恋心にもドーナツみたいな穴があいてほしかった
ドーナツを見ながら、恋心にも穴があいていたらいいのに、と思った。
だって、だって――だって!
私の恋心って、絶対おっきすぎるから!
「かおちゃん、ドーナツ好きじゃなかったっけ?」
しょも、と眉を下げた幼馴染――ユーキに、はっと我に返る。ユーキからもらったドーナツを見つめすぎてしまったみたいだ。
ユーキは、漢字だと夕雨輝。夕方の雨が輝くって、めちゃくちゃ綺麗な名前だと思う。
ちょっとキラッとした名前だなーとも思うけど、それはそれとして。
雨が輝いてるってことは、きっとお天気雨。夕方はほんの少し寂しくて懐かしい感じがするけど、お天気雨と合わさったら、目を細めてしまうくらいに美しい光景になりそう。
ぱあっと晴れやかでいながら、穏やかで優しくて眩しいユーキにはぴったりの名前だと思う。
――なんて!!
名前だけでも脳内でこんなふうにポエミー語りをしてしまうのだから、ダメだった。
こんなだから、私の恋心は穴があいてるくらいがちょうどいいのだ。
いや、それでもデカい。重い。自分で引くくらい。他人だったらもっと引く。絶対!
穴よあけ。どうにかあいてください。そんで、誰にも引かれないくらいの、かわいらしい大きさと重さにしてください。
穴があいたところで、そもそもの直径が長いのには目をつぶっていただきたいけど。
「ドーナツ好き! 大好きだよ! ユーキに作ってもらったのだったらなおさら好き! 一生の宝物にしたいくらい!」
口からも勢いよく恋の言葉が飛び出す。
愛の言葉、と言うのはなんだかちょっとおこがましい気がするから、恋の言葉。恋が愛の下位互換だとは思わないけど、なんとなく。
私の返事に、ユーキはふふっと笑う。
あーかわいい。癒される。男子高校生がこんなに癒される生き物であっていいのかな。
今私たちがいるのは、私の部屋。内装は大体ピンクと白でまとめているけど、その中にいたってなんの違和感もないどころか似合っていると言えば、その可愛さと癒し効果も伝わるだろう。
「一生の宝物にしてくれるのは嬉しいけど、食べてからね。美味しい! って思った気持ちを、一生の宝物にしてほしいな。あ、いや、そんなに美味しいかわかんないけど……」
「ユーキの作ったものが美味しくなかったことなんてなかったから大丈夫!」
「俺、今まで結構失敗してきたけどなぁ」
「ぜーんぶ美味しかったよ!」
ユーキの気持ちがこもってるってだけで、どんなに焦げたものでも、砂糖と塩を間違えたものでも、なんでも美味しいのだ。
今までバレンタインや誕生日、なんでもないときにもらったお菓子の数々を思い出してにやけてしまう。お菓子が大好きな私と、お菓子作りが趣味のユーキは相性抜群だった。
半分にチョコがかけられたシンプルなドーナツに、一口かじりつく。
はあー、やっぱり美味しい。この世の至宝的美味しさだ。こんなものを作り出せるユーキは人間国宝になるべき。人間国宝って何かよく知らんけど。
でも、ユーキがいろんな人たちに知られちゃうのは面白くないからダメだな。
「今日のドーナツもすっごーい美味しい! ありがとう! 大好き!」
「ドーナツが?」
「ドーナツも! ユーキも大好き!」
「ふふ、俺もかおちゃんが好きだよ」
わかりきってることをわざわざ確認してくるのも、いつもの花が飛ぶような笑い方も、顔とか口調的に絶対一人称『僕』系なのに実際は『俺』なのも、花緒子って名前をかおちゃんって呼んでくれるところも、好きだよって真っ直ぐ優しく伝えてくれるところも、全部好きだ。
なんでこんなに好きなんだろう。いつから? と、頻繁に考えてみるものの、物心つく前から一緒だったからよくわかんないんだよなあ。
