茨のベーゼ 6話
不問N:
♂ガレオン/男性職員♂:
♂茨:
♂佐野/所長:
♀トロイ:
♀杉本/ヴォランデルタ:
【あらすじ】
突如世界に現れたBAIXEという存在。
一人の人間から唐突に生まれる幽霊のようなそれ。
それらは自我を持ち、人と同じように振舞う。
BAIXEを生んだ人間は支配者と呼ばれ、社会は支配者を受け入れた。
そして時が経ち、支配者の中に特殊能力を手にする者が現れ始めた。
能力を手にした人類が向かうのは破滅か、希望への道か。クーカックイー
【伝わってくれ!自己満足登場人物紹介】
茨稜剱…主人公。ただし言葉は荒っぽい。笑うとギャハハと言う。一見ただのチンピラだが探偵業を営んでいた為頭が回る。
大きな肉体強化を自分にかける事ができる能力を持つ。
BAIXEによって家族を引き裂かれた悲しい過去の為、本来は自己犠牲を厭わない優しい少年だったが、孤独を生き抜く為に悪を憎み、まあまあグレて成長した。
でも心の根っこには熱い想いや彼の優しさがきっとある。筈。
トロイ…主人公である茨稜剱のBAIXE。
金髪ボブの女の子。
見た目は美しく、声も透き通っている。
が、表情豊か。戦闘中に顔芸スレスレの表情をすることもほとんど。ケンちゃん(茨稜剱をそう呼ぶ)ラブ。嫌いなものはケンちゃんが嫌いなものともずく。(本人曰く『わざわざあのグロい見た目で出てくる上に美味しいどころか酸っぱ不味いとか考えられない』とのこと)
杉本 和香…茨稜剱の上司(になる予定)である佐野の同僚。
本来は表立って戦うような役職ではないが、能力を買われ茨稜剱との研修(とは名ばかりのガチバトル)をさせられる事に。
形式的に設置された対支という組織の筆記試験と実技試験を正面からクリアして対支に“就職”してきた通称“努力の鬼”。
飄々とした喋り方だが別に人のことを裏切る声はしていないし目も別に細くない。少し会話すると分かるが優しくて真人間。思いやりばつ牛ン!(抜群の意)
茨ほどではないが頭の回転が早く、やはり佐野と同僚ということで場数自体は踏んでるので経験値が高い。
なので戦闘中の心理描写が多い。
両親をBAIXEとその支配者に殺されたのに茨とは違い歪まなかった稀有な人物。メンタルが鉄。
ガレオン…杉本和香のBAIXE。浅黒い肌に筋骨隆々の姿。
能力は前読みとかでなんとなく把握してくれればなと思います。
普段は冷静沈着だが、杉本のBAIXEなので“バカな!?”とかも言う程度には感情は豊か。
主に杉本を励ましたり、戦闘中の的確な指示、分析などをする。
お互いを信頼し合っている印象ですね。
見るアニメが古い。お気に入りのアニメは無印ドラゴンボールZ、じゃりン子チエ。
気にしているのか最近東京喰種が面白いのかどうか杉本に聞いている。(亜門を主人公だと思っている)
所長…対支で一番偉い人。この人に逆らうと明日から職を失う。
もともとはただの公務員であったが、自分に発現したBAIXEであるヴォランデルタの言うとおりに生きてみたら日本のBAIXEを用いた特殊部隊的な母体のトップになった。
くたびれた印象を初見では受けるが、若い頃イケメンだったんだろうな、みたいな感じの年の取り方をしている人。
BAIXEという存在についての詳細、そして原初の英雄達という概念“思い出す”という形で情報を教えてくれる寝たきりのBAIXE、ヴォランデルタの支配者。
ネームドになるかどうか(名前がつくかどうか)はみんなの反応で決まるぞ!所長の今後をよろしくね!
ヴォランデルタ…白髪の中性的なBAIXE。性別は今のところ言及しない事に決めてるから生えてる生えてないは大いに議論してくれたまえ。
所長に発現してからずっと寝たきり。
だが一年に何回、というスパンで目を覚ましBAIXEについての重要な知識を口にしてまた倒れるように寝る、という不穏な存在。
対支を作らせたのも全てヴォランデルタの指示によるもの。
鬼怪しい。
声はショタっぽい感じ。
佐野…2話〜3話あたりで茨くんとめちゃくちゃバトルした人。年齢も老いている訳では決してない(27さい)が、見た目がスゲえ若い。優しい。ただ言葉選びが下手なのと気が利かない。悪気はないけど人から嫌われるタイプ。猫が懐かないことが悩み。
男性職員...男性職員。モブにしては喋っている。
俺は気に入っている。いつか名前を付けてあげたいが、名物モブみたいにしたいので悩みどころ。
コンタクトレンズを付けているが、言い出すタイミングを失ったままズルズルここまで来た。
【以下本編】
杉本N:......刺すような業力...。
ガレオンN:『茨稜剱の能力の応用────というより、これも正確に言えば発露した技だが。
......“収束”。
“瞬間輝億”の第二段階における真髄。
業力を極限まで貯めて放つ────と言えばシンプルだが...。』
杉本:....“受け”は現実的ではない、だよね?
ガレオン。
ガレオン:『理解っている。
出し惜しみは────
皆無い!!』
<ぐぉん、と地面を蹴り茨に真っすぐ突進していく杉本。>
茨:────馬鹿が。
アンタが纏ってる業力じゃオレ攻撃は防げねェよ!
トロイ:『感覚で認識る────
私達の一撃が防げる業力量が彼女の体には纏われていない!
このまま殴っても──── 威力は通用る!!!
茨N:閃光万力瞬撃で蹴散らす!!!!
半分くれえの威力で良いだろう...殺してェ訳でも無ェしな!!!!
茨:受けて立ってやるぜ!!!
正面からの衝突!!!
俺好みの形式じゃねェか!!!!
閃光!!!!!!
トロイ:万力瞬撃!!!!!!!!!!!!!!
N:攻撃の為に限りなく凝縮された業力。
それを拳に乗せて撃ち出す。
単純至極でありながら凶悪な威力を持つ技。
杉本:冗談だろ、オイ...!!!
ガレオン:これ程とは...!!!
“凝縮され続けている”どころでは無い!!!
1段階目とは最早別物の業力!!!
