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金縛り

 西園寺の依頼を受ける前に、金縛りについて調べてみる。

 金縛りとは医学的にも解明されており、現象としては普通にあり得るものだ。よって怪異などというものではない。睡眠麻痺ともいい、ストレスや過労、睡眠不足などが原因で、レム睡眠という比較的浅い眠りの時に脳だけが起きてしまい、身体が動かなくて発生する。その時に経験するものは、実際に発生していることではなく、単なる夢だという。それがあたかも現実に起きているように感じるために、夢を夢とは認識できなくて怪異現象と感じるのだ。夢で見たことが本当にあったと思い込んでしまう。

 確かに楠田自身も金縛りを経験したことはあるが、疲れている時にそういったことが起きやすい。今回の案件もそう言った事象なのだろうか。

 それにしても階段の件では野村と鷲尾の対応には感謝どころか、感動すら覚えていた。仲間を救うために取った彼らの行動は、楠田には信じられないほどだった。はたして逆の立場でも彼らを助けに向かえるものだろうか、異界にさらわれるという命の危険を顧みずに、友人を助けようと思えるのだろうか、その場にならないと何とも言えないところではあるが、咄嗟に取ってくれた行動には感謝以上のものを感じていた。ただ、今後は何かあったら借りを返さないといけないとは思う。


 西園寺からの金縛りの話は、金曜日の塾終わりに教室で行われた。この日は自分たち3年生の該当日ではなかったため、授業が終わる時間に寺に行く。

 教室で西園寺が待っていた。いつもの飄々とした面持ちである。

「お疲れさん、今日は飯食ってきたよな」

 三人がうなずく。

「よし、じゃあ、始めるか。お前たち石崎町はわかるよな」

 石崎町は隣町になる。ここからだと西の方角だ。

「わかります。西の地区ですよね」

「そうだ。その石崎町で住民の金縛りが頻繁に発生している」

「聞いたことがあります」野村が生き生きと言う。金縛りだと怪異としてもそれほど恐怖心はないのだろうか。

「それも年齢、性別に関係無くだ」

 ここで楠田が調べてきたことを言う。「金縛りは睡眠障害なんですよね」

「うん、一般にはそう言われている。ただ、今回、金縛りにあっている人間に話を聞くと、睡眠不足やストレスとは無縁の人にも起きているようなんだ」

 何だろう、そうなると他に要因があるのか。

「とりあえず、その地区の檀家から相談を受けているので、まずはそこに行って現象と現場の状況を確認して欲しい」

「わかりました」

 西園寺はメモを確認しながら、「えーと、金井良治さんのお宅だな」

 その名前に反応して鷲尾が言う。「金井ですか、クラスにいる金井莉子の実家かな?」

「そうかな。確か娘さんがいたかもしれないな。鷲尾は莉子さんと同級生なのか?」

「そうです。同じクラスです。でも金井は金縛りのことなんか言ってなかったな」

「まあ、女の子だからな、金縛りにあってますなんて、話せる内容でもないしな。それで具体的な依頼はそこのお婆さん、金井はるさんから来ている。なので、はるさんとその家族に事情を聞いてみてくれ」

「わかりました」

 そこで少し西園寺が言い淀む。「それでな、そのはるさんが言うには原因は祟りだと言っている」

「たたり?」三人がそろう。

「ああ、そう言っている」

「祟りって何のたたりですか?」野村がこわばるのがわかる。

「俺が話すより、現地で詳細を聞いた方が良いだろう。へんな先入観念を与えない方がいいと思う」

「はあ」とたんに野村が心配顔になる。

「明日は土曜日で学校は休みだろ、午前中にでも行ってみてくれないか。俺の方で連絡しとくから。住所はここだ」

 西園寺が連絡先のメモを渡してくれる。名前と電話番号と住所が書いてある。

「当然、これは階段の時のような模擬試験じゃないから、みんなで本当に解決してくれよな」

 西園寺が彫の深い顔で不敵に笑う。


 三人で寺を後にする。例の石段を降りながら、恥ずかしさをこらえて楠田が話す。「この前はありがとな、助けてくれて」

 二人が顔を見合わせる。ようやく気付いたように鷲尾が話す。

「ああ、別に気にすることじゃない。お前にはいつも世話になってるからな」

 野村もうなずく。さりげない態度がうれしい。やっぱりこいつら本当にいいやつらだ。野村が話す。

「それでさ、どうする?金井んちだと鷲尾が連絡した方がいいんじゃないか?」

「そうだな、俺から話してみるよ。時間とか確認してお前たちに連絡するよ」

 三年生になって三人ともクラスは違っていた。鷲尾は3組で野村は2組、楠田は1組である。楠田としては金井莉子とは同じクラスになったことはないが、金井はそれなりに頭がいいようで試験などでは上位にいた。学校でも見かけたことはあるが、特に印象はない。当然、その祖母のはるさんも知らない人だ。

「わかった」

「それにしても金縛りが地域的に起きるってなんなんだろうな」

「そういった原因究明は楠田が主担当な。俺たちはどっちかというと体を動かす担当だからな」

 鷲尾が笑顔を見せる。まあ、そういうことだろうとは思った。そのとおりだ。原因究明は楠田の真骨頂だ。とにかくまずは現地視察してからになる。


 その夜すぐに鷲尾から連絡があり、土曜日の朝10時に金井宅を訪問することとなった。石崎町は西隣だが、隣とはいえ田舎なので距離的にはけっこう離れている。中学生の交通手段必需品でもある自転車で現地集合とした。

 指定された住所に近づくと今まで気付かなかったが、けっこう大きな工場が建っている。はてこんなところに工場なんかあったか。最近、出来たのかな。そういえば何かの求人広告を見た気もする。などと坂道をママチャリを漕ぎながら思う。

 金井宅はその工場の近くにあった。よくある2階建て民家である。田舎なのでそれなりに大きい。

 玄関前には野村がいた。彼も同じママチャリで来ている。

「おお、楠田」

「ここでいいのか?」

「ああ、表札がある」

 確かに金井良治とある。

「鷲尾はまだかな?」

「ああ、あいつが金井に連絡したから待つしかないな」

「野村は金井莉子ってわかるか?」

「うん、2年の時に同じクラスだった」

「秀才だったよな」

「そうだな。楠田ほどじゃないけど、その時は学級委員やってたよ。けっこうしっかりしている女の子だよ」

 そこに鷲尾が自転車でやって来る。彼も当然、ママチャリだ。二人の前で華麗に止まる。ママチャリでタイヤ鳴らすな。

「待たせたな」

 さすがイケメン、ママチャリで到着しても絵になる。

「よし、行くか」

 鷲尾を先頭にして金井家のチャイムを押す。鳴るやいなや玄関が開く。あれ、金井莉子か、なんか別人のような。

「いらっしゃい」

 いつも学校で見かける金井ではない、服もよそ行きだし妙に化粧が濃い気もする。

「こんちは、金井さん今日も素敵だね」

 出た、鷲尾のいつもの会話だ。

「え、ああ、こんにちは」金井が真っ赤になる。

 こういったところをさりげなく出来るのが、鷲尾の得意技なんだろうな。普通の中学生には出来ない技だ。秀才女子も飛び切りメイクで会いたがる。

「今日ははるさんに話を伺いにきました。金井さんも一緒に聞いてくれるのかな」

「はい」

「よろしくお願いします」

 二人はおじゃま虫だ。野村もなんとなく理解している。

 居間に通される。田舎の家なので居間も広い。10畳はあるだろう和室で、真ん中に漆塗りの大きな木の座卓がある。そこにお祖母ちゃんと父親らしき人物、そして金井莉子も加わる。

