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茨のベーゼ  作者: XXXX
3/8

茨のベーゼ 3話

N♂:

茨♂:

佐野♂:


トロイ♀:

シズカ♀:







〈病院でゆっくりと目を覚ます茨稜剱〉


茨:ん…。


トロイ:…………!!!


わ〜ん!ケンちゃん!


〈ベッドに横たわる茨。そこから横に目をやると、今にも泣きそうな顔で自分の顔を覗き込む金の長い髪の美しい女性が居た。そして茨が目を覚ますと同時にふにゃんと表情を緩めて抱き付いてくる。〉


茨:ぬおおっ な、何だ!!!!!!ここは何処で誰!!!!


トロイ:んふふっ、聞きたいことが一緒くたになっちゃってるよケンちゃん。


茨:巫山戯ふざけんな!

テメェ何者だ金髪。

よく見りゃちょい透けてんな。

誰のBAIXEベーゼだ?


茨N:っクソ…メチャクチャ麻酔が効いてんのか体に力が入んねェ…。特に右半身…。

オマケに記憶も曖昧だ… 確かストーカーから助けてくださいっつう依頼で…


トロイ:……そうだよね。混乱してるよね、ケンちゃん。ね、だったら…


茨:今すぐオレから離れろ!

何処だナースコールは!

うおおおおよりにもよって右にあるぞクソッッタレ!!!

力が入らん!!!!


トロイ:ぎゅ〜ってしてあげる。

ね。



〈白い服装に白い肌のトロイが茨の頭を抱き締める。必然的に暴力的なまでのトロイの胸の柔らかさが茨の呼吸を難しくさせた。〉


茨:もがっふ


トロイ:大丈夫だよ。親切な人が通報してくれたみたい。

救急車が来てね、ケンちゃんは搬送されたの。


茨:ああえお!!!


トロイ:んふふ。

赤ちゃんみたいだね、ケンちゃん。

落ち着くでしょ?


茨:あ!!!あ!!!え!!!お!!!


トロイ:なになに?「母でしょう」?

もうっ、やだ… そんな急に敬語で言われたって嬉しくないんだから…


茨:ぶはっ!!『離れろ』つっとんだ!!!!

息出来ねえし!!!!!


トロイ:はわっ…ご…、ごめんねケンちゃん。


茨:意味もわかんねぇだろ母でしょうって!!!! 


トロイ:でかまる子ちゃんのぐるぐるメガネくんみたいで可愛くて、つい…


茨:クソが。

…まぁ良い。


いや良くねぇよ。

お前誰だって聞いてんだろうが!

BAIXEベーゼならお前のあるじを言え。


恨みを買われるのはしょっちゅうだが、こんな形で探り入れてきたのはお前で初めてだぜ。


トロイ:私の事、本当に知らない?覚えても無い?


茨:な…、なんだよ。顔近づけんな。

覚えてねェよ。


……………いや……。



N:遅ればせながら覚醒した脳に流れ込む、昨夜の記憶。


──支配者ルーラーに襲われた。


文字通りの『襲撃』。


明らかに殺害を目的とした、無駄の無く練られたプランに沿って行われた自分への攻撃。


必死に抗い続け、気付けば────


目の前のこの女が、急に脳内に現れた。


自分を慕っていると告げられた。


次の瞬間、自分は敵を殴り付けていた。



コマ送りのように流れる記憶。


事実、所々の欠落けつらくはあるものの、茨は間違いなく思い出した。


茨:お前は…まさか


トロイ:そう。私はトロイ・ロロフス。


茨:辞めろ!その先を言うんじゃねぇ!!!!


トロイ:───────ケンちゃんのBAIXEベーゼだよ。


N:トロイの声からは、既に先程までの想い人への熱の籠った艶は消えていた。


内に秘めた二つの意思を容易に感じられる程の真っ直ぐな声は、茨稜剱の二の句を告げさせぬ程に実直であった。


茨:オレが…


この…オレが…



っくっく……


〈自嘲の笑みを浮かべる茨〉


トロイ:…知ってる。

私たちBAIXEベーゼは発現までのあるじの記憶を継承する。 

…といっても、主の記憶している部分しか共有できないから、歴史をそのまま知っているわけでは無いんだけどね。 物心ついてからのケンちゃんの見ていた世界を私は共有しているの。ケンちゃんの感情や、その時の痛みも一緒に。…だから…、今のケンちゃんの気持ち、私はとても


茨:ッッッ…、黙れ!!!!!!

