大魔導師と賢者の生活
僕等はオニゴリラの説教と壁修理が終わり、帰りの支度をしていた。
「おい、エメル」
「はい?」
そんな中、彼女が声をかけて来る。
「もうすぐ卒業だな」
「そうですね」
後一ヶ月もしないで僕達は卒業する。
この学園で僕は学んだ。
……主に彼女を対処する方法を……
「卒業式後に私は“賢者”を、お前は“大魔導師”の称号を受けるのだろう?」
「えぇ」
しかし、この彼女との学園生活で実力が上がったのも事実だ。
その生活で残した功績が大きいから魔導連盟から称号を獲得することができる。
「おいエメル」
「はい?」
「“隠者”になったりするなよ」
「えぇ、もちろんです」
“隠者”とは犯罪を犯し“賢者”“大魔導師”の称号を剥奪された魔法使いに着く称号だ。
ーーーその昔、自分が作った魔法を人に向けて実験する魔法使いがいた。
その魔法使いは大量虐殺の果てに魔法を暴発させ、その際に死亡したと言われているが、実はまだ隠れて生きているのではないかと言われている。しかし、真相は誰にもわからない。
故にこの事件を忘れない様に“隠者”は犯罪を犯した“賢者”“大魔導師”の称号を剥奪された魔法使いに着く称号になった。
「そう言えば、お前は卒業した後どうするんだ?」
「卒業後ですか?」
「そうだ。私は高原で薬草などの研究をするつもりだ」
「意外な道ですかね」
まさか、彼女にそんなスローライフな考えがあったとは。
「まぁ私は今まで走っていたからな。少しゆっくりするつもりだ」
「なるほど」
「お前はどうするんだ?やりたいこととか無いのか?」
「特に無いですよ」
「無いのか!?」
「えぇ」
僕は大魔導師の称号を獲得したらもちろん研究をするが、それ以外にやる事もやりたい事も無い。
「そもそも僕が大魔導師の称号を獲得した理由はお金が欲しかったからですよ」
「つまらん理由だなー」
「生きていくのにはお金は必要ですが?」
「そうではあるが、もっとあるだろう!もっと……こう…世界を救うとか!!」
「凄い事を言いますね!!無い物は無いですよ!」
「チッ……ではこうしよう」
「?」
「卒業式後お前のやりたいことを聞く。それまでに決めておけ!」
「はい!?どうしてそうなるんですか!?そんなの……」
「“ʄɻɼʇʇʀɸʂʋʫʘʙ”」
「古代言語の詠唱魔法を唱えないでください!わかりましたよ!やりますよ!」
「うむ!解れば良い!」
反論する前に彼女は魔法を詠唱し始めていた。
……あの古代言語の魔法は暴発の危険性が高い物のはずなのに……。
「では卒業までに決めておけ。決めなければさっきの詠唱魔法をお前にぶつけるぞ」
「!……はい!」
僕の命はまた彼女のせいで消えかけている。
速く決めなければ!
そう決意した。
あれから数時間経って夕日が町全体を赤くしているなか、僕は学園近くの町をぶらついていた。
僕は学園の寮で暮らしているから門限さえ守れば問題無い。
「卒業後か……」
誰かに言っている訳も無くそう呟く。
実際、大魔導師になればお金の問題が無かったからしっかり考えていなかった。
彼女はしっかり持っていたのに……
これはまずいかもな~卒業式後に自分はこの世から、さよならしてるかもしれない。
「はぁ~」
赤くなっている空に向けてため息を漏らす。
その瞬間
ドカン!!!
「えっ??」
近くの建物が崩壊した。
何があったんだ!?
慌てて建物に近づくとそこには、ボロボロの三角帽子をかぶった汚い男が立っていた。
「……、……」
男はブツブツと何か呟いていたが、急に顔を上げて
「ちくしょぉぉおおおがぁ‼︎あいつら所為で!“大地よ!茨となりて全てを壊せ!”」
怒声に混じって魔法を詠唱した。
その瞬間、土の形が茨になった。
「キャァァァァァ!!」
「うわぁァァァァァ!」
通行人の人達を土の茨が襲う。
「!“発射”!」
それを見て僕は慌てて魔法陣を描いて、そこから出した光の玉を茨にぶつける!
ドコン!!!