垂れ流されていた業力を腕の鎧で抑えつけ、外に全く漏らさない....!
言い換えれば!!
抑えつけねば外に逃げてしまうほどの放出力を持つ業力!!
弓の様に引き絞られた其れを開放すれば....!!
杉本:間違いない....!
失敗れば死ぬ!!!!
外さない....外せない!!!
N:業力量で杉本らの遥か優位に立っている確信しているのにも関わらず。
技を繰り出す茨の胸に去来する、小さな違和感。
茨稜剱の胸を小さく冷やす、然し決定的とはとても言えない...小さな小さな違和感。
茨N:......待てよ?
N:違和感は、トロイの胸にも一瞬遅れてやってくる。
トロイN:『教官は現場での経験もあるだろうに....何故?
何故私達の業力量を見て正面から突っ込んでくる?
数舜の後にはお互いの業力がぶつかり合う事は明白なのに!!
このままぶつかれば業力量の差で言えばアイツ等は敗北必須!!
.............まさか...........!!』
N:導き出される、一つの最悪。
茨N:もしアイツ等が!
俺と正面から衝突かる事が!
アイツ等の計画の内だとしたら!!!
トロイN:『そういうBAIXEの能力だとしたら...!
その条件で最も真価を発揮する能力だとしたら!!!』
茨N:クソ....中止不可能せねェ!!!
杉本:気付いたか。
...が、もう遅い。
ガレオン:『手加減は無しだ。
手を抜いて死ぬのは俺達なのでね。』
N:杉本の拳が茨に触れる瞬間。
杉本が両足で地面を踏み締め、ブレーキのように動きを止める。
そして額を茨の拳に頭突きのようにぶつける。
茨N:な────
トロイN:業力をほぼ感じない!!
何を────
杉本N:────────ここ...ッ!!
ガレオン:『法王乃孤高之塔。
号哭乃勅命。』
杉本:“認”!
<茨の拳が杉本の額に触れた瞬間に、猛烈な業力が茨に向かって光の束として散らばる。
そして茨稜剱の体は後方に吹き飛んでいた。>
トロイ:『な...........!!!!
何が..............!!!!』
N:言葉とは裏腹に、茨とトロイは確信をする。
この、今までの戦闘において唯一の不確定要素。
<脳裏に自分たちが攻撃をした瞬間右腕に激痛が生じ、攻撃をされたはずの杉本がケロッとしている回想(※第五話参照)が挟まる。>
<回想が終了し、杉本の頭突きで吹き飛ばされた茨が地面を転がる>
N:不確定要素が、炸裂したのだと。
茨:ぐああああああああああああああああああああああああああーーーーッ!!!!
トロイ:ケンちゃん!!
茨N:痛え!!痛え!痛え!痛え!
茨:ッッッぐ....!!!ッッッづぁぁああッ....!!!!!
<右腕を抑えて床を転げまわる茨>
トロイN:ケンちゃん....!
痛みでパニックになってる!
私が!私が癒してあげなくちゃ!
どうしよう....どうしよう!ケンちゃん!
私はBAIXEなのに!
ケンちゃんの為に生まれてきたのに!
業力なんてものが有るのに!
────理解らない!
どう使えば...どうすれば!!
<シュウウウ...と業力の衝突による煙を額から上げながら杉本が体勢を直し茨を見据える。>
杉本N:物凄い威力....。
普通の人間なら右肩まで折りたたんだように潰れる筈だが...。
ガレオン:『立て。』
茨:あ゛ぁ!?
ガレオン:『立てと言っている。』
茨:ゼェェ....ゼェ......分かって...ンだよ.....!!!!
分かってんだよ!!!
分かってる!!!
今..ッ、立ってやるよ...!!
ガレオン:『いいや、分かっていない。』
N:視界の中央に黒い点が映る。
茨N:.....?なんだ、これ.....?
N:其れは、渾身の威力で放たれ、そして業力で強化された────
トロイN:────この杉本...ッ...!!正気!?
これは.....ッ!!!!爪先蹴り!!!
茨N:どうする────!?
受けるか!?
俺の身体に満ちた業力!
その量や質からこの蹴りはダメージになんてならねえ筈...、だが!
トロイN:先刻の謎のダメージ!
絶対に捉えた筈の私達の攻撃がキャンセルされ、ケンちゃんの身体にぶつけられたダメージを考えると...!!
無警戒で攻撃を受ける事は余りに危な過ぎる!!
っていうかそもそもそんな技人間の顔面に打ち込んで良い訳が────!!
トロイ:ケンちゃん!左に転がって!受け身は取らなくていい...速く!!
茨:うおおおおおおおおおおおおおおッ....!!!
<何とか身をよじって回避する茨。然し大きく体勢を崩して地面に転がる。>
杉本:おいおい。まさかそうやって痛がれば追撃は来ないなんて考えてたかい?
茨:ハァ......ハァ..........冗談じゃねェぞ...クソ....!
ガレオン:『支配者同士の戦闘。
それは...人間サイズの戦闘機が戦う事に等しい。
この戦闘機という単語は火力を始めとした攻撃力を例えただけの比喩では無く...索敵・防御・そしてそれらを組み合わせた技術の応用...。
それらすべての能力値がはるか人間の上を行くという意味だ。
思考を止め、安易に無防備を晒すとはな..路上の喧嘩では生き残れても、支配者の悪意の前ではまな板の上に身を差し出す鯉と何ら変わらない。』
杉本:言ったはずだが。
もう忘れてしまったのかい?
実践在る呑だ。
実践とは実戦。
君に隙が有れば殺す気で追撃をする。
至極当然だろう?
ま....、私の能力は真正面から破る事は絶対に不可能だから。
考えて動いてね。
嘘じゃないよ?
何回物理でブン殴ろうが無理。
私に向かってくる限り、絶対に攻略は不可能。
ヨロシク。
N:そう言うと杉本は地面を再び蹴る。黒い巫女服と彼女の背中に浮く円状の注連縄がぼんやりと薄い黒の業力に包まれる。
否が応でも感じる”殺意”。
路上の喧嘩では決して味わう事の無かった、単純かつ明快な殺意が迫る中。
茨:すぅぅぅぅぅ────......
────────ふゥ~~~~~....。
N:深呼吸を一つ落とした直後。
茨稜剱の荒波のようにかき回された思考は冷静さを取り戻し、冴え始めていた。
茨N:思い出せ....思い出せ!!!
