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実技試験

 お盆明け最初の工作実習日。実習場の空気は、夏休み前とは明らかに違っていた。

「今日は休み前に言っていた実技試験だよ」

坂崎の一言で、実習場が一段、静かになる。課題は目違い付腰掛鎌継ぎ。墨付け・加工・組立まで含めた、制限時間6時間の実技試験だった。午前9時スタート。昼12時で一度区切り、午後は13時半から16時半まで。

「いいかい。6時間あるからって、ゆっくりやればいいって話じゃない。段取り、精度、手順。全部見てるよ」

坂崎の声は淡々としているが、どこか張りがあった。和也は、自分の材を前にして深く息を吸った。この課題は、夏休み前にすでに仕上げている。しかも他の学生が一つ作る間に、和也は二回、三回と練習していた。

――落ち着け。いつも通りだ

 差金を当て、墨を入れる。鎌の角度、腰掛けの深さ、目違いの逃げ。すべてが頭の中で立体として組み上がっていく。

無駄がない。迷いもない。一方、周囲では‥

「鎌の向き、逆じゃね?」

「目違い、これ幅足りてる?」

そんな声が、あちこちから聞こえてくる。雄介はというと、

「なんでや〜墨あれ、どうだっけ、合わん……」

開始30分で、すでに頭を抱えていた。

 坂崎は、実習場をゆっくりと一周する。いつものように叱らない。急かさない。ただ、墨の線、鑿の入り、鋸の返しを見ている。和也の前で、坂崎は一瞬、足を止めた。

――速い

墨付けが、もう終わりかけている。しかも線が美しい。墨の汚れが全くない、細く濃い線だった。

 午前9時半。和也はすでに鋸を持っていた。女木側の木口を切り落とし、木口面に墨を付ける。鑿を手にすると鎌頭部分に鑿を使って材幅の半分までほぞ穴を掘る要領で穴を掘る。みるみる穴は開いていくと、今度は鋸を手にして今開けた穴の幅で鎌首部の墨に沿って鋸を縦引きに入れる。

音が違う。無理に力をいれない。木が割れない。鋸や鑿の持ち手に力が入っていない。軽く握っている。

「……和也、早くない?」

隣で作業していた琴葉が、思わず声を落とす。

「うん。でも、急いでないよ」

その返事に、琴葉は何も言えなくなった。

10時40分。

コンッコンッコン、と乾いた音が実習場内に響き渡る。和也は手を止めた。男木と女木の仮組。男木が吸い込まれるように女木に入る。最後までは組立ない。女木から男木が約2㎝ばかり上がっていた。

「……終わった?」

思わず出た雄介の声。

「いや、まだ確認」

和也は一度、外して男木・女木の数ヶ所に鑿を入れた。もう一度組む。今度はあて木の上から玄翁で叩く音が先ほどよりも長く響いた。完全に一本の木材になっている。

目違いも隙間なくきれいに組まれている。ガタも、段差もない。

午前11時。

和也は、完成した目違い付き腰掛鎌継ぎを作業エリアの床の上に置いた。

「……」

実習場の一角が、ざわつく。

「え、もう?」

「まだ11時やぞ?」

雄介は完全に混乱していた。

「なんでや〜! 俺、まだ女木すら終わっておらんぞ!?」

坂崎が近づいてくる。作品に差し金を当てて芯済みの通りを見る。

鎌の締まり。胴付きの当たり。目違いの精度。実長の精度。

――出来がいい

正直に、そう思った。

「和也」

「はい」

「終わったね」

「はい」

「残りの時間どうする?」

和也は一瞬、考えた。でも、迷わなかった。

「……もしよければ」

「うん」

「もう一回、作ってもいいですか。まだまだなんで。先生は説明しながら1時間20分で作ったじゃないですか。あの時墨付け20分、女木の加工25分、男木は20分、仮組と手直し組立で15分でした。それで僕の出来より数段上です」

その言葉に、坂崎の目が、ほんの少しだけ細くなる。

――やっぱりな

できたから満足、ではない。もっと早く上手く作りたい。

「いいよ」

坂崎は即答した。

「ただし条件があるよ」

「はい」

「今度は、時間を意識して。墨付け、それぞれの加工、仮組、手直し、組立。今2時間かかったね。今度は15分短縮して同じ出来を目指してみて」

「分かりました」

午前11時20分。和也は二作目に取り掛かった。


第57話目の投稿になりました。夏休み明けの授業再開です。そして最初の実習はなんと鎌継ぎの試験。でも繰り返し練習していた和也は難なく完成。実際電動工具を使わないと最初は墨付けで2時間、女木の加工で4時間、男木の加工で3時間、仮組と手直し組立で4時間(実は手直しに時間かかります)ぐらいかかります。墨半分で加工するのですが、初めてだとその塩梅が分からずにまず組めません(削りが足りない)。何度も練習することで加工の精度と塩梅が分かるようになります。

次回は和也に坂崎からある提案が出されます。お楽しみいただければ幸いです。

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