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階段の怪談

 最初に西園寺が依頼した怪異は、この西覚寺にまつわるものだった。

 西覚寺はちょっと小高い山の上に建っており、町全体を見渡すことが出来る。年末には除夜の鐘を突いたりもするので高い場所にあるほうが何かと都合が良いらしい。

 そしてそんな立地条件のため、山寺の特徴として石の階段が続いている。周囲には民家もあり、人里離れているわけではないが、寺周辺は木々が生い茂り、森に囲まれた山の頂上に寺があるといった風情である。

 寺までの道のりに森の中を石の階段が続いている。石段と言っても四国の金毘羅さんほど長いものではなく、百段といったところだろうか。

 西園寺が言う。「その石段は全部で108段ある」

「108?除夜の鐘ですか?」

「ああ、よく知ってるな。人間の煩悩は108あると言われていてな。それで石段を108にしたのかどうかは良くわからないが、とにかく108段ある。帰りに数えてみろ」

「はい」結局、煩悩からその段数にしたのかは不明なのか。

「それで、ここからが怪異だ」

 なんだろう、楠田以外の二人は心配そうな顔をしている。

「その階段が丑三つ時に増えることがある」

「何ですか、それは!」野村が吠える。

「噂だよ、噂。実際、俺は確認したことはないんだ」

「確認したことがないのにそう言えるんですか?」野村は真剣だ。

「うん、亡くなった親父がそういうことがあったと言っていた。ただ、確かめていないからそうかもしれないって話で終わってる」

 何というあやふやな話だろうか。まあ、いいかってよくないぞ。

「えーと、それを確認すればいいんですね」

「そうだ」

 ここで案の定野村が言う。「もし、増えた階段を昇ったらどうなります」

「いや、どうもならないと思うけど」そう言いながら何か含みを持った顔をする。

「だって、煩悩の数が108で石段をそうしたんですよね。煩悩が増えすぎてませんか?」

「おお、野村、良いところに気が付いたな。確かに人間の欲は深い、そこまで欲深いとなると、何か良くないことが起こるかもしれないな」

「まじっすか!」野村が再び吠える。いちいちうるさい奴だ。

「いやいや、冗談だよ。まあ、さっきも言ったように俺がお祓いするから気にするな」

「いやいや、気にしますって」

 楠田は気になることを聞いてみる。

「先生はさっき3つの怪異があるって言ってましたよね。他はどんなのがあるんですか?」

「うん、そうだな。それは追々ってことでいいだろ。まずは順番に行こうか、いきなり全部を話すのはどうかと思うぞ」

 順番があるということなのか、この辺の意図も良くわからない。それで時間を確認する。

「丑三つ時って何時になりますか?」

「うん、午前2時だな。丑の刻は午前1時から3時までで、丑三つ時はその丑の刻を30分ずつ4つに分けた中の3番目の時間という意味なんだ。それで具体的には午前2時から2時30分までが丑三つ時になる」

 なるほど、そういうことなのか、さすがに坊さんだけあって、よく知っている。

「確認する日にちはこちらに任せてもらっていいですか?」

「構わない。君たちにも用事があるだろうからな。後から結果だけ教えてくれればいい」

 そういった自由が効くところもいいバイトだ。その後、楠田たちが何件か質問をしてお開きとなる。


 西園寺との打ち合わせを終えて、3人で寺を後にする。

 寺の正門を抜けて問題の石段の所に来る。今はお寺の灯もあるのでそれなりに明るいが、丑三つ時の午前2時だと真っ暗なのかもしれない。

 石段は幅が2mぐらいで、大石で出来てはいない。ブロック程度の大きさの角が取れた丸みを帯びた石が並んで積み重ねてある。大きさも不揃いでちょっといびつでもある。

「よし、3人で数えていくか、数え間違いがあるとまずいからな」

 二人がうなずく。一人ずつ少し間隔を取って数えながら降りていく。

 まずは楠田、続いて鷲尾が降りる。少し離れて野村がおっかなびっくりで付いてくる。いやいや、いつも降りてる石段だぞ。

 今まで階段の数を数えたことは無かったが、108もあるとは思わなかった。石段は金毘羅さんのようにまっすぐ降りていくのではなく、山の周りを螺旋を描きながら、下まで伸びている。石段周辺は木々に囲まれていている。野村はそこから何か出てくる気がするのかさかんに周囲を気にしている。だから、いつも通ってる道だって。

