大魔導師と賢者の学校生活
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
「グォオオオオ!」
授業の終わりを告げるベルとドラゴンが鳴る。
今日一日の授業が終了したのだ。
僕はそれを聞いた瞬間走り出した。
別に誰かと約束があったからではない。
逃げる為に走ってる。
今すぐ逃げないと来る。
彼女が来る。
「エメルー!」
その声が聞こえた瞬間、もっと足の動きがもっと早くなる。
「ちょっと、この劇薬飲んでくれないか?」
「殺す気ですか⁉︎」
「大丈夫だ。これを飲めば、体の細胞が活性化して劇的な進化が起きるはずなんだ!」
「憶測でしょ⁉︎死にますよ!嫌ですよ!」
僕は全力で逃げる。
僕と彼女はあの日、好敵手になる約束をした。
彼女は自分自身で言っていた通り、秀才だった。
しかし、彼女は自分の知りたい事などに貪欲過ぎた。
例えば、魔法植物マンドゴラ採取の授業。
この植物は採取の時に植物だが鳴き声を上げる。その時の声を聞いた者は体調不良を起こす。
その為その植物の採取の時は耳栓をしないといけないのだが、彼女は自分を含む僕達班員全員が耳栓をしないままマンドゴラを引っこ抜いた。
その為に、採取班メンバーの中に入っていた僕や他のメンバーも吐瀉物を撒き散らす事件が起きた。
何故、そんなことをしたかと言うと「どんな声をしたか知りたかったから」だ。
僕達を巻き込まないで欲しかった。
その後、僕は彼女と一緒に「空気中の振動を抑えマンドゴラの声を聞こえないようにする魔法」を開発して魔導連盟に報告した。
その後、魔法植物の農園ではこれが重宝されることになり僕達の名前が有名になった。
その他にも、彼女とは
炎の魔法を使う授業で、より効率的な炎の魔法を使おうとし、教室を半焼させ、僕が慌てて炎を消した事件があったり(僕はその炎を消した水の魔法が評価され、彼女はその炎の魔法の威力が評価された)。
ドラゴンの卵を盗んだ密猟者を、共に撃退したりした。
この他にも、様々な事件を解決した。
その度に僕達の名前は有名になり、とうとう卒業後に僕達は称号をもらう事になった。
彼女は夢だった『賢者』を、僕はお金が欲しかったので『大魔導師』をもらうことにした。
しかし今は、
「早く飲め!」
「嫌ですよ!」
その称号をもらう前に死んでしまう。
「うわぁぁぁ!」
恐怖に駆られながら空中に魔法陣を描く。
魔法陣は空中に自分の魔力を空中に置くようにして描き、魔法を発動させる事が出来る陣だ。
「“発射”!」
魔法陣から複数の光の玉が出てヴァイオレットが手に持ってる薬に向かって飛ぶ。
「あまい!」
その瞬間ヴァイオレットは宙を舞っていた。
「なっ!飛行魔法!?」
「お前が魔法陣を描いてる間に詠唱したんだ!」
「あの短時間で!?ありえない!飛行魔法は不可能だと言われていたはずです!」
「ちょとした裏技だ!」
「ちっ!」
僕はまた魔法陣を描く。
「させん!」
ヴァイオレットの拳が僕の腹に向かって飛ぶ。
薬を飲ます気ゼロじゃないか!
「ふん!」
ヴァイオレットの拳が真っ直ぐ僕の腹に当たる。
しかし、その瞬間、ボヤァと僕の姿が揺らぐ
「なっ!」
今度はヴァイオレットが驚く。
今彼女が殴った僕は、
「幻か!」
「その通り!発射!」
幻の僕から離れた所にいた僕は、その場で魔法陣を描いて、発射した。
その魔法陣の効果は
「ブフ!何だこれは!?ベタベタで動けないぞ!」
超粘着弾だ。
ベチャリとヴァイオレットに粘着弾が痛くは無いが、当たるとなかなか外れず身動きが取れなくなる。
バシッ!パリん!