一丁前にオレに寄り添う気か!!!


お前等がオレから家族を奪ったッ!!!

全員がそうじゃねェとか…ッ!

そういう問題じゃねェ!!!


オレのこれから先の命の使い道は!!


フザけたお前らBAIXEベーゼとかいうゴミクズを震え上がらせて…もう2度と人類に牙を剥く事など考えられなくしてやる事だッ!


例外なんざ無ェ!!!!!


お前もオレの敵であり! オレの家族を引き裂いた存在と全く違わねェ存在だ!!!


悟ったような口を聞くんじゃねェこのバケモンが!!!!



トロイ:………。


茨:何とか言ってみろ!

どうした?

言えねェのか!!?

言えねェよなァ!


オレの過去を知った気になったバケモンが!

オレの目の前にヘラヘラしながら現れた挙句、オレがあるじだと!?

だったら命令してやるぜ!!


どっかに消えちまうか、二度とオレの前に姿を現すな!!


っぐ…ッッ、


〈上体を起こし叫んだせいか、点滴が数本抜け腕から血が流れる。〉


トロイ:…ッ、ケンちゃん、血が


茨:ッッッッオレに!!!!触れるんじゃねェ!!!!!!


N:言葉の勢いとは裏腹に、突き飛ばそうと伸ばした手はか弱く震え、ゆるゆるとトロイの前に差し出される。


トロイは一瞬悲しそうに目を細めるも、茨の手の指におのれの指を絡め、茨の耳元に唇を寄せた。


トロイ:良いよ、ケンちゃん。私の所為せいにしても。


茨:ッッ.....。


トロイ:だって私は、ケンちゃんから離れられないっていう...、

...、“ケンちゃんのBAIXEベーゼ”っていう、“最高の贈り物(プレゼント)”を貰ってるから。


だから、良いよ。全部私の所為にしても。


ね。ちょうだい、ケンちゃん。


ケンちゃんの気が済むまで、私が受け止めてあげる。


茨:な....ッ...。


N:理解できなかった。


それは、“探偵”という職業を選択した茨稜剱くさぶきりょうけんという男にとって初めてと言っても良い未知。

自分以外の生き物に全てを委ねる。

それが報われぬ結果であることが目に見えても、その結果すらも愛おしそうに受け止める。

そんな道。


茨:オレ...に....


トロイ:ううん。さわるね。


だって、その方が...。


ケンちゃんも気持ち良く 私の所為に出来るもんね?


茨:....ッぐ.....!


N:動けなかった。


声も 出せなかった。



“黙れ”  “詭弁きべんを垂れるな” “化物”。

脳裏に浮かぶ罵声の数々は、彼女トロイの囁き声に 奇妙に押し退けられた。


そして何よりも。


『この女は 自分の内側から湧き出たのだ』


という思いが、自分の心の奥底を冷やした。


────もしこのBAIXEという存在が、自分という存在の何処かから湧き出たものなら。


無から有は生まれ得ぬという、この世界の法則に照らし合わせるのなら。


この化物は()()()()()()()()()()()()


茨:黙れ!!!!オレから離れろと言っているンだッ!!!!!


佐野:良いですね〜。大学生がやる安い恋愛って感じで。


茨:────ッッだ、


N :“誰だ”の声を塞ぐ様にトロイが敵意を隠さぬ声で口を開く。


トロイ:ここは支配者ルーラー専用治療室です。 関係者の届け出は出されていません。即刻退出して下さい。


佐野:おや、邪険にしないで下さいよ。

────支配者ルーラー同士。


トロイ:巫山戯ふざけないで。

それ以上ケンちゃんに近付けば殺す。


シズカ:さえずるな。


〈佐野の背後からベーゼ“シズカ”が現れ、トロイに急接近し押し倒す。 シズカの手に握られているのは指揮棒で、トロイの喉にその先端が突きつけられている。〉


トロイN:ッッはや─…!


