008 仲間になる条件
「もう何百回も言っているが……文人、お前のおかげで俺達は助かった。本当にありがとう。お前は命の恩人だよ」
「もう何百回も聞いたから言う必要ないぞ」
街に戻るなりレッド達から感謝された。何度も、何度も。
ダンジョンを出る道中でも隙あらば「命の恩人」と呼ばれたものだ。
「やばい場面もあったが全体的にすごく良かったと思う。またよかったら皆で狩りにいこう!」
レッドの言葉に、俺以外の4人が「おー!」と右手を突き上げる。
俺はPTメンバーではないので静観していた。
「文人も今度は最初から参加してくれよな!」
「はは、考えておくよ」
シャーロット以外の4人ともフレンドになり、その日は解散になった。
「飲みに行くかぁ!」
「僕も付き合うっすー!」
メンバーが方々へ散っていく。
お祭りが終わったような気持ちになった。
(俺もメシを食って休むとするか)
街の中央に向かって歩き出す。
ここでもイマジンムーブを使うことにした。
(グッ……)
思うように動かない。
何度試しても10秒足らずでイマジンムーブが止まった。
その度に、俺の動きが一瞬だけぎこちなくなる。
「大丈夫ですか?」
斜め後ろからひょいっと出てきたのはシャーロットだ。
彼女は俺の横に立ち、覗き込むように顔を見てきた。
「別に問題ないよ。俺のことは気にしないで行ってくれ」
「かしこまりました」
と言いつつ、シャーロットは隣から離れない。
「どうした? PTはもう解散しているぞ」
「それはそうですが……」
シャーロットは少し黙ってから、「やっぱり」と口を開いた。
「私を文人様の仲間にしていただけませんか?」
「この場合の仲間っていうのは、常に一緒がいいってことだよな?」
「はい。明日も、明後日も、その先も、一緒に活動したいです」
「それは断る。悪いな」
「そうですか」
シャーロットはあっさり引き下がる。
立ち位置を変えて、隣から真後ろに移動した。
それから――。
「だったら、勝手についていきます!」
「なっ……!」
この女、引き下がったのではない。
食い下がったのだ。
俺が仲間になるのを認めるまで離れないつもりだ。
「おいおい、マジかよ」
「大マジです! 私は文人様と一緒にいたいです!」
「俺はそれを望んでいないが」
「関係ありません! 私はそれを望んでいます!」
「頑固な奴だな」
「自負しております!」
やれやれ、面倒なことになったぞ。
(イマジンムーブでシャーロットをまくか?)
いや、それでは根本的な解決にならない。
(かといってつきまとわれたら厄介だしなぁ)
ということで、俺はこう答えた。
「その狂気染みた姿勢に観念するとしよう」
「だったら……!」
シャーロットの顔がパッと明るくなる。
「いいだろう、仲間になろうじゃないか」
「ありがとうございます! 文人様!」
「ただし!」
俺は人差し指を立てた。
「条件が1つある」
「条件……?」
「一緒に行動するのは、お前がソロでコレを手に入れたらだ」
そう言って俺が指したのは装備しているマントだ。
ゴブリンを怯ませる戦利品――ゴブリンロードのマント。
「それはつまり、私にソロであのボスを倒せと?」
「そうだ」
「そ、そんなの、無理に決まっていますわ!」
「今はそうだろうな。だが、鍛えればいけるようになる」
「鍛えればって……私、戦いの経験なんかないのに……」
「大丈夫。俺だってこの世界に来るまでは雑魚だった。戦い方を教えてやる」
「でも……」
「なら諦めるか? 俺はお守りをする気はない。俺の仲間になりたいなら、俺の仲間に相応しい強さを手に入れろ。それが条件だ。気が変わったなら去ってくれていい。その場合だって、友達という意味での仲間であることには変わりない」
この言葉に対するシャーロットの返事は早かった。
「諦めません! 文人様の隣に立てるだけの実力を必ずや手に入れてみせます! ですから、私に戦い方を教えてください!」
「いいだろう」
俺は空を見上げる。
夕日が沈むのも時間の問題だ。
だが、まだ間に合う。
「ついてこい」
「はい!」
◇
シャーロットと訓練場へやってきた。
流石にこの時間ともなれば案山子に武器を振るう冒険者はいない。
貸し切りだ。
「本当に想像した通りに体が動くのですか?」
「ヘルプは見ただろ? 書いてある通りだ」
「たしかに書いてはいますが……」
シャーロットはイマジンムーブに半信半疑の様子。
「とりあえず試してみろ」
「はい!」
シャーロットは短刀を構えて案山子を睨む。
だが、一向に動き出す気配はない。
「だ、駄目です。やっぱり動きません。どうしてでしょうか?」
「想像力が足りていないのだろう。イマジンムーブが発動するには、脳内で自分の動きを鮮明に描く必要がある」
「それは分かっているのですが……でも、発動しないですわ。何かコツとかないのでしょうか?」
「コツか」
そうだなぁ、と顎に手を当てて考える。
「自分以外の動きもイメージしたらどうだ?」
「自分以外の動き……とは?」
「例えば――」
俺はイマジンムーブを発動し、近くの案山子に高速斬撃を食らわせる。
シャーロットが「すごいですわ!」と歓声を上げた。
「――今のはイマジンムーブで案山子を斬ったわけだが、この時に俺は自分の動きだけでなく案山子の動きも想像していたんだ」
「えっ? 案山子は動いていませんが……」
「切断されて地面に落ちた案山子の胴体のことだよ。俺の攻撃を受けた案山子がどのようになるのか。それも想像した。そうすることによって、自分が敵を攻撃している姿がより鮮明に見えるんだ、俺の場合はね」
「わ、私もやってみます!」
シャーロットは深呼吸して案山子を睨む。
その状態で30秒ほど経過した時、彼女の体が動いた。
凄まじい勢いで案山子の胸部を突いたのだ。
「できた……できました! できましたわ、文人様!」
「素晴らしい。いい攻撃だった」
「本当に