表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拾った犬は、狼皇子でした  作者: 秋月 忍
ハーブティ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/20

 黒いフードの胸元に蝶のブローチをつけたアガサは、とてもうれしそうで、笑みがこぼれている。

 買い出しの荷物を抱えながら、レックスは少しだけ複雑な想いを抱く。

 失くしたというブローチはアガサにとって随分と大切なものだったようだ。いったい、いつ、どうやって手に入れて、どうやって失くしたものなのか、アガサはレックスに話す気はないらしい。

 聞いたら話してくれるのかもしれないが、それはためらわれた。

 おそらくは、アガサにとって幸せで大切な思い出だ。

 アガサから話してくれるならともかく、詮索するのは、よろしくない。 

 ただ、アクセサリーは男性に贈られることも多いものだ。そのことに気づいたレックスは胸がもやもやする。

 アガサは美しい。今はいないようだが、過去に恋人がいたとしてもおかしくはない。

「どうしたの?」

 黙り込んでいたレックスを不思議に思ったかのように、アガサが話しかけてきた。

「なんでもない。たまには、お酒を飲みたいなあって」

 レックスはあわてて、目の前の店に目をやって、答える。

「そう。好きなのを選ぶといいわ。私はお酒は全く分からないから」

「飲めないの?」

「飲んだことがないの。だからわからないわ」

 アガサは首を振る。

 料理には使うから、酒を買わないわけではないが、飲むために買ったことがないらしい。

「そうなんだ」

 レックスの住んでいた獣人の国では、酒は浴びるように飲むのが当たり前で、下戸はほぼいない。

 食事の時に酒を嗜むのは当たり前なのだ。

「私は、お酒をまだ飲めない頃に、国を出たの」

 アガサは苦笑する。

 酒の味を知る前に、森の暮らしを始めたアガサは、特に飲酒に興味がなかった。

「……じゃあ、やめておいたほうがいい?」

「別に。飲みたいなら飲めばいいわ。主義主張で飲まないわけではないもの。飲むという発想がなかっただけ」

「わかった。じゃあ、買ってくる」

 レックスはアガサに待っているように言って、飲みやすそうなお酒を選んだ。

 酒屋を出ると、アガサが、小さい女の子から花を買っていた。小さな野花を摘んだ花束で、珍しくもなんともないが、花を売る少女はそれを糧にしている。

「アガサ」

 レックスが声をかけると、花束を渡そうとしていた少女が顔を輝かせた。

「魔法使いさまは、アガサって名前なの? とても素敵な名前ね」

「……そうかしら」

 花束を受け取りながら、アガサは困惑した顔をする。

「お花、買ってくれてありがとう。あたしは、リサ。また、会えるといいな、アガサさん」

 少女は、そう言って去っていた。

「……どうせ明日には……」

 少女の背を見送りながら、アガサ何事かを呟く。

「アガサ?」

 何を言ったのか聞き取れず、レックスは聞き返した。

「なんでもないわ」

 アガサは首を振ってそれから黙り込んだ。その横顔はとても寂しそうだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