私とユーキは母親同士が親友同士、しかもお隣さんっていう関係で、大昔から(太古の昔って意味じゃないけど、気持ち的にはそう)お付き合いがあった。
気づいたときにはユーキのことが大好きになっていて、気づいた日からずっと『好き』を伝えている。幼馴染愛のフリをして、恋愛の『好き』を。
…………そう。実は私たち、こんなだけど付き合ってない。私もたまに我に返っては、えっ!? ってびっくりしちゃうけど。
付き合って、ません。
付き合いたいなって思わないこともないけど、でも付き合ったら、なんていうか、その事実に甘えてさらに恋心を膨らませちゃいそうで。
あまりの大きさと重さに、ユーキが潰れてしまうんじゃないかって心配になる。まず、受け入れてもらえるかってところから問題だ。
いや、ユーキの懐の深さは尋常じゃないので、受け入れてはもらえるだろうけど……そこから先がさぁ、わかんないから……。
だから、穴があいてほしいな。あけ方はわからないから、こう、自然に。
「次は何が食べたい?」
「うぅーん……マリトッツォとか、作れる?」
「最近よく見るやつだね。できるかわかんないけど作ってみる!」
「やったー! 好き!」
にぱっと笑えば、「俺も好き」とにこっと笑みが返ってくる。ああかわいい。今日も私の幼馴染が最高にかわいくてしあわせ!
* * *
今日も明日も明後日も、そのまた先も、ずっとずっと呑気にユーキのことを好きでいられると思ってた。
思い込んでいた、のだけど。――とんでもない噂を聞いてしまった。
その日の放課後、私はユーキの部屋に突撃して、ずずいっと詰め寄った。
「ユーキ、好きな人いるの!?」
「え。あー……うーん…………何か聞いちゃった?」
「好きな人がいるって言って、告白断ったって聞いた……」
「あ~~」
ユーキは困ったように微笑んで、しばらく何かを考えるように黙り込んだ。私の心臓はその間、ずっとドキドキしていた。
ユーキはかっこいいし可愛いし優しいので、当然モテる。何組の誰々が告ったらしいよ、なんて噂くらいは今までだって聞いたことはあったけど、お断りの理由まで噂で回ってきたのは初めてだった。
ユーキはなんだか、何かを決心したような真剣な顔をして、姿勢を正した。
ゆっくりとその口が開く。
「……いるよ」
ひゅっ、と息を呑んでしまった。
いるよ。
頭の中で、そのたった三文字だけが何度も何度も響く。
いるよ。
いるよ。
……好きな子が、いる。ユーキに? そんなの一言も言われたことないのに?
そりゃ、そりゃあさ、幼馴染だからってなんでもかんでも話さなきゃいけないなんてことないし、私だって好きな人がいるとか言ったことないけど、でも。
それを本人からじゃなくて、噂で知ってしまうのは、ショックだった。
私には言えないの?
私じゃない人には、言ったのに?
……だめ、これはダメな思考だ。
汚い気持ちをぐっと抑えて、できるだけ平然を装って訊いてみる。
「だ、誰? 私の知ってる人?」
「すごいよく知ってる人」
「よく知ってる人!? え、えー、っと、まなかちゃんとか!?」
ぱっと思いついたのは、ユーキと同じクラスの美少女だった。
「椎名さんは彼氏いるでしょ……」
「彼氏いる子に横恋慕してる可能性もあるじゃん……それにユーキと同じクラスで私が友達なのって、まなかちゃんだけだもん……」
呆れ声のユーキに、ぽそぽそ言い訳する。
だって、基本的には私の交友関係は狭く深く、なのである。まなかちゃんは去年同じクラスで、文化祭で一緒にメイドをやったことで(うちのクラスの出し物はメイド・執事喫茶だったのだ)ちょっとだけ仲良くなれた。
まなかちゃんにはすっごくお似合いな彼氏がいるから、あれに横恋慕できるのは相当のツワモノだけだろう。それはわかってたけど。
じゃあ、だれ?