玉がぶつかった土の茨は鈍い音を立てて崩れた。幸いにもまだ怪我人はいそうにない。
「……なんだよお前は?」
男が僕を睨みつけながら言う。
「僕はエメル・サフィスです」
僕は馬鹿正直に答える。
ヴァイオレットと共に有名になった名前だ、これで相手が引いてくれると良いが……
「ほぉ!あの次期大魔導師様ね!俺はダマカス・ホール……“隠者”だ‼︎」
「!」
その言葉に耳を疑う。
隠者だと!
この男犯罪者なのか⁉︎
やばい!元大魔導師か元賢者だ!
逃げるか⁉︎もしそうだとしても逃げれるのか⁉︎
「まぁ良いお前死ね!“大地よ!その数ある茨で彼の者を切り刻め!”」
“隠者”ダマカス・ホールがそう詠唱したら土が形を変え複数の茨に変わった!
「“発射”!」
ドン!ドン!と音を立ててこちらが描いた魔法陣から出た複数の玉が茨にぶつけるが、一本残してしまった。
「クッ」
その一本を回避しようとするが、
「良いのか?」
男が僕の後ろを指差す。
そこには、小さな女の子がいた。
怯えて動けないようだ。
「死ぬぞ」
男は僕を見て笑っていた。
「“土よ!柔らかくなれ!”」
魔法陣を描く時間が無く、咄嗟の詠唱魔法で土の茨を壊そうとするが
グワァン
一部しか柔らかくならなかった。
ズドン!
次の瞬間、僕の体を凄まじい衝撃が襲った。
そして僕の意識はブツリと途切れてしまった。
➖➖➖
ガッガッガッ
木刀同士が打ち合っている音が響く。
打ち合っているは一人の少年と一人の男の大人だ。
ガン!
「ウグッ!」
少年の木刀を男は払い、少年の腹に木刀を当てる。
「オェエエエ」
少年はその衝撃により吐瀉物を抑えることができずにその場で出す。
「弱いな」
「出来損ない」
「一族の恥め」
周りで見ている人達は少年に向かってそんな言葉を吐く。
しかし、少年はその言葉を聞いても何も感じない。
「立てエメル!」
男はその少年を一瞥しすぐ様そんな事を言う。
「その程度の実力ではこの家を生き残れないぞ」
「……」
「もう一度だ」
「……はい」
少年は痛みに耐えもう一度立ち上がり、木刀を構えた。しかし、すぐさま男の木刀に払われて少年には痛みが走る。
「今日はここまでだ」
「……はい……ありがとう……ございました」
本当は感謝なんかしたく無い……形だけの礼儀だ。
この鍛錬を始めてから少年の体には毎日新しい傷が出来た。
「まぁ……また傷だらけじゃないか…」
「大丈夫か?」
そんな辛く狂った生活で少年が心を失わなかったのは、少年の祖父母だ。
この祖父母は少年の父や母よりも少年と暖かい糸で繋がっていた。
「大丈夫ですよ」
本当は大丈夫じゃない。
しかし、少年は気丈に振る舞う。
そんな少年を見て祖母は優しく少年を抱きしめ、祖父は頭を撫でた。
➖➖➖
「ウッ……」
体に痛みが走り、僕は目を開ける。
「グウゥゥ!!」
痛みに耐えてなんとか立つ事が出来た。
一体いつまで気絶していた?
「ヒャハハハハ!まともにくらいやがって」
そこを見るとマダカス・ホールが詠唱魔法をした位置から動いて無いから大して時間は経っていないはずだ。
僕は次の魔法に警戒しつつ女の子がいた場所を見る。
女の子は大人に抱っこされ運ばれていた。
見たところ怪我は無さそうだった。
「良かった」
女の子が無事で安心した。
「良かっただぁ~?」
マダカス・ホールは僕の発言に眉を寄せる。
「んなもん、ただの自己満足だろうが、あんなガキンチョ一人なんか見捨てれば、お前はそんな怪我しなくて良かったのによ」
確かにそうだ。
あの女の子を見捨てれば僕はこんな怪我を受けずに済んだはずだ。
だが、
「それじゃ……駄目なんですよ」
「あぁ?」
「それで……あなたを倒せても……」
仮に女の子を見捨ててこの人を倒せたとしても、そんな事をすれば、
「僕は好敵手失格です」
あの一人だけの世界から出て、もちろん後悔も有ったが、一人だけじゃ得難い体験もした。
そんな世界に連れて行ってくれた彼女と常に対等であるために、好敵手であるために……
「『あそこで逃げちゃ駄目だ』そう思いました」
「……理解できねぇな…まぁお前は死ぬのは変わらねぇ“大地よ!その大剣を掲げ!我が敵の首を落とせ!”」
ゴゴゴ!