杉本のさっきの台詞...!
<回想開始>
杉本N:私の能力は真正面から破る事は絶対に不可能だから、考えて動いてね。
何回物理でブン殴ろうが無理。
私に向かってくる限り、絶対に攻略は不可能。
<回想終了>
茨N:実戦であんなにベラベラしゃべくる奴なんざ居る訳無ェ...!
どう考えてもあの文言はオレに向けてのこの研修攻略の要点!
杉本の能力に関係が有るのはもはや明白!!!
N:ガレオンの指摘は半分正解っており、半分誤答ていた。
茨稜剱は確かに支配者同士...というより、“真に命を取り合う戦い”の経験は皆無であった。
よって、地面に無様に転がり痛みに悶えると言うのは文字通り“死活問題”。
新人丸出し、生存競争に負けるべくして負ける生き物の振る舞い。
ガレオンからすれば言語道断の行為。
然しそれは“規格外の痛みに晒された”という人間という生物である以上の不可避の反応であり、決して路上の喧嘩が安易かったから出てしまった振る舞いでは無い。
寧ろ────
茨:っしゃ────!!!
N:階級──無し。
武器所持への罰則──無し。
試合時間規定・金的・眼球等を始めとした攻撃禁止箇所指定────無し。
茨:第2ラウンド...!!!
N:試合規定を正しく暗記し、筆記試験を通過した上で実務を数年間積んだ公式審判の同伴規定────....無し!!!
茨:来いや!!
N:茨の経験してきた路上の喧嘩に限って言えば!
“予測不能”は寧ろ日常!!!
物理法則を無視したダメージの強大さにより冷静さこそ失ったものの────
対支配者同士の戦いは!
茨稜剱の日常の延長線上とも言える!!!!!!
<杉本が繰り出す連続の拳と蹴り。それを間一髪でかわし始める茨。>
茨:金髪!
さっき起きた現象について認識を擦り合わせる!!
お前は俺の腕に鎧として装着され、正確に言えば杉本に接触したのは俺では無く金髪!
接触した瞬間に俺達は吹き飛ばされた! そうだな!
トロイ:『うん、ケンちゃん!』
茨:俺達が吹き飛ばされた時に...俺の眼には杉本に攻撃動作は見えなかった!!
接触の瞬間に杉本の身体に振動や変な所作...、そして俺達の攻撃によるダメージの痕跡は無かったか!?
トロイ:『身体の動きにも所作にも変な動き....無かった!
でも.....、.... 』
トロイN:『少しの違和感.....。接触の瞬間───....、何もなかった筈..!
杉本からは体の少しの震えも感じられなかった!.......!
でも...一つ....。』
茨:どうした!!何かあんのかよ!!!
茨N:ックソ...杉本の連続攻撃が鋭くなってきてる...!!!
そろそろ避けんのもキツイ!
先刻のダメージに対して原因も対策も考える暇が無ェ!!!
...このままじゃジリ貧だぞクソッタレ!!
<視点変わる 杉本からの視点>
杉本N:無謀な攻撃が止んだ!
自分達のダメージの理由...、言い換えれば私達の能力を理解し始めている!
杉本:君達ほど高火力じゃないが....私の拳も軽くない!
<ブォン、と杉本の拳が茨の鳩尾を目掛けて飛んでくる。>
茨:お....ッとォ!
ガレオン:『和香!業力が揺らいできている!
速度が落ちているぞ!集中しろ!』
杉本:っく...分かった!
杉本N:分かってはいるんだけどね...!
“茨君の拳”!
振るわれるでもなく、そこに”有る”だけで気力がすり減らされる!
茨君の攻撃を警戒しながら戦うという事と業力の維持!!
両立しながら戦うのは至難....!!
<視点変わる 茨視点>
茨:おい!何黙ってんだァ金髪!
時間も無限じゃねェんだぞ!
トロイ:『ケンちゃん!
聞いて!今から私の仮説を話す!
ケンちゃんが納得したら“私の合図に合わせて”!』
茨:ッぐ....!聞かせろ!
杉本:みすみす目の前で行われる作戦会議を許すように見えるかい?
<ゆらゆらと身体を揺らし始める杉本>
茨:何だ...!?
捉えきれねェ!
ガレオン:『今だ。』
<ガレオンが合図をする。それが告げられた瞬間、杉本は地面に倒れ込むほどの低さで地面に臥せる。
その体勢から上半身を腕で支え、下半身を上に振り上げるような体勢で蹴りを繰り出す。>
トロイ:ッこれは.....!!
茨:カポエイラ!!!!
いや、正確には別の呼称が有るらしいが...!
杉本:君と違って私は様々な格闘経験を積んでる。
文字通り血反吐を吐いてね。
お陰で歯医者の常連になっちゃったよ。
顔に蹴りを喰らうと歯ってのは割と簡単に折れちゃうのさ。
ガレオン:『上と下の左奥歯と下前歯二本...だったか。
稽古とはいえ、やり過ぎなのは否定できないが。』
杉本:....何て戦闘形式か知ってる?
確か...バトゥーキ。だったかな。
何に気付いたか知らないけど、君にいつも通りの攻撃なんてさせない。
そしていつも通りの攻撃もしない。
そぉ....らッ!!!!!
<杉本が攻撃を繰り出す>
トロイ:『っけ...ケンちゃん!後ろに倒れ込んで!
杉本の蹴りは伸びる!!!
倒れ込んで足を延ばして蹴る上に...業力を足に纏って視覚的な攻撃範囲を裏切ってくる!
実際に見えている杉本の脚よりも広い範囲に攻撃が当たる!!
想定の1.2倍の攻撃範囲を簡単に埋めてくると考えて!!』
茨:了解!!!
ッうぉッ...!!!!
ガレオンN:『ほう...。
よく見ている。
いや...茨稜剱の肉体強化の能力!
其れは腕力だけでは無く五感を始めとした知覚も強化され...鎧に姿を変えた茨稜剱のBAIXEにも引き継がれている!
優秀な戦闘指揮だとは思っていたが!
身体を使わない分強化された知覚を観察にフルに注ぎ込めるのか...!!!』
<杉本の蹴りが茨を掠め、空振る。>
茨:勝機!!!!
回避してやったぜ...ッ!
そしてその技の弱点!
技の威力が高い分...外した直後の隙は直立の形式より致命的い!