「ほんとに、わかんない?」
「わ、わかんない……」
「もしかして、っていうのもない?」
「それはもうさっき言ったもん……」
私が、すごくよく知ってる人。
それで、ユーキが好きになりそうな人。
――私?
私の狭い交友関係だと、選択肢がすごく絞られて、そんな可能性がふっと思い浮かんでしまう。
でも違ったら恥ずかしいし、気まずすぎてもうこんな距離感でいられなくなってしまうだろう。だから、思い浮かんだそれを口にすることはできない。
ユーキは私の答えが不満だったらしく、ほんのちょっと唇を尖らせた。
「かおちゃんが俺の好きな子当てるまで、お菓子作ってあげない」
拗ねたように言うユーキに、可愛い! ときゅんとしながらも、頭に大量の瓦礫が落ちてきたような感覚に倒れそうになる。
ユーキのお菓子が、食べられない。
しかもこの拗ねっぷり、絶対お喋りも控えめになるやつ!
それはそれで可愛いんだけど、しんどいものはしんどい。
「ヒ、ヒントは!? ありますか!?」
「うーん……それじゃあ、もう一個だけ」
すらりとした指が一本、うつくしく立てられる。
「俺はね、お菓子作り自体は、そんな好きじゃないよ」
ユーキの好きな人って、誰だろう。
衝撃の事実を知ってから一週間、私は今日もうんんと考え込んでいた。
つまり一週間、ユーキのお菓子を食べてない。それはまだ珍しくないことだけど、お喋りも控えめ。しにそう。
ううーん、うーん、私がよく知ってる人。
……やっぱり、私、なのかなぁ。ヒント的に、私の可能性が上がったよね。だってお菓子作りが好きじゃないのに、私が食べたいって言ったものなんでも作ってくれるのは、それって私が好きってことじゃないのかな。
でも、違ったら?
ユーキが、私じゃない人に恋をしているとしたら。
――今までそんなこと、考えたこともなかった。
私はいっつも、私の気持ちのせいでユーキがしんどくなっちゃったらやだな、とか、そういうことばっかりで。ユーキが私じゃない人を好きになる可能性なんて考えたこともなかった。
もちろん私のことを好きになる可能性も考えたことがなくて……単純に、たぶん。
私は、自分の気持ちしか考えてなかったんだ。
今更気づいて恥ずかしい。うわ、うわぁ、恥ずかしい。こんなんでよくユーキのことが好きとか言えたな。
羞恥心でどんよりと心が重くなる。嘘。いや、嘘でもないけど、羞恥心だけじゃなかったし、重いだけじゃなかった。
ユーキが他の子を好きだったら嫌だな、って思って。ずきん、ずきん、と、心に穴があいたみたいに痛い。
恋心に穴があくのは歓迎だけど、心自体に穴があいちゃうのはだめだ。こんなにしんどいとは思わなかった。
まだユーキの好きな人が誰かも確定してないのにこんなに痛いんじゃ、確定しちゃったらどうなるんだろう。
「……かおちゃん」
昇降口で名前を呼ばれて、はっと振り返る。
振り返った先には、元気のないユーキがいた。元気のない理由は、きっと私とおんなじ。
でもユーキは、拗ねると長い。そして宣言したことは何がなんでもやり遂げる。だから私は、何がなんでもユーキの好きな人を当てなくてはいけないのだ。
「一緒に帰ろ」
「! うん! かえろ!」
久しぶりのお誘いに、声が浮つく。嬉しい! きっとお喋りはあんまりできないけど、一緒に帰れるなら家まで無言だって構わなかった。
なのにユーキは、歩き始めてさっそく口を開く。
「まだ、当てられない?」