「鷲尾翼といいます。莉子さんとは同級生でクラスも同じです」

「野村祐介です。我々は莉子さんとはクラスは違いますが、同級生です」

「楠田慎吾です。今日は西覚寺から依頼されて来ました」

「わざわざ、すいませんね。まあ、座ってください。金井良治と言います。莉子の父親です」

 良治さんは小太りで背も低い、さらに頭皮が薄くなっていて、ヘアスタイルもバーコード間近である。

 三人で家族の向かい側に座る。6人座っても座卓は十分余裕があるほど大きい。そこに母親らしき人物がお茶を持ってくる。

「いらっしゃい」なんと母親も妙に化粧が濃い気がする。これも鷲尾効果なのか、鷲尾おそるべし。

「母の玲子です」

 お茶を並べる。そして母親も座り、4人並んで家族席に鎮座する。

「それでは早速お話を聞かせて頂きたいんですが、お話されるのははるさんでよろしいですか?」

 はるさんはお祖母さんというほどの歳でもない。白髪で70歳を越えたぐらいだろうか、まだまだボケているような様子はない。

「はい、お祖母ちゃんから話をしてもらいます」良治さんが言う。

 はるさんはお茶を一口飲んでから話を始める。

「今まで金縛りなんてなったこともなかったんですよ。それがここ1年でひどい時には毎晩のように金縛りに会います」

「段々、ひどくなる感じですか?」

「そうです。あと、金縛りは私だけじゃなくて、家族全員に起きているんです」

 他の家族もうなずく。やはり地域限定の金縛りということか。

「具体的にはどんな感じですか?」

「兵隊さんが出てきます」

「兵隊?」

「そう、あれは戦時中の日本軍だと思います。軍隊が行進したり、訓練したり、そういったことが繰り返されるんです」

 金井莉子も話をする。

「私も同じです。軍隊が行進します。部屋の中に入ってきて私の上をどんどん歩いていくんです」

 なんだろう、みんな同じなのだろうか、家族がうなずいているところを見ると確かにそうなんだろう。

「それが始まったのが1年前なんですね」

「そうです」

 発生時期が一致しているということか、その頃に何があったのだろうか。

「皆さん、同じでしょうか?」

「そうです。大体、その頃からです。そして家だけじゃなく、近所の人も同じように金縛りに会っています」

 なるほど、西園寺の話に合ったこの地域限定の金縛りと言うわけか。

「えーと、それは石崎町の皆さんが、同じようにこの一年で金縛りにあっているということですね」

「そうです。みんなで色々話をしますが、この一年で金縛りに会い、やはり兵隊を見るそうです」

 みんなが兵隊を見る、そんなことがあるんだろうか。

「楠田、これは怪異じゃないか?」

 鷲尾が真剣な顔で話す。むしろうれしそうでもある。そういえば、西園寺が祟りがどうとか言ってたな。

「住職からは祟りじゃないかと聞いていますが、どうなんですか?」

 これにはるさんが答える。

「そう思います。実は一年前にこの近くに工場が建ちました」

 なるほど、先ほど見かけた工場が建ったのはその頃なのか。

「それ以前は、あそこは竹林だったんです」

 思い出した。そうだった。竹林がけっこう広範囲にあったのを思い出す。相当な竹の量で風が吹くと音がするぐらいだった。

「そこを更地にして今の工場が建ったんです。竹を伐採して更地にした時にほこらが出てきたんですよ」

「祠?」

「そうです。竹林の中だったので、それまではみんな祠に気が付いていなかったんですが、実は昔からそこにあったようです」

「はるさんは知っていましたか?」

「知りませんでした。祠が出来たのは私が生まれる前かもしれません」

「そうですか」

 何か少し今回の怪異話が見えてきた気がする。

「それでその祠はどうなったんですか?」

「工場を建てる時に壊してしまったようです」

 祠だとかそういったものを壊していいものだろうか。これは西園寺が対応する案件だ。いや祠は神社だから神主か。

「祠には魂が宿っています。壊すにしてもそれなりの儀式が必要になります。魂抜きをしないと今回の様な災いが起きます」

 はるさんは年の功でそう言うことも詳しいようだ。なるほど、魂抜きか、やはり西園寺に確認しよう。

「だったら魂抜きを行えばいいんですか?」

「そうなんですよ。そう思って住職に相談したんですが、祠の跡地にそのまま工場が建ってるから、今さら魂抜きは難しいらしいです」

 西園寺もいい加減なことを言ってないか、まず大体、これはお寺じゃなくて、神社案件じゃないのか。そして祠が無いと魂抜きはできないものなのか、大いに疑問が残る。ここで鷲尾が間抜けな質問をする。

「他にはどんな祟りがあるんですか?」

 いやいや、金縛りなんだからそれしかないだろう。

「はい、家のものが動きます」

 えー、他にも祟りがあるのか、さらにポルターガイスト現象とは、一体、ここで何が起きてるんだろう。

「え、何が動くんですか?」

「先日は箪笥が倒れてきました」

「楠田、これは怪異だろ」

 増々、鷲尾が生き生きしてくる。一方野村はどんどん不安げになっている。

「えーと、ちょっと見せてもらっていいですか?その箪笥を」

 何故か、莉子がもじもじしている。良治さんが言う。

「莉子の部屋の箪笥なんですが。いいかい、莉子?」

「うん、じゃあ、私の部屋に来てください」

 2階に案内され、金井莉子の部屋に入る。なるほど、これが女子中学生の部屋か、一言で言ってメルヘンだ。和室に似つかわしくない、どこぞのペンションのような部屋になっている。カーテンも淡いピンク色で部屋全体も同色で飾られている。目がショボショボしそうだ。

