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君と彼らが僕の心に火を灯す  作者: 牧村せつら


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日光施設外研修① 東照宮

 怪我をした高杉の抜糸は1週間ほどで行われた。怪我の一件以来、1年生の実習に対する真剣さが変わっていた。

翌週6月中旬の金曜日、建築科1年生は坂崎と神門の引率で日光への見学が行われた。建築科の1年生は中型バスで高速道を走っていた。

「雄介君もう寝ちゃってる」

「朝早かったからね」

通常は8時45分から授業開始のところ、今日は7時半にアカデミー出発だった。おかげで和也も始発のバスで登校かと準備していたら、沙紀が送ってくれた。すっかり仲良くなった琴葉も自宅近くでピックアップして一緒に送ってくれた。

「和也君のおかげで、私まで送ってもらっちゃって、お土産買ってこないとね」

「べつにいいんじゃない」

「恋ちゃんと風ちゃん来たがってたね」

「もう大変だったよ。沙紀姉なんか大学休んで、車で一緒に行くって言い出してたし。そしたら恋と風香達も行くって言い出して、流石に両親から止められてたけど」

「ラインで行きたいって言ってたよ。恋ちゃんは、新選組好きだからね」

「日光って何か関係あったっけ?」

「戊辰で負けた殿様が、日光東照宮の宮司になってるんだよ」

「へ〜そうなんだ」

「それに家康の霊廟だから、戦国好きな沙紀ちゃんや風ちゃんは興味有るだろうね。1番の理由は和也君と一緒にいたいからだろうけどね。沙紀ちゃんから和也君の監視役も頼まれたしね」

「監視役って⋯」

「逆ナンされないか心配してたよ」

「全く過保護なんだから」

「心配なんだよ。それだけ大好きなんだよ。恋ちゃんが凄い心配してるからって言っていたもん」

琴葉と和也は一緒に座っており、通路を挟んであいりとほのかが相席しスマホでゲーム中、和也達の後ろに望と雄介が相席だった。望はスマホで東照宮について調べものをしている。雄介はぐっすり寝ていた。他の生徒もスマホでゲームをしているものが多い。

「ところで琴葉、沙紀姉の車乗るとき凄い荷物載せてたの何?」

「あ〜あれ、明日バイトだから今日沙紀ちゃん家に泊まれって言われてて。日光の話聞きたいって」

「ひょっとして沙紀姉が言っていた今日の夜うちに集合って⋯」

「夕食兼ねて日光の報告会だってさ」


 東照宮には10時半頃に着いた。輪王寺前の駐車場にバスを止めるとそこで降りた。

「このまま流れて東照宮を見学して二荒山神社側の駐車場にバスは移動するから、そっちに集まって移動するようになるよ。だから今使うもの忘れないようにね。バスはこの場所にはいないよ」

坂崎が説明してる間、神門がチケットを買いに行っていた。

「うわ雄介君眠そうだね」

「そりゃそうやろ、朝早かったし」

大きなあくびをしていた。

「何で2年生担任の神門先生が一緒なのかと思ったら、概論の日本建築史、神門先生担当だったからなんだね」

建築概論は4月から週1回、金曜の午後3時間の授業で、すでに7回行われていた。日本建築史は神門が担当し、それ以外の西洋と近代建築史は坂崎が担当していた。

「神門先生の授業って、概論の3回と後は木造建築施工法の30時間、15回だけなんだよね」

「5月の道具箱作った時に、坂崎先生と一緒に作りながら説明してくれたけど、先生の話では神門先生が実際に大工やってたから大工作業は一番上手いって言ってたし」

「そうだよね。面白い先生。どことなく心太さんに似ているし」

「そう言えばそうかもしれないね」


東照宮では参道の渋沢栄一の書いた東照宮の文字や、九州筑前藩主黒田長政公から贈られた石鳥居が地震に強い理由、彩色豊かな五重塔が心柱制振構造で懸垂式の通し柱で作られていること、その技術がスカイツリーに応用されていることを神門と坂崎が説明した。ちなみに五重棟は小浜藩主酒井忠勝公から奉納されたと言っていた。

 拝観受付所を過ぎてからの二人の説明はヒートアップする。

「いいか三神庫は馬具や装束保管してるぞ。で、あの象の彫刻見てみろ。尻尾複数あったり毛が生えてたり何かおかしいだろ。実はあれ一度も像を見たことのない下絵師の狩野探幽が想像で描いた作品で空想上の姿になっているんだよ。ちなみに構造は校倉造りで屋根は切妻、胴瓦葺きね」

大きな声で説明していると、周囲の観光客や修学旅行の小学生達まで集まってくる。

「何か、私たちの周り人だかりが出来てるね」

「先生達が説明してると、声大きいし、建築の専門家でマニアックな説明だし、そりゃあガイドと間違われるよ」

「ほんまや。こっちがはずいで」

「じゃあ次は反対の神厩舎行ってみようか」

坂崎はお構いなく説明を続行する。

「これ見ざる言わざる聞かざるの三猿で有名な建物ね。神厩舎って言うぞ。御神馬をつなぐ厩なんだよ。でもさ三猿以外の猿の彫刻もあるよね。実際は長押の上に8面16匹の猿がいるんだよ。猿はね昔から馬を守るって言われてるからね。猿の彫刻は人間の生涯になぞらえて作られているぞ。ちなみに三猿は幼少期に悪いもの見ない聞かない言わない、良いものだけ受け入れて子供の素直な心のまま成長して欲しいってことらしいぞ」