シズカ:虚勢も相手を選べ、派手髪女。

そこに寝ている犬は貴様を実体化させる体力すら無い事は一目で分かる。


次私のあるじに“殺す”とでも言ってみろ。

貴様の主が人であった事など...誰も分からない形にしてやろうか。


トロイ:ケンちゃんが犬だと…!!!!


佐野:はいそこまで。

…はぁ。シズカ。何をそんなに荒れるんだ。昨日僕がピアノを弾かずに寝たのをまだ怒っているのかい?


シズカ:………、そんな事は…


佐野:昨日の夜は余りに冷えた。あの気温では弦をはじくと弦に悪い…それに、指もかじかんで動きが悪くなるから、と言ったろう?

明後日の休日に沢山聞かせてあげるとも言ったじゃないか。


シズカ:然し、


佐野:........二度は言わせないでくれ。


シズカ:....失礼しました。



トロイN:.....この圧...。

“慣れ”ている....。



〈ぱっと表情を戻し茨に向き直る佐野〉



佐野:さて、初めまして茨稜剱くさぶきりょうけん君。

私は佐野・Sシュルクゆかり。母がイギリスの生まれでね、小さなころからクラシックに触れて育った。

だからだろうか....、楽器が好きでね。げんかん、それに...。楽器であれば聞くのも演奏するのも熱が入ってしまうのさ。


茨:........................。

何モンだ。


佐野N:....即座に傾聴けいちょうの姿勢か。

情報収集に目的を変更した方が合理的、とでも判断したのか....。

賢いねえ。

...むしろ暴れてくれた方が楽でもあったのだが。



茨:さっきオレは病院内ではまずありえねえぐれえデケえ声出したんだがな。

看護師どころか警備員も来なかった。

何かの権力....もしくは能力が介在していると見るべきだ。だろ?


俺の襲撃に来たのならちょい用心しすぎッてトコだ。

....そこの金髪みてえに暴れたりしねえよ。

話してえことがあんならサッサと話せ。


佐野:.......成程。

探偵事務所を君含めたった二人の従業員で半年持たせる18歳。そこそこ回る頭をしているようだ。


では、自己紹介を続けるよ。

お察しの通り、私は超法規的な権力も...超常的な能力も、持ち合わせている。

人間としても、社会人としても、支配者ルーラーとしても僕は君よりかなり先輩だ。


ほら、証拠。


<胸元から手帳を取り出して見せる佐野>


茨:...日本国対支配者独立行動部隊 .....(にほんこく たいるーらー どくりつ こうどうぶたい)?


佐野:略して対支たいし

その中の鎮圧特課ちんあつとっかってところで責任者やってます。ヨロシクねえ。


茨:フザけんな。

そんな部隊聞いた事無ェよ。


佐野:そうだろうね。

一般公開はされていないから。

っていうか、そうでなくとも支配者ルーラー関係の組織なんてここ数年のモノなんだから知られていないのも無理ないでしょ。


茨:...そうか。

んで、その秘密の部隊のおっさんが何しに来たんだよ。


佐野:失礼な。まだ27だよ。


茨:オレの質問に答えろよ。


佐野:鎮圧特課ウチへの勧誘スカウトさ。


茨:断ったら?


佐野:断れないね。


茨:.....そうか。


──────金髪!!!!


トロイ:うん、ケンちゃん!!!!


<トロイの姿が溶けるように消え、代わりに茨の両腕が眩しく輝く。そして次の瞬間、ベッドから跳ね起きて佐野の背後に一瞬で回り込む。>


茨:バカが。

寝てんのか?

それとも運動不足か?

こ~~んな簡単に後ろを取らせてくれてよォ。

オレの麻酔が切れるまでダラダラ話してくれてありがとよ。


....ま、ここは幸い病院だ。ベッドもオレのを使ってくれ。


瞬間輝憶ライトロード・フラッシュバック”!!!!!!!!