本題を切り出すのが早すぎないかな。私との時間が減ったことがそれほどしんどいんだなぁと思うとときめいてしまうけど、緊張で冷や汗が出てくる。
「その、ちなみにさ、何回まで外して平気? 無制限?」
「うん、無制限。思いつく人全員挙げてもいいよ」
「やさしい……」
「そろそろかおちゃんに、俺の作ったお菓子食べてほしいし」
そこまで言っても前言撤回はしないちょっと融通効かないところ、可愛くて好きなんだよなぁ。少なくとも私にとっては、ユーキはユーキであるだけでなんだって可愛いのだった。
うぅん、と唸る私を、ユーキはじっと見つめてひたすら待ってくれる。
……思いつく人を全員挙げていい、なら。私? って訊くのは、最初と最後どっちがいいだろう。どっちが恥ずかしくないだろう。あえての途中? いや、それはなんか微妙……。
迷って迷って、結局最初に訊いてみることにする。嫌なことは先に終わらせるいい子なのだ、私は。
「ユーキが好きなのって、わ……わ、わ、わた、」
ぱあっとユーキの顔が輝く。それでそれで? という目で私を見ている。頭の冷静なところでは、かわいいなぁ、とほっこりできたけど、それ以外のところは緊張で爆発しそうだった。
「わ……わ…………わた、あめ?」
「……ふっ、あはは! 今綿飴食べたい気分なの?」
「ううん……ドーナツ食べたい……」
吹き出したユーキに、力なく首を横に振る。
「言いかけたことちゃんと言えたら作ってあげるから、もうちょっとだけ頑張って。ね?」
恥ずかしくて顔が見れないのに、声が笑ってるからどんな顔をしてるかよくわかった。
それはもう、私の答えが正解だと言っているようなものだった。
「……ほんとに?」
「俺がかおちゃんとの約束破ったことある?」
「そっちじゃなくて」
「あ、そっちか。ほんとだよ」
あっさりと肯定されて、一瞬思考が固まる。
……そ、そこでうなずく!? はぐらかされると思ったのに!
戸惑う私に、ユーキはくすりと笑った。
「ほんとに、好きだよ」
――その言葉も声も表情も凄まじい破壊力で、どかんと恋心を撃ち抜かれた。でっかい穴があいてしまった。
待望の穴だったはずなのに、穴の分、いや穴の分以上に恋心が大きくなった気がする。プラマイゼロどころか大幅なプラス。
やっぱりポエミーなことなんて考えるもんじゃない! なんかこう……なに? こういうのって墓穴掘ってるって言う? あっ、墓穴も穴だ。もういやだ……穴って単語しばらく考えたくない……私が悪かったです……。
なんていう、ぐっちゃぐちゃな思考は現実逃避だった。
真っ赤になって黙り込む私に、ユーキは「だいすき」と追い討ちをかけてくる。
「……頑張って、ってユーキが言ったのに、それ先言っちゃうの……」
「待ちきれなくなっちゃって。あと、誰を、とはまだ言ってないし」
「言ってるじゃん! 顔で!」
「今までもずっとそうだったと思うんだけどなぁ」
やわらかい口調でとんでもないことを言われてしまった。
「だ、だったら私だってそうだったと思うんだけど!」
「うん、そうだったね」
「そうだよ、ユーキが気づかなかっただけで! ……だけ、で……? え? そ、え、うん? どういうこと!?」
私みたいにびっくりしたり照れたりしてくれるかと思ったのに、予想外の答えが返ってきて素っ頓狂な声が出てしまった。
なになになに、全然わかんない! ちゃんと隠してきたのに、隠してきたつもりなのに、なんでバレてたの。
それをなんで、気づかないフリしてたの?
