婚約破棄されたけど、その後の求婚者がいっぱい
「ダリア! 君との婚約を破棄する! そして僕フィリッツは男爵令嬢モニカと真実の愛に生きるのです。ご静聴ありがとう」
突然、夜会の最中、フィリッツ王太子殿下より婚約破棄を言い渡されてしまった、私はダリア。18歳の公爵令嬢なのですけど、そんなこと言って殿下ったら。私の家の後押しがなかったら、王太子の地位も砂上の城なのよ? 大丈夫?
私がなにも言えずにいると、パーティーの席上から一つの声が上がった。
「じゃ、じゃあ私が次の婚約者に立候補してもいいかな!?」
え? 私がそちらに目をやると、フィリッツ殿下の弟であるウィリアム王子だ。歳は私と同じで美男でありながら、才能もある優秀なひと。残念ながら後押しする貴族がいなかったけど、ウチがバックについたらそりゃあ次の王太子になっちゃうわよね?
「なんだと、ウィリアム。引っ込んでろ」
「兄上はダリアと婚約破棄なさるんでしょう。では口出し無用です。私は幼い頃より可憐な花のようなダリアを好きだったのに、王命にて兄上がダリアの婚約者になったので諦めざるをえなかったのです。ですがこうなれば私が立候補します」
「なにぃ!?」
あわわわわ。兄弟ゲンカが始まっちゃったわ! えー!? たしかにウィリアムの恋する目線に気がついてなかったわけじゃないけど、いやーん。今それに答えなきゃ駄目? どうしよう。
そこに、別の声が上がる。
「ちょっと待ったあ!」
「ちょっと待ったコール! あ、あなたは! 隣国の皇太子、エドワード殿下!」
お? ギャラリーのお陰で誰が声をあげたか分かったわ。
我が国の二倍の領地を持ってる帝国の皇太子さま。今日は外交のために来ていたんだったわね。
「ダリア。一目見たときから、素敵な人と思ってたんだ。王太子殿下から婚約破棄されたのであれば、我が国にいらっしゃい。私の妃の部屋を与えます」
「え? 本当ですか殿下」
「ええ、もちろんですとも」
マジですか、エドワード殿下。飛ぶ鳥を落とす勢いの帝国の有望な皇太子が第一印象から決めてましたと。さぁこりゃ困ったぞ? ウィリアム殿下とエドワード殿下。どっちをとればいいのぉ?
盛り上がってるそこに、またもや新たな声。
「待ってください!」
「あ、あなたは、『法王を守る魔導騎士団国』の長、グレゴリオ騎士団長!」
「ダリアさん。我が国は領地だけに及ばず、すべての国に影響を持つ法王の直轄です。私と共に世界を巡ってみませんか?」
ええー!? そんなに若くて団長ですの? 『法王を守る魔導騎士団国』? お国の名前長くて覚えられないですわー? えー、でも金縁メガネがこれ程似合うかた、おられるかしら? 私、メガネフェチだったりするのよね。
「こうなったら、僕は婚約破棄をやめるぞー!!」
「もう兄上は引っ込んでてください!!」
「そうだ、そうだ! 彼女は私と帝国にいくのだ」
「いえいえ騎士団国です。毎日が巡察名目の世界旅行」
ああどうしたらいいのかしら? たくさんの殿方が私を奪い合うなんて……!
「ダリア。僕と結婚するよな?」
「一度裏切った兄上など信用できません。ダリア私の元に来てください」
「第一印象から決めてました。ダリア、私の手をとってください」
「世界があなたを待ってます。さぁ私のところへ!」
四人の将来有望な殿方が頭を下げて私の前に手を出してきた。私は誰の手をとればいいのぉ?
その時だった。パーティー会場の灯りが全て消えて真っ暗になったのだ。突然のことにざわつく会場。
「早く灯りをつけろ!」
「あ、点いた!」
「ん? ダリア嬢は?」
「い、いない? 一体どこへ──?」
◇
気がつくと私は空の上から街を見下ろしていた。誰かが私を抱えている。
「お目覚めかい? 子猫ちゃん」
「あ、あなたは、怪盗トマホーク!?」
「その通り。今宵はあなたを盗みに来たのさ」
怪盗トマホークだった。空を飛んでいるのはトマホークのグライダーだわ。
しょっちゅう私がピンチの時に現れては偶然救う形になっていた義賊。いつも「あなたのためじゃない」と言って去っていたけど、今日は私を盗みに来たですって?
「だってあなたはいつも私に気がなくて……」
「そんなわけないだろ?」
そう言って大空の上で情熱的なキス。ああこの人はいつも私の心を盗んでしまう。
「で、でも私、あなたのことよく知らないわ?」
「そうかな?」
彼は私を抱いたまま仮面を取った。
「あ、あなたは私付きの使用人トム!」
「その通り、お嬢様。ずっとあなたが好きでした。もう公爵家には戻りません。このまま私とあなただけの国を作りましょう。構いませんね?」
「──まったく。勝手だわ。私に断ることなどできないのでしょう?」
「ええダリア。私のかわいいお嫁さん」
そして私たちは満月の中に消えていった。
それから私は誰も知らない土地で、愛する人の元で楽しい人生を送ったのでした。
〈了〉