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大魔導師と賢者の生活Part 2

「あ~完全に骨折れてるね」


 顔色の悪い医師が包帯があちこちに巻いてある僕にそう言う。


「あっそうですか」


 僕は今、診察室にいる。

 “隠者”マダカス・ホールとの戦闘で受けた怪我を確認する為だ。


「『あっそうですか』って君ね~」


 顔色の悪い医師が頬をかく。

 この人の方が病気な気がするが。


「肋骨の骨が数本、どの骨も内臓に刺さって無いって奇跡だよ。右足と左手の甲にもヒビが走ってる。特に酷いのは眼球近くの骨だ。今すぐ治療魔法を使うけど視力が落ちるだろうね」

「本当ですか?」

「本当本当……じゃぁいくよ」


 そう言って医師は僕の目の前に手のひらを向ける。


「“落ちゆく雫の青…春の訪れ…豊穣の海…」


 医師が魔法を詠唱した途端、僕の体に異物が入った様な感覚が襲う。

 医師の魔法が僕の体に干渉しているからだ。

 この気持ち悪い感覚を子供達は嫌う、かく言う僕も昔は嫌いだった。


「……生き物の燈………”うん、おしまい」

「おぉ!確かに痛みが消えました!」


 さっきまで、あった痛みが随分と無くなっている!

 だけど、


「少し周りがぼんやりしているような?」


 遠くにある物のピントが合わない。


「そりゃそうだよ、前もって言っただろう?」

「あっ」


 確かに医師は前もって言っていた。


「医療系回復魔法は完璧じゃないんだ軽い怪我ならいざ知らず、君のような酷い怪我はどうしようもない」

「なら視力が少し落ちただけで済んだと思うべきですか?」

「そうだね」


 その後、医師はコホンとわざとらしい咳をする、


「最高等魔法だからね、高くつくよ?」

「え?」

「まぁ今回は犯罪者逮捕の協力をしてくれたから、衛兵の方からお金が出るはずさ」

「良かった~」


 もし、僕が払う場合周りからお金を借りるしかない。

 ある程度のお金はあるがそんな大金じゃない。


「経過を見るから一週間後もう一度来て」

「はい、ありがとうございます」


 そう言い僕は診察室を出るとそこには、衛兵がいた。


「エメル・サフィスだな」

「はい」

「“隠者”マダカス・ホールの件で事情聴取したい。ご同行を願おう」

「はい」


 衛兵に連れられ来た部屋にはヴァイオレットもいた。


「おぉ!あんなに血だらけだった割には綺麗じゃないか!」

「はい、医療系回復魔法しかも最高等魔法らしいのですよ」

「やばくないか?」

「いえ、料金は衛兵の方から出るはずですよ?」

「いや違う」

「?」

「医療系回復魔法しかも最高等……そういったよな?」

「はい」

「それ程の魔法を使わないと危険だったんじゃないのか?」

「!」


 良く考えてみるとそうだ、最高等魔法なんか滅多に使わないだろうし……。

 そう考えた瞬間、僕は冷や汗をかいた。

 割とヤバかったんじゃないか?

 僕?


