表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

妹の友達

『勉強教えて欲しいんだけど』

 大学二回生の僕に妹がこんな事を言ってきた。


「別に良いけど。だけど、みーちゃん高校の推薦ほぼ確定って言ってなかったっけ?」


『ゴメン、私じゃなくて友達に。最近伸び悩んでるみたいでさ……昔からお兄ちゃんの教え方上手かったし』


「みーちゃん、もう子供じゃないんだし、思春期を迎えてるんだよ?相応の頼み方っていうものが有ると思うんだよ」


『え?』


「もっと嫌悪感を出して、話したくもないけど仕方なくお願いしてる雰囲気で言わないと。後、呼び方もお兄ちゃんでなくてアンタとかで」


『お兄ちゃんが何言ってるか全然わからないんだけど』


「それともう一つ。……膝の上から降りてくれない?」




 そんな遣り取りから3日後、妹の友達に勉強を教えることになった。


 相手は何度か家に来た事が有る娘だった。


 熊野川 伊織。

 騒がしい妹の友達の多い中、物静かで穏やかな顔付きの小柄な女の子。他の娘が騒がしかったから、逆に一際印象に残る娘。


 騒がしいのが苦手な僕には正直やりやすかった。


 週に3回程勉強を教えることになって、実は伊織さんは勉強が得意なんだろうと思うようになった。

 伸び悩んでるのも、少し苦手なところがあっただけなんだろうと思った。


 教えた所は次からはまず間違えたりしない。応用も臨機応変に出来る。


 これならわざわざ週に3回も家に来て勉強しなくても大丈夫だろうと思って、休憩時間にそれとなく言ってみたら泣きそうな顔で続けてほしいと頼まれた。


 あまりに真剣にお願いしてくるので、理由を聞いて見ると伊織さんは『絶対人には言わないで下さいね』と言って着ている制服を捲り上げた。


 下着が見えるほどに大きく捲ったその制服の下には大きな痣と無数の火傷痕。


 絶句した僕に伊織さんが小さな声で言う。


『家で勉強してると、親に酷い事されるんです』


 どうやら伊織さんはDVに合っているらしい。


「警察とか児相に言ったら?」


『中学校は皆と一緒が良いんです。高校は知り合いを頼って遠くの所にするつもりです』


「な、ならせめて毎日家に来るのは?」


『そんなご迷惑掛けられないです』


 伊織さんは遠慮するも、説得して毎日勉強しに来ることになった。


 妹も歓迎して、一月もすると毎日我が家で夕食まで食べていくことに。夕食後伊織さんを自宅まで送っていく。


 真っ暗な家の前まで伊織さんを送る。


 いつ来ても真っ暗な家の前まで。


 それから暫くしたら、伊織さんが家に泊り掛けで来ることが増えてきた。


 以前より妹と仲良くなったみたいだし、僕に話し掛けてくる時も幸せそうな表情だったりするし、少しでも自宅での辛さが忘れられれば良いと思っていた。


 そんな日々の中、ある夢を見た。


 夜中に目が覚めて、寝ぼけた状態で寝返りをうつと目の前にこちらをじっと見つめる伊織さんの顔があった。

 睡魔に負け目を閉じる。


 そんな夢。


 朝目覚めて、「あれ?夢だった?」と思うけれど昨日は伊織さんは泊まりに来ていない。


 最近一緒にいることが多いから、たまたまこんな夢見たんだろうと思ってた。


 けれど、それから頻繁に同じ夢を見るようになった。


 毎回夜中に目覚める夢。目を開けると目の前に顔があったり、気配を感じてそちらを見るとそこに伊織さんが居たり。


 そのうち伊織さんの残り香、というか気配を感じるようになった気がしてきた。朝起きるとなんとなく落ち着かない気分になる。


 余りに頻繁に夢を見るようになったので、妹に相談してみた。


『一度あたしと部屋交換してみる?』