 ちょうど50段目で踊り場というか平場が卓球台ぐらいの広さで存在している。ここが中間点になる。さらに石段が続いていく。そしてそこから数えて58段目で階段は終了し、民家が連なる通りにでる。

 楠田が数え終え、確かに108段あった。

 続いて鷲尾が到着する。「確かに108段あるな」二人でうなずく。

 そこに野村が来る。「あれ、107段しかないぞ」そう言って野村は青くなる。

「お前、数え間違いだろ、減るなんて話はないぞ」

「いや、間違いない、怪異だ。これは」野村の顔色がさらに悪くなる。

「そんなわけないって、108段あったよ」鷲尾が言う。

 そこで楠田がハタと気付く。「ああ、野村、お前、下の段を数え間違えてないか。いくつだった?」

「57だよ」

「はいはい、多分、お前は踊り場分を除外したんだな。あれも一段だからな」

「え、あの広い部分も勘定に入れるのか。なるほど、そうか、それなら108か」

 野村はほっとする。まったく人騒がせなやつだ。自分で間違えて怖がっているとは。

「よし、みんな合ったな。それで本番はいつにする」

「俺は今晩でもいいぞ」鷲尾ならそう言うと思った。彼は素早いし、行動力は人一倍ある。

「まあ、いいか、俺も大丈夫だ」青くなった野村が続く。

「よし、決まりだ。今晩、2時にこの場所に集合だ」

 丑三つ時に石段の前に集合することにする。


 楠田が帰宅する。

 自宅は田舎なので相当な坪数がある。確か300坪近いと聞いたことがある。庭はちょっとした公園ぐらい広い。家は10年前に立て替えられており、田舎にしてはモダンな建物になっている。近所から楠田御殿と噂されているのもわかる。確かに自宅ながらそういう雰囲気はある。

 その病院の裏側にある自宅の玄関から入る。

「ただいま」

「お帰り」

 母親は今年50歳になる。親父の手伝いで今も病院事務をやっている。四六時中親父と一緒で気が抜けないように思うが、本人はそうでもないらしい。そういった生活を長年続けていると気にならなくなるそうだ。

 年の割には若々しく見られるようで、訪問セールスにお父さんいますかとか聞かれたと喜んでいた。そこまで若くは見えないから、間違いなくセールストークだ。

「ご飯は要らないのよね」

「うん、寺で食べてきた」

「へー、珍しい」

「西園寺からバイトを頼まれたんだ」

 居間でくつろいでいた親父にも今回の話をする。親父は55歳、地元の国立大学医学部出身で、そのまま大学病院で勤務した。博士号も持っており、大学に残っても良かったが、祖父の病院を継ぐことにしたそうだ。その祖父も早くに亡くなっている。慎吾は祖父母に会ったことはない。生まれる前に亡くなっている。

 似たもの夫婦というのか、父も55歳という割には若く見える。いつまでも若いのはいいことなのかもしれない。さらに気持ちも若い。白髪はあるが禿げてはいない。それなりに顔も整っており、若いころはイケメンだったのがわかる。そう言う意味では両親とも美男美女なのだが、慎吾に関していえば中途半端に遺伝子を引き継いだようで、差しさわりの無い顔になってしまった。これが遺伝の妙とでもいうのだろうか。

「怪異か、西園寺先生も妙なことを頼むんだな」

「真吾、大丈夫なの、そんなことして」母が心配そうに言う。

「坊さんだから、いざとなったらお祓いもしてくれるって」

「なにか、心配だわ」

「俺も真吾も怪異なんて信じないタイプだからな。何か謎があってそれを解決するなんて面白そうだ」

「それで、今晩、早速決行するんだ。二人は寝てていいよ。ちょっと早寝して起きていくから」

 母親だけが心配顔である。


 風呂に入って自室に戻る。10時過ぎだが、タイマーを1時半にセットして早寝する。さすがにすぐには眠れない。いつも1時近くまで起きているせいもある。

 階段にまつわる怪異を調べてみた。映画などにも登場するようだが、もっとも有名なのは学校の階段が夜中に増えるというものだろう。昔からトイレの花子さんなどと一緒に語られている。しかしながら、実際に階段の数が変わるような怪異事件は起きていない。やはりそんなことはありえないのだ。