「どれですか?」

「この箪笥です」

 莉子が指差した箪笥は小さめの高さは1mぐらいだろうか、これまたピンク色で割と細長いものだ。ちょっと動かそうとすると、そこそこ重い。え、これが倒れるか。

「これが倒れたんですね?」

「そうです。兵隊さんがぶつかって倒れました。他にぬいぐるみが落ちたり、机も動いたりしています」

「机ってこの机?」

「そう、動いてました」

 パソコンが乗っている学習机が動くとはとても思えない。野村と鷲尾は完全に怪異を信じきっている顔だ。いや、まさかな。

「動くってどういう風にですか?」

「ガタガタと動きます」

 まさにポルターガイスト現象だ。映画で見たやつだ。

「金縛りだけじゃなくて、目覚めてから確認してみても本当に動いていたということですね」

「そうです。実際、元の位置から数センチは動いていました」

「楠田、これは祟りだ」

 鷲尾は増々、うれしそうだ。祟り祟りってお前は八墓村か。

 その後、一通り全員の話を聞く。やはり同じように金縛りや物の移動を体験しているとのことだった。


 金井家を後にして、3人で作戦会議をする。近くのファストフード店だ。ちなみにこんな片田舎でもファストフードはあります。

「楠田、どう考えてもこれは怪異で決まりだ。お祓いをするしかない」鷲尾が自信を持って言う。

「俺もそう思うぞ。あんな箪笥が倒れるか?」

 野村はもちろん怪異に同意している。

「うん、確かに金縛りだと身体が動かないから、家具なんかは本人が動かせるものでもない。とすると、何かが動かしたことにはなるな」

「そうだろ、兵隊さんだよ」

「いやいや、だからなんだよ、その兵隊って」

 ここで野村が彼の推論を話しだす。

「あそこに祠があったのは確かだよな。更地になった時に住民みんなが見てるからな。そしてそれはあのはるさんが生まれる前もしくはその頃だ。とすると第二次世界大戦の頃じゃないのか、兵隊さんともつながるし、そういう霊を慰めるために建てられた祠なのかもしれない。そういった祠をだな、何の供養しないで壊しちまったんだよ。そりゃ化けてでるな」

「でも祠ってそういうものなのか?霊を祭るのは神社とかだろ、兵隊を祭るんだったら靖国神社とかだろ」

「そこは俺のテリトリーじゃないが、結局宿ったんだよ、きっと」

 それでは訳が分からない。素朴な疑問を述べてみる。

「そもそもあの竹林って誰の持ちものだったんだろうな。そこの持ち主に聞かないと祠の正体もわからないだろう?」

「それは西園寺に聞くしかないな」

「なるほど、確かにそうだな」

 鷲尾が楠田に向かって言う。 

「楠田、お前の理論だと実体験するしかないだろ?金井のところに泊めてもらえよ」

「いや、それなら、みんなで泊まろうよ。俺一人はいやだよ。しかし金井の部屋には驚いたな。女の子の部屋ってみんなあんな感じなのか?」

「そうか、お前女兄妹いなかったな。大体、あんなもんだよ。メルヘンしてる」

「もっと推しのポスターとかがあるかと思ったよ」

「剥がしたんだよ。俺たちが見るかもって思ったんだろ。ベッドの脇とかにそういう形跡があっただろ」

 さすが鷲尾、そういうところは鋭い。

「そうなのか、あんな秀才でもアイドル好きなのか」

「推しに秀才も馬鹿も関係ないだろ」

 確かにそのとおりか、楠田に推しがいないだけなのか。

「話を戻すけど確かに金縛りを経験する必要はあるな。それも西園寺に聞いてみよう。金井宅じゃなくても、あの近所ならどこでもいいはずだものな」

「確かに若い女性の家に泊まるのは何かと問題が大きい。特に鷲尾と同じクラスだしな」

「もっとおっさん臭い家があるはずだな」

 おっさん臭い家もいやだが、適当な家で実体験したいとは思う。 とにかく、ここまでわかったことを西園寺に報告をすることにする。


 その日の夕方、再び西覚寺の教室。西園寺と俺たち三人が話をしている。報告を受けて西園寺が話す。

「なるほど、大体、話は見えてきたな。それでどうする?」

「まず、聞きたいのは祠についてです。あの土地は元々誰の土地だったんですか?」

「うん、あそこはあの辺一帯の土地を持っている大地主の臼井さんの持ち物だった。今は売却して工場のものになっているがね」

「あの工場はなんて言う会社ですか?」

「山田製作所と言う会社だ。ちゃんとした一流企業だよ」

 山田製作所か、それなりに大きな工場だったから西園寺の言うようにしっかりした会社なんだろうな。でも祠を壊しちゃまずいだろ。

「できれば、元の持ち主だった臼井さんに祠について話を聞きたいんですが」

「それは俺の方でもうやったんだ。しかしね、臼井さんも代替わりしててな。あの土地について知ってるのは先代しかいなかったらしい。今、生きてたら100歳を越えるぐらいでさ、当然、亡くなっていて、結局祠の素性は良くわからないままだ」

「じゃあ、そんなに昔からあったんですかね?」

「そうなんだろうな。一般に祠は何かを守る意味で作られることが多い。守るというと神社がそれにあたるんだが、その限定された地域を守るといった意味合いで祠を作るんだよ。役割は小さな神社といったところかな」

「やっぱり、勝手に壊したりしたらまずいんですよね」

「うん、そうだな。神が宿っているものだからな。壊すときは魂抜きをしないとならない」

「魂抜き?」

 やっぱりはるさんと同じことを言っている。

「壊す前にそういう儀式をするんだ」

「やっぱり神主案件ですか?」

「いや、うちもやるぞ。浄土真宗でも出来る」

 なんか西園寺が言うと途端に胡散臭い。

「じゃあ、先生が魂抜きをやってくださいよ」野村が言う。

「いやいや、ちょっと待て、じゃあこれは祠の祟りでいいのか?」

 二人はともかく、楠田にはそうは思えない。何か他の原因があるかもしれないと考えている。

「俺はもう少し調査したいです」

「そうだよな、怪異には訳がある。科学的に解決しないとな」

 西園寺のいつもの不敵な笑みがでる。ラテン系の顔に白い八重歯が出て、歯磨きのコマーシャルか。

「あの工場に入ることは出来ますか?祠の跡を確認したいですね」

「わかった。それは俺が動こう。工場見学の名目で見れるかもな。ちょっと時間をくれ」

「工場見学だと授業の一環ですよね」

「そうだな。工場見学は学校の行事に出来るから、科学部でやれるな」

「じゃあ、行くのは楠田だけですね。俺と鷲尾はクラブが別だから」

 野村がもっともなことを言う。単に行きたくないだけのような気もする。

「よしクラブ活動で工場見学にしよう。顧問の福本には俺から話をしとくよ」

 科学部は元々、西園寺が顧問をやっていた。勝手知ったる部活動だ。西園寺の後任顧問の福本碧は彼の理科教師の後任でもあり、西園寺には世話になった経緯がある。ちなみに福本碧は西園寺が辞めることが決まった三学期から、副担任として楠田のクラスを担当していた。臨時教員として派遣社員並みの扱いだった福本が、西園寺が辞めることで教師になれたという頭が上がらない関係がある。なので、西園寺の頼みは絶対に断れないはずだ。

「あと、金縛りを体験してみたいですね。まずは自分で確認しないと」

「そうだな、さすがは楠田だ。それでこそ科学部だな」

「俺たちは科学部ではありません」野村と鷲尾があっさり言う。

「まあ、そういうな、君たちは楠田をフォローする。多分、そう言うと思って家は抑えてある。金井のところは女性もいるから、何かとまずいだろう。そう思って、その近所の俺の友人に頼んである」

