第5話 女心と和解
ムーユとドレムの兄妹会話です。
ドレムもムーユには頭が上がりませんwww
尚、一番上の登場人物紹介も更新しておきます。
ムーユの欄を追加しておきますので、よろしければそちらもご覧ください。
「兄上、お帰りなさいませ。」
マーレインのドレムの居城で、妹で国王代理のムーユがドレムを迎えた。
これでドレムは自分が魔界に帰ってきたのだと実感したのだった。
「悪いな、ムーユ。勝手に飛び出しちまって。」
ドレムは申し訳なさそうにムーユの出迎えにこう返した。
そういって、ドレムは部屋へ直行した。
そしてベッドにゴロンと寝転がった。
ムーユは怒っている素振りはないのだが、何故急に飛び出したのか気になっているようだった。
ムーユはドレムのベッド付近に椅子を置いて座った。
ドレムに事情を詳しく聞くために。
「兄上……どちらまで行かれていたのですか??」
「アルタルキア。」
「……人間界に……何が目的で……?」
「勇者に……会うためにな。」
勇者、つまりエレーナに会うためにわざわざ国をほったらかしにした理由がわからず、ムーユは首を傾げた。
「勇者……? あの女勇者『エレーナ』に、わざわざですか?」
「ああ。キッチリ会ってきた。」
「目的は果たしたのに……何故そのような訝しげなお顔をされているのですか? 一週間もあちらにいたということは分かりました、ですが……何かなければわざわざ戻ってこないはずです。」
ドレムは一息、フウ、とため息を吐いた。
エレーナと喧嘩した時のことを思い起こすように。
「まあいざ会ってみたんだが……死んだように生きてる感じだった。アレは俺が惚れた勇者じゃなかった。……エレーナじゃなかった。」
「どういう意味ですか?」
「……アイツはティタノゾーア様に仲間を殺されたようだった。今でもこびりついちまってるみてえでな……過去なんて気にしたってしょうがねえ、って言ったら大喧嘩になっちまってな……まあこれでも一週間世話したんだぜ? ただ喧嘩して俺が飛び出しちまった、それが戻ってきた理由だ。」
しょうもない理由を聞いたムーユは一つ、大きくため息を吐いた。
「……あのですね、兄上……」
「な、なんだよムーユ……」
「この際ですのでハッキリ申し上げますが……女の子の心が折れている時ほど優しく接しないとダメです!!」
「は……? ム、ムーユ?? 急にどうしたんだ??」
「正論ばかりで捲し立てても乙女心というのは怒りという油に火を注ぐようなものです! 兄上の、あの勇者……エレーナにそう言ったのは!!」
「い……言い過ぎだった、ってことか……??」
「そうです!! 女は気にするものです、そういうのは!!」
「き、気にするって言ったってなあ……俺はアイツの真っ直ぐな目が……」
「関係ございません! 好きなところがどうとかなんて!!! そういう兄上こそ……過去を気にしすぎではないのですか!?」
ドレムはムーユの必死の訴えにタジタジだった。
しかし、考えてみれば、エレーナの気持ちを理解していなかったというのはあったかもしれない、と思い直し、今のエレーナを受け入れるか……と考えるしかなかった。
「……よくよく考えたら確かにムーユの言う通り、だな……流石に言い過ぎだったかもしれねえ。」
「絶対に謝った方がよろしいかと思われます!! 兄上がエレーナに惚れているというのは私も存じ上げておりますから!!」
「……どこ情報だよ……何処で聞いたんだよ、ムーユ……」
「ティタノゾーア様が倒されるまで兄上が床に伏せっている時です!! なんなんですか、寝言で『エレーナ……エレーナ……』………って!!! 気色悪いったらありゃしない!!」
「マジか……俺、そんなこと言ってたのか……」
「いいからさっさとアルタルキアにまた行ってください!! 気が変わらないうちに!! 国のことは私が請け負います!!」
エレーナのところへ謝りに行けと言われたドレムは頭を掻いた。
「ハ〜ァ……分かったよ、ムーユ。俺の負けだ。エレーナに謝ってくらあ。」
