ちょうど和君がいるから。僕がサイズをカットして刻んで、和君がボードを運んで重さんにあげて、重さんが釘を打ってけばすぐに終わるよ」


第7話目の投稿になりました。

お楽しみいただけたのならば幸いです。

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