「気づいてなかったな」

「はい」

「気をつけろ」

「はい」


 素直にヴァイオレットの発言に返事をする。

 ぐうの音も出ない正論だ。


 ガチャ


 その時、ドアが開いて背の高い赤髪の女の人が複数の衛兵を連れて入って来た。

 頭に三角帽子、そして薔薇が刺繍されたローブを羽織っていた。


「やぁ、私は『薔薇の大魔導師』アミリア・ガードナー、今回の事件の調査にあたる者だ、よろしく」


 アミリア・ガードナーが自己紹介を終えると僕達に向かって手を伸ばす。


「エメル・サフィスです、よろしくお願いします」

「聞いているよ、今回の事件の功労者だね」


 そう言い彼女と握手をする。


「ヴァイオレット・リリィだ」

「君も聞いているよ、親友の為に危険に臆さず戦った勇気ある少女」


 そう言い彼女は今度、ヴァイオレットと握手をした。


「さてと今回の件について、エメル君の話を聞きたい、食い違いがないようにヴァイオレットさんあなたも聞いてくれ」

「はい」

「もちろんだ」

「では、話してくれ」

「はい、まず……」




「……以上です」

「うん、ありがとう」


 十数分くらい僕は今回の事について話をした。

 途中にいくつか質問があったがそれも食い違いではなく、より状況を把握する為だ。


「聞いた限り、彼女との話と矛盾や食い違いはなさそうだね」


 アミリアはそう言い、背筋を伸ばす。


「では、もう帰って良いか?」

「うん、もう良いよ」


 随分とすんなり帰れるな……。

 もっと時間がかかるかと思った。


「犯人逮捕や事件の調査協力感謝するよ、お礼にカツ丼食べる?」

「犯罪者になった気分になるから良いです」

「同じく」

「残念……、外に衛兵がいるから出口まで案内してもらって」


 部屋を出て、衛兵に案内してもらい僕等は外に出る。

 陽は落ち外は完全に暗くなっていた。

 しかし、まだ人で賑わっている。

 仕事帰りの人が多いのだろう。


「大変だったな」

「そうですね」


 寮に帰りながら彼女と話す。

 彼女は自宅に住んでいるわけではないのか?


「全くラーメン食べて外に出たら遠くで煙が上がっていて来てみたらお前が倒れていた時には焦ったぞ」

「ラーメン美味しかったですか?」

「美味しかったぞ……話を逸らすな」

「ラーメンのくだりはあなたが始めたでしょう?」

「それでもだ、死んだかもしれないと思ったぞ」

「すいません」

「あの時の気分は凄く嫌だった、もうこんな気分にさせるな」

「……はい」


 話がひと段落ついた時に十字路の道に出た。


「私はここで別れるぞ」

「大丈夫ですか?いくらあなたの様な危険人物でも夜は危ないのでは?」

「何地味に私を罵倒しているんだお前は?……全く…私の家は大通りの所にあるから安全だ」


 なるほど、それなら安全だ。


「では、さようならですね」

「そうだな、さようなら」


 そう言い、僕達は別れる。




 それから、数分後には僕も寮に着いた。

 門限は過ぎていたが、今回は特例で許してくれた。


「ふー」


 その後、僕は自室のシャワー室で体を温めた。


「眼鏡買わないとな……」


 鏡に映る自分が少しブレているのを見てそう呟く。

 だけど……


「そのおかげで跡がぼやけて見えるんだよな」


 鏡に映っている自分の体にあるたくさんの傷跡。

 ……医師は何も言わなかったが驚いただろうな。


 だって……


「この傷跡は子供の頃につけられたからな……今回ので着いた傷跡じゃないし、医療系回復魔法じゃぁもう消えない、これはもう呪いだ」


 この傷跡は子供の頃に着いた物だ。

 着けた人の顔も鮮明に思い出せる。


「卒業後に一回挨拶に行かないとな」


 そう思いながら、僕はシャワー室から出る。


 ん?

 卒業後?


「あっ!早くやりたいことを見つけないと!」


 思い出した瞬間一気に冷や汗が滝のように出る。

 早く見つけないと死んでしまうかもしれない。

 どうしたら良いのかとしばらくはベッドの上で僕は絶望していた。



『このハイスト魔法学校は貴君等、卒業生を祝福する』


 パチパチ


 校長の言葉が終わり、卒業生達が出口に向かう。

 出口に向かう卒業生達の中には泣いている人もいた。

 後輩達はそんな先輩達に拍手を送っている。

 そして、そんな卒業生の中の一人の僕は歓喜していた。


(良かったー!やりたいことが見つかって本当に良かったー!)


 僕はヴァイオレット出された課題を見事に解決したのだ。

 前日まで考えてもう無理かと思っていたがようやく見つけたのだ。


(本当に良かったー!

 卒業式後に僕が死ぬ可能性がなくなって、本当に良かったー!)