茨N:よく分かんねェがこの能力を使うと身体の調子が絶好調どころじゃねェくれえ動く...ッ!

現に...この病室の床ッ!

オレが踏みしめた箇所だけ重いものを引きずったみてェにあとが出来ているッ!


佐野:ほお~。威勢が良いじゃあないか。

先ほど「憎い」と吐き捨てた女性の能力を使うのかい?


茨:黙れ!!!!!

これっきりの使い捨てだ!!!!

近くに武器が無ェからしゃ~ねェ...

それに...テメェの意表も突けたみてぇだしなァ~~~~!


佐野:ああ。意表は突かれたよ。


茨:そうかよ!!!!!ところで保険証持ってっか!?!?!?

入院費全額負担はキツイだろうからよォ~~~~~~~~!!!


N:脳裏に現れる知らぬ筈の“何かの名前”。


ただ、その“何かの名前”を、茨稜剱は感覚で知っていた。

『これが自分の能力の名前だ』と。


身体が通常の何倍もの速度で動く。

何倍もの強さを筋肉に感じる。


瞬間輝憶ライトロード・フラッシュバック”と口にし、闘志を燃やせば、”あの夜”と同じことが起こる。


そう体の感覚で分かっていた。


茨:全治一か月くれえにはしといてやるよッ!

しゃりゃァァァァァッ!!!!!!


N:然し、佐野の顔面を捉えたはずの拳には、肉を打つ感覚は無かった。


佐野:ああ、成程。


君には、“僕がそこで喋っている様に”見えたんだね。


N:茨稜剱は、分からなかった。


何故、急に体が重くなったのか。


何故、佐野の声が右から聞こえるのか。


──────何故、“佐野が居た筈の空間”には、何も無く。


おのの拳が虚しく空を切っているのか。


佐野:....どうやら、僕の入院手続きはしなくても良さそうだ。


N:ぽんぽんと、佐野に肩を叩かれる。


トロイ:ケンちゃん!ケンちゃん、私の声が聞こえる!?!?

ケンちゃん!!!


<気付けば茨はベッドに横たわったままであり、トロイは自分の肩に縋りつき、自分の顔を両手で挟んで、自分に大きく声を投げかけている。

能力を発動させたはずの腕は光を発しておらず、佐野はいつの間にか自分のベッドの横に腰掛けて座っていた。>


茨:な....テメェは確かに.....


佐野:いいや?僕は何もされていないよ。


というより、君も僕も、一歩も動いていない。


茨N:....ッバカな!!!

確かに俺はあいつのスキを突いた筈...ッ!

位置も威力もタイミングも!全てこの佐野とかいう男に一発入れる完璧な調整をしていた筈...ッ!!


佐野:...分かってくれたかな?

支配者ルーラーとして僕は君より先輩...という言葉の意味が。


そして支配者ルーラーと対峙するにあたって必要なのは”先入観を捨てる事”。


茨:...........ッ............!


佐野:君はまだ麻酔も抜けきっていなければ....身体も動かせる状態ではない。

そしてそんな君を”自分は攻撃が出来る状態だ”と認識させられる僕。


力量の差は分かったかな?


茨:.....ッ殺す......!!


佐野:それは良い。

君はこれから沢山の支配者ルーラーを殺せるのだから。

利害の一致だね。

あ....いや、半殺しにトドめなきゃいけないから....ま、そこは数でカバーか。


茨:お前を殺すつってんだ!!!!勝手に話を進めんじゃ無ェ!!!


佐野:進めざるを得ないんだよ、茨稜剱くさぶきりょうけん

何故なら....君はこの町で犯罪もしくは犯罪スレスレの悪質な行為を犯す支配者ルーラーに対し、あまりに直接的に動き過ぎた。

君はこの町のみならず、支配者ルーラーの犯罪者達...引いてはより大きな存在に目を付けられているのだからね。


茨:そんなモン、片っ端からブッつぶ


佐野:無理だね。

昨日君を追い詰めたあの支配者ルーラー、居ただろう?

ウチで調べたところ....

