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初授業

 翌日、学科の初めての授業は、9時から10時25分まで主任 佐倉の数学だった。

「はい、では今日は皆さんの数学力がどれくらいあるか確認です。筆記用具以外全部しまって」

「えっ~」

教室内から悲鳴に近い声が上がった。配付されたテスト問題 A3両面刷り3枚ホッチキス留。うわーと思ってよくよく見ると、小学3年生の分数の計算から始まり、4年 5年 6年 中1 中2 中3 高1 高2までの基本的な問題が100問。順番に従って学年が上がっていく。授業時間の100分、ほぼフルマックスで試験。

「はい、やめてください。後ろから集めて」

試験問題を回収し終わると、

「これで皆さんの数学力がどの程度か分かります。次回返却しますので楽しみにしていてください」


 休憩を挟んで2時限目は坂崎の木質構造。教卓にノートパソコンを持ってきて、教室の前にある大型モニターにつないだ。

「はいでは、今日はさっそく、皆さんがこれから2年間中心に学んでいく、木造住宅の実際の現場での作り方、建て方を、実際の現場作業の動画で見ていくよ。とりあえず今日は大きなところで、木造住宅の建てる流れを頭にいれて」

と言うと動画を再生した。

「今は便利でね。みんなユーチューブに動画あるんだよ。なるべくこう言うの使って、みんなには現場を覚えてもらうから」

木造住宅を建てていく流れが画面に映されていく。正味20分程度の動画だった。解説をしながら、時折再生を止めて、キーワードを黒板に書いていった。最後にもう一度通しで、説明を受けた動画を再生した。

「今日はざっくり大きな流れで、家づくりを見てもらったから。次回はまず初めの丁張(ちょうはり)と基礎工事をもう一回動画と教科書で話をするから。用語をしっかり覚えてね。後、今日見た動画のタイトル書いておいたから、興味がある人は、暇なときにスマホで見ておいて。そうすると復習になるから」

バイト先の現場を見ているようであっという間に授業は終わった。確かに教科書よりも動画だと、動きがあって分かりやすかった。


 入学して2週目に入った。その日の朝一は2回目の数学の授業日。前回行った数学の結果が返却された。和也は98点だった。その脇に高3と書かれていた。

「クラスの平均点は56点。皆さんの数学の理解度が分かりました。最高点は100点。最低点は28点です。答案の名前の脇に点数と、皆さんの数学力がどの学年まであるのか記入しておきました。中2ならば中学2年生までの数学は理解しているだろうと判断しておきました。とりあえず本日は単位の換算について説明します」

授業が終わって休み時間。

「ひゃー数学難しいね」

「琴葉ちゃんは何点?」

「77点。平均は超えたね。雄介君は」

「43」

最近では休み時間ごとに、この二人が和也のもとに集まってだべることが多くなっていた。

「和也何点や」

「えっと…」

「あ、お前悪かったのか?」

「98点」

「すげーわ」

「すごい和也君」

「高校で怪我したとき、補習やったところだから。あの時切羽詰まって勉強したのが役に立ったよ」

「すげー和也」

クラス内であっという間にばらされてしまった。


 2時限目は 10時35分~12時15分まで。 ここでは 工作法という授業で、 午後から 器工具使用法という授業だった。この2つの授業は大工道具の仕込みに関する事業で、工作法は学科 扱い器工具使用 法は実技 扱いなのだが実質建築実習場にて実技 形式で行われる。本日で3回目。これまで購入した大工道具の名称と、用途の説明に氏名の記入を行っていた。

 全員が作業着姿に着替えて実習場に集まった。横に2列に整列すると 週番の掛け声のもと番号を唱えて人数確認を行った後に挨拶となった。今日の坂崎の姿は上半身は鳶服(とびふく)の 長袖。 下半身はニッカズボンを履いていた。

建築大工の実習の時の 坂崎の定番のスタイルらしい。坂崎の指示のもと 黒板の前に座らせられた。黒板の下には 坂崎の大工道具が置いてある。 坂崎は袋から10本ほどの、鑿を取り出すと1本取り上げてみんなに見せた。

「えーっとここにあるのは僕の鑿なんだけど、鑿の種類っていうのがあって、大きく分けるとね2種類。みんなは今回5本の鑿を買ってるんだけどね。はいこの長い奴、これを叩き鑿(たたきのみ)って言うんだよ。 主に 玄能で叩いて穴を掘ったり 加工したりするのに使うんだ」

坂崎 はもう1本のノミを取り上げた。

「はいこっちのは短いでしょ。これを大入れ鑿って言うんだよ。叩き鑿で加工した後の仕上げに使う鑿なんだよ」

鑿の先端の部分を指さして

「厳密に言うと、この鑿の先の斜めの角度が大事。叩き鑿は叩いて使うから 30度ぐらいの角度にするよ。人によって違いはあるけど鑿はだいたい26度から30度ぐらいにするんだよね それよりも薄くなってしまうとかけやすくなっちゃう。 だけど僕のはこの大入れ鑿はねだいたい24度位で仕上げてる。て、言うか、ほら見てごらん。もう1本同じ幅の大入れ鑿があるでしょう」

そう言ってもう一本同じ長さの鑿を取り上げた。

「僕は大入れ鑿も叩いて使うことがあるから、同じ幅の大入れ鑿を2本持ってていて、1本を仕上げ用にだいたい24度ぐらいの角度に仕上げて、もう1本は、ほらこれが28度ぐらいなんだけどそれで叩いてもかけないようにして使ってるんだよね」

再び同じ長さの鑿を両手に持って見せた。

「確認するよ。鑿には大入れ鑿と叩き鑿の2種類ある。この他にも、突き鑿とか、こて鑿、しのぎ鑿とかたくさん種類はあって、それぞれに用途が異なるよ。今回みんなが買った鑿は叩き鑿が2本、大入れ鑿が3本。ちょっとみんなが買った鑿を見てもらうよ。全員自分の買った鑿を持ってきてみて」

各自が自分の作業エリアの中から鑿袋に入った鑿を持ち寄って再集合した。まだ自分の道具箱が無いため、購入時の紙袋に大工道具が入っている。

「みんなが買った鑿は5本。叩き鑿が幅一(すん) 4()42㎜と、8分 24㎜の2本。それから大入れ鑿が一寸2分 36㎜と、8分 24㎜と、4分 12㎜の3本」

坂崎は黒板にそれぞれ大入れ、 叩きと今言った寸法を書いて見せた。

「あーそうだよね。まず尺貫法から話さないといけないんだけど、どうしても大工の世界って未だに昔の尺貫法を使ってるんだよ。一寸っていうのが3cm だと思って正確には 3.03 ㎝なんだけども、それ言ってたらきりがないから3cmって覚えてもらっていいよ。で1寸を10で割ったのが一分。つまり3ミリ だね。さらに1分を10で割ったのが1(りん)

黒板に寸法を書いていく。

「それでね 10寸が1尺って言うんだよ。だから 30.3cm。 ミリで言うと 303mm。これからみんなが学ぶ建築大工の世界は未だに木材の材料が尺貫法で扱われたり、屋根の勾配の名称に尺が使われてたりする。なんてことはなくて昔の寸法使ってるだけだから。 慣れてね。僕の方では 必ず mmか㎝に置き換えた寸法を言うからね。それで合わせて覚えちゃって欲しいんだけど」

そこで一呼吸おいてみんなを見渡した。



第19話目の投稿になりました。

いよいよ始まったアカデミーの授業。

次回は工作法&器工具使用法 かつら仕込み作業です。

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