「はい、みんな下見てね」

神門がしゃがんで神厩舎の床下を差し棒で指した。

「これ石の上に柱が建っているよね。昔は石の天板を平らに出来なかったから、柱の下を石の形に癖をとって削ってのっけてるんだよ。これをひかるって大工技術では言うんだ」

「おお、すげー」

建築科の学生全員がしゃがんで床下をのぞき込んでいると、後ろで聞いていた小学生達や外国人観光客までしゃがんでのぞきこんでいる。しかし何がそんなに珍しいのか首をかしげていた。

「あれ後から来る観光客がみんな真似して床下みて不思議な顔をしているよ」

「ほんまや」

「さすが先生達。影響力凄すぎ」

琴葉が驚いていた。その後も御水舎、輪蔵、銅鳥居、陽明門、唐門、祈祷殿、神楽殿‥と一つ一つ説明していく。

「うあーさっき以上に人集まってきてるんだけど」

琴葉が言うと、確かに周りに50人以上の人だかりができている。

「先生の授業、観光ガイドと勘違いして、観光客と小学生の修学旅行生が集まって説明を聞いているわ」

小学生は熱心に坂崎と神門の説明をメモしていた。

拝殿では

「この天井のデザイン、そして拝殿、石の間、本殿の三つの造りを権現造りって言うけど、これを昔、100年以上前に見た、アメリカ人建築家フランク・ロイド・ライトはこの特徴をユニティ教会の設計に生かしているんだよ。異なる空間を渡り廊下でつなぐ複核プランって言う設計手法を確立しているからね。ライトは日本の浮世絵からも様々な事を学んでいるからね。ライト自身浮世絵のバイヤーしていたし」

拝殿で宮司の説明が始まる前に説明した。

「先生、何でそんなに詳しいんですか?」

望がたずねた。

「毎年来ているからね。個人でもかなり来ているし。そりゃあ覚えるよ」

あきれ顔で坂崎が答えた。

「小学生や一般の観光客まで先生の説明聞いていますよ」

「もう慣れっこだよ。観光ガイドさんは歴史はプロでも建築のプロではないからね。僕の説明を聞いた子供達が少しでも建築に興味を持ってくれればそれでいいんじゃない」

 鳴龍で有名な薬師堂まで見学すると、集合時間まで30分自由行動になった。和也、琴葉、雄介、望、ほのか、あいり達6人は一緒に見て回っていた。三神庫は三つの建物の総称で和也と望は上神庫をもう一度じっくり見ていた。その間、雄介はお守りなどの土産店を見ている。琴葉も神厩舎の猿の彫刻をもう一度見直していた。

「ねえ琴葉‥」

あいりが声を掛けた。

「琴葉は和也君と仲いいよね。付き合ってるの?」

「はい?」

「だって今日もバス隣同士で座ってたし、よくしゃべってるじゃない」

ほのかも質問してくる。

「二人も会ったって言ってたけど、和也君には恋ちゃんって言う一つ年下の彼女っていうかもはや奥さんみたいな両家両親公認の婚約者いるよ」

「でも二人見ていると仲いいし」

「あぁそれ。連休中の研ぎ物練習したときに和也君のバイト先、恋ちゃんの実家の工務店で教えてもらって以来、僕も月島工匠で大工のバイトしてるからね。それに恋ちゃんやそのお姉ちゃんの沙紀ちゃん、和也君の実妹の風ちゃんとも仲良くしてるから。むしろ和也君とより、そっちの三人との方が中いいしね。僕も含めて戦国・幕末アニオタだからね。あ、和也君は違うよ。強いて言えば彼は今は大工オタクだね。それにリアルな僕の推しは心太さんだし。うわ、言っちゃった」

「心太さん?」

「そう、バイト先の大工さん。僕の師匠だよ。それに和也君と間違っても何かあったら、剣道の達人沙紀ちゃんに殺されちゃうよ。だから間違っても和也君は駄目だよ」

身を震わせながら二人に言った。

「もしかして、あいりか、ほのか、和也君にそうなの?」

「私はそんな気ないけど‥」

ほのかがあいりの顔を見つめた。

「そうじゃないけど、まあ和也君は真面目だし優しいから‥」

あいりが顔を赤らめた。

「ありゃあ、和也君は駄目だよ。でももてるのも分かるけどさ。もともとサッカー部のエースフォワードだったからね」

「琴葉、昔の和也君知ってるの?」

「知ってるも何も、僕は別高校の女子サッカー部員だったけどさ、彼、氷山では有名な選手だったからね。うちの高校にもファンな女子いたもん。選手権で2年生レギュラー、うちの部に勝ったからね。あの時は鬼神だったよ。マジ神って感じ。その頃は別に付き合ってた彼女いたらしよ。でもその試合で膝大怪我して、サッカー出来なくなって、サッカー進学も諦めて彼女にも見限られて。その絶望な彼のリハビリを恋ちゃん達がずっと手助けしてたから。恋ちゃん言ってたよ。怪我しなかったら幼馴染のままだったって。あいつは真面目だから絶対恋ちゃんを裏切らないよ」

「真面目って大事だよね」

「そう大事だよ。特にあいつ見てるとそう思うわ」

琴葉の視線が、土産を見ている雄介に向けられた。

「あぁ、確かに真面目で一途って大事だね」

「そう、中途半端でいい加減な奴は人生詰んでる」

ため息交じりの琴葉の言葉は辛辣だった。

 

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