第4話 「いつまでもウジウジしてんじゃねえ!」
ドレムなりの人としての生き方を説きたいと思うので、全力で書き記したいと思います!!
ドレムがエレーナの悪夢を吸い取ってから一週間が経過した。
エレーナの体調が少しずつではあるが、躁鬱状態が解消されつつあり、トラウマで発狂することは消えていた。
……まあ、ドレムの添い寝を一週間続けたからによるものなんだけども。
食事もまあ……大食いが出来る様になるまでには回復している。
食費が保つかどうかの問題ではあったのだが、ドレムもエレーナも、何だかんだ、朝のすったもんだが日常茶飯事になりつつありながらも今の生活を楽しんでいるようだった。
入浴が2人とも終わり、寝ようとした時だった。
ドレムがふと、こんなことを聞いた。
「なあ、エレーナ……まだ引き摺ってんのか? アイツらのことをよ……」
エレーナは苦い顔になる。
自殺願望は消えかけていたし、ドレムとの生活が楽しいとは今では思えるようにはなってはいるのだが、それでも死んだ仲間達の姿を思い返すと涙が込み上げてくる。
エレーナは口を開いた。
「……うん、引き摺ってない……って言ったら嘘になっちゃうかな……まだ気にしてる部分はあるかな……って……」
ドレムは頷きながら聞いている。
事実を言うと、ドレムはエレーナの嘗ての仲間とは顔見知りではあるのだから、実情は夢である程度は理解している。
ウォレス、リオーラ、フラン……まあ、クセの強いメンバーだったということは覚えている。
「なるほどね……それが自殺しようって思ってたワケか……」
「今は……ドレムがいるからまだ気にしなくていいけどさ……でもやっぱ……一緒にいた時間が……長いからさ……思い出す時は全部、みんなの思い出がさ……浮かぶんだよね……」
「……例えば?」
「……みんなで冒険した思い出もそうだしさ……キャンプして……宿屋泊まって……みんなでバカやったりさ……それで……みんなで街を助けて、街の人の悩みも協力して解決したりさ……数え切れないほど……思い出が浮かんでくるな……3年も冒険したからね、みんなと……」
「ふーん……」
死生観がまあ……同胞のシャドーデビルが次々と討ち倒されたのを目の当たりにしているドレムからすれば、3年という時間はかなりあっという間だ。
誰かの死は、もう慣れっこだったし、ドレムに関しては一度死にかけたので、死というのは厳密にいえば感覚は鈍っている。
それがエレーナにとっては深いトラウマになっているんだろう、と考えていた。
大切な人の死というのは、忘れることが出来ないのだろうか、とドレムはそう感じ取った。
「何よ、ふーん、って……」
エレーナはドレムの淡白な反応にジッと睨む。
「……別に、過去のことなんて気にする必要ねーんじゃねえの? 生きる道なんて……未来にしかねえんだからよ……」
前向きになれ、とでも言いたかったんだろう、ドレムではあったのだが、それがエレーナを怒らせる一言になってしまった。
「………何が悪いって言うの……?」
エレーナは鋭くドレムを睨んだ。
だが、ドレムは眉一つ動かさない。
「……過去ばっかに目ぇ向けててよ……そこになんかあんのか? 人間も魔族も……いつかは死ぬんだ。それが遅いか早いか、ってだけじゃねえの? 大事なモンって言ったら俺も妹がいるからわかる。」
そうエレーナの問いに返したドレムだったが、未だ仲間の死を受け入れきれないエレーナにとっては火に油を注ぐような答え方だった。
堪忍袋の緒が切れたエレーナは、左手でドレムの頬を平手打ちした。
「お、おい? エレーナ?」
突然のビンタに動揺するドレム。
エレーナはドレムのベストの胸ぐらを掴んだ。
「アンタに何が分かるって言うのよ!! 仲間を失った痛みがさ……!! そもそも人に悪夢を見せて苦しめてたアンタがそう言える立場なの!? ……いいよね、魔族は……! 私達より長生きできるんだもんね!? 自分で死ねない私と違ってさ、命を全うできるんだから……!!」
エレーナの捲し立てにカチンときたドレムは、エレーナに「ふざけんじゃねえ!!」と叫びながらエレーナの頬を右手でぶっ叩いた。
「さっきから聴いてればよ……ウジウジウジウジよ……ハッキリ言ってムカつくわ!! いつまで過去に縋ってんだ、テメエは!! いつまでもアイツらのことでウジウジしてんじゃねえよ!! 何のためにテメエは生かされたと思ってんだ、アイツらによぉ!!」
これにエレーナもヒートアップした。
「なによ、何も知らないくせに!! アンタみたいな外道に世話されるこっちの身にもなってよ!」
ドレムも口調が荒くなる。
「そういうところだろうがよ!! 俺のしたことなんざ、今どうだっていいだろうが!! 俺がマジな外道だったら頭痛なんて毎朝しねえよ、ドアホが!! 人に甘えすぎなんだよエレーナ、テメエはよ!!」
もう、険悪なムードになってしまっている。
「何よ、その言い草!!」
「テメエは今、何のために生きてんだよ!!」
罵り合いになりながら、殴り合いになる2人。
流血沙汰にお互いなったのだった。
お互い睨みつける。
そして、ドレムがベッドから降り、窓の方向へ向かった。
「……エレーナ……見損なったわ。お前がそんなに過去を気にする女だとは思わなかった。……じゃーな。俺が惚れたお前はそんな奴じゃなかった。」
そういって窓を開けた。
そして窓の淵へ立った。
エレーナはその言い草にイラッときたのか、ドレムを見送るようなことはしなかった。
「……あっそ。勝手に出て来なさいよ! 第一アンタが勝手に押しかけて来て、勝手に世話係になったんでしょうが、そもそも! 私は何も頼んでないわよ!!」
怒りがまだ治らない様子だったが、ドレムはエレーナの方を見向きもしなかった。
「……後悔すんなよ、勇者様。」
そういって、ドレムは窓から飛び降りた。
地面に降り立ったドレムは、マーレインに一度帰ることにしたのだった。
「ハーア、何なんだよ、アイツ……ふざけんなよマジで……」
ブツクサと吐き捨てながら元来た道を戻るドレムは、翌朝にはマーレインのドレムの屋敷へと戻っていたのだった。
一方、エレーナは。
悪夢こそは見なかったものの、寝付きが良くなかった。
調子自体は良くなってはいるが、昨日いたはずの男の姿はベッドの上には無かった。
「いいやもう、口うるさいアイツがいなくても……ハア……顔、洗ってこよ……」
エレーナは階段を降り、洗面台へ向かっていった。
すると、降りたキッチンで、鍋のようなものが竈門に置かれているのを発見した。
「何だろ、これ……」
恐る恐る、鍋の蓋を開けてみる。
「……肉?? 何これ、ドレムが作ってったの?」
しかも、竈門の火は1時間前に消えていたものであり、まだほんのりと温かい。
お玉を使って肉を取り出し、エレーナは食べてみた。
口の中で蕩ける食感、イノシシだろうか、肉の柔らかさが如実に表れている。
ドレムの渾身の力作、「イノシシの角煮」だった。
臭みも無論、消えていた。
「……ホント、素直じゃないやつ……角煮あるんなら先に言いなさいよ……私がバカみたいじゃない……」
久しぶりの1人の食卓、ドレムの嬉しそうな反応がない家の中。
エレーナは何も言わずに黙々と角煮を食べ続けていったのであった。
次回、ドレムとムーユの兄妹会話です。
あと、仲直りと。