「友人ですか?」

「中村といって昔からの友達だ。ご両親と住んでいて、いまだに独身だから部屋はある」

 いまだに独身って自分もそうだろ、と突っ込みたくなる。

「わかりました。3人で行って大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。で、いつから行ける?」

「今週末であれば、行けるかな。みんなはどう?」

「今週末は予定があるけど、夜だけだよな」野村が言う。

 楠田がうなずく。

「なら、OKだ。鷲尾はどうかな?」

「俺は予定があるけど、まあ、いいよ、そっちを優先する」

「じゃあ、今週末の金曜日と土曜日に泊まれるようにしよう。俺から連絡しとくよ。金曜日に金縛りが体験できれば、土曜日は無しになるな」

 こうして金縛り体験お泊り会が決定する。


 三人で西覚寺から家路を急ぐ。いつもの石段を降りながら、ちょうど西の空が夕焼けに染まっているのを見る。

 いつもながら、ここからみる景色は最高だと思う。田んぼや畑が延々と続いていて、ローカル線がその中を走っている。駅前には5階建てぐらいのビルが数軒たっているぐらいで、とにかく広々としている。空気も清々しい。そして西の空が真っ赤に焼けている。

 野村がそんな夕焼けを見ながら、「やっぱりここから見る夕焼けは良いな」

 足を止めてみんなで夕焼けを見る。確かに野村の言うようにここから見る夕焼けは絶景だと思う。太陽が西の山際に消えながら雲を焦がしている。空気も澄んで見通しも良い。遠くの景色までもくっきり見ることが出来る。

 ふと思う。こういう景色をこの三人で見ているということを、いつか懐かしむ時が来るんだろうな。そして、こういう関係がずっと続けばいいのにとも思う。ただ、それはかなわない夢なんだろうけど。

「そういえば、みんなの進路を聞いてなかったな。俺は一高に行くつもりだよ。」

「そうだよな。楠田は医者になるんだろうから、そこから国立大学の医学部だよな。俺は自分の成績で行けるところになるかな。できれば県立だけど。一高は絶対無理だな」

 鷲尾の成績だと中ぐらいの高校になるんだろうな。野村はどうするんだろう。

「俺は陸上で誘われてる学校もあるけど、実は迷ってるんだ。陸上を続けるのか、他の競技をするのか、やめちゃうのか、色々考え中だ」

「陸上で推薦を受けるんだったら特待生だろ、それもいいんじゃないのか?」

「どうかな、オリンピックを目指すほどの実力があれば、そっちでも良いんだけど、そこまでの力があるのかな。それと高校で人生を決めるのもどうかとも思ってる」

「そうか、俺は野村だったらオリンピックも行けると思うよ。いや、だめでも目指せるだけでもすごいと思う」

 野村は答えない。彼の顔に夕陽が映える。鷲尾が話をする。

「多分、みんな高校は違うだろうし、もう一緒にはいられなくなるかもしれないな」

 確かにそうなんだろうなとは思う。そしてそれは楠田にはたまらなく寂しいことだ。

「でもさ、なんか今日のこの夕焼けの空は忘れない気がする」

 鷲尾が言うことに二人がうなずく。確かに今日のこの一瞬は永遠に切り取られる。

 楠田が本音を言う。「高校が違っても俺たちは友達だよな」

 二人がうなずく。


 自宅に戻って、家族でいつもの夕食となる。うちは家で食事する時は家族一緒に食べることになっている。これは父親からの決定事項でそんなに苦痛とは思っていない。外で食べることも自由だし、それでどうこう言われることもないので、家にいる時は家族で食事することに問題はない。

 これからの怪異案件について話をしてみる。医師でもある父の意見も聞いてみたかった。今までの情報を一通り話すと、父は少し考えてから話出す。

「不思議な話ではあるな」

 父は食後のコーヒーを飲みながら続ける。

「金縛りは慎吾が調べたように、医学的に立証されているんだ。実際、うちの病院にも治療で来院される方もいる。色々、要因はあるんだが、よくあるのはストレスが元になっていることが多いな。それにしても地域特有で起きるというのは、あまり聞いたことがない」

 そこで少し気が付いたように立ち上がって、居間にあるノートパソコンを立ち上げる。何かのデータを確認しているのか。

「ああ、慎吾、実際そういう話はあるな。医院のデータベースを見ると石崎町でストレスが要因の病人が何人かいる。傾向として他の地域よりも明らかに多い」

 そのデータを見ようと近寄ると、「個人情報だから見ないでくれ」そういって画面を隠す。親子でもこういった部分は律儀な人だ。

「じゃあ、石崎町の住人がストレスを感じてるのは間違いがないんだね」

「うん、そういうことだな。それが祟りなのか、他の要因なのかはわからないがね」

 やはり母親は少し心配そうにしている。

「祟られたらどうなるの?」

「特に金縛りに会うだけだから、大丈夫だよ。それに西園寺は坊さんだから、何かあったらお祓いをしてくれるって」

「西園寺さんって見習いじゃなかった?」

 母親が鋭いところを突いてくる。

「どうなんだろ、一応、お経も読んでるから大丈夫じゃないのかな」

 母親は明らかに西園寺の力量に疑いを持っている顔だ。

「僕は西園寺住職は大丈夫だと思うよ。元々頭も良いし、何より要領が抜群にいいからな」父は果たしてフォローになっているのかどうだか、わからないことを言う。

「野村君と鷲尾君も一緒なんだろ?」

「そう、あいつらがいれば大丈夫だよ」

 母親も二人の事は信頼しているようで、仕方がないかといった顔になる。

「週末に住職の知り合いの家に泊まるんだろ?」

「そうなんだ。それはそれで面白そうだとは思ってる」

 見ず知らずの家に泊まるのも普通は無い経験だし、祟りの謎を解くということに大いに興味がある。科学で解明できないことはないのだ。


 そしてその週の金曜日にお泊り会が決行される。西園寺と楠田家からのおみあげを持って中村家に行く。夜の9時におじゃまして、ただ眠るだけなのだが、西園寺の元生徒ということで中村さんに歓迎される。

 中村さんは西園寺と同じ歳のはずだが、妙に貫禄がよく、太り肉で身長は170㎝はないだろう、横に広い人だった。簡単に言うとちょっと小太りだ。

 中村さんから提供されたのは和室の8畳客間だった。すでに布団も敷いてある。家は10年前に改築したそうで、そこそこ新しい。本来であればお嫁さんを見つけて、親と同居するために建て直したらしいが、それは無駄になってしまったようで空いている部屋が多い。

