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拾った犬は、狼皇子でした  作者: 秋月 忍
ハーブティ
8/20

ポポリ草

遅くなりました。

「さて、仕事だわ」

 依頼の手紙を受け取って、アガサは外を見る。

 すっきりと晴れ渡った空が広がっていた。

「行くなら今日みたいね」

 薬草の採取は特殊なものか、もしくは緊急でない限り、晴天に限る。

 アガサはパタパタと用意を始めた。

「あれ? アガサ、どこへ行くの?」

 アガサが忙しくしていると、レックスが声をかけてきた。台所で何か作っていたのだろう。エプロンをしている。

「仕事よ。夕方には戻るわ」

 アガサは、虫よけの薬を肌に刷り込み、手袋をはめる。採取用のかごに、水筒を用意した。

「薬草の採取?」

「ええ」

「待って、俺も行く」

 頷くアガサに、レックスが慌ててエプロンを外す。

「……何も面白いことはないわよ?」

「俺、目がいいんだ。きっと役に立つ」

 レックスは行く気満々のようだ。

 ここのところ、ずっと家事をしているレックスだが、何も変化のない森の生活はきっと退屈だろう。一緒に行くというのは恩返しという面もあるだろうが、おそらく、いつもと違うことがしたいということに違いない。

「いいわ。その代わり、貴重品は全部持っていくこと」

「え?」

 アガサの出した条件に、レックスは首を傾げる。

「それができないのなら、連れて行かない」

 この家を離れ、もしアガサとはぐれたら、レックスはアガサのことを忘れてしまうかもしれない。この前、レックスはどこまで荷物を取りに行ったのかは知らないが、一応は戻ってきた。だが、二度目はないかもしれない。忘却の枷は簡単に破られるものではないのだから。

「どうして?」

「森は迷いやすいの。用心したほうがいいわ。ここに帰れないこともあるかもしれないでしょう?」

「心配しすぎな気がするけれど……わかった」

 レックスは首を傾げながらも頷く。アガサに逆らえば、一緒に行くことができなくなると悟ったのだろう。

「すぐ用意するから、少し待っていて」

「長くは待たないわよ」

 レックスに急ぐように言って、アガサは靴紐を結びはじめた。



 レックスは大きなかごを背負い、アガサの後ろについてくる。向かうのは深い森の奥にある洞窟だ。

 空は青く、太陽の光が森の中に差し込む。

 ひょっとしたら、レックスを撒くことができるのではないかと、一瞬、考えたアガサだったが、こんな近くで歩いていたら、どう考えても無理だろうと諦めた。たとえ、視界がきかなくなっても、レックスは信じられないほど嗅覚が鋭い。少し離れたところで、レックスがアガサと離れる気がないのであれば、撒くことは不可能だ。

「それで、今日はどんな薬草を捜しているの?」

「ポポリ草よ」

 歩きながらレックスの質問に、アガサは答える。

「……知らないな」

「今なら黄色の可愛い花が咲いているわ。すぐわかるはずよ」

 アガサはそう言ってから、道から外れて、歩き始めた。

「こっちよ」

 木々の間を抜けると、少しごろごととした石が転がりはじめた。

「足元に注意して」

 アガサは注意を促す。ゴロゴロとした石の上を歩くので、非常に歩きにくい。アガサとレックスは慎重に進む。

 やがて、アガサとレックスの前に大きな穴が現れた。

「かなり大きい洞窟だね」

 レックスは驚いたようだった。小さな家なら一件分入ってしまいそうなほど大きな洞窟だ。

 日が差し込む入り口付近から少し入ったところにコメ粒ほどの小さな黄色の花がみえた。

「あれよ」

 アガサがゆびをさす。

「小さい花だなあ」

「そうね」

 アガサは頷き、花と葉を採取する。

「採取するのは、花と葉だけでいいわ。根まで必要はないから」

「しっかり、見せてもらっていい?」

「どうぞ」

 アガサは採取した花と葉をみせた。

「……結構香る花だね」

「ええ。ちょっときついけどね」

 ポポリ草の花の香りはツンとした刺激臭がする。いい香りとは、少し言い難い。

「この香りなら、すぐ見つかるよ」

 レックスはそう言って、ポポリ草を捜し始める。

「無理しなくてもいいのよ」

 花の季節は見つけやすいとはいえ、素人にはなかなか難しいものだ。

 アガサでさえ、かご一杯にするには半日はかかる。

「あまり奥に行かないでね。大きな穴があるから」

「わかった」

 アガサの注意をよそに、レックスは洞窟の中へと入っていく。

──さて、がんばろう。

 アガサは一人、ポポリ草を捜し始めた。



次回から月曜更新にいたします。

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