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拾った犬は、狼皇子でした  作者: 秋月 忍
クラーケンのマリネ

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飛べない魔法使い

遅れました

 リュナを見送ると、アガサはダンを使っていない部屋に案内した。

 無論、清掃はしておいたし、ベッドも古いとはいえ、丈夫でものが良いものだ。ダンが学生ということもあって、勉強用に机も用意した。多少狭いが、それでも数日生活するなら十分のはずだ。

「衣類はクローゼットを使って。食事の時間まで少しあるから、荷物をほどいて休んでいるといいわ」

「わかった」

 ダンは頷いてからふとアガサの方を見た。

「ねえ、どうしてこんな森に住んでいるのさ? ひょっとして、『森流し』じゃないの?」

「え?」

 アガサは驚いた。十二歳の子供のダンがその言葉を知っていたこともだが、リュナはアガサがここにいる理由を話してないらしい。

「まあ、似たようなものかも」

 アガサは答える。

 『森流し』は、魔法使いとして生まれたものが、魔法の才のないものが、異国の森での生活を余儀なくされるものだ。もちろん森での生活を捨て、人間の国や獣人の国で生活することもできるが、そうすると二度と故郷には戻れない。二十年ほど森で生活すれば、故国に帰ることが許される。

 アガサは別に『森流し』を言い渡されてはいない。

 単純に『魔法使い』の試験に受かっていない『半人前』で、自分から故国をでてきた。だから『森流し』ではなく、いつでも故国に戻れる。戻れるが試験に合格できなければ、ろくな仕事につくことができないのだけれども。

 ここにアガサが来るきっかけは、アガサの師だ。

 彼は、魔法使いたちはもっと、獣人や人間たちと関わるべきだと考えていて、長い間この森とマナリ国を行き来していた。

 優等生であったのに、資格試験を落ちたアガサは、心と体に傷を負った。体の傷は、幸い治ったが、心の傷は癒えなかった。アガサは師に誘われ、この森にやってきたのだ。

 半人前でも仕事が出来て、生きていける場所は、孤独ではあったが、傷ついたアガサには居心地がよかった。

「ひょっとして、魔法が使えないのか?」

 ダンは首を傾げる。

「それなりに使えるわ」

 アガサは苦笑する。リュナが『優秀な魔法使い』と言っていたのを聞いていたはずなのに、そんな人間が『森流し』にあうのは、理解しがたいのだろう。

「だったら、なんでこんなところにいるのさ? 帰ればいいじゃん」

 ダンは理解しがたいという顔をする。

「……そうね」

 アガサは軽く頷く。

「さっきの男の人と結婚しているとか?」

「え?」

 アガサは驚き頬が朱に染まるのを感じた。ダンような少年にはひとつ屋根の下に住む男女はそんなふうに思えるのかもしれない。

「違うわ」

 アガサは首を振って否定した。

「レックスは私が主治医みたいなものだからよ。ここに住んでいるのは、私が半人前だから。空を飛べない魔法使いなのよ」

 これ以上問題にしたくなくて、アガサは話を打ち切った。


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