第2話 マンドラゴラのスープ
ファンタジー流鬱の食事療法wwww
ドレムは一階のキッチンへ行き、箱を開け、食材を物色した。
「うーん……一応ベーコンはあんのか……ただ野菜が足りねえな……」
と、ここで思い至ったのか、ドレムは何故か耳栓を嵌めた。
「しゃあねえ、アレ、引き抜いてくっか……」
といって、玄関を出て、近くの裏庭へ足を運んだ。
さて、裏庭へ到着したドレムはというと。
一見、何の変哲もない草が生えているところの前にいた。
「さあて……コイツは欠かせねえんだよな、朝食にはよぉ……!!」
と呟いて、躊躇いもなくその草を根っこごと引き抜いた。
その草はなんと、人間の赤ちゃんのような根っこが生えていた。
そして、その根は泣き出した。
耳栓をしていても鼓膜が破れかねない破壊力だ。
ドレムはその異形のような植物を躊躇いなくカゴへ入れ、次々と引き抜いていったのだった。
さて、キッチンへ戻ってきたドレムは、まだ泣いている植物を並べた。
この草は「マンドラゴラ」。
特徴は先程も説明したのだが、赤ん坊の根っこを持った植物で、その泣き声を耳栓なしで至近距離で聴くと、最悪死に至る。
魔族のドレムも例外ではなく、魔族も死者が発生するほど取扱注意の植物なのだ。
これを止めるには、茎と根を切り離すのだが、耳栓をしたままでやらないといけないので油断はできない。
ドレムは包丁で10個以上あるマンドラゴラの茎を切り落としていく。
それと同時に鍋の中に水を溜め、炎魔法で沸かしていく作業を行った。
追加で採ってきた他の野草と共に水洗いし、包丁で火が通りやすい大きさまでカットしていく。沸騰直前までにお湯が沸いたところで、用意した鳥の骨とマンドラゴラの根っこを鍋にぶち込んでいく。
予めしっかり洗っておいて、エグ味の元になる「赤ちゃん部分」の内容物を取り除いてから入れると、極上の出汁が出るのだ。
しっかり調理すればめちゃくちゃ美味しいのがマンドラゴラだ。
約10分、沸騰するまで出汁を取り、煮立ったら鳥の骨とマンドラゴラの根を取り出す。
沸騰させすぎて出汁を取ってもそこまで美味しくないので、温度管理は大事なのだ。
ドレムは火を弱め、先に野草、その次にマンドラゴラの葉と茎、最後にカットしたベーコンを鍋に次々と入れていった。
塩で味を整え、仕上げに胡椒を打ち込み、マンドラゴラのスープが完成した。
器に盛ったスープをパンを添えてエレーナの部屋へと運んでいくドレム。
「おーい、メシ出来たぞー」
ノックして入っていくドレム。
しかし、エレーナは布団に包まったまま反応していない。
「ハア……せっかく作ったのに、なんだよお前はよ……ホラ、冷めちまうから早く食え。」
そういってドレムはテーブルの上に、スープとパンが置かれたお盆を置いた。
胡椒のいい香りが引き立つ。
だが、当のエレーナはというと、
「……食べたくない………」
の一点張りだった。
しかし、腹は鳴っている。
「……ったく、丹精込めて作ったメシに魔族だろうが人間だろうが関係ねえよ。……腹が減ってるってこったあ、『生きたい』ってことだろうがよ。俺は掃除してくるからその間に食っちまえよ、さっさと。」
呆れたドレムは部屋を立ち去って箒やちりとりを取りに下の階へ降りていったのだった。
ドレムが居なくなってようやく布団から出たエレーナは、スープの置かれている机の方へ向かっていった。
ちゃんとスプーンも置かれている。
一口、スープだけを飲んでみるエレーナ。
マンドラゴラのあっさりとした出汁と、鶏ガラの濃い後味がガツンと舌に響いた。
ただ、少し冷め気味だったのが玉に瑕だったのだが。
「……変なやつ……でも……久しぶり、だな……こうやって、人が作ったもの……食べるのって………」
一口食べるごとに、不思議と涙が溢れ出てきていたエレーナであった。
仲間との思い出を、ドレムが作ったスープと重ね合わせながら、ゆっくりと味わっていったのだった。
ごめんなさいね、こんな時間に飯テロしてしまって。
ただまあ……エレーナも素直じゃないから。