大魔導師の仕事
窓から太陽の光が射し込んできて僕の顔に当たる。
「うーん」
そしてようやく僕、エメル・サフィスは目を覚まし眼鏡をかけて朝食の準備をする。
今日の朝食はパンとコーヒーだ。
それを食べ終えたら今度は肌触りが良い寝巻きから仕事着に着替える。
シャツにズボン、三角帽子そして白にピンクが薄く塗られているような花びらの刺繍をつけた秋明菊が刺繍されたローブ。
これが僕の仕事の服。
このローブは魔導連盟から功績を認められた魔法使いが貰えるもので特殊な素材で出来ている。
僕もいろんな功績を残したからこのローブを貰った。
僕の仕事場はすぐ下の階。いや、下の階だけでなく僕の住んでいる仕事場は塔の形になっていて。僕が生活している最上階以外は全て仕事場になっている。
そんな所に住んでいる僕の仕事は、
「大魔導師マーリン著『詠唱魔法する時の注意』は卯月の五日までとなっています、返却が遅れた場合は呪いが発動します」
「はい、わかりました」
本を貸す仕事。つまり図書館の司書をしている。
僕の仕事場の塔は魔導書の図書館。魔女や魔法使いのための図書館だ。
ここで働いている人間は僕だけでそれ以外は全員、木で造られた魔法人形達だ。彼等は黙々と本の整理と掃除などの雑事をして働いてくれている。
彼等は喋らないし、図書館という空間であるため少し静かで寂しい。
「しかし、ここで大魔導師様に会えるなんて、ビックリですよ」
本を借りた魔女が嬉しそうにしかし小声で話してくる。
『大魔導師』とは、あのローブをもらう時に貰う称号でもう一つの称号の『賢者』と同じ位すごい。どちらも新しい魔法を開発するが、大魔導師は国から特権や予算貰い魔法を開発する。そのため定期的に報告、発表をしないといけない。
しかし『賢者』は、報告、発表の義務がないかわりに予算や特権がない自由な魔法使いだ。
僕の知ってる人は『賢者』の称号と菫のローブを貰った。
「大魔導師様のローブはいつ見てもすごいですよね」
「ありがとうございます。あなたは“花”は何枚ですか?」
「私はまだ一枚ですよ」
魔女はそう言って羽織っているローブの背を見せる。ローブの背にはハートの形をした花びらの刺繍がされている。
最大の花びらの枚数は五枚。
それを超えると『大魔導師』か『賢者』称号を選びその称号とローブが貰える。
「花びら一枚ですか。将来どうなるか楽しみです」
そう言うと魔女は笑顔で、
「はい!いつかそのローブを身につけたいです」
そう言って、魔女は箒が止めてある場所に向かう。
この塔に入るには、箒か絨毯といった空飛ぶ物で来なくてはいけない。一階には出入り口を設けてないのだ。
理由は二つある。
まず一つ目は魔法を使えない人が誤って入らないようにするため。魔導書を見ただけでも魔法を使えない人は廃人になる場合がある、魔導書の力に脳が耐えられないのだ。
二つ目は、箒や絨毯を使えない魔法使いは未熟者だ、魔法を使うには危険すぎる。空を飛ぶのは魔法使いの見習いたちご始めて習う魔法だ。
こうしないと図書館の魔導書を魔法使い達に安全に渡せない。魔法使いもそういった心得はあるので他者に魔導書を貸す事はない。
魔女が出て行くのを僕は確認した。塔には僕以外人間はいない。
「さてと、もう閉館の時間だし、地下室の禁術の書でも読みに行こう」
静かに階段を降りる。人間が僕しかいなくても、図書館のルールは守らないと。