 その案を採用して、部屋を交換して眠る。


 目覚めは快適だった。


 自室に行ってみると妹が起きていた。眠そうだった。


『何か夜中に人と気配を感じて目が覚めてね。結局その後よく寝れなかった』


 そう言いながら妹は支度をして学校へと向かった。


 大学で講義を受けて帰ろうとするとスマホに着信。妹の担任からだった。


 どうやら妹が階段から落ちたらしい。


 急いで病院へと向かう。

 幸い、妹に大きな怪我はなかったが、頭を打った可能性もあるので1日検査入院する事になった。


 伊織さんが付き添って居たので話を聞いて見ると、誰かに押されたらしい。走り去っていく男子生徒を見たという事だ。


 恐らく、妹に告白してフラレた誰かの逆恨みだろうと。


 伊織さんを送っていくように妹に言われたので送っていき、その後、妹の着替えを持って再度病院へと。


 病院で妹に詳しく話を聞くと、妹が小声で話し始めた。


『あたしを突き落としたのって多分伊織ちゃん。直接かどうかはわからないけど、関わってるのは間違い無い』


『あの娘階段を落ちた私に対して嗤いながら降りてきてた』


『後、お兄ちゃんが見てるっていう夢も多分夢じゃなくて、実際に本人がそこにいたんだと思う』


 訳が分からなかった。


 詳しく聞いて見ると、夜中に気配がして目が覚めた時部屋のドアが少し開いていて、伊織さんが部屋を覗き込んでいたらしい。


 ナツメ球の薄明りの中だから確証は無いけど、確信は有るそうだ。

 朝通学途中で一緒になって、その時に『僕と一緒に寝る事あるのか?』とか『ベッド交換して寝たりとかするのか』等と質問してきたらしい。


 タイムリー過ぎる質問だし、そもそも家の位置関係で、通学路を大きく外れないと一緒になることは無い。



 妹を通して僕に勉強を教えて欲しいと最初に持ち掛けてきたのが伊織さんからだったという。


 妹よりも成績も良く、高校も隣県の私立が第一志望で既に推薦も取れているらしい。


 何でわざわざ隣県の私立?と思ったが、妹にその疑問は通じていた様で

『お兄ちゃん来年から大学のキャンパスかわるから一人暮らしするって言ってたじゃん。あの娘の第一志望すぐ近くだよ』

 と教えられた。


 訳が分からない。

 そんな僕に妹が続ける。


『あの娘多分お兄ちゃんの事好き過ぎてストーカーになってるから。』


 そんな事を言われた。

 放心状態の僕に、

『あの娘の家、両親とも何でも言うこと聞くらしいから、既成事実つくって来年からお兄ちゃんの借りる部屋に居座るかもしれないからね?』


 なんてことを告げる。


「あの娘の親ってDVしてるんじゃ?」以前見せられた火傷痕や痣の事を妹に話す。


『それってホントに親がやったの?むしろ小学校の時あの娘が親に暴力振るってたって噂だよ?だからそれは別の理由なんじゃない?』


 そう言われて思い出す。伊織さんの見せた傷痕。お腹周りしか見てない。


 まさか自分で?


 そんな事を考えてると、面会の終了時刻になってしまった。


 帰り道、誰かの視線を感じたような気がする。


 なんとなく家には帰りたく無かった。目に付いたチェーンの居酒屋へと向かう。


 深夜へと差し掛かる頃帰宅。眠い目を擦りシャワーを浴びる。


 着替えを持たずに風呂に入ったことに気が付く。


 そのまま全裸で自室まで戻る。ベッドへと倒れ込む。

 マットレスとは違う感触があった気がするが、眠気が勝り確認する気が起きない。どうせ妹だろう。


 気にせずそのまま眠りに就く。



 翌朝の悲劇を僕はまだ知らない






最初は全然違うストーリーだったのに、どうしてこんな話になったのだろう?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