 泣いている卒業生達がいなければ、僕は表情を気にしなかったかもしれない。

 それ程までに僕は喜んでいた。

 卒業生達が出口から出て、教室に向かう。

 ……これでもうここに来るのも最後か…。

 そう考えるとなんだか感慨深いなぁ……。

 一年生の頃は友人らしい友人も出来ず魔法の勉強に当ててた僕が今では、好敵手がいて死ぬかもしれない毎日を過ごしているなんて。

 未来は分からない物だなぁ。

 僕はそんな考えを持ちながら、お世話になった教室を出ていった。



 その後、僕は中庭でヴァイオレットを待っている。

 この場を指名して来たのは彼女だ。

 確かに僕たちが出会うことになった、いや僕からしたら遭遇することになった記念の場所ではあるし、雰囲気があるだろう。


「待ったか?」

「いいえ」


 数分後にはヴァイオレットも到着した。

 手には、複数の紙袋を下げていた。


「それは?」

「私が研究していた物のレポートが九割ぐらいで残りは私の事を尊敬していた後輩達だ」

「殆ど研究レポートじゃないですか……」


 僕は研究レポートは小さいメモ帳にしてあるので、大魔導師になったら一気に書き直して提出する予定だ。


「眼鏡そこそこ似合っているな」

「ありがとうございます」


 ヴァイオレットは僕の眼鏡を指差す。これはこの前の戦いでで視力が落ちたからつい先週買ったばかりだ。


「それで決まったのか?」


 ヴァイオレットがこちらを伺う様に言う。


「えぇ決まりました」

「ほぅ、ではなんだ?」


 ヴァイオレットが楽しそうに聞いてくる。


「“知恵の塔”って知っていますよね?」

「ああ、魔法使い達や魔女達の専門の図書館だろう?」

「実はそこで働き手が募集されていて、僕は応募してみごと採用されました」

「ほぅ、ではそこで?」

「はい、魔法の研究と研鑽を続けて行きます…それが僕のやりたいことです」

「なるほどな」

「納得しましたか?」

「あぁ、したぞ」


 ヴァイオレットは笑顔で頷く。


「やはり、お前は魔法が好きだな」

「はい、好きですよ」

「即答か」

「はい」


 僕がやりたいことそれは魔法の研鑽と研究だ。

 そんな中、魔導書や魔法書が沢山置いてある所に行けるんだ。

 こんないい話は無い。


「この後は貴方と魔導連盟の本部に行って称号とローブを貰いに行きますよ」

「そう言えばそうだったな」

「しっかりしてください“賢者”になりたかったんでしょう?」

「あぁ!そうだ!」

「やけに嬉しそうですね」

「当たり前だ!ずっと夢だったのだぞ!」

「そうですね、では行きますか?」

「あぁ!行こう!」


 魔導連盟の本部は歩いても約三十分位で着く所にある。

 大した距離じゃない。




「あそこか?エメル」

「そうですよ」


 ヴァイオレットが指を指した場所は屋根がドーム状になっているでかい建物だ。


「やはりでかいな」

「そりゃそうでしょう、本部が小さいと色々な仕事が差し支えて不便です」

「それもそうか」


 僕達は本部に入り受付に向かう。


「はいサフィス・エメル様とヴァイオレット・リリィ様ですね。話は通っています三階の“十三人の仙人”が本部室でお待ちしています。連いて来て下さい」

「はい」

「わかった」


 受付の人の後に僕等は連いて行く、遠く無いと良いが……。


「なぁエメル」

「何ですか?」

「“十三人の仙人”とは何だ?」

「知らないんですか?」

「あぁ全く」

「“十三人の仙人”とは言ってしまえば“賢者”“大魔導師”の中でも飛び抜けて優秀な魔法使いや魔女の事です。魔導連盟の実権はほぼ彼らにあります」

「ほぉ興味深いな」

「これは一年生の頃に習う物です」

「忘れていた」

「でしょうね」


 彼女は自身の興味のないものはとことん頭から逃げていく。


「着きましたよ」


 受付の人が到着を知らせる。


「では……」

「ありがとうございます」

「迷惑をかけた」


 受付の人が頭を下げて帰っていた。


「行きますよ」

「あぁ準備は出来ている」


 コンコン


 僕はドアをノックする。

 そしたら、


「入りたまえ」


 中から男の声が聞こえる。


「失礼します」

「失礼します」


 僕とヴァイオレットは部屋に入る。

 良かったヴァイオレットの事だから敬語を使わないかもしれないと思っていた。


「ようこそ、“十三人の仙人”がいる場所へ」


 目の前にいる男から先程の男と同じ声が聞こえる。

 男は二十代後半ぐらいで若く茶髪で眼鏡をかけ牧師の様な格好をしていた。


「私はエドワード“十三人の仙人”の一人だ」


 男は真正面から僕達を見ている。