「西園寺とは中学校からの知り合いでさ、今の君たちと同じような付き合いだったかな」

「そうですか、中学時代の西園寺さんってどんな方でした?」

「今とおんなじだよ。いつも飄々としていてさ、面倒見もよくて、あいつが教師をやるって聞いた時は天職だと思ったよ」

「高校は違うんですか?」

「高校も同じだったよ。だから高校の時にもっと仲良くなった感じかな」

「高校時代は何をしていたんですか?」

「西園寺はバスケをやってた。けっこう強かったんだよ、うちの高校は。県大会にも出て、いいところまで行ってたな」

「中村さんは何をしていたんですか?」

「俺は放送部だな。運動系はやらなかったよ」

 なるほど、そういう雰囲気はある。

「西園寺とは価値観が似ていてね。結婚しない点も似ちゃったよ。ハハハ」

 いやいや、西園寺は出来るのにしない感じだけど、中村さんはそれとは違う気がする。あえて言わないけど。

「それで金縛りなんですが、中村さんも経験があるんですか?」

「あるよ。まあ、毎日でもないけど、時々はそうなる」

「それでどういった金縛りなんですか?」

「うん、やっぱりね。何か行進してくるんだよ。ずんずんって感じでさ」なるほど他の住民と同じだ。

「ご両親も経験してるんですよね」

「そうだね。両親が言うには軍隊だって言ってる」これも同じだ。

「やはり、この地域全体で起きている金縛りなんですかね」

 あえて探りを入れてみる。

「そうみたいだよ。最近はご近所さんと会うとその話が始まるみたいだよ」

「時期はいつごろからですか?」

「一年ぐらい前からだって話だよ。僕はそこまで昔じゃないけど、少し前から経験し出したかな」

 これも一致している。野村が質問する。

「物が動くようなこともありますか?」

「それはどうかな。ああ、そういえば母親がそんなことを言ってたかもしれない。僕は経験ないけどね」

 なるほど、やはりポルターガイスト現象もあると判断していいのかもしれない。

「じゃあ、そろそろ行くね。家の施設は自由に使ってくれていいよ。まあ、寝るだけだけどね」

 そういって中村さんが部屋から出ていく。

「西園寺ってバスケ部だったんだ」野村が言う。

「そういえば、そんな事を言ってた気がする」楠田が答える。

「まあ、あんまり興味がないから忘れちゃうんだろうな」

 差しさわりの無い話をするが、みんな金縛りが妙に気になっているのか会話が弾まない。果たして起こるのだろうか。以降も取り留めのない話をしながら、夜が更けていく。12時を過ぎて、いよいよ就寝になる。

 川の字に並んでどこかの家族のように寝る。楠田は右端にさせてもらう。真ん中は鷲尾、左に野村が位置する。そしてあっという間に鷲尾から寝息が聞こえる。まったくこいつは、こういうところは度胸があって尊敬する。そしてその後、野村も寝入ったようだ。

 こういう時に神経質なやつは損をする。なんだか、一向に眠くならない。元々、寝つきはいいほうだが、こういう場面では眠れなくなる。怪異等無いとは思っているが、気にはなる。

 それにしても西園寺の依頼はどういう経緯で来たのだろう。金縛りは金井の祖母から来たとは聞いたが、奴が住職になって、こういった怪異が矢継ぎ早に出てきたんだろうか、また、今までもあったのを前の住職は気にしなかったということかもしれない。それにしては亡くなった住職からの引継ぎ事項があったとも言っていた。まあ実際、西園寺が多忙なのはわかる。なにせ、まともな修行も出来ずに俄か坊さんをやっているし、今も定期的に御本尊には修行に行っていると聞く、本来であれば2年間は寺で修業するという話だ。

 それと破格のバイト料が気になる。一件当たり6万円の支出になる。西園寺の話だとお寺はそんなに儲かっていないから、塾をやってるはずだ。それとも想定を超えて塾が儲かっているのだろうか、何か他に目的があって、この怪異バイトをやらされているのかもしれない。そんなことをつらつらと考えていて、ようやく睡魔が襲ってくる。


 気付くと何か音が聞こえる。ゴッゴッゴッというような、部屋を何かが歩いている。ああ、なんということだ。兵隊が行進しているではないか。金縛りで声を上げることは出来ない。確かに日本兵の様な集団が行進しており、それが壁から続々と抜け出てくる。そして体の上をどんどん進んでいくではないか。それも次から次へと出てくる。重みを感じるのだが金縛りで身動きが取れない。全身から冷や汗が吹き出す。ただ身体はピクリとも動かない。そして夥しい数の兵隊たち、彼らの顔は青ざめていて、唯々行軍しているだけだ。

 そんな状態が数分間続いて、ようやく身動きが出来るようになる。それでよやく兵隊たちも消えていく。

 いったん、起き上がって周囲を確認する。特に何の痕跡もない。そして隣に寝ている奴らを見る。なんと二人とも爆睡しているではないか。えー自分だけ金縛りか。やることもないので仕方なく再び寝ることにする。

 しかし、それからは寝ることが出来なかった。恐怖の体験もあるが、寝る気が失せたというか、色々考えるとどんどん眼がさえてしまった。


 そして翌朝を迎える。楠田はそのまま布団の上に座っていた。鷲尾があくびをしながら起きだす。

「おはよう、何も無かったな」

 その声に反応して野村も目覚める。

「おはよう、どうだった?」

「何も起きなかったよ」鷲尾が答える。

「そうだな。まったく拍子抜けだ」

 いいながら二人して楠田を見る。楠田は若干青い顔をしている。

「え、ひょっとして見たの?」鷲尾が言う。

「ああ、見てしまった。日本兵が行進していた」

「そりゃすごい、体験できたんだ。ポルターガイストは起きたか?」

「この部屋にそんなものはないだろう」

 ここの八畳間には家具類や動くものはない。

「そうか、楠田が浮くとかなかったのか?」

「ない。ただ、踏まれ続けた」

「おお、それはすごい」鷲尾は嬉々として喜んでいる。こいつはまったく。

「結局、俺だけが体験したのか、全員に起きるものでもないんだな」

「そうだな。そういうものなのかもしれない。祟りの性質とか感じやすいとかもあるのかもな」

 確かに不思議だ。自分で体験したことながら、金縛りはあるとしても何故、日本兵の行進という同じ体験をするんだろう、謎が深まる。しかしそこに何か理由があるはずだ。

「やっぱり日本兵の祟りじゃないのかな。その辺の因縁を調査した方が良い気がする」野村はあくまで日本兵怨念論だ。「昔ここらへんにいた日本軍に関係するんじゃないの?」

 やはりそういう話になるのか、実は楠田は少し調べてきていた。

 実際、この近くには旧日本軍の連隊がいた。そしてその連隊は南太平洋のパラオで玉砕した歴史があるようだった。

「一応、調べたんだけどさ、確かにここに旧日本軍の連隊がいたらしい。満州からパプアニューギニアのパラオまで戦闘を続けて、最後はそこで全滅したらしい」

 そしてこの話に笑顔で鷲尾が食いついてくる。

「やっぱりそうか、日本兵の祟りじゃねえか、祠は日本兵を祭ったんもんだったんだな」

「結論!早急に魂抜きが必要だ」野村も同意している。

 そんなことが本当にあるのか、いや、まだ情報が足りない。工場見学をして祠の痕跡を確かめないと。

 