名前は雲黒くもぐろいつく

21歳のフリーター...1年前までは引きこもりだったそうだがね。


“まるで急に人が変わったかのように生活は荒れ始め、社交的(陽キャ)になっていった”そうだ。

どこからか金銭を得、違法に軍事的な商品を取引して大量入手していたらしい。


ま、ベーゼによる能力を使えば可能だろうが....


話のキモはここではない。


整理しよう。


雲黒斎くもぐろいつく支配者ルーラーとして覚醒をして...たった1年。


君が探偵事務所を設立して半年。


君と何の関係もない支配者ルーラーが、街の小さな探偵事務所の探偵を...


“たった半年で自分の能力を駆使し殺さねばならない”と何故思い立つ?


能力で軽犯罪を繰り返しているとはいえ...精々軍事ミリタリーオタクの彼が、何故自らの能力を駆使して君を殺しに来るのだろうか?


茨N:.......。


N:“確かに”、といわんばかりのくさぶきの沈黙を無遠慮に無視するかのように佐野は続けた。


佐野:そう。

雲黒くもぐろは単独犯では無い。


いや寧ろ、被害者であると言える。

ほら。


<カバンから新聞を取り出して投げて寄越す佐野。受け取る茨>


茨:ん.....コレは。


佐野:読んでみなよ。今日の朝刊だ。

小さい記事だがね。ホラ、右斜め下の記事。


茨:.....『昨夜22時頃の交通事故 死傷者2名...、


雲黒斎くもぐろいつくさん 21歳』....ッ!?



佐野:運転をしていたのは無職の多符おおふ しょう46歳。

...両者ともに即死。だそうだ。


トロイ:.......そんな....


佐野:勿論君達の記憶違いなどでは無い。


この雲黒斎くもぐろいつくは昨夜間違いなく君と拳を交え、君に敗北した。

つまり、君の殺害に失敗したわけだ。

結果、事実は“何らかの力”によって揉み消され....事故死として処理された。

勿論事故死の犯人も実在する人間。


対支が警察と法務省を洗ったが....死亡届も捜査関係書類も、完全に公式オフィシャルの記録として処理されている。


分かるね?

“戦闘において返り討ちにされた人間が”

“翌日には事実と違う形で存在を消され”

“その人間を消すために無関係な人間をも巻き添えにされ”

あまつさえ警察と法務省に”事実と異なる偽の記録であるとすら認識させないまま"、捻じ曲げられた事実を公表させられる存在。


そんな存在が、雲黒斎くもぐろいつくの背後に居る。



茨:...........。


なんで、


佐野:“なんで俺なんだ”、だろう?

ごもっとも。


そして僕達 対支も思っている。


()()()()()()()()?とね。


茨:ふざッ..


佐野:巫山戯ふざけてなどいるものか。

いや、むしろ先ほど述べた理由が君を勧誘するに足る理由なんだけどね。


シズカ:貴様の経歴を調べた結果、支配者ルーラーの犯罪者に対しても物怖じをせず肉弾戦をいとわぬ接触を行う...、とか。

フン、下品この上ない....。....が、支配者ルーラーに対しての抑止力と足る存在であることも確か。

しかもそんな貴様が支配者ルーラーとして覚醒したと来た。


佐野:そういう事。対支たいしとしては放っておけないのさ。


謎の存在...しかも巨大な力を持ったその存在。

そんな存在が関与している可能性のある支配者ルーラーになったばかりの人間。

極めつけに詳細不明の危険な能力を君は持っている。


...なら、保護と監視、オマケに君の能力を腐らせるのはもったいない、ッてことで。

絶賛人出不足の我等『日本国対支配者独立行動部隊(にほんこくたいるーらーどくりつこうどうぶたい)』としては、鎮圧特課に君を迎え入れたいんだけど....どう?


トロイ:...ッ、勝手な事言わないで!!!!

ケンちゃん、こんな奴の事なんか聞かなくてもいいんだよ!

何をされるか分かんないし、それに...ッ、何かを隠してるに違いないよ!!!


茨:....黙ってろ。


トロイ:...ッ、ケンちゃん...!?