動けない彼女から薬を奪い、地面に叩きつけた。
ジュ
……地面に小さいが溶けて穴が開いた。
飲まなくて本当によかった。
「あ~~私が作った薬を~」
「いや、あれは薬じゃなく毒です。……ところで、聞きたい事があるんですが」
僕は動けない彼女の顔を見る。
薬?の問題は去ったので、彼女に気になることを聞いた。
「飛行魔法をどのようにして実現したんですか?」
あの飛行魔法の事だ。
飛行魔法は魔力の消費がひどく悪い為、実現が不可能だと言われていた。
それを彼女は実現したのだ。
僕の質問に彼女は粘着弾から抜け出しながら得意げに答えた。
……もう少し粘度を上げればよかった。
「錬金術で、新たな物質を作り出したんだ」
「新物質!?」
「物質操作の魔法を知っているだろう?」
「えぇ、物を操る魔法ですよね?それこそ、宙を飛ぶ事も可能です。……しかし、その魔法も軽い物しか運べないはずです」
それこそ、薄い板とか、羽とかだ。
たくさんの人が協力してようやく重たい物を操作できる。
しかし彼女はその魔法をやるにしても一人でやってたはずだ。
「私が作った新物質は、物質操作の魔法の必要な魔力が少なくてすむ物質なんだ」
彼女が、制服の上着を脱いだ。
すると制服のシャツの上から黒い縄のような物が彼女の体に巻き付いていた。
「これが、その物質で作った道具だ。魔導連盟にはもう報告してある。今後は、高い場所の調査などの役に立つだろうと、言われているな」
「相変わらず規格外な事をしますね」
「そう言うお前が描いた最初の魔法陣も、高難易度の魔法じゃないか。光の玉と幻の魔法……一つの魔法陣に二つの効果を出す魔法陣は扱いにくいはずだが?」
今度は彼女が疑問をぶつけて来た。
それこそ、簡単だ。
「あの魔法陣、実は三重構成にしてるんですよ。一重目の層で他の層の魔法をコントロールしていただけです」
「何!?理論は理解できるが、普通魔法陣を扱う魔法使いは一重か二重のはずだ!やはり私のライバル兼友人兼実験体!」
「友人やライバルなら実験体役割を押し付けのやめてくださいね」
彼女が僕の説明した理論に驚き興奮している時だった。
「コラァァァァァ!テメェェェェェラァァァァァ!」
「「ゲッ!オニゴリラ!」」
「誰がオニゴリラだー!俺の名前はオウガ・ゴリウスだ!」
「「オニゴリラじゃねーか!」」
体育教師のオウガ・ゴリウス通称オニゴリラが来た。
顔が鬼の様に怖く、体がゴリラの様にマッチョだ。
彼は生徒の生活態度のチェックをしている教師でもある、顔は怖いが生徒思いのいい教師で人気がある。
因みにオウガと言うのは、鬼の一族の名前の一つだ。
つまり名前も顔も完全にオニゴリラだ。
「お前達、今すぐ生徒指導室に来い!」
「何故だ?」
彼の言葉にヴァイオレットは疑問の声を上げた。
「何故って……」
僕が周りを見る。
実はさっき出した、光の玉が壁や床に激突してヒビが入っているのだ。
ヴァイオレットはともかく……人に当たらないでよかった。
「何故だと?お前、事の重大さがわかってないようだな……」
オニゴリラの顔が怒りに満ちている。
当然だろう、一歩間違えれば人が怪我していたはずだ。
危険行為だった。
「お前達は廊下を走った!危険行為だ!」
「そっち!?」
うっかり驚きの声を上げた。
「壁や床にヒビを入れた件を怒んないんですか!?」
こっちの方が、明らかに重要だろう。
「……壁や床のヒビはお前達が後で直せばいい。それで不問だ。しかし、廊下を走った行為はダメだ!危険極まりない!」
「判断基準がおかしいぞ!この人!」
「うるせぇ!今すぐ来い!説教だ!」
その後、僕達は説教された。
理由は『廊下を走ったから』だ。
間違ってはいないが、それでいいのだろうか?