 怪異などは信じたこともないが、昔から不思議な感覚を感じることがある。霊感とでもいうのだろうか、何故か自分に違和感があるというか、次の瞬間にどこか別の場所に行ってしまうのではないかといった、浮遊感覚とでもいうものを感じることがある。親父に話したこともあるが、若い時は自己アイデンティティの確立の途中段階だから、おかしな事ではないとのことだった。心理学の本にも似たようなことが書いてあった。

 しかし今回依頼の階段が増えるというのはどういったことなんだろうか、さっきの野村のような思い違いの可能性が最も高い気がする。ただ、3人で確認したから間違いはないだろう。間違いなく108段だった。今晩、三人で再びしっかりと数えれば、その理由もわかるはずだ。どう考えても階段の数が変わることなどありえない。


 タイマーの音で目覚める。少しは寝たのか、あまり寝た気がしない。着替えて懐中電灯を手に早速出掛ける。

 丑三つ時、さすがに起きている人が最も少ない時間だ。まあ、酔っ払いが帰宅する時間かもしれないが、田舎だとめったにそんな人もいない。まさに草木も眠る丑三つ時である。

 調べたところによると、丑三つ時は陰陽道で言うところの鬼門の時間らしい。鬼や災いが出やすい時間というわけだ。


 西覚寺の近くまで来ると、石段の入り口付近に懐中電灯らしき灯がチラチラ見えている。この時間だとその灯自体も怪異に思えてくる。もう二人とも来ているのかな。

 楠田が到着するとやはり鷲尾、野村ともにそこにいた。丑三つ時まで、まだ、あと20分もある。

「早いな」

「いや、眠れなくてさ、早めに来た」野村はすでに緊張気味だ。

「俺も同じく、ほとんど寝れなかったよ。下手すると今から寝る時間だもんな」鷲尾が言う。

 確かに1時半だとそれぐらいかもしれない。鷲尾が話す。

「楠田、お前はほんとに怪異なんて信じてないのか?」

「ああ、もちろんさ、現象には必ずその理由がある。すべての怪異は科学で解明できる」

 自信満々の答えに野村は信じられないと言った顔で、「そうかな、俺は人知を超えたものは必ずあると思う。そうじゃないと世の中にこんなに色々な怪談話やら怪奇現象があるわけがない」

「うん、わかるけどさ、それには必ず科学で解明できる理由があると思うんだよ。とにかく俺は自分で見たものしか信じない。だから、これからそういったものが見られるかもしれないってことに興味もある」

 その回答にこいつは何を言っているんだ、といった二人とも到底同意できない顔をしている。

「さっき、ねえちゃんと話をしたんだけどさ」

 最終兵器、茜さんのことだ。鷲尾の話だと彼女は怪異やオカルトが大好きなようで、昔からそういう話の時には姉が出てくる。

「姉ちゃんが言うには、そういった階段の数が変わることは怪異ではよくあるらしいよ。昔からあるだろ、夜中に学校の階段の数が変わるとかさ、それでそうなると、その階段の先が異界に通じて取り込まれるんだってさ」

「取り込まれるって何にだ?」野村はすでに顔色が悪い。

「異界だからな、地獄の亡者かな」

「根拠がないだろ」とは楠田の弁。

 野村が話す。「さっきから楠田は否定ばかりだけどさ、昔、みんなでUFO見たよな。あの時はお前も見て信じてただろ」

「違うな。UFOは存在するんだ。あれは怪異とは違う、それが宇宙人なのか、はたまた何かの現象なのかはわからんが、あれは存在するし、科学的にも立証可能だ」

「はあ、UFOは認めてて、怪異は認めないのがおかしいだろ」

「いやいや、全然違うぞ、いいか、俺だって怪異を認めない訳じゃないんだ。この階段だってもし仮に増えたとしたら何か理由があって増えたはずなんだ。その科学的根拠があるはずだと言ってるんだよ」

