見習い初日① 重さんと心太さん
「と言う事で、今日から夏休みの間うちで和が手伝ってくれることになったから。とりあえず和は重さんと心太の班に入って山田邸ね。板さんと大助は引き続き小島邸。智と浩は大磯邸。ヘルプで佐藤君入るから」
朝七時、月島工匠の事務所内で朝のミーティング。
「頑張ってきてね」
「何でも重さんに聞いてね」
行きの車の中、ワンボックスバンを心太さんが運転している。重さんが助手席。和也は後席。荷台には大工道具が山ほど積まれている。重さんは60過ぎだそう。見た目はもう少し若い。大工になって40年以上の超ベテラン。心太さんは今年30過ぎ。高卒から二十歳から大工になって今年で10年過ぎたらしい。
「おい和、足の具合どうなんだい? もう大丈夫なのかい? 今日はボード貼ってもらわなきゃなんねえから結構足踏ん張っかもしんねーぞ」
「ボード張る?」
「まあ行けばわかるわ。材料は今日トラックで入ってくからよ。まずは現場着いたら使う荷物降ろして、後はトラック着くの待って、トラック着いたらトラックからボード降ろしてなあ、中に運んでもらうからよ頑張ってもらうしかねぇな。分かんねえことあったら、俺でも心太でもどっちでもいいから聞け。何でも教えるから」
「はい」
「それにしてもすげーなおめえ。バイトの初日で彼女とそのおっかからのお見送りだもんな。よっぽど期待されてんだよ」
「あはははは、期待と言うより心配されてんだと思います」
これは笑うしかなかった。
「和君サッカー残念だったなぁ。俺も応援したんだけど、怪我ばっかりは仕方ないよな。和君が怪我した試合も、みんなで見に行ったんだけど、あれはもう仕方ないよ」
ハンドルを握りながら、心太が言ってきた。
「そ、そんなみんなに応援してもらってたのに、なんかすいません」
「おめえはおめえで頑張ったんだ。サッカーは出来なくなっちまって諦めつかねえかもしんねえけど、人生まあそれはそれでな。おかげで仁吉は良い後継者めっけてよ。それに恋ちゃんの旦那も。仁吉、昔からそれは言ってたんだよ」
「だ、旦那だなんて、まだそれに僕たち付き合ってたなんてわけでもないし」
「何言ってんだべ、そんなの昔から見てんだよ。分かんだよ。みんな何時くっつくんだ、くっつくんだ、な事言ってたかんな。和だって恋ちゃんのこと嫌いなのがい」
「いや、嫌いとかなんとかじゃなくて、恋とは昔から小さい頃から幼馴染で物心ついた時は、どっちかの家で遊んでたわけだし。まあいつも沙紀姉に尻叩かれて、後ろくっついてたっていうのが正しいけど、だけどおじさんの跡取りは、後継者は咲姉じゃ…」
「沙紀はダメだ、設計だもの。それこそ和とこの設計事務所、沙紀ちゃんが設計事務所ついで、和が恋とくっついて仁吉の後継いで、それがバンバンだべな。今だって和の父ちゃん母ちゃんに設計してもらって、その家、俺らが作ってんだもん。人生なんて結果オーライだよ。確かにおめえ怪我して、サッカー出来なくなったのは残念かもしんねーけど、そうじゃなかったら仁吉の後継者には、おめーはなってくんなかったわけだし。結果的に良かったんじゃねえの。まあ、よかったってのは言葉が悪いわな。でもそれが人生塞翁が馬だよ」
「僕が後継者ってまだ何も分かんないし」
「焦らずやって現場行ってみ。まずはやってみっことからだ」
第5話の投稿になります。
お楽しみいただけたのならば幸いです。