当てる...!!!
<杉本がくるんと回転し、両の脚を地面に付けるも、防御の準備が出来ていないように見える。そんな杉本に向けて全力のアッパーを打ち込もうとする茨。>
杉本N:...物理的攻撃は無駄と言っているのに...!
然し..!
やはり!!
対峙して分かるこの圧!
茨君の攻撃に対してどうしても神経を尖らせざるを得ない!!
....良い....、良いね!!!!
私はまだ冷静!!!!
ガレオンN:『良し。良い兆候だ。プレッシャー───即ち恐怖の克服──…、それは個々人によって最もバラつきが有る…!
その中での和香独特の思考方法!それは...敢えてプレッシャーを分析する事で自分の思考をクリアにしていくという過程を孕む!
つまり茨稜剱の攻撃の脅威を反芻したという事は!和香は今!我を見失わず適度にプレッシャーに寄り添えているという事!』
杉本:このタイミング!
.....“認”!!!!!
茨:うっしゃあああああああああああああああああッ!!!
N:轟音。
吹き飛んでいく茨。
溜息をつき、蹲る茨を気絶させる一撃を放つ。
芋虫のように転がって白目を剥いた彼を抱き上げて療養室に連れて行く。
────────筈であった。
ガレオン:『.....バカな..............!!!!』
杉本:な..................................
茨:へ....へっへ......。
ザマ見ろ.........だぜ..........。
<拳が直撃した瞬間、茨の身体が空中でギュルルルン、と回転する。
そのまま地面に叩き付けられる筈が、両膝と左腕で地面に着地し、ずざざざ、と後ろに吹き飛びそうになっているのを勢いを殺し耐えて立ち上がる。
ダメージが有るようには見えない。>
杉本:な.....何故吹き飛ばない!!!!
どんな.....
茨:なんでだと思う?
杉本:...........................まさか.....
トロイ:────的中!
杉本:....まさか............!!!
<場面転換 数分前>
トロイ:『聞いてケンちゃん。
さっき杉本を殴った時に....一つだけ、見つけたことが有る。
私だから見つけられた...杉本の手にあった小さな指の切り傷。
きっと私達の攻撃を躱すときに...私達の攻撃をいなした手が軽く怪我したんだろうね。
然も出来たばかりの傷....血が球のように出血し、流れていた。』
茨:それが何だってんだよ...!!!
トロイ:『私達の攻撃...閃光万力瞬撃は撃った時の業力の衝撃だけでも強い風が生まれる程の威力。
指先を垂れる液体なんて吹き飛ばす筈。
雨の中を走る自動車の窓を思い浮かべて。
車の窓についた水滴は、車が走っている限り軌跡を残して後ろの方に流れていく...。
然し、彼女の指の血は私達の拳の風圧を全くものともせずその場に留まっていた。』
茨:....あの女が全身を業力で包んでいるからじゃねェのか?
肉体を薄い膜で包んでいるから外部からの物理的な力をある程度阻んでいる線も有んだろ。
....単純に防御力の向上の為に全身を業力で包んでいることによる現象と見ても違和感は無え。
今更そんなトコに目ェ付けたって.....
茨N:────....イヤ。待てよ....。
トロイ:『うん。そうなんだよケンちゃん。
私達の攻撃が直撃する瞬間に杉本(あの女)の業力はとても薄くなっていた。
外からの物理的な影響を防ぐほどの強度の業力だとは考え難い...。
でも...流れる血が私達の攻撃による風圧を無視するなんて現象が起きたのは私達の攻撃が直撃する瞬間だけ。
明らかな矛盾だよ。
...それとは対照的に、私達の攻撃が掠めて切断された服ははためいていたし、杉本の髪も揺れてた。
私達が攻撃する瞬間だけ“あの女への物理的な力が全く無視されている”。』
茨:...俺の攻撃の瞬間にのみアイツの身体は自分への物理影響が無視され、然も俺達はその直後にダメージを喰らった...。
って事は...杉本の能力は...!!
トロイ:『.......ほぼ確定だとは、思う。でも、あくまでこの結論は推論の域を出ない。
失敗すれば大きなダメージを負う事は覚悟しなくてはいけない!!』
茨:....いや。俺は信じる。
トロイ:『....!!ケン...ちゃん....!』
茨:勘違いすんな。お前の論理をだ。
今は感情が一番要らねェ。
少しでも可能性があるなら乗る。
トロイ:『....うん...。』
茨:...........。
あークソッ。金髪が居なきゃ出来ねェ事だよ。
有難な。
トロイ:『うん....、うん......!!!!!』
<場面転換 現在に戻る>
茨:杉本!!アンタの能力は....“反射”!!!
杉本:.....ッ..........!!!!
ガレオン:『落ち着け和香!!見抜かれる事自体は珍しくも無い!今はとにかく 業力を揺らさない事に集中しろ!!!』
ガレオンN:『そう...看破される事自体は珍しくも無い...!しかし!茨稜剱とそのBAIXE!!
私達ほどの練度のコンビと戦うのは初めての筈だ!
“この速度で看破される”というのが余りにも脅威.....!
だが!!看破される事自体であれば!いくらでも立て直しが』(割り込まれる)
茨:───しかもよォ。
アンタの“反射”....全自動なんて便利なモンじゃねェな?
いちいち手動で発動させなきゃいけねえ半自動式!
トロイ:『私達の連撃を1発も反射しなかった!!
掠めただけで業力で強化された服や皮膚が切れているのに、ただの一発も反射しなかったという事実!
反射する必要が無いのではなく、”出来ない”と考えるのが自然!それは...反射に何かしらの予備動作が必要だから!!!!』
茨:そしてその予備動作も看破済み!!!
予備動作は....両足を地面に接地させているという事!!!!
俺達に途中までは向かって来ていたのに!!
直撃するギリギリの直前でわざわざ頭突きを繰り出したのは“頭に目線を集中させる作戦”!!!
本当は攻撃を弾くのに必要な動作は“地面を踏み締める”という一連の所作!!
頭突きは俺の目から逸らす為だけの囮!!!
杉本N:────法王乃孤高之塔の致命的弱点すらも見抜いた...だと────.....!!!!!!!
トロイ:『だから私はケンちゃんに私が合図をすれば!!
攻撃が直撃たった瞬間に拳から業力を噴射するように指示をした!!!』
杉本N:..........ッッ....!