 そして、夜になって西園寺に電話をする。ここまでの状況報告となる。

「結局、俺だけが金縛り体験をしたわけです」

『ほう、そうか、金縛りに個人差もあるわけだな。なるほど。で、これからどうする?』

「野村と鷲尾は祟り論に固執しています。ただ、俺は結論を出すのはまだ時期尚早と思っています」

『つまりもっと情報を集めたいと言うことだな』

「そうです。それで工場見学はどうなりましたか?」

『うん、山田製作所に確認して、来週の水曜日に行くことになりそうだ。ちょうど科学部の活動日だろ』

 科学部は西園寺がいた頃から、定期的に水曜日にクラブ活動をしていた。

「そうです」

『福本先生に工場見学の話をしたよ。うまく動いてくれそうだ』

 まあ、西園寺から提案されれば福本は断れないだろう。

「科学部で見学できそうな工場なんですか?」

『ああ、大型の機械部品を作ってる会社みたいだ。工場見学としてもいい題材だと思うよ』

「会社名は山田製作所ですよね」

『そうだ。業界では有名な会社だよ』

「わかりました。じゃあ見学が終わったら、また、相談します」

『はい、よろしくな』

 そう言って電話を切る。

 はてさて、本当に日本兵の呪いなのだろうか、工場の祠跡を見て、何かわかるのだろうか、こうなると、頼れるのは己の科学力しかない。


 そして水曜日に科学部は工場見学に行くことになる。授業が終わり、学校がチャーターしたマイクロバスに乗って工場まで向かう。

 科学部は部員総勢20名で、見学には参加可能な10数名が行くこととなった。

 顧問の福本碧は25歳で、うちの中学に正式採用されるまでは臨時教員扱いで県内の中学校を転々としていた。当然、本人は本採用を希望しており、ちょうど西園寺が退職することで本校に赴任できた経緯がある。そういう意味では西園寺に感謝しており、足を向けて寝られないと、嘘とも思えないセリフを吐いていた。

 福本は理科担当で西園寺のやってきたことを丸々引き継いでいる。25歳だが、外見は10代に見えそうなぐらい幼い。雰囲気もそうだが、行動自体も幼い気がするのだ。14歳の楠田から見ても幼く感じる。よってまったく大人の色気を感じない。鷲尾の姉の最終兵器のほうが数倍、いや数百倍大人の色気を感じる。眼鏡をかけて背も低く、少し小太りでかわいらしい。部員もそうだが、学校でも生徒からみどりちゃんと呼ばれている。しかし楠田は部長でもあり、ちゃんと福本先生と呼ぶようにしている。

 そしてこの科学部には副部長がいる。水元涼という楠田と同学年の女子だ。この水元は西覚寺の塾にも来ているが、楠田にライバル意識を持っている。水元の実家も病院を開業していて、同じ町内にある水元耳鼻咽喉科と言う。楠田の内科外科とかいう分別の無い病院名とは異なり、名前だけは節操がある病院となる。医院としての腕前は良くわからないが、やぶ医者と言う話は聞かない。

 弟もいるが出来は涼の方がいいみたいで、病院を継ぐことはほぼ既成路線らしい。とにかく医学部一直線だ。そういった進路面でも楠田に対抗心を燃やしている。ただ、成績では彼女に負けたことがない。水元は背が高く、170㎝近い。髪は長くて目は悪いらしいがコンタクトをしている。目元が涼しく外見は清楚美麗系に見えるが、内面は男に近い気がする。実際、相当美形の部類で、密かに想いを寄せている隠れファンも多いらしい。

 学校の前に待機しているマイクロバスに乗り込む。全員が乗り込んだところで、福本先生が話をする。

「それでは、今日の科学部は工場見学です。地元にある機械工場の山田製作所さんに伺います。こちらは大型の機械加工をやっている会社で、科学部でも参考になると思います。あとで感想文を書いて下さい」

 一部の生徒から不満の声が上がる。

「部活動の一環です。よろしく」福本は不満を却下する。

 バスは隣町の工場に向かう。概ね20分ぐらいでは着くはずだ。楠田の前に座った副部長の水元が、振り返って話をする。

「楠田君、これはどういうわけなの、なんで唐突に工場見学なのかな?」

「いや、地元の工場だからだろ、それ以外に何かあるか?」

 水元はなかなか鋭いところがある。同じ塾なので、西園寺から何か頼まれていることも、薄々気づいている節がある。明らかに疑いの眼を向けている。

「西園寺と何かやってるんじゃないの?」

 それには答えず、窓の外を見て知らんふりをする。

 山田製作所は先日行った金井宅の真裏にある。例の祠があった竹林を全部伐採して工場にした。周囲は高い塀に囲まれているが、学校と同じくらいの広さではないだろうか、とにかくこの地域では大きな工場だ。

 バスが工場内の駐車場に停まる。駐車場も広いが、工場はさらに大きいのが良くわかる。敷地内の土地半分を20m近い高さの平屋工場が建っており、その手前には正門に向かって公園が出来ている。芝生や池があり、ちょっとした庭園のようだ。ここの工場は美化活動にも留意しています感が満載である。

 福本に引率されて工場の入り口まで来る。そこに作業服を着た紳士然とした男性がいる。工場を案内してくれる総務課の大島課長さんだそうだ。40歳後半ぐらいの優しそうなおじさんである。

 福本と我々は大島課長に挨拶をする。福本は小柄なため、大島課長と並ぶとなにか親子の様に見えてしまう。入り口で全員を集めて課長から説明が始まる。

「東中学校のみなさん、工場見学にようこそ」

 科学部だけですけど、と思いながら、一同がお辞儀する。

「私ども山田製作所は、昨年より当地にて業務を始めさせていただきました。こちらは石崎工場になります。ここで作っているのは大型の機械部品になります。皆さんは発電所などで使うタービンってわかりますか?」

 なるほど、タービンを作っている会社なのか、どうりで大きな工場だ。この質問には半分ぐらいが理解したようだが、一年生はよくわからないようだ。楠田が代表して答える。

「大きな羽のような部品ですよね」

 その助け舟で、大島課長は回答が来てほっとしたように話す。

「はい、そうです。後で実物を見てもらいますが、発電所などで使われるタービンブレードは、大型でありながら精密さも要求される、大変、作るのが難しい部品です。あと、航空機のジェットエンジンにもタービンが何枚も使われていて、それもこちらで製造しています。それ以外にも大型の機械部品の製造もやっています。

 じゃあ、皆さんヘルメットの装着をお願いします。危険はないですが、あくまで防止の一環で帽子をかぶってもらいます」

 ひょっとするとしゃれたのか、誰も笑わない。この親父ギャグは中学生には無理だ。福本だけが愛想笑いをする。ちょっと気まずい雰囲気でヘルメットを着用する。

「あと、危険ですから機械には決して触らないで下さい。それでは行きましょう」

 全員が工場内に入る。大型の工作機械が何台もあり、今まさに動いている。それなりに大きな音もしており、一年生はびっくりしている。まずは大型の加工機の前に来る。

 騒音の中、大島課長が、生徒がそろったところで大声で説明を始める。

「これがブレードセンターです。これでタービンブレードを作っています。あらかじめ加工内容がプログラムされてまして、その通りに自動で加工していきます」

 大型の加工機ブレードセンターは20m以上の長さがあり、10トントラックぐらいの大きさだろうか、今も実際に加工しているようだが、機械の前にはオペレータが一人いるだけで、何もしていない。課長が言うように自動で加工している。