 僕達を品定めしているような感じの人に視線だ。


「あなた一人だけしかこの部屋にいませんが他の方がだは?」


 ヴァイオレットがエドワードに質問する。


「……残りの十二人は仕事やプライベート事情で来ないそうだ…」


 男は机の棚から書類を二つと畳んであるローブを取り出した。


「エメル・サフィスはどっちだ?」

「はい私です」

「君かなるほど、書類の中に君の称号や規定などが入っている。しっかり読んでおけ」

「はい」

「では、ヴァイオレット・リリィはお前だな」

「はい」

「お前も似たような物だ」


 その後、エドワードは僕達にローブを渡しこの場はお開きになった。




「緊張しました」

「私はしなかったぞ」


 本部の門の前で僕達は話をしていた。


「大抵の人は緊張すると思いますよ」

「なぜだ?」

「立場が違うからですよ」

「そうだな、十三人中一人だけしか来てないしな」


 ヴァイオレットは空を見上げる。


「そう考えると少し悔しいな」

「確かに」


僕等は眼中に無いと言う事だろうか?


「次は“十三人の仙人”を目指すか」

「あなたなら取りそうですね」

「あぁいつかやってやるさ」


 そう言い、ヴァイオレットは歩き出した。


「もう行くんですか?」

「あぁ駅に向かわないと列車に遅れてしまう」

「お互いに頑張りましょう」


 僕はヴァイオレットを手を差し出す。

 ヴァイオレットはそれを握り返す。


「あぁお互いにな」


 笑顔でそう返した。


「じゃぁな」

「えぇ」


 僕もそう返し、近場のホテルに向かう寮はもう使えない。

 それに明日には“知恵の塔”に僕は行く。

 ……実はヴァイオレットには言っていない事がある。

 “知恵の塔”に向かう理由は魔法の研鑽と研究だがその理由は魔法が好きだからだけじゃない。


 ……今後“隠者”みたいなのが現われた時に今度は彼女を心配させたくないから。

 好敵手として常に走り続ける彼女と常に対等でいたいから。


 そんな思いがあってこの職業にした。

 流石に恥ずかしくて言えなかったがそんな思いがあった。


「頑張るか」


 僕は空を見上げそう呟いた。


 ~現在“知恵の塔”~


「ーと言う事が彼女とありました」


 過去のことを僕は今、魔法書の彼女に喋っている。


「へーそんなことが……我が主とはまた違った視点の話面白いかったです」

「そうか、それは良かった、では……」


 そう言い僕は床に魔法陣を描く。


「あなたの主人に会いに行きましょうか」

「はい!」


 彼女は元気よく答える。


「では、僕の近くに……行きますよ」


 僕は先程ヴァイオレットから届いた手紙を持つ。

 物質転送も不可能と言われていたのに、


「考える事が同じですね……」


 魔法陣と魔法詠唱を同時に使えば僕も遠くに行く事が出来る。

 場所は手紙を媒介にしてどこから来たか調べる。


「そこか………“道化師の幌馬車……乗るのは吟遊詩人……さぁ紡げや紡げ……我等を彼の地まで運び行くまで”」


 魔方陣が輝きを増して僕達を包む。


 そして、


「着いたか」


 見渡す限りの草原が僕達の目の前に広がっている。


「あぁ!ここは家の近くの草原!」


 金髪金眼の彼女も驚きの声をあげる。


「エメルさん!私と主の家はあそこですよ!」


 彼女が指差す所に木で作られた小さな家があった。


「あそこにヴァイオレットもすんでいるのか?」


 会うのは久しぶりだな。


「行きましょう!」


 彼女は僕の手を引っ張る。

 こう言った所はヴァイオレットに似ているかもな。


「主ー!帰って来ましたよー!」


 彼女がドアを叩きを家の中に入るが誰もいなかった。


「留守かな?」


 彼女がそう呟いた瞬間、


「ワァ!」

「キャア!」


 布を被った人が彼女の前に現われた。


「アハハハ、驚いたか?」


 布の中から女性の声が聞こえた。

 ……随分聞いてなかった、懐かしい声だ。


「いきなり、現われないでください!主!」

「いやーすまない。新たに作った透明魔法の実験をしたくて、ついやってしまった」

「『やってしまった』じゃありません!お客もいるんですよ!」


 女性は布から出て此方を見る。

 女性の髪は黒髪であった時より少し短い。


「久しぶりだなサフィス・エメル」

「久しぶりですねヴァイオレット・リリィ」


 だけど、あの時の笑顔と全く変わらずに笑う女性。

 僕の好敵手ヴァイオレット・リリィがそこにはいた。




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