攻撃が直撃して私に反射された威力が腕に返ってきた瞬間!
茨くんが跳ね返ってくる威力に逆らわない様に...寧ろ!
跳ね返ってくる威力の方向に向かって身体が動くように業力を拳から噴射!
ガレオンN『柳が風を受け流すように...俺達から向かってくる力のベクトルを正面から受け止めず!
風車のように回転して威力を流して殺したのか!!!』
茨:何を考えてっか知らねェ~が!!
その顔を見て返事してやるよ!
“その通り”だ!
トロイ:『杉本は私達の攻撃を反射してケンちゃんの腕を壊せば勝ち!!!
私達は杉本の反射を見切って間髪入れず二発目の攻撃を叩き込む....!!』
杉本:........間髪入れず二発目の攻撃を叩き込む?
私の両足が地面に接地している間は反射されるとそこまで分かっていながら?
いくら私の反射が凌げようが君達の攻撃が無効化される現実は変わらない!
体術のレベルが私の方が上であるとはっきりしている今!
私の優位は揺らいでいない!!
よくこの速度の攻防の中でそこまで仮説を練り上げたと褒めてあげよう────...、だが!!
楽観的なただの!そうあって欲しいという希望を計算に入れるとはね!
命のやり取りに用いるには杜撰な計画と言わざるを得ない!!
N:杜撰な計画、のフレーズを聞いた直後。
トロイが不快感を露わにしたような低い声で言葉を紡ぐ。
トロイ:『...それで煙に巻けると思ってるの?
そんな安い揺さぶりで動揺する程度のヌルい推測....私達は根拠にしない。
見抜いてんの。』
トロイN:『本当は看破に近い推論だけど...、賭けに出るしかない!
この推論が外れたとしても、私達の能力ならまだ時間は稼げる...!
選択肢は自ずと絞れていく!
気取られるな....、今この会話も戦闘に影響すると肝に刻み込め!』
トロイ:杉本は私達の連撃を反射出来ない。
いや....反射し続けられない。
それは...杉本の反射が一発目を反射してから一定の時間を置かないと反射出来ないという弱点。
杉本が私達の連撃を反射さなかったのは反射にあたって行わなければいけない両足の接地という必須条件と“反射後の冷却時間の存在”を露呈させたくなかったから。
私達の無数の連撃のうち、たった一発を反射した所で閃光万力瞬撃でも無いんだから。私達に大したダメージを与えられる訳でもない。
違和感と多少のダメージを与え、能力のヒントを与えるだけになってしまう。
茨:俺の閃光万力瞬撃を反射されたときに思ったんだよ。
“なんでコイツ、業力がデカくなってねェんだ?”ってな。
デカくなってねぇどころか...俺の閃光万力瞬撃がぶつかったほんの一瞬、お前の身体には必要最低限の業力しか感じなかった。
つまり....反射を行う時にお前は業力で防御出来ねえ。
反射のタイミングをミスればほぼ確で致命傷....、そんなリスクしかねえことをリターン無しでやるか?
...俺の“瞬間輝億”の二段階目で...身体の強化される値がハネ上がる代わりに殴った相手以外が全て透明になって見えなくなるというリスクとリターンの関係によく似る。
直感だが...BAIXE能力には必ずリスクとリターンが存在する。
トロイ:『佐野同様初見殺しの能力だけど。
一度耐えられてしまえば対策を立てられやすいんだよ、杉本の能力。
万が一にも反射に耐えられてしまった場合...、挙句私達の様に跳ね返したダメージをモノともせずに高火力を連続で放ってくる可能性の高い相手の場合...。
反射するのは“ここぞ”の一撃のみ!!
どう?反論が無いなら私達の勝ちだけど?』
杉本N:勝ちとか負けとかそういうモノじゃないだろ...!!
が...しかし....!
杉本:ぐっ...
ガレオンN:『...こんな精度で見破ってくるとは...!
...ックソ!
偽の情報反論の手札が全て封じられてしまった....!
それ程の洞察!!!
言葉での駆け引きの選択肢は瓦解したと捉えるしか無い!
“探偵とは名ばかりの....“だと!?甘かった!!! 茨稜剱とそのBAIXE...!!!あのレベルの攻撃の応酬の中でも!!!彼等の冷静な観察眼は健在だった!これが....探偵という習性!!!!』
杉本:分かった....腹を括ろう。
茨:....!!クックック.....!!
こうでなくっちゃァよォ~~~!!!
杉本:私の“法王乃孤高之塔”による“号哭乃勅命”の反射に君が反応できなくなって腕が吹き飛ぶのが先か!!!
それとも...君達の“瞬間輝億”を喰らって私が吹き飛ぶのが先か!!
ガレオン:『構えろ、和香!』
トロイ:『ケンちゃん!』
茨:“我慢比べ”と行こうぜェ~~~~~!!!!
<場面転換 PCの前でキーボードを叩いているが、ふと指を止める佐野>
佐野:....はあ。
肩が凝る....。
君も凄いね、毎日毎日こんな苦行をこなすなんて...。
ほら、書類仕上げたよ。チェック宜しく。
N:佐野が伸びをしながらエンターキーを叩く。
対支男性職員:現場作業でお忙しいエリートの皆さんにゃ分かんねえだろ~?
事務職は事務職なりにしんどいっつー事よ。
ほら、もう誤字。
こことここ。
...人出が足りねえって分かったろ?
佐野:痛いほど、ね。身に染みて痛感したよ。
対支男性職員:マーサは何してんの?
佐野:休暇だよ、休暇。
対支男性職員:甘やかし過ぎなんじゃねぇの?
一応お前も上司なんだからビシッと....
佐野:支配者として現場に出せるレベルの職員は少ないうえに...マーサは攻撃・防御・補佐全てに応用が利くんだ。
その代わり(割り込まれる)
対支男性職員:業力の消費量が半端じゃない。だろ?
連続で任務に出したらマーサちゃんは壊れる。
...分かってるよ。意地悪言ってるってのは俺だって分かってる。
佐野:所長とそのBAIXE...ヴォランデルタがまた“目を覚ました”。
対支男性職員:寝たきりで傷をつける事は出来ず、白い業力で包まれた“あの”所長のBAIXE.....だろ?