 ただ、工場内の騒音はすさまじい。加工機にはカバーもありそれなりに騒音対策はしているのだろうが、大物を加工するためにこれだけの音がでるのだろう。そういった加工機は数台稼働している。

 大島課長についていき、色々な機械について説明を受けたあとに一つ目の工場から出ていく。そして渡り廊下を抜け、次の工場に入る。

「こちらは試験装置室になります。先ほど、加工した部品が適正に動くのかをここでチェックします」

 タービンブレードなどをここの試験装置で確認するのか。大型のタービンを回すために試験装置も大型になる。今もその試験機が動いている。

「当社では完成した部品はすべて性能試験をおこない、問題ないものを出荷しています。全数試験で抜き取り検査ではありません。ああ、わかりますか?抜き取り検査は?」

 ロット数に合わせて全部ではなく、数個抜き取って試験することだ。様々な規格に合わせて試験をおこなうため、サンプル数が規定で決まっているはずだ。わかるやつは楠田しかいないようだ。他の生徒はぼんやりとしている。見ると福本も同じだ。おいおいお前は理科の教師だろう。仕方なく大島課長がフォローする。

「抜き取り検査は10個同じものを作ったとして、それを任意に抽出して、例えば3個試験をすることで、その10個が問題ないと判断することを言います」

 福本、ここでうなずいてようやくわかった顔をするな。水元も同じようだ。そして彼女は楠田を見る。楠田が知っていたのかどうかを確認しているようだ。もちろん楠田は知っている。

「また、ここで耐久試験も行っています。部品の寿命を確認するために行います」

 耐久試験か、どのくらいやるんだろう。質問するか。

「すみません。耐久試験はどのくらいの時間をかけるんですか?」

 大島課長はにっこりする。やっと的を得た質問が来たといった感じだ。

「はい、良い質問ですね。製品によりますが年単位で行う場合もあります。発電所のタービンがすぐに壊れたら困りますよね。そのため数年間も継続して試験するものもあります」

 生徒たちが驚いている。なるほど、それはそうだな。事故が起きれば大変なことになる。じゃあずっと動かしているわけだ。電気代も馬鹿にならないな。

 そしてその後も工場内を案内してもらい、出来上がった部品なども見せてもらった。さすがに発電所のタービンなどはとてつもなく大きい。直径2m以上もあり、長さは5m以上で話によると、これでも小さい方らしい。

 見学も終わり、食堂に案内される。全員にジュースが出てくる。1年生は去年までは小学生で、この4月に入学したばかりなのでうれしそうだ。大島課長が最後に質問があるか確認する。しかしほとんど質問も出ない。ジュースも飲んだし、もうお腹いっぱいなのかもしれない。福本が締めに入る。

「それでは、今日の工場見学をこれで終了します。最後に案内してくださった大島課長に感謝の言葉を言いましょう」

 全員でお決まりの挨拶、「ありがとうございました」を言う。

 さて、ここからが楠田の仕事となる。みんなから離れて大島課長に近づいていく。

「大島課長、すいません。少し変な質問なんですが、こちらの工場を建てる時に、竹林の中から祠が出てきたように聞いています。ご存じですか?」

 大島課長の顔が曇る。やはり何かあるのか。

「祠ですか、ええ、確かにあったようです。私もあとから知ったんですが、竹林の中にあったみたいですね」

「場所はわかりますか?」

「場所ですか?確か山側だったんで、今は工場の建物が建ってるあたりになりますか、よくはわかりません」

 何か困るような事でもあるんだろうか、話しにくそうな雰囲気がある。これ以上、聞いていいのか悩んでいるところで福本が来る。

「楠田君、どうかしたの?」

 ああ、ここまでかな。

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」

 大島課長に挨拶して帰途につく。


 そしてマイクロバスに乗って、学校に戻ることになる。しばらく走ると後ろの席で騒ぎが起こる。

「福本先生、高木君が気持ち悪いみたいです。吐きそうだって」

 あらら、バスに酔ったか、しかしほんの数分だぞ。

「窓を開けて外の空気を吸いなさい」

 福本も根拠のないことを言う。お前はほんとに理科の先生なのか。水元が振り返って言う。

「楠田君、私も気持ち悪い」

 なんだ、こいつもか、確かに顔が青ざめている。

「大丈夫か?」

 楠田が手を挙げて福本に話す。

「福本先生、ちょっと止まった方がいいですよ」

「え、そう?仕方ないな。運転手さんちょっと止まってください」

 バスは路肩で臨時停車する。数名が外に出て外気を吸っている。まったく子供ばかりだな。しばらく休憩して落ち着いた頃を見計らって、再びバスは走り出す。結局、予定時間よりも20分以上も遅れて学校に到着した。

 そこで解散となり、校門から出ようとしたところで、さっきまで青い顔をしていた水元が来た。

「楠田君、何かわかったの?貴方、あの工場を調査してたんでしょ?」

「え?」

「西園寺から依頼されたことを調べてたんでしょ。みどりちゃんから西園寺案件だとは聞いてるのよ」

 なるほど、こいつは馬鹿じゃないな、隠しても仕方がないので今までの経緯をざっと話す。

「なるほど、面白そうなことやってるのね」

 やっぱりこいつはちょっと変わっている。これが面白いか。

「それで今日は何かわかったの?」

「どうかな、あそこに祠があったのは間違いないな。それと大島課長も少し祠の件には引っかかりがあるようだったし」

「そうね、少し様子が変だったかもしれない」

 水元もあの場面を見ていたのか、意外と抜け目がないな。

「まあ、今の所はそこまでかな。じゃあな」

 水元はまだ何か話したりないようだったが、面倒なのでそのまま別れる。


 自宅に戻り、ここまでの出来事を再確認する。

 今回の金縛りは確かに起こっている。自分が体験もしたので間違いはない。そしてその現象は地域限定である。さらにそこにあった祠は供養しないでそのまま除去され、工場が新たに建ってから、金縛りが発生している。山田製作所の大島課長はその件で何か人に言えないようなことを抱えている節もある。

