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エピローグ

 夏を思わせる初夏の日曜日。楠田家の面々が西覚寺を訪れている。

 いつもの本堂に西園寺と両親、そして慎吾がいる。

「住職にはお世話になりました」父が言う。

 今日の西園寺は坊さんスタイルの正装だ。顔がラテン系なのに和風の衣装が妙に似合ってきている。

「いえいえ、こちらも色々、いい経験をさせてもらいましたよ。それにしても慎吾君には感心させられました」

「そうですか」

「ええ、結局、あれだけの謎をすべて解いたのですから、相当なものです」

 そう言われてもこっちはあまりうれしくない。基本的には西園寺の思惑の中で動いていたわけで、お釈迦さまと孫悟空の関係としか思えない。

「慎吾君、どうだい、その後は?」

「はい、家族として何も変わったところはないです。少しずつ昔の話もしてもらって、写真なんかも見せてもらってますが、記憶がよみがえるようなことはないです」

「そうか、まあ、通常でも5歳より以前の記憶なんて曖昧なものだからな」

「でも、不思議な気もします。生まれてからずっと楠田慎吾だと思っていたのが、実は神林弓弦だったってことですから、自分の中に二人が存在しているって言うか、何て言うんでしょうか」

「そうだな。まあ、これは考え方だけど、これで楠田慎吾にまとまったと考えた方が良いかもしれないな」

 なるほど、そういう考え方の方がいいのかもしれない。神林弓弦は楠田慎吾に取り込まれたということか。西園寺は続ける。

「今までもご両親は神林さんの墓参りを続けておられたんだよ。今日は初めて慎吾君が墓参りをするんだ」

 今日の目的は神林の両親への墓参りだった。西覚寺にお墓がある。神林家は先祖の墓がはっきりしなかったようで、それならと楠田の両親が西覚寺に墓を作ったそうだ。そしていつかは慎吾にも墓参りをしてほしいと思っていた。


 今の両親と一緒に、本当の両親の墓前に花を手向ける。線香を上げて手を合わせる。墓はこじんまりとしていたが、手入れが行き届いているようできれいだった。

 おかげさまでここまで大きくなったよ。今の両親のおかげだ。何不自由なく生きていける。そしていい友人にも恵まれた。さらにはいい指導者でもあり、人生の師ともいえる先輩にも巡り合えた。そしてこれからも楠田慎吾として生きていくよ。

 墓は何も言わないが、そこで眠っているだろう生みの親は微笑んでくれていた。


 夏休み前の日曜日の一大イベント、中学陸上県大会である。わが中学校からは優勝候補の野村祐介が参加している。

 さすがに県大会ともなると会場も県内では有数の競技場になる。確か数年前に国体も行われた。スタンドには楠田と鷲尾、そして水元もいる。

 午前の800m予選を、ダントツの一位通過を果たした野村が楠田たちの所に来る。楠田が野村に聞く。

「お疲れさん、今日の調子はどう?」

「まあまあかな。入学予定の高校のコーチも見に来てるみたいだよ」

「例の推薦入学の高校だね」

「うん、それと県外の学校からも声がかかったよ。有名な学校だ。そこのコーチも見に来てるみたいだ」

「それはすごいな」

「ああ、でもそこだと地元を離れないとならない」

「そうか、いよいよ進路を決める時が来たんだな」

「うん、でもこの前、楠田たちに言われたように悔いのないようにしたいと思うよ」

 野村も自分の進路を決めようとしているのか。それはよかった。

「午後の決勝を大会記録で優勝出来たら、そこに行こうと思う」

「大会記録か、それはすごいな」

「それで踏ん切りをつけるさ」

「期待してるよ」

「ありがとう、じゃあ、家族も来てるんでそっちに行くな」

 野村は手を振りながら離れていく。実に吹っ切れた表情をしていた。


 昼食も済ませ、仲間と離れてレース前にトイレに行く。

 トイレから出ると水元がいた。

 楠田に気付くと、近くに寄ってくる。

「楠田君、ちょっといいかな」

 珍しく水元が真剣そうな顔で言う。「うん、いいよ」二人で競技場のスタンド上の外周通路を歩く。

「楠田君、一高に行くんだよね」

「うん、そのつもりだよ」

「やっぱり医者を目指すの?」

「そうだね。基本的にはその路線を考えている。まあ、高校でどう考えが変わるか分からないけどね」

「そうか」

 水元らしくない、何か言い淀む感じだ。

「あのさ」

 またまた、たじろいでいる。どうしたんだろう昼食で食べた何かに当たったのか。

「私も一高志望なんだ」

「うん、そう聞いたよ」

「それでさ、もしさ、私が一高に受かったらさ」

 水元は一高から医学部に行き、病院を継ぐのは親からの命令だったはずだ。

「もし、一高に受かったら同級生だよね」

「そうだな。俺も受かるかはわからないけど」

「楠田君は受かるでしょ。あの、そうなったらさ」再び真っ赤な顔で言い淀む。大丈夫か、何かのどに詰まったのか。「付き合ってくれないかな」

「付き合う、どこに?」

「馬鹿!どこにじゃない」

 びっくりした。まさかと思ったが、ひょっとしてこれは告ってるのか、水元にしては珍しいというか、どこか他に好きな人がいるんじゃなかったのか。

「いや、でも水元は他に好きな人がいたんじゃないのか?」

「え、何のこと?」

「だって野村にそう言ったんじゃないの?」

「ああ、修学旅行の時の話か、他って同じクラスじゃないって意味だよ」

 なるほど、そういうことか、水元に気に入られたのか。それは素直にとてもうれしいことだ。

「うん、わかった。一高に受かったら付き合おう。俺からもお願いするよ。頑張って同級生になろうよ」

 水元が笑みというか、泣き顔と言うか不思議な顔をする。場内の歓声が一段と大きくなる。いよいよ決勝が始まる時間かもしれない。

「水元、野村を応援しよう」

「うん」

 楠田と水元は二人で小走りに競技場の自分の席に戻って行く。

 恋愛は怪異を解くようには簡単にいかない。科学では割り切れない不思議な現象としか思えない。

これでこの物語は終了となります。

怪異を期待された方には物足りない内容となってります。どちらかというとホラーの名を借りた学園物になっています。とにかく夢のある話にしたかったです。こういった世界観が必ずあるとも思っています。

面白く読んでもらえれば幸いです。

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