佐野:くっく...何時になく説明口調じゃないか。
対支男性職員:そりゃ悪かったな。時々こうして自覚しないと忘れちまいそうなんだよ。
...前回“目を覚ました”のは1年半も前なんだぜ?
佐野:数年おきに目を覚ましてはBAIXEの核心に迫る知識を述べて、また眠る...。
“原初の英雄達”や“象徴種”という概念も彼女によってもたらされたもの...。
対支男性職員:で?今回はどんな知識を俺達に与えてくださったんだよ?
佐野:“絶望を胸に抱く存在” “目覚める” “人類の行く先” “BAIXEが何処から来たのか”
....この四つを呟いて...また眠ったよ。
対支男性職員:そりゃまた意味深な。
何時もに増して抽象的な表現だな。
佐野:.......。茨くんを襲った支配者。
その支配者を唆した謎の存在。
対支男性職員:それがヴォランデルタの言う“絶望を胸に抱く存在”....ッてか?
佐野:ああ。
そして....その存在は強大な権力を持っているか、現実改変もしくは大規模かつ強力な催眠もしくは人間の思考に介入する類の能力を持っている可能性が高い...。
対支男性職員N:茨くんとの戦闘で敗北した支配者を物理的にも記録上からも抹消できる程の...。
佐野:“キナ臭い”のオンパレードだ。
ここ数年に比べて何かおかしい。
対支案件の数の増加もだが...。
何か.....。
対支男性職員:“そんな気がする”だろ?
佐野:....まぁ、ね。
だが..僕のこういう勘は当たるんだ。
遠足前の雨、下校してから家にかかってくる電話、初課金の10連ガチャを引く前、そして....
対支男性職員:“人類の行く先”。
佐野:.....<煙草を取り出して口に咥える>
対支男性職員:禁煙だぞ。
佐野:...ふう~...。<煙を吐き出す>
僕と同じ意見だろ?
対支男性職員:.....。
滅多な事言うなよ、紫。
何処で誰が聞いてるか分かんねえんだから。
佐野:....フ。
ありがとね、社会人。
見習うとするよ。
佐野N:.....茨君。
君が鍵だ。
君に何かが有る。
.....胸騒ぎがする。
頼んだよ、和香。
<場面転換 トレーニングルームの杉本と茨。
二人の攻防のやり取りが激しくなっている。>
ガレオン:『和香!!
フェイントだ!!』
杉本:なかなか小癪な戦い方をするじゃないか茨君!!!
男なら....フェイントなんてせずに!!!
一直線に撃いよ!!!
茨:ギャァァアッハハアアア!!!
俺世代じゃそんな馬鹿正直は流行んねェえんだよ!!
茨N:これだ....、これだ!!!
俺が燃えるのはこの感じ!
分析に分析を重ねたその先!!!
最後に残った純粋な暴力のやり取り!!!!
出せよ....、早く出せよ!!
杉本の能力!!!
その時がお前の敗北!!!!!
杉本N:攻撃の速度が上がってきている!!!
興奮状態になっているのか!!!
支配者になりたての人間が陥りがちな症状....、業力中毒状態!!
支配者の精神から生まれ出でる業力に心が無防備に晒され続る事で陥る状態!
茨君が序盤の様に“分析”に気を遣わなくなり、思う存分に力を振るう事にのみ業力を生み出す傍から放出して攻撃するという行為は!
精神状態への大きな影響...もしくは脳への何かしらの影響が起きる!!
今の茨くんの様子から判断するに.....起きているのは脳内麻薬の過剰分泌!!!
つまり──
トロイ:『ねえェケンちゃん!
凄いよ!私達!!私達今一つになってる!!
私達が世界の全部になってる!!
見える....、見える!!!全部見える!!!全部聞こえる!!!!!
私達が気に入らないもの....、全部!!全部全部全部!!!!
ブッ壊しちゃおうよ!!!!大好きだよ...、大好きだよケンちゃん!!
ケンちゃあああああァん!!!!』
杉本N:────一種の絶頂状態に近い!!
茨:おやおやァ??
神妙な顔してどォォした?
簡ァァ~~~ん単に背後取れちまったぜェ????
杉本N:な────
ガレオンN:『何て底意地の悪い奴等だ...ッ!!!
当てつけの様に...、』
杉本N:爪先蹴り(トウキック)!!!!
ガレオン:『和香!!!全業力を背中に集中!!!!!!』
トロイ:『遅ェエエエェ~~~よ!!!!!』
茨:オラアアアアアァァッ!!!!
杉本:うご....ォ....ッ!!!!!
N:背中に自身の体内の全業力を集中させる杉本。
その直後に茨稜剱の拳が直撃する。
ガレオン:『が....ッ.....は.....!!!!』
茨:手ごたえ有りィ!!!!
っぐハハハハハハハハハハハッ....!!!
ハァ~~~ッハッハァアア!!!!
“実践とは実戦”ンン!!?
了ォォォ~~~~~解だよ先生ェエエエ!!
<吹き飛ぶ杉本に走って距離を詰める茨>
トロイ:『閃光万力瞬撃....!!!!』
茨:ブッッッッ飛べ!!!!!!!!!!!!!!!!
N:茨の右腕から放たれた二発目。
それが杉本の脇腹を撃ち抜いた瞬間、木製のバットが折れるような嫌な音が響き壁に向かって吹き飛んでいく。
<壁に直撃して倒れ込む杉本>
杉本N:息が....、出来ない!!!
肺が...、せり上がって....、ッ....!!!
...骨も....ックソ!!!折れてる...!
3本じゃ効かないぞ...この痛み!!!!
ガレオンN:『吹き飛ぶ俺達に走って追いついた挙句!!
不完全な姿勢で力のみでブン回した拳でこの威力....!!!』
トロイ:『まな板の上の...、何だっけ?』
杉本N:!!!!!
もうこんな近くに...!!!
然もこのまま....!!!!!
私の顔面に向かって...ッ...!!!
茨:鯉だってよォォォ!!!同感だぜェエえええ!!!
そうやってスッ転がってるテメェを見てッとなァアァァァああああ!!!
ガレオンN:『この選択肢しか無い...!!』
杉本:両腕に業力を纏わせる!!!
N:自分の顔を守るように腕を交差させる杉本。
杉本:ぐああああああああああ────ッ!!!!!!!
N:過剰演出だと思っていた。
杉本N:確かに聞こえたぞ....、クソッ!!!
N:漫画やアニメで使い古された表現────
骨が軋む音。
杉本N:どこまで馬鹿げた威力なんだ...!!
茨くんの能力による肉体強化!!!
<ゴロゴロゴロ、と茨からまた距離を取る形で吹き飛ぶ杉本>
茨:防御しやがった...ァ.....?
トロイ:『往生際....ッて奴?
ケンちゃぁ~~ん....。
早く消滅しちゃおうよォ?』
<ゆらりと立ち上がる杉本>
杉本N:両腕でガードした分....腕のダメージは脇腹より浅い!!
殴り合いは出来ないが....
ガレオン:『さぁ....最終局面だ。』
杉本N:バトゥーキなら!!!!
<逆立ちのような体勢になって茨の顔面に向かって蹴りを繰り出す杉本>
N:杉本の取った選択肢。
立ちではなく伏せを主とする────
────バトゥーキ。
上半身で体を支え、強烈な蹴りを放つ戦闘形式は、腕の損傷が大きい杉本からすれば当然の選択肢である。
戦闘経験の浅い茨からすれば一度見たものとはいえ対応が後手に回るのは当然である。
だが.......
茨N:ぶヮァアアカが!!!!!
お前の“反射”は両足の接地が必須条件!!!
わざわざ逆立ちがメインの蹴り技を繰り出す時点で自分の持ち味を殺しているのと同義!!!!
<杉本の蹴りを拳で弾き、見切っている様子の茨。
茨の攻撃が効いているのか、動くたびに血を吐き、苦悶の表情を浮かべる杉本。>
茨:ジリ貧だって気付かねェワケでもねえだろ!?
時間稼ぎにすらなってねェェェんだよ!!!!!
杉本N:まだ....、まだ!!!
まだだ!!
茨:クソ...ッ、死にぞこないがァアア!!
時間稼ぎにすらなってねぇッつッてんだろ!?
ウザってぇエエエんだよ!!
終わっとけや!!!!!!
N:周囲の気温が下がるような錯覚。
トロイ:『“瞬間輝億”!!!!
────“収束”!!!!』
茨:閃光万力瞬撃!!!!!!!!!!!!!!!!!!
<茨の視界に映る、完全に吹き飛んで壁にめり込む杉本。>
茨:これが実戦!!!!
俺は強ェ....!!
俺は強ェえんだ!!!!
出来る....、出来るんだ!!!
支配者共を皆殺しに出来る!!!!
これが俺の牙!!!俺の実力!!!
俺の才能!!!!!!!
見ろ....、見ろよ!!!!!
クックック....、次はどいつだ?
次はどいつを殺せる!?!?!?
俺は最強だ!!!
俺は!!!!!
俺は.....
俺は.......?
杉本:────────やあ。おかえり。
茨N:................は?
N:耳鳴りのような音。
それは次第に大きくなっていく。
そして耐え難いほどの音量になった耳鳴り(それ)は唐突に止む。
音が止んだ時、茨はようやく理解した。
茨:な゛.....んで......俺......が........?
N:自分の攻撃が杉本の能力に反射され、吹き飛ばされたという事。
そして壁に叩き付けられ、壁に埋まるような体勢で自分が居る事。
茨N:何時間......いや、、何...秒....気絶していた.......?
N:全身に鉄の鎖が巻き付いているような動きづらさを感じながら、首を動かす。
茨N:右......腕の......感覚.......が.........
N:そして目に映るのは、圧倒的な“破壊”。
茨N:................何.........だ..........こりゃ.............
N:有らぬ方向に“二回”折れ曲がっている己の右腕。
ガレオンN:『....これ程とは。もし反射出来なかった時の事を考えると....。寒気がする。』
茨:ぶォッ.は.....、ごぶ.....
<口から大量の血を吐く茨。>
茨:何...........が..........
ガレオン:『お前は間違っていなかった。
見立て通り...俺の反射は確かに両足の接地が前提条件。』
茨N:杉本の能力は使えねェ.....筈......だ.......。
地面から両足を離してた....だろォ...が......!!!
杉本:いや。正しくは....
茨:........!!!
茨N:まさか.........それ........だけじゃ........
杉本:両足の接地ともう一つ。
ガレオン:『“法王乃孤高之塔”...、“号哭乃勅命”の発動。その発動の為の前提条件。
正しくは....両足若しくは両手の接地。』
茨:ふーーーッ...!!ふーーー......!!!
げぼッ、おォ゛ぇッ......、クソ.....!!!
そういう事か........!!!
N:瀕死の茨稜剱の脳が、回り始める。
茨N:“両足の接地”のみが反射能力の発動条件だと思い込まされた....!
わざわざぶつかり合う直前に速度を殺してでも反射を行ったのが良い証拠!
しかもあのバトゥーキ!
あれは両足を地面から離して戦う事で“反射能力は無い”と油断させる為の罠!!!
だが実際は足を地面から離していても....、
地面に手さえついて居れば能力は発動可能だった!!
俺を行動不能にできる程度の威力を反射するまで!!!!
耐えてやがッた!!
まるで....、まるで!!!
俺が佐野の幻覚を喰らいながら一撃を入れた時みてェに!!!!!
茨:演技....派....じゃねェかよ.......
杉本:傷付いたかい?馬鹿正直。
ガレオン:『和香。』
杉本:....分かった。
茨くん。もう2日程寝ていてもらう事になるだろうが...
──合格だ。
杉本N:支配者との戦い方をこれだけ教えられたら御の字だ。
業力の操作もより地盤を固めたうえでのトレーニングが可能。
何より...どんな能力なのかを収められたのが大きい。
<壁にちらりと目をやり、埋め込まれているであろうカメラを一瞥する。>
杉本N:欲を言えばもう一つ....
茨N:き...ん....ぱつ,,,,,、
ガレオンN:....下がった視点。即座の業力の練り直しをする素振りも無し。
.....指摘するのは酷か。BAIXE同士での戦闘の手札の多さ。疑っても疑っても足りないという理不尽さ。其れを身をもって体験して命があるのだ。圧特に所属する彼にとっては大きい収穫....。研修を終わらせ、医療チームを呼んでやるのが現実的か...。
ガレオン:『和香。彼の右腕の重度の複雑・及び開放骨折が顕著だ。
後遺症を出さない為には早く骨の固定をせねば...』
N:くぐもったように聞こえるガレオンと杉本の声。
そして肉を打つような鈍い低音。
それが自分の心臓の音だと気付くのに時間がかかるほど、茨稜剱の身体へのダメージは大きかった。
茨N:きこ...え...ねぇ.....。
N:自分の呼びかけには、何の音も、温もりも返ってこない。
両腕から感じていたあの温もりは消え失せ、染み込むような痛みと冷たさのみが残されていた。
杉本:分かってるよ。療養室に運ぶ手筈を整えなきゃ。
....いや、どうやって引っ張り出すの?
彼、このトレーニングルームの壁にめり込んでるんだよ?...信じられないな、全く。
どんだけ頑強にしてあると思ってんだよこの壁。
ぶつぶつ....
茨:...何やッッてんだよ....俺は............。
N:痛みへの悪態でもなく。
杉本とガレオンによる理不尽ともいえる暴力への不満でもなく。
零れたのは、自分への恥。
自らに湧き出でた忌むべき彼女へぶつけた憎悪。
そしてその彼女へ慈しみは疎か、気にもかけずにBAIXE能力をただ貪るように振るい、戦ってきた自分のある種の“傍若”さへの、恥。
様々な理論武装で無視し続けていた傍若は、右腕の徹底的な破壊により対峙せざるを得ず。
ガレオン:『.....!!!!!
避けろ!!!!和香!!!!!』
N:───対峙とは。
向き合うという事。
杉本:────!!
来た!!!!
N:子供が大人になる為に必要な儀式。
“性を知る”
“死を目の当たりにする”
“殴る” “殴られる”
“労働とその対価、その両方を提供する側に回る”。
ガレオンN:茨稜剱のあの様子!
戦意喪失によるものでは無かった!
寧ろ現在の状況を冷静に飲み込むことによる────!!
N:日本では前述の例以外に────
ある例では教師によって。ある例では両親によって。
ある例では誰にも教えられるでもなく行われる儀式は、こう表現される。
“自分と向き合いなさい”。
其れは苦しくて、恥ずかしくて、嘘が通用しない事だけれど。
茨N:...正直、許す気にもなれねェ。
明日から手を取って、BAIXEと仲良くなんてできるワケも無ェよ。
でも...。でもよ。
トロイN:ケンちゃん。
茨N:オレがやってんのは、オヤジがやってた事と同じことなのかもしんねェ。
N:きっと貴方がどんな人間になりたいかを、再確認させてくれるから─────
ガレオンN:精神の成長!!!!
N:ガレオンの叫びに一瞬遅れて、和香が飛びのく。
刹那、和香の居た空間が光の触手のようなものに薙ぎ払われる。
杉本N:.......ッッッ!
ギリギリ!!!
<壁に埋まったままの茨稜剱。
茨稜剱の左手。
黒と金の装飾が施された鎧。
その手の甲の部分から光る船の錨のような形の触手が伸び、杉本の居た場所を薙ぎ払った。
触手の先端は口を大きく開けたワニのような形状になっていた。>
茨N:...腕が....温かい......
これは......、業力............。
トロイ:『...そんな事ない。そんな事ないよ、ケンちゃん...。』
茨:........聞こえてた....のか......。
N:めきめきと音を立てながら、自分の身体をゆっくりと壁から引き剥がすように起こす。
トロイ:『私達BAIXEは、支配者からの感情や想いをその身に充填し、張り巡らせる。
さっきまで仮死状態だったんだよ、私。でもね。ケンちゃんの気持ちがね、私に流れ込んできたんだよ。ホントだよ。ケンちゃん。』
茨:......うるせー.......。
ガレオン:『瀕死という有り得ない状況!!!それによって引き起こされる強い精神のうねり...!
若しくはその状況下に追い詰められ...BAIXEと深く通じ合ったに違いない..!!
得たのだ...、たった今!
────名前を────...!!
いや!正しくは.....!
新しい業式を!!!』
トロイ:『構えろよ、女。』
杉本:いいや...、“それ”を待っていたんだよ茨君!!!
茨:......ハァ...ハァ.....。
何を待ってた.....ッて......?
ガレオン:『落ち着け!瀕死の筈だ!どんな能力であろうともあの体力では万全の働きなど出来はしない!業力で治癒を計る様子も無い...、まずは業力を淀み無く全身に流せ、和香!』
杉本:分かってる!分かってるさ....!!!
他でもない“これ”を待っていたのは私たち自身なのだから!
.....ッ....でも!!!
ガレオンN:そうだ!!.
重々承知して臨んだ筈だ!!
なのに...、今になって!
所長のBAIXE...!
ヴォランデルタの台詞の記録が脳裏に浮かんでくる!!
<場面転換 1年半前。 対支本部内最深部 所長室奥の隠しドアの向こうの寝室。>
N:暗く広い部屋に大きく柔らかそうな洋風のベッドがスポットライトに照らされている。
その中央には白髪の少年とも少女とも言えない美しいBAIXEが横たわっている。
所長:やあ。目が覚めたかね。
ヴォランデルタ:...いつもすまない。
所長:何を...。
私から生まれただけで、君は私の業力で実体化していない。
8年前から君は君自身で業力を生成し存在している。
私の身体には何ひとつ負担が無いのは君も分かっているだろう?
....すまない、貴重な時間を。
ヴォランデルタ:...もっと、君と話していたいよ。
私にとっては君との他愛もないこの僅かな時間だけが....もっとも貴ぶべき時間なのに...。
所長:....いつか、“眠り”を克服できる日が来る。
ヴォランデルタ:うん。
.....本題だ。
私が思い出したのは、“象徴種”と“原初の英雄達”について。
支配者には特別な種が居る。
“原初の英雄達”は...文字通り最初のBAIXE。
BAIXE、又はBAIXEと時を過ごし、業力の質を理解している人間であれば“原初の英雄達”と対峙するだけで理解できる程の業力を持つ特殊な存在。
彼等はBAIXEの始祖であり...この世界の構成を担う力を持つ者達。
私が思い出したのは一端だ。
例えば────
『水』
『炎』
『重力』
『屈折』
『闇』
『時間』
『電磁気』
『引力と斥力』
『圧縮』
そして...。
そして....、何故か...
強烈に思い出したんだよ。
そう....確か....
<場面転換 現在に時間戻る。>
茨:────閃・光・海・蛇。
ヴォランデルタ:『光。』
つづく