地面から全長三メートルの土の大剣が現れ僕に向かって飛んでくる。
「クッ!」
痛みで歪んでしまったが魔法陣を描き光の玉を大剣にぶつける。
しかし、それは一瞬だった。
光の玉はすぐに破壊され、大剣は真っ直ぐこっちに向かってくる。
避けようとするが間に合いそうに無い。
「……クソ」
これはもう駄目だな。
僕が目を閉じた時、彼女が来た。
「“大地よ!永遠の城壁を築き!我らを守れ!”」
ドン!
土の壁が現れて凄まじい音と共に大剣を砕く。
彼女は黒髪で彼女の所為で僕は何度も危険な思いをした。
「“風よ!槍となり!我が敵を貫け!”」
「グァ!」
彼女が風の魔法を唱えマダカス・ホールの右腕に直撃する。
全く彼女はどうしてこんなにタイミング良く来れるんだ?
「大丈夫か!?エメル!?」
「大丈夫ですよ、ヴァイオレット」
僕の好敵手のヴァイオレット・リリィが来た。
「全身血だらけに見えるが……」
「実際全身血だらけです」
「全然大丈夫じゃないな!」
「実は結構やばいです」
「だろうな!」
だが、まだ軽口を言える程には元気だ。
「ぐぁ!痛え!何すんだテメェ!」
マダカス・ホールは彼女の風の魔法に貫かれて右腕が吹き飛んでいた。
回復の詠唱魔法をしたのか、腕から血は出ていない。
「『何すんだ』だと?」
空気が凍るかと思う程の低く暗い声が僕の鼓膜に響いた。
声の主はヴァイオレットだ。
顔はいつもと同じなのに雰囲気がいつもと違う。
「それは、こっちの台詞だ三流」
「何だと!」
「エメルは私の大切な友人だ、それをお前は傷つけたのだ、この罪は重たいぞ四流」
「誰が四流だ!死ね!」
「死ぬのはお前だ五流が!」
「「“大地よ!我が敵を!”」」
二人が一斉に詠唱を始めた瞬間だった。
「“発射”!」
「痛え!」
マダカス・ホールが詠唱魔法をした瞬間、新たに描いた魔法陣から出した光の玉をぶつけて詠唱を中断させる。
やはり歪んでいて大した威力ではない。
「ナイスだエメル!」
それに釣られて彼女も詠唱をやめ僕を褒めた。いやふざけんな!お前はしっかりやっといてくれないと!
「早く詠唱を!」
僕は慌ててヴァイオレットをせかす。
「まかせろ!“天を駆ける天馬の翼…そこに乗りし古の罰…ここに来られよ!”」
ザザザザン!
ヴァイオレットが魔法を詠唱した瞬間、マダカス・ホールの体に無数の斬撃が向かいマダカス・ホールを斬りつける。
ブシャァァァァァアアア!
その斬撃に斬りつけられたマダカス・ホールの体から血が吹き出る。
「……クソが」
マダカス・ホールはそう言うと倒れた。
「死にましたか?」
「殺すわけ無いだろう」
僕はヴァイオレットを見る。
『死ぬのはお前だ!』とか言ったから殺したのかと思った。
「おいエメルお前、私の前の発言で殺したと思ったのか?」
「イエ、ゼンゼン」
「嘘を言うな」
ボカ
ヴァイオレットが僕を殴る。
痛い。
「お前が生きていて良かった」
「あなたが無事で安心しました」
互いが互いを見る。
夕日の所為で彼女の顔が赤く見える。
なぜだか妙な気分だ。
なんだかこそばゆい感じだ。
「とりあえず、こいつを縛ろうもう直ぐ衛兵も来るはずだ」
「はい」
妙な気分を振り切る為にヴァイオレットの指示に従う。
その後、間も無く衛兵が来て僕は治療に彼女は事情聴取、マダカス・ホールは犯罪者治療塔に連行された。