茨:入る。入るぜ、そのタイシに。

その代わり,,この金髪の能力は使わねえ。


トロイ:ん....。


<悲しそうに俯くトロイ>


茨:タイシには入る。...が、俺はこの金髪を自分のBAIXEベーゼと認めねえ。

こんなモン居なくてもオレは戦える。


佐野:さっき君は能力を使って僕を殴ろうとしたじゃないか。


茨:意表を突こうとしただけだ。

状況に応じて道具がそれしかねぇから使ったまで。

対支で働くんなら支配者ルーラーじゃねえオレを想定しろ。


シズカ:....私個人としては不本意だが。

私達は....引いては対支鎮圧特課たいしちんあつとっかは。貴様を支配者ルーラーとして認めたうえで勧誘している。

貴様らの関係などどうでも良いが,,,,


支配者ルーラーの能力を行使するお前 に私達は価値を見出している。


貴様の下らぬ意地など捨てろ。


茨:下らねぇだと...!!!


佐野:おい。


<瞬時に佐野の姿が視界から消え、次の瞬間には茨の背後に移動している。

茨の喉元には銀色の指揮棒が突き付けられている。>


茨:ッ.....何.....


トロイ:ケンちゃん!


シズカ:辞めておけ。

私も貴様は気に食わんが、一応は同胞。

胸を痛めるのは趣味ではない。


<茨に駆け寄ろうとするトロイの前にシズカが体で立ちふさがり、動きを阻む。>



佐野:僕は対支でもまだまだ下っ端でね。

君はそんな僕にもこうして簡単に後ろを取られる程度の存在なんだ。

ああ、気を落とさないでくれ。

人類と支配者ルーラーとの差は恐ろしい程の差が有る。

君が今まで支配者ルーラーと争って生きていられただけで君は凄い、それは間違いない。


だが....昨夜の戦いで分かっただろう。

標的を定め、明確に殺意を持った支配者ルーラーには太刀打ちなどまるで出来ない。

殺されるだけならまだいい。BAIXEベーゼによる能力は使いようでいくらでも君を媒介に君の周囲すら破壊させる。

君の”出し惜しみ”で対支が危険に晒される事は看過できない。


茨:フン、じゃあどうする?

オレが素直にそういう脅しに屈するタマに見えるか?


佐野:だろうね。きっと君はその返事をするとも思っていた。

だからこそ残った選択肢は....確保。

分かるかい?

君の確保だ。


茨:.....ずいぶん優しいじゃねぇか。


シズカ:っふ...


<思わず、といった様子で隠し切れないように笑うシズカ>


茨:.....あぁ?


佐野:責めないでやってくれ。

彼女は僕のBAIXEとして現れてまだ日が浅い。

この場においての『確保という言葉の意味』をそんなにも......好意的に。

そう解釈してくれる君の純粋さが可愛く見えてしまって仕方ないのだろう。


さて、では僕の今使った『確保』という言葉はどのような意味を持つのか。

それは...君の自由など考慮せずに決行される拘束。

最低限の安全が保証された場所で期間を定めない拘留こうりゅう

そして,,,対支は君のBAIXE能力を調べるためにあらゆる実験や検証を行うだろうね。

そこに君の人権を考慮したスケジュールが組まれる可能性は非常に低い。


.....長々と喋ったが、『君が殺されないだけの幽閉』。そして保証されるのは『外部によって殺されない事のみ』。


トロイ:....ッッッ......横暴な!


佐野:そう、横暴だね。法律によって明確に禁止された行為さ。

では警察にでも届けるかい?

おっと、警察は君達に関する記録を抹消した存在の息がかかっているのだったね。

僕達も独立した組織として日本国から承認を得た存在。

ある程度の超法規ちょうほうきの行動は無理やり行える。


さぁ、分かったかな?


