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現実の騎士の姿 番外編【板金鎧の可動性(側転もできるよ!)と馬鎧】


 今回は【騎士の鎧と盾】で書き忘れていた板金鎧(プレートアーマー)の可動性と馬鎧について。


 ……ですが、ぶっちゃけると板金鎧(プレートアーマー)の可動性については「後書きにあるURLの動画を見ればよし」でほぼ全部済みます。「百聞は一見に如かず」ですし、本項のタイトルの通り側転や飛び乗りなど身軽な動きを普通にやってるのが見れます。

 しかしそれだとここで話が終わってしまうので、きっちり解説します。


 板金鎧(プレートアーマー)と言われると、全身を鉄に覆われてるんだから重量や可動域の狭さで身動きができないに違いない、と思うのが普通でしょう。自分もかつてはそうでした。


 しかし、実際には真逆で、かなり軽快に動く事が可能です。どれぐらいかというと「日本の当世具足(戦国時代の鎧)と同レベル」で。

 ※(何年も前にアメリカの大学が板金鎧(プレートアーマー)と当世具足を比較する実証実験を行ったネット記事を見た記憶がありますが、本項執筆にあたって探したものの見つかりませんでした……動きやすさは両者変わらず、倒れた状態からの起き上がりだけ当世具足の方がコンマ数秒早いという、誤差レベルの違いしかなかったという結果は覚えています)


 時代にもよりますが板金鎧(プレートアーマー)は凡そ30kg前後あったとされています。

 何故重量があるのにそこまで動けるかというと、重さが全身に分散するよう綿密に考えられて設計されているからでした。


 当時はオーダーメイドという事もあり、装着者の身体にフィットする造りになっていました。これによって、数十kgの重量が数kgずつに散らばり、身体への負荷はそれほどでもないとか。

 感覚としては全身のあちこちにトレーニング用の(おもり)を付けた感じになるんでしょうか?

 全力で動くには当然生身より疲れやすくなるものの、すぐにへばってしまうとまでにはいかないと思えば良さそうです。現代軍の兵士も20kgぐらいの装備ですし。


 また、可動域に関してもかなりの物。

 板金(プレート)でガチガチに固めているから動きにくいと思われがちですが、各所に“遊び”が設けられている事により関節部は想像以上に曲がります。

 この点は、世界中の鎧の中でも最も優秀である事は間違いないでしょう。


 様々な工夫によって、重量が分散されている事と関節部の可動域の広さが実現しているために、板金鎧(プレートアーマー)は軽快に動けるのです。


 しかしそれでも欠点はあります。


 【騎士の鎧と盾】でも説明しましたが、まず通気性が著しく低く暑さに弱い点。

 そしてもう一つ、重量を克服するべく身体に密着させたことで、打撃の衝撃がダイレクトに伝わってしまうのです。

 一応鎧下(ギャンべゾン)がある程度の衝撃を受け止めてくれるでしょうが、十分衝撃を吸収できるほどに厚くなればその分重量が増してしまい、結果的に動きが鈍くなってしまうでしょう。


 機動力を優先して軽量低防御な鎧下で済ませるか、身体への負荷を承知で重厚な布鎧を身に付けるか頭を悩ませる騎士もいたかもしれません。


 余談ながら、日本の大鎧(平安〜鎌倉時代に主流だった武士の鎧)も、時代が進むに連れて箱型だった構造にくびれができるなど(南北朝時代になるとはっきり分かるレベルになる)身体に密着させて重量を分散させる工夫が見られたりします。

 重い鎧を動き易くしようとする思考が行き着く先は、どこも同じな様です。



 次に馬鎧(バーディング)について。こちらも【騎士の鎧と盾】で説明するのを忘れていたものです。


 馬鎧(バーディング)とは文字通り馬に着せる鎧です。世界中で古代から馬に何らかの装甲を装備させて防御力を向上させることは行われていました。

 騎乗した兵士がどんなに甲冑で身を固めても、馬が倒れたらただではすみません。馬の防御も考慮するのは当然の事だったでしょう。


 中世ヨーロッパにおいては、専用の鎖帷子(メイル)を着せる他に厚手の布を馬鎧としたこともありました。布でも分厚ければ人間の布鎧(キルティングアーマー)と同じくある程度の防御となったようです。

 また、人間の物より重くても問題はないので、人間用より高い防御力を持っていたと考えられますし、馬の上から布を掛ける形になるので「カーテンの原理」(布地の柔軟性によって攻撃の力が分散される)が少なからず働いていたと考えられます。布製だからと侮ることはできないでしょう。


 なお戦国時代の騎馬武者も馬に鎖や革の小札(こざね)で作られた馬鎧を着せていた事があったらしく、後北条氏の騎馬隊がそういった重武装で知られていたそうです。(このため戦国最強の騎馬軍団は武田ではなく北条だとする意見もある)


 ヨーロッパでは中世後期になると、馬鎧(バーディング)は人間の鎧と同じく板金(プレート)製となっていき、中世末期から近世初期には人馬共に装甲で完全に覆われました。最早、近現代における戦車と言ってよいでしょう。


 防御力はとんでもないことになりましたが、当然ながら肥大化する重量もかなりのものとなり、突撃の衝撃力は増大した一方で騎兵最大の強みである機動力が低下してしまいました。

 そして【騎士の鎧と盾】に書いた様に、人馬共に重武装となった騎士は、自らの重さによって重騎兵としての限界を迎えてしまうのです。



 ――『かくして十五世紀までには、すべての装備と従者を備えた「重装騎士」は、戦場では役に立たず、また維持するにも金が掛かり過ぎる事がわかってきた。しかし、彼らの有用性が減るにつれて、彼らの気取りは増長した。彼らの甲冑はがまんできないほど飾られ、試合(トーナメント)はますます高価になり、彼らの社会的地位はいよいよ汲々として紋章的伝承に囲まれるようになった。』(【ヨーロッパ史における戦争】33P)



主な参考資料


動画 【Mobility in Medieval Plate Armor/ Armour】conncork

https://www.youtube.com/watch?v=qzTwBQniLSc


西洋甲冑技師、三浦權利氏による西洋甲冑勉強会の体験レポ漫画

【西洋甲冑勉強会漫画の 甲冑分解の図を拡大版】ヤツキアン

https://www.pixiv.net/artworks/38660787

【西洋甲冑を分解(略)レポート】縞しっぽ

https://www.pixiv.net/artworks/38475816


【ヨーロッパ史における戦争】マイケル・ハワード


【ゲームシナリオのための戦闘・戦略事典: ファンタジーに使える兵科・作戦・お約束110】山北篤

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