「ごめんね。言い訳になっちゃうけど、必死に隠そうとしてるかおちゃんが可愛くて……。どうせ両思いなら、もうちょっとこのままでいいかなって思っちゃったんだ」
申し訳なさそうでいて、それでいて幸せそうな微笑み。
脳が完全にパンクしていて、とりあえず私はユーキの肩をぽすんと殴ってしまった。
ぽすぽす、ぽす、と立て続けに拳をぶつけていれば、目の前の幼馴染さんの体が震えていることに気づいた。……笑いを我慢して。
「っずるい!! ユーキだけ全部知ってたなんてずるい!」
「えー、でも条件は同じだったよ? 俺だってちゃんと、好きだなって気持ち隠さなかったし」
「私は隠してたけど!?」
「あ、そうだった」
「反省してないな!? もー!! 罰としてこれから一週間毎日私にお菓子作って! 今日はドーナツね!! 明日はマドレーヌで、明後日はプリン! その後は気分!!」
好きでもないことを一週間毎日はきついだろう。今までだってせいぜい一週間に一、二回だったのだから。
でもそれくらいはしてもらいたい! 私が鈍感だったってだけの話かもしれないけど! 私が悪いのかもしれないけど!! でも私は今めちゃくちゃ拗ねてるのでわがままだって言っちゃうんだからな!!
「それご褒美になっちゃうけど、いいの?」
なのにあっけらかんとそんなことを言われて、拗ねてた気持ちがしゅるしゅると鎮火した。
なんで、って訊いたら、ダメな気がする。だけど、訊いてほしそうにしてる気がする。
そんな気配を感じてしまったら、訊かずにいられるはずがなかった。私は……ユーキに甘いので……。
「…………なんで? お菓子作り、本当は好きじゃなかったんだよね?」
「でも、作ったお菓子をかおちゃんに食べてもらうのは大好きだから。一週間毎日食べてくれるんでしょ?」
うっ、と胸を押さえてしまう。いつか私の死因はユーキの可愛さになるかもしれない。それかときめき。
いやまあ、そんな死因普通ならありえないけど、ときめいてぼうっとしてる間に車が突っ込んできて……とかあるかもしれないから。そこまで恋愛馬鹿っぽい考えでもないと思う。そうだと思う。そのはずだ。
「毎日食べる! 残さず食べるよ!」
「うん、ありがとう。楽しみだな」
「私のほうが楽しみ!!」
謎に張り合ってしまってから、はっと気付く。
結局、ユーキの好きな人が誰か、はっきりとは当てられてない。もう答えは決まっているけど、一応は当てるまでユーキのお菓子食べちゃいけない約束だし……。
順序がめちゃくちゃだけど、ちゃんとやっておこう。
そう決心して、ユーキの目を見る。今度は緊張はないけど、羞恥心はあいかわらず。
「ユーキの好きな子って、私だよね?」
にこっと、ユーキが笑う。
「大正解。かおちゃんの好きな人は、俺?」
「だいせーかい!」
「……かおちゃんほんと可愛いね」
にこっと笑い返せば、なぜだかしみじみと褒められた。
「ユーキのほうが可愛くない!?」
「かおちゃんにだけだよ」
「えー、そうかなぁ」
「かおちゃんがそうじゃないって思うならそうじゃないのかも」
「じゃあそうじゃないね!」
あんまり中身のない会話をしているうちに、家に着いた。高校は歩いていける距離のところを二人で選んだのである。
「じゃあ、ドーナツできたら呼ぶね」
「ありがとう! 大好き!」
「ドーナツが?」
「……ドーナツも! ユーキも大好き!」
「俺もかおちゃんが好きだよ」
いつかとおんなじ会話なのに、意味する感情はまったく違う。
それがなんだかくすぐったかったけど、ユーキにとっては今も前も同じなのだと気づいてしまった。……やっぱりちょっと面白くないな。
「ねえ、罰追加してもいい?」
「さっきのも罰じゃなかったけど、いいよ」
「毎日私のこと好きって言って」
ぱちりと目を瞬くユーキ。
そうしてやがて、おかしそうに笑った。
「もともとそのつもりだったよ」
その日食べたドーナツは、とびっきり美味しかった。けど、穴のあいてないドーナツにして! と言い忘れてたので、普通に穴のあいたドーナツだった。むっ……じわじわ恥ずかしさが……。
八つ当たりも含めて真っ二つに割って、半分をユーキの口に突っ込んでやったら、指まで食べられかけて悲鳴を上げることになった。
そういうイタズラは可愛いけど心臓に悪いからやめてほしい!!