君が選べ。

子供じみた我儘を貫き通し、いつ解放されるか分からない日々を過ごし、身体を弄られるか。

君自身の能力をフルに使い、君の復讐を果たすか。



茨:.......よっと。


<おもむろにベッドに備え付けられた机に手を伸ばす茨>


佐野:.......。


茨:....慌てねェな。


<そう言うと机の上のコーヒーの入ったカップを掴んでゆっくりと口に含む茨>


佐野:慌てないさ。

君の喉元には僕の特注の指揮棒が突き付けられているしね。


茨:....退けてくれ、これ。邪魔だよ。


<コップを握った手の甲で佐野の手に触れる>


佐野:それは出来ないな。

君からの答えを待つまでは。


トロイ:.....ねぇ。


シズカ:何だ。


トロイ:さっきケンちゃんを笑ったよね、貴女。


シズカ:....? あぁ。


トロイ:ケンちゃんの純粋さが可愛かったから、だっけ?


シズカ:.....フン、今更腹が立ったか?

だからどうした。貴様の主の未熟を呪え。


トロイ:ううん。貴女の気持ちがわかったの。

結構呑気なんだね、貴女の『ご主人様』。


シズカ:.......?何が言いたい...?


トロイ:んふ。

なんだ。そういう顔も出来るんだね、貴女。


シズカN:なんだ...?この女の態度、何かおかしい....


シズカ:ゆかり様!

警戒を


茨:もう遅ェよ。

<トロイの姿は溶けるように消え、茨の両腕が眩く輝く。>


佐野:──────なッ......!


茨:よう、おっさん。どうした?

止まって見えるぜ。


<佐野の背後に猛烈な速度で移動する茨。茨が病室の床を蹴った痕が焦げ、焼けたゴムの匂いが部屋に満ちる。>


佐野:何故茨稜剱くさぶきりょうけんの能力...ッ、然も..ッ!

このバカげた速さ...ッ!“対象を殴った際の”身体強化が発現している....ッ!?!?


茨:長ェ説教してるうちに気持ち良くなっちまったか?

忘れんなよ。俺は支配者ルーラーが大ッ嫌えなんだよ。

手前ェらの都合なんざ知るか。オラァッ!!!!!!


<そう言うと握ったままのコップを佐野に叩き付ける。>


佐野:うぁッっぐゥッ!!!!!!!!!!


佐野N:な....ッ、バカな!!!

瞬時に背後に回って...ッ、軽く振り回したコップで殴っただけでこの衝撃...ッ!

右腕が完全に折られた...ッ...!


....................コップ........?


茨:やっぱ入院手続きは必要っぽいな?

ま、オレがやっといてやるよ。

後は動けねぇ様によォ~~...!


佐野N:コップ....!!!コップを握った手....!!!

“拳を握った形”....!!!

しまった...ッ!


茨:キレ~に足をへし折ってやっからよォ~~~~ッ!!!


佐野N:『殴る事で身体能力を更に強化する能力』ッ!!


其処に必要なのは『殴るという動作』....つまり...『拳を触れさせるという一連の流れ』のみッ!


そこに威力の有無は関係なかったのか.....ッ!


茨:もうお前しか 見えねーぜ。


佐野:シズカッッ!!

『演奏』するッ!!


茨:『瞬間輝憶ライトロード・フラッシュバック』!!!!

ぜェりゃッッしゃらァァァァァァァァァ~~~~~~~~!!!!!



<空気がごぉん、と鳴る。そんな速度で放たれた拳が、佐野に触れるどころか空を切る。

佐野の姿は煙のように消える。そして次の瞬間に病室内にオーケストラのクラシックが響く。>


茨:何.......だ..この音楽は...


<そして、部屋のどこからともなく佐野の声が響く。>


佐野:驚いたよ茨くん。

確かに私は間違っていた。


そして...やはり。


君には最初から対話よりもこの方法の方が早かったらしい。


茨:どっ......何処に逃げやがった!!!この音楽を止めろ!!


トロイ:ケンちゃん!

私達はとっくにあの男の能力の“範囲内”に居た...ッ!

拳は当ててあるッ、私達の“瞬間輝億”(ライトロードフラッシュバック)で...!!


佐野:神狂曲こうきょうきょく死苦犯だいきゅうばん


茨N:....何か....来るッ!!!


<拳が空を切ってしまうが、何度も拳を放つ茨>


佐野:『監愧かんき

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