 金縛りでは日本兵が行進しているものを多数の人が見ている。実際、楠田本人も見てしまっていた。さらに家具が倒れるなどのポルターガイスト現象も発生している。

 これらから出てくる回答は。

 ―シンキングタイムー。

 日本兵の祟り、いやいや、そんな馬鹿な。祟りの訳がない。

 どこかに思い違いや、気が付いていない点があるはずなのだ。


 木曜日の塾が終わり、西園寺と打ち合わせのために教室に残る。ところがそこに見かけない人間が残っている。

「あの、水元、これから別件で西園寺と打ち合わせなんだけど」鷲尾が見かねて話をする。

「知ってる。私も参加させてよ」

 いやいや、水元はまずいだろ。楠田が説得する。

「水元さん、この前話したようにこれはバイトの一環なんだよ。これ以上人数は増やせないと思うよ」

「いいじゃん。硬い事言わないでよ。西園寺に聞いてみようよ」

 まったく面倒な女だ。おそらくこいつは鷲尾目当てなんじゃないかとも思う。これ以上、無碍むげにしても仕方ないので西園寺に任せようと思う。

 西園寺が教室に戻って来る。水元を見て、「あれ?水元、どうした?」

「先生、私もバイトに参加させてよ」

 よし、これで西園寺が断ってくれる。

「ああ、いいよ」

 えー、いいよって何だよ。

「先生、これ以上バイト代出せるんですか?」

「うん、大丈夫」

 やはりこっちが想像以上に坊さん家業は儲かるらしい。そして水元は元からいたように振る舞い。結局参加することになる。

「それで工場見学の件を含めて、最終報告をお願いする」

 工場見学は楠田と水元が行ったので、楠田の話を水元がフォローする形で一通り説明する。他の2人も熱心に聞いている。

 話を聞き終えて西園寺は考え込む。そしておもむろに話しだす。

「それで君たちの結論はどうなった?」

 それがわからないで苦労しているのだ。楠田は答えに苦慮している。そこで鷲尾が話す。

「今の工場見学の話だと、やはり祠の呪いだよ。大島課長もそれに気づいているんだ。それで口ごもった。まず、間違いないな」

「俺も鷲尾と同意見だ。ポルターガイストなんて金縛りじゃ起きないだろ、祠を撤去したことも確かめられたし、それ以外に考えられるか?」

 腕を組んでいた西園寺が、今回から参加の水元に聞く。

「水元はどう思う?」

「どうかな、祟りなんてあるのかな。ああ、でもさ、帰りのバスで気持ち悪くなった生徒が数人いたんだよね。あれも祟りの一種だったのかな」

 水元のその話を聞いて、何か浮かんでくる。確かそう言った事例がどこかであったような気がする。

「水元さん、あの時、気分が悪くなったのは1年生と水元さんだけじゃなかったの?」

「うん、後から聞いたけど、あの場では言わなかったけど、何人かが気持ち悪くなったって言ってたよ」

 西園寺が楠田の様子に気づく。

「楠田、何かわかったか?」

「ああ、ちょっと確かめたいことがあります。科学部の設備を使って金縛りに会った家に再度おじゃましたいです」

 西園寺がにやりと笑う。

「そうか、じゃあ、中村と金井さんに連絡しておくよ」

 そして楠田たちというか、楠田の指示でみんなである作業を行う。その作業で何をやってるのか、楠田以外の誰も分からなかった。科学部の水元でさえ、訳わかんないと言っていた。

 そしてついに怪異の謎を解くことが出来たのだ。


 木曜日の夜、塾が終わってから教室にみんなが集まる。楠田の出した結論を聞くためだ。この数日間に集めたデータがプリントアウトされている。西園寺がにこにこしながら話を切り出す。

「よし、それでは楠田から怪異の正体を聞こう」

 楠田は自信を持って言う。

「はい、怪異の正体は低周波です」

 男子二人はポカンとしている。水元は今回の作業で薄々気づいていたのかもしれないと思ったが、不思議そうな顔は同じだった。

 鷲尾が言う。

「それは中華料理の一種か?天津丼みたいな」

「低周波だよ。低い周波数の音ってことなんだけど。低周波による被害ってけっこうあるんだよ。このデータを見てほしい。20?より下の部分がそれなんだけど、一定期間記録され続けているだろ」

 グラフはすべての周波数分布を記録したものと、時間ごとにそのピークがどう推移したのかを表すものが二つ記録されている。

「それで振動計で計ってたのか」水元はそれはわかるみたいだ。一応科学部だな。

「そうなんだ。工場から出ている低周波騒音が近隣の家に被害を出している。やっかいなのは、20?以下は人間の耳には聞こえないことなんだ。それで原因がよくわからないまま、被害が続いていた」

「低周波ってどういった被害があるんだ?」野村が質問する。

「ストレスを感じたり、気持ちが悪くなったりする。特に子供は吐き気を催したりする。工場見学で一年生がそうなったのは低周波が原因だと思う」

「それで金縛りになるのか?」

「うん、低周波の内容だけど、データを見ると一定周期で続いているものが多いんだ。多分、工場でやってる耐久試験は夜間にもやっている。夜に規則的な低周波が起きていて、ちょうど、それがまさに人が行進するような周期なんだ」

「なるほど、それで日本兵の行進か」

「そうだね。それと記憶の刷り込みもある。俺も金井家で日本兵の話を聞いていて、それが気になっていた。それに影響されたみたいだ」

「地域の人も噂で信じ込んだのかもしれないね」

「そう思う」

「ポルターガイストはどうなんだ?」

「うん、低周波でものが共振したりすることはよくあることなんだ。共振って分かるかな」

 水元が激しくうなずく。

「共振っていうのは、物体にはそれぞれ固有振動数があり、それが該当する周波数によって、さらに大きく反応することを言う。音叉なんかがその原理なんだけど。それで今回は箪笥なんかも動いたりした。多分、窓も揺れたりしていたはずだよ」

「大島課長が怪訝な顔をした理由は?」

「これは推測だけど、多分、工場の従業員たちにもある程度、健康被害が出ているんじゃないかな。それを大島課長も祟りと勘違いしているのかもしれない」

 ここまで話して西園寺の反応を見る。おお満面の笑みだ。

「楠田、やったな。多分、正解だ」

「そうですか、ちょっと自信がなかったんだけど」

「さすがだな。低周波に気が付いたのは立派だ。楠田の言うように低周波による健康被害はけっこうあるんだ。工場近くの人が体調を悪くしたり、ストレスを感じたりする。あとは発電用の大型風車でも同じような健康被害が起きている。特に人間に聞こえない音域なんでたちが悪い。楠田たちが取ってくれた記録もあるから、後は俺の方で動くよ。ひょっとすると楠田のお父さんの力も借りるかもしれない。医師の診断も重要だからね。まあ工場側も住民に健康被害が出ているから、これで対応してくれるはずだ」

 西園寺に褒められて素直に嬉しい。水元は複雑な顔をしている。楠田に出し抜かれたといった顔だ。

「よし、じゃあバイト代を出すぞ。今回は解決分を含めてだな」

「先生、俺たちは1万円だけでいいよ。楠田が解決したんだから」

 二人が言う、水元もうなずく。

「いや、そうじゃないよ。調査はみんなでやったんだろ、楠田も一人じゃ出来なかったはずだよな。だからこれは全員で解決したんだよ」

 そういって全員に2万円ずつ渡す。さすが西園寺だ。実際、そう思う、自分だけの手柄じゃない。みんなの協力でわかったことだ。でもバイト料よりも解決できた喜びの方が大きい。やった。

 西園寺がまじめな顔で話をする。

「よし、じゃあ、続いての怪異案件だ」

 4人が身構える。

「今度は妖怪だ」

「ようかい!」

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