第3話 添い寝
まあ、この回は色々一悶着ありながら添い寝することになります。
ドレム、寝場所くらい用意しとけよな。
エレーナがスープを飲んでいる頃、ドレムは部屋の隅々までエレーナの自宅を掃除していた。
あまり使われておらず、広い家なので、ゴミや埃の量は少なくとも時間はどうしても掛かる。
ドレムも器用なのでぱっぱとこなしていくのだが、主婦とはこういう気持ちで毎日部屋を掃除しているのかと思うと頭が下がる。
ドレムは家の中を掃除し終えた後、時間が余ったので、市場に行き、食事用の食材を買うことにしたのだった。
「おーい、エレーナーー?? 串焼き買ってきたぞーー??」
買い物から帰ってきた後、ドアをノックして、ドレムはエレーナの反応を確かめたが、返事がない。
疑問に思ったドレムがドアを開けるとそこには……
「勇者の剣」を今にも喉元に突き立てようとしているエレーナの姿があった。
まさかの光景に仰天するしかなかったドレムは、食材が入った袋を放り投げ、
「ちょ……待てぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」
と叫びながら、一目散にエレーナに向かって走り出し、突進した。
突き飛ばされたエレーナ、そして勢い余ったドレムが、ベッドから体が投げ出され、2人は剣と共に転がった。
「いてて……ったく、エレーナお前何やって……(ムニュ。)………ん………???」
なんの感触だろうか、妙に柔らかく、そして幅のある、たわわな何かが右手に握られている。
恐る恐る、ドレムが右手の方を見ると……
「いっ!?!?!?!?」
それを見た瞬間、ドレムの顔が朱に染まった。
なんとエレーナのGの巨乳を揉んでしまっていたのだった。
咄嗟に手を離したドレム。
エレーナの顔も朱になっていた。
「……人の部屋、勝手に入ってきたと思えば……初めからそれが狙いだったんじゃないのアンタ……!!」
今にも「ゴゴゴゴゴゴゴ……………」というエフェクトが聞こえてきそうなエレーナのオーラだった。
「ま……待て、エレーナ! 俺の話を……」
「口答えするな、この痴漢ヤロォォォォォォォォォ!!!!」
「ギャーーーーーーーーーーー!!!」
……エレーナの渾身の右アッパーをまともに受け、ドレムの身体は天井に突き刺さったのだった…………。
まあ、エレーナの言い分も分かるのだが。
「そう……だったんだ……ドレムごめんね……」
ドレムから話を聞き、事実を知ったエレーナは、ベッドの上でシュン、となってしまった。
それもそうだ、原因が自分にあるのに、事故とはいえ胸を揉まれたから、という理不尽な理由でドレムを殴り飛ばしたのだから。
一方のドレムはため息を吐いていた。
「おっぱいの件はすまんかった。あれはわざとじゃない。ただただお前の自殺を止めようとしただけだ。……ったく、ノックしても返事しねえから寝てんのか、って思ったらああだしよ……で、まあアレは事故だったにしろ殴り飛ばされるしよ……散々だったぜ、マジで。」
「だからゴメンって言ってんじゃん……」
「ハア……まあとにかく、お前に死なれると俺が困るだけだっつの、色んな意味で。……だからあの剣はお前が刃を出せないように鞘と柄とでガッチリ結んでタンスの中に閉まっとく。……もう金輪際、自殺なんてバカな真似は止せよ、いいな?」
これを聞いたエレーナの顔がジトッ……とした目になる。
大事なものなのだろうか、嫌そうにドレムを睨む。
ドレムは頭をポリポリと掻いた。
「これは強制的にやることだ。だけど冒険に出る時くらいは使わせてやる。何回も言うけどお前が死なれて困るのは俺だからな、マジで。」
そういって、買ってきたハムを結んでいた麻製の紐を取ってきて、ドレムはぐるぐるに勇者の剣の鞘と柄を巻いて結び始めた。
そんでもってタンスに収納し、一時的に勇者の剣を「封印」した。
「……ホラ、串焼きだ。……ったく、色々あって冷めちまってるかもしれねーけど、機嫌直しで食っとけよ。」
そういって、ドレムは買ってきた塩味の鳥の串焼きの入った袋をエレーナに投げつけた。
受け取ったエレーナは、袋から取り出して一口食べてみる。
塩味がツン、と効いており、冷めていても十分食べられる味だった。
エレーナは何も言わずに食べ進めていき、3本あった串焼きを2分ほどで完食した。
ドレムはスープの食器を下げ、洗い物をしていたのだった。
そして、深夜11時。
もう寝る時間だ。
と、ここでドレムがエレーナに提案した。
「なあ、エレーナ……隣で寝ていいか……? 昨日の朝みたいなこと、ならねえで済むからさ。」
まさかの添い寝提案に、エレーナは疑問が浮かんでいた。
「……え……? なんでアンタと……?」
「理由は2つある。まずお前は俺が目を離してたらとんでもねえことをすることが分かったから俺がほぼ24時間、側にいないとダメだと判断したから、もう一つは俺の能力だ。俺は夢を見せる能力の他に、人の夢を吸い取る能力も持っている。つまり、お前の悪い夢を俺が共有する、ってことだ。」
理屈はわかったにしても、エレーナの頭には昼間のあのおっぱいの件があったので、モヤモヤがいっぱいあった。
「その……何も……しない、よね……?? ドレム……。」
少し恥ずかしそうに、エレーナはそう聞いた。
「うーん……しない、っていうよりかは手を握るだけだな。お前の右手を。俺の『夢を吸い取る能力』は誰かの手を握らねえと発動させれねえ。だからそれ以外に俺はお前に何もしない、約束する。」
ドレムの目は真剣そのものだった。
これを見たエレーナは、ドレムをウォレスの面影と重ねていた。
律儀な男の、真っ直ぐな目を。
「……分かった……そこまで言うなら……」
といって、エレーナは布団を被った。
「助かる。それじゃ、俺も失礼するぜ。」
灯りを消し、ドレムも布団の中に潜り、左手でエレーナの右手を握った。
そして2人は眠りについた。
それと同時に、ドレムは「夢喰い」を発動させてエレーナのあの悪夢を共有したのだった。
翌朝。
エレーナは朝日が窓から差し込むと同時に目が覚めた。
9日振りの普通の朝。
お陰で目覚めもいい。
ドレムと握っていた右手を離し、タンスに向かって寝巻きを脱ぎ出した。
一方のドレムも目が覚めた。
悪夢を吸い取った影響なのか、頭痛が尋常ではない。
「ハア……悪夢を見せる俺が悪夢を見るなんてどんな皮肉なんだっつの……俺がやったことだけど……まあいいか……朝飯作るか……」
そういってベッドから降りようとしたその時だった。
見てしまった。
エレーナが、たった今着替えているところを。
今現在、下着姿の状態になっているところを。
「「あ。」」
と、2人が目を合わせる。
そしてお互い、また朱に染まる。
ドレムは嫌な予感がし、その場を立ち去ってさっさと朝食を作ることにした。
一方、見られてしまったエレーナは、というと……
「キャァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」
…………と、如何にも女の子らしい悲鳴を上げていたのだったとさ。
ラッキースケベ、2連発。
ラッキースケベは性的表現ではない、健全な表現です。
次回はドレムがエレーナに生き方を説きます。
お楽しみに。