大魔導師、賢者と初遭遇
「お腹治りましたか?」
「はい。大丈夫です」
禁術の書から出てきた女の子が、僕のことを心配してくれてる。うん、ヴァイオレットよりもいい人(?)だ。
「すいません。私の創造主のせいで……」
彼女は頭を下げる。
やっぱりヴァイオレットよりもいい人だ。
「もう大丈夫ですよ。さっきはしっかり手紙を読まなかった僕も悪いんです。それよりもあなたの問題のほうが大変です。早くどうにかしないと」
手紙の内容が本当なら早くヴァイオレットを届けないと、どんな禁術の書かわかれば対処はできるが、手紙にはそういう事が何も書いてなかった。
禁術の書の種類の中には使い方を間違えるととんでもない事が起きることがある。
昔の魔法使いが炎を扱う禁術の書の扱いに失敗して住んでいた街の全てを燃やした話がある。
そんな事が起きるかもしれない。
そんな事を考えていると。
「変わってますね……」
彼女が呟いた。
「?」
「いや、どんな人でも『自分は本です』って言っても信じてくれないじゃないですか。だけどあなたはすぐ信じてくれましたから」
彼女はそう言うと小さく微笑んだ。
「まぁ、さっきの手紙や魔方陣で大体の事がわかりましたから。それにあなたを送り届けたら、あの邪悪な精神を持った賢者を殴れるんでしょう?頑張りますよ」
そう言って微笑み返す。
そうすると彼女はちょっと困った顔をして
「私の創造主を殴りたいとは、一体どんな関係ですか?」
「えっ?聞きますか?君の主との昔話」
「え……。いや、その、いいえ聞きたいです」
そう問いかけると彼女は先程よりもいい笑顔で同意した。
……さっき言い淀んでいたのはヴァイオレットの私生活が悪いからだろうか?
あの賢者日頃何やってだろう?
「いいですよ。まずは出会いから、僕達は当時から最高峰の魔法学校と言われていた。ハイスト魔法学校の二年生に上がった時に出会いました」
~数年前 学校の中庭~
「学年魔法順位は二位か……。悪くないしこれならいいかな……」
僕はあまり学力の方には興味がなかった。
けど、魔法を覚えることだけは好きで楽しかったら、楽しく学んでいる。
魔法の勉強や研究ばかりしていて友人らしい友人はいなかった。
周りの人から見ればつまらない学校生活をおくっているように見えるだろう。
「二年生になっても変わらないだろうな」
だけどこの生活を僕は気に入っていた。
けど、刺激が欲しかった。
そんな時に彼女に会った。
「ねぇ、そこの君」
「?」
声が聞こえて周りを見渡すが、誰もいない。
「いや、上だよ上」
声は近くにある木の上から聞こえた。
見てみるとそこには長い黒髪の女の子がいた。
「何で、縛られているんですか?」
彼女は木の枝に頭から吊り下がるような感じで蔓に縛られていた。
すると彼女は真面目な顔をして
「昼寝を木の枝の上で安全に行おうとして、魔法で蔓に身体を縛るようにしたら失敗して、こうなった。助けてくれ」
真面目な顔をして言う割には馬鹿な話だった。
そう思っていると。
「おい、君今、馬鹿な話だとか思っているだろう」
「!?イヤ、ゼンゼン」
「言葉が片言になっているな。早く助けてくれ。この蔓、今にも切れそうなんだ」
彼女がそう言った瞬間だった。
プッチーン
蔓が切れた。
「ウワァァァァァ!!」
彼女が悲鳴を上げながら落ちてくる。
それを見て慌てて呪文を唱えた。
「風よ吹け!地よ柔らかくなれ!」
僕はあまり呪文を使うのは得意じゃない。魔方陣を描くのは得意なんだけど。
しかし、呪文は成功した。
彼女は風により落下速度が減り、柔らかい地面にキャッチされた。
「危なかったー!」
緊張感が抜け口からそこそこ大きな声が漏れる。
そして、彼女を見に行った。
呪文は成功したが怪我をしたかもしれない。
しかし、彼女を見てみると何故か彼女は満面の笑みを浮かべていた。
頭でも打ったのだろうか?
こちらに気づいても彼女は満面の笑みを辞めなかった。
それどころか
「やはり、君だな学年二位は!」
「へ?」
いきなり、何か言ってきた。
「君の魔法の上手さかなりすごい。よし、私の親友になれ!」
全然、話が見えてこない。
彼女は一体何を言ってるんだ?
助けていきなり親友になれってどういうこと?
いや、それ以前に
「あなたは誰ですか?そして、どうして僕の順位を?」
この学校は成績の順位は個人個人に伝えるようにしている。
順位によるいじめを防ぐためだ。
僕は彼女に自分の事を明かしていない。
ていうか、自己紹介すらしていない。
僕の質問に彼女は自信満々の笑みで、
「私は学年順位第一位のヴァイオレット・リリィだ!夢は賢者になること!ちなみに今日のラッキーカラーはブルーだ!」
「紫じゃないんですね」
「そうだ!話を戻すぞ」
彼女の表情が真剣になった。
「私は自分で言うのも何だが秀才でな。魔法の扱いが上手い」
本当に自分で言うことか。
「そして、学年順位一位の成績を取ったのだが……」
そこで彼女は辛そうな顔をする。
彼女も友達がいないんだろうか?
だから僕に親友になって欲しいという事だろうか?
「友人は出来るのだが、好敵手……つまり敵と書いて友と呼ぶ。そんな存在がいないのだよ!」
全然違った!
『親友になれ』って、つまり『好敵手になれ』って事か!
「私は好敵手になれる奴を探していた。しかし、私の友人の中で一番優秀なのは学年順位第三位で、彼女との差も広かった」
学年順位第三位の人、女性だったのか……一人で過ごしていたから知らなかったよ。
「そんな時に君が来た」
あっ僕の話か。
「君のあの魔法のセンスが素晴らしかった。そのセンスなら、第三位よりも上に行けると思ったからだ」
……どうやら、殆ど勘で決めたそうだ。
もし、違ってたらどうするつもりだったんだ?
だけど……
「それなら、もっと早くに会えていたのでは?」
学年順位は学校側は明かさないが、生徒同士で見せたりする。
互いに順位を競ったりするからだ。
中には順位をさほど気にしていない人もいる。
つまり、調べるのはさほど難しくない。
そしたら、彼女は今度は苦笑いをした、
「実はな……」
「?」
「君があまりにも周りと関係を築かないから、様々な噂が飛び交っているんだ」
「噂?」
初耳なんですけど?
「あぁ、『第二位は○*△家の長男○○君』と言う全く関係ない人や、『二位は勉強家の人が自殺して今なお、この順位を守っている』と言う七不思議的な物もある」
「すごい事になってる!」
一人なだけでそうなるのか!?
「様々な噂が飛び交っていて、どれが本物かわからなかった。しかし、そんな時に君が来た。さぁ敵と書いて友と呼ぶ、そんな素敵な関係になろうじゃないか」
彼女が手を差し出してくる。
僕はその手を握って握手をする。
僕はこの学校生活に刺激を欲しかったから、丁度良い。
「良いですね。楽しそうです」
こうして、僕は彼女の好敵手になったが、その日をすぐ後悔する事になった。