見習い決定
花火を眺めて祭りから帰ると、月島工匠の店内では,未だに酒盛りが盛大に行われていた。こともあろうに沙紀と風香が事の次第を報告してしまう。
「あら~やっぱり恋と付き合ってくれるの。でも子供はまだ駄目よ。仲良くしてもいいからちゃんと避妊してね」
「避、避妊って」
「ちょ、お、お母さん」
二人で口を開けてパクパクしていると
「なんだ和、恋をもらってくれるのか。それはめでたい。めでたいついでにうちの工務店も継いでくれるともっとありがたい」
「和也、恋ちゃんと付き合うってホントか。母さんめでたい。これで仁吉と月さん達と親戚ってやつか。和、どうせなら仁吉の後を継いでやれ」
「親父、気が早いって」
「和也あんたには恋ちゃんは過ぎた子だよ。あんた怪我したときに、とにかく心配してくれたんだから。むかしからずっと一緒にいてくれたのも恋ちゃんなんだから」
なぜだか、とっくにと言うか、和也と恋が一緒になることは両親達の規定路線になっている。それも昔から熱望されていたようだ。
「という事で、月曜からバイトよろしく」
仁吉が再び切り出した。
「ちょ、ちょっとそれは…」
戸惑う和也に
「和君、膝の状態さえ大丈夫ならやってみたら」
月も言った。
「大丈夫、大丈夫、祭りまで歩いて行って帰ってこれたんだし、とっくにリハビリは終わってるし。医者も言ってたんだろう、少しづつ負荷かけて鍛えてみろって。後は月一回の定期通院だけだろ」
「な、なんでそんなこと知ってるの?」
「そりゃあ、風香と恋から話聞いてるし、誰がリハビリ送ってやってたんだよ?」
「そりゃ、沙紀姉に乗っけてってもらってたけど」
「恋と付き合うなら、頑張らないとなぁ。それに和が家継いでくれるなら、あたしも安心して設計できるし。一石二鳥だろ。あれ、いいのかぁ、これ以上恋に心配かけても」
沙紀は相変わらずのものの言いようだ。でも確かに何か変われそうな気がした。
「ちょっとお姉ちゃん、そう言う言い方やめて。和兄ちゃん困ってるよ。和兄ちゃん無理しないでいいからね。いきなり大工仕事なんて無理だよ。せっかく膝だって治りかけてきたのに」
自分の名前が出されて恋がいたたまれなくなっていた。
「お兄ちゃんなら大丈夫だよね。だってリハビリ中OK出てから、少しづつスクワットとか腕立てとか筋トレずっとしてたもん」
「そりゃ、身体直したかったし。でもさすがに全力で走れないし体力ないのに大工仕事は…」
「それなら大丈夫。大工は基本走らん。その場で、屈んだり荷物持ち上げたり出来れば大丈夫。それに普通にスクワット出来るなら問題なし。体力はやってるうちについてく」
仁吉が太鼓判を押す。
「そ、そうなんですか‥でも建築のことなんて何もわからなしい」
「最初はベテランの下で手元からだから、何も心配ない」
「手元?」
和也は半信半疑、というかとっても不安になっていた。
「要するに荷物や道具運んだり、材料抑えてたり、掃除したり簡単な手伝いからだ。みんな初めは手元、つまり見習い大工から初めっから心配ない」
「はぁ」
「まぁ何だ。和の足のリハにもなるし、バイト代も入る。それに後継者として建築の現場まで覚えられるしな。やってみて嫌だったら、夏休みの間だけでもいい。とにかく手数があった方がうちも助かる。一石四鳥だ」
仁吉はコップの酒をぐっとあおった。
「なぁ重さん達よ、和に夏休みの間、現場手伝ってもらおうかと思ってんだけど、どうだろう」
突然、少し離れたところで集まって酒を飲んでいた従業員達に大声で話掛けた。
「本当がい。やってもらえんなら助かんない。こっちは一人でも数が多い方がありがたいべ」
「社長、マジっすか。一人でも増えてくれんのは助かりま~す」
重の後に若い従業員も答えてきた。
「ほらな和、今忙しいから、一人でも手伝いがいてくれたら助かんだよ」
「ええと、逆に邪魔にならないか心配で」
「邪魔なんてとんでもない。和も初めは心配だろうから重さんと心太のコンビのとこ入ってもらえば安心だしな」
はっきりと引き受けると煮え切れなかったけど、断るに断れない
「は、はぁ‥」
なんだかんだで押し切られ、結局なりゆきで、明後日から大工見習いが決定してしまった。
第四話の投稿になります。
お楽しみいただければ幸いです。