「だから、それが異界につながってさ」

「異界なんてあるのか?それは甚だ疑問だな」

「まあ、いいさ、とにかく見てみようぜ」鷲尾が場をまとめる。

 時計を確認するとそろそろ2時になる。

「時間だな」

 三人ともに生唾を飲みこむ。強がりを言ったが楠田も少しは不安を感じている。周辺の民家の灯も消えて、街灯だけがあたりを照らしている。そこから石段を見ると、とりわけ奥は真っ暗になっている。二人にはそう言ったが異界につながっていると言われるとそんな気もしてくる。何か得体の知れないものがうごめいているような気もするのだ。

 楠田は言った手前、先頭になって石段を数えていく。懐中電灯の明かりが脚元をゆらゆらと照らす。やはり周囲は良く見えない。

「おい」

 後ろから声がするので振り返ると、そこに幽霊がいた。

「ぎゃああああああ!」

「俺だよ、俺」鷲尾が自分の顔を下から照らしていただけだった。

「お前、何するんだ」

「楠田もやっぱり怖いんじゃねえか、ハハハ」

「やめろよ。心臓に悪い」

 心臓がばくばくしている。心不全で死んだらどうするつもりだ。気持ちを入れ替えて、再び、石段を数えていく。4月とはいえ、深夜はひんやりとしていて、雰囲気自体が気持ち悪い。

 下の段は58段だったよな。数え初めから50段を越える。

「55、56、57、58」

 心臓がぎくりとなる。あれ、もう一段ある。59段もあるぞ。さっき数えたら平場までの石段数は確かに58段だったはずだった。それが何故か59段になっているではないか。

 後ろにいた鷲尾が叫ぶ。「楠田、増えてるぞ!」

 そして、その瞬間、下の方から何かが近づいてくる気配がする。それも尋常な速度ではない。

「楠田、何か来るぞ!」

「逃げろ!」

 もう科学的な解明どころではない。異界に連れ込まれる。階下からの物音がどんどん迫って来るのがわかる。三人とも全速力で上に逃げる。

 さすがに陸上部の野村は早い。怖いものが苦手ということもあって特にこういった火事場の馬鹿力だと半端ない速度だ。それだけ早いなら、オリンピックにも出れるって。楠田を抜き去って、すぐに見えなくなる。さらに鷲尾も楠田よりは十分早い。すぐに見えなくなる。ああ、やはり怪異は存在するのか。後ろからの音がどんどん迫って来る。

 楠田は運動音痴ではあるが命の危険が迫っている。そんなことは言ってられない。とにかく逃げるしかないのだ。暗い階段に何度も脚を取られそうになる。そして後ろの怪物の気配はさらにはっきりとしてくる。間違いない、何かけだものの息を感じる。それでも必死で逃げる。さらに追いかけてくる。

 ついに真後ろまで迫って来るのがわかる。息が背中に掛かる。やめてくれこの若さで異界になんか行きたくない。

 そしてついに捕まる。

「助けて!」

 後ろからものすごい力で羽交い絞めにされる。まさにこの世のものではない。まったく身動きが出来ないのだ。もうだめだ。と思ったところで、上から野村と鷲尾が戻って来てくれた。こいつらなんていいやつなんだ。友達のために命を懸けてくれるのか、彼らの懐中電灯が楠田を羽交い絞めにしている鬼を照らす。そして息をのむ。

「ああ?お巡りさん」

 振り返ってみると懐中電灯の光を眩しそうにしている若いお巡りさんがいた。交番に勤務する、名前は確か石田だったかな。

「お前たち、何してる」ゼイゼイ言いながら石田さんが言う。

「お巡りさんこそ、何してるんです?」

「寺の周りをうろついている不審者がいるって通報があったんだよ。変なことしてると逮捕するぞ」

 懐中電灯の光やら楠田たちの話声で、周辺の住民が通報したようだ。その瞬間、楠田は腰が抜けて座り込む。本当に腰って抜けるんだ。助かった。

 とにかく誤解を解くために石田さんにこれまでの経緯を話す。しばらく説明してようやく納得してくれる。

「まったく、近所迷惑な話だな。住職にも注意しとかないとな」

「でも、本当に石段の数が増えてたんですよ」

「そんな馬鹿な話があるか」

「ちょっと確認させてください」

 4人で石段を戻る。平場兼踊り場の所まで来る。懐中電灯で踊り場を照らすとあっさり謎が解ける。何のことはない石をもう一段追加で積んであるではないか。踊り場は少し斜めに傾斜しているので、その傾斜に合わせて一段分、巧妙に石を積んであるだけだった。これで階段数が増えたわけだ。先ほどは暗いし、恐怖もあってしっかりと見ていなかった。

「何だ、これは、いたずらか」石田巡査が憤る。

 確かにいたずらだが、はたして誰がやったのかは明白だ。楠田がその男の名前を言おうとして、上のほうから誰かが歩いてくる。やっぱり。「西園寺先生」

 住職こと西園寺が降りてきた。

「こんばんは、石田さん、すみません、お騒がせしたようで」

「住職の仕業ですよね」楠田の不満げな態度に西園寺が頭をかく。

 石田さんはきょとんとしながら、「これは住職が仕組んだんですか?」

「はは、まあ、小手調べです」と意味不明な会話をする。


 西園寺が石田巡査に説明し、石田は小言を言って交番に戻って行く。楠田たちは西園寺と境内に戻る。

 西園寺は笑いながら、「まさか、お巡りさんが来るとは思わなかったよ」

「死ぬかと思いました」野村が青息吐息で話す。確かにそんな顔色だ。でも本当に死ぬのは楠田だったのだが。

「ちょっとした模擬試験のつもりだったんだよ。ちゃんと怪異に立ち向かえるかってな。まあ悪かったな」

「確かに想定を超える結果でしたけど」楠田もまだ心臓の鼓動が収まっていない。

「お巡りさんに追っかけまわされるとは俺も想定外だったよ」

 西園寺がいつものニヒルな笑顔を向ける。

「あの石段は先生が積んだんですよね」

「そうだよ。あの後、すぐに積んだ。ちょうどもう一段あるみたいだったろ。フェイクの石段には凝ったんだよ」

 まったく、忙しいと言ってる割にはくだらないところに精力を注ぐんだな。

「でも俺たちが今晩来るなんてわからなかったでしょ?」

「そうかな。お前たちだったらすぐ来ると思ったぞ。鷲尾なんか善は急げってタイプだろ」

 さすがは西園寺だ。楠田たちの行動パターンなどお見通しといったところなんだろう。

「謎は解けたよな」

 三人がうなずく。

「よし、じゃあ、これからが本番だ。第一弾は金縛り案件だ」

「金縛りですか?」

「うん、まあ今日は遅いからここまでだな。また、今度、話すよ。はい、今日のバイト代」

 西園寺は封筒に入れたバイト代をくれた。謎解き分も入っていて、なんと臨時収入2万円もあった。


 丑三つ時からすでに寅の刻、5時近くなって三人で家路に急ぐ。楠田が二人に話しかける。

「ありがとう。戻って来てくれて」

 一瞬何のことかと分からないような顔をしてから鷲尾が気付く。

「あれか、助けに戻ったって話か?」

「うん」

 野村が話す。「どうかな。楠田の悲鳴を聞いて勝手に体が動いただけだよ」

「そうか、でも助かったよ」

「今考えると怖かったし、なんであんなことが出来たのかとも思うけどさ」野村が少し照れ笑いをする。

 鷲尾が言う。「逆の立場だったら楠田も同じことをするだろ?」

 楠田は少しだけ考える。「そうだな。そんな状況は考えられないけどきっとそうしたい」

「まあ、楠田にかけっこで負けることは無いか」

 野村が言うことはもっともだ。

「それよりも金縛りってどういう案件なのかな」鷲尾が話を戻す。

「それなんだけど、俺は聞いたことがあるよ。けっこう有名な話だよ。石崎町のほうで頻繁に起こってるって聞いたことがある」怪異に詳しい野村が言う。

「へーそうなんだ。俺もねえちゃんに聞いてみるよ」鷲尾のねえちゃんも怪異に詳しい。

「じゃあ、俺も金縛りに付いて調べてみるよ」

 徐々に東の空が明るくなってくる。楠田は朝の陽気だけではない。清々しさを感じていた。


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