そう言って、ドレムは部屋を飛び出して、アルタルキア王国へと戻っていったのだった。
一方エレーナは。
「ハーァ……何やってんだろ、私は……」
あの角煮を食べ終えた後、テーブルに体を伏せて預けていた。
ここ一週間、家事をしてくれたドレムはいない。
仕方なくエレーナは皿を洗う。
だけど、いつもならこういう間でも掃除をしてくれたドレムの姿がない。
「たった一週間じゃん……アイツと居たのって……」
印象に残っているその姿を、脳裏に蘇ってくる。
ぶっきらぼうながらも、こんな体たらくの自分なんかに文句ひとつ言わずに尽くしてくれた、その姿を。
「お墓参り……行くか……」
どうするべきか悩むエレーナ。
教会裏の墓場に眠るウォレス、リオーラ、フランの3人の元へ寄ることにした。
現状報告と共に。
花を添え、持ってきた酒瓶を墓に掛けるエレーナ。
「……みんな、お酒、好きだったよね……そうやって、バカみたいに笑いあってさ……」
昔を懐かしむエレーナ。
だが、当然のことながら、声はない。
励ましの声も、叱咤する声も、何もかも。
「……私がみんなのところ行けるのは……まだ掛かるかな……ドレムにも言われちゃったよ、過去をウジウジ気にしすぎだって……だから……私は、みんなの分まで精一杯生きるよ……」
溢れてくる涙を拭うエレーナ。
そして、墓に手を合わせる。
「一皮剥けないとな……私も……もう過去に目を向けない、自分をもうちょっとさ……大事にしてみるよ。だって……みんなに生かされた命だから……私は私に、向き合うよ。」
エレーナは墓に眠る3人に誓いを立てて、立ち去っていったのだった。
「……ドレム……何処にいんだろ……私が迎えに行かないとな……」
エレーナは、ドレムを探しに街中を走り回った。
だが、探せど探せどドレムの姿はなかった。
もうすっかり辺りも暗くなった。
エレーナはまだ、ドレムを探していた。
「もう……何処にいんのよ、アイツ……」
その頃ドレムは、草原に寝転がっていた。
謝ってくるとは言ったものの、気まずいのはまだ、ドレムの中に残っていた。
「ハーァ……どうすっかな……かといってどう、謝ったらいいものか……」
悩みながら体を起こし、エレーナの家を目指そうと立ち上がったところ……。
金髪碧眼の巨乳美少女が、エレーナが息を切らしながら辺りをキョロキョロしているのを見つけたのだった。
「……いた……!!!!」
エレーナが声を発した。
「……なんでぇ……エレーナも同じクチだったってワケかよ……」
ドレムは呆れ返った。
なんでこうも無鉄砲なんだコイツは、と。
「……ドレム、その……昨日は言いすぎた、だから……」
「いーよ、エレーナが謝んなくてもよ……俺も言い過ぎたってのはあるしな。……だから俺も謝る。ごめん。」
ドレムは頭を掻きながらエレーナに謝った。
エレーナはドレムの胸に飛びついた。
「良かった……ドレムがもう……手の届かないところにいたらどうしよう、って考えたら……怖くて仕方なくて……」
緊張の糸が解れたのか、泣きながら再会を喜んでいるようだった。
「……気にしてねえからもういいよ。……俺も今のお前を受け入れることにするからさ。」
ドレムは優しく、エレーナの頭を包み込んだ。
温かく、大きい手で。
「ドレム……私さ、アンタが出てってから……アンタの存在がこの一週間で……どれだけ大きかったか、ってのを思い知った……だから今度は…私からお願いしていい……?」
「ん? なんのことだよエレーナ……」
「私の……『従者』になって。……私の……心の支えになって欲しいの………」
「なんだよそれ……今更いいっつの……ホント、面白えやつだな……」
ドレムは苦笑いしながらエレーナの申し入れを承諾したのだった。
こうして二人は家に帰り、眠りについたのだった。
献身編終了。
次回からはほのぼのが多くなるかと思いますが、エレーナの立ち直りを中心に書きたいと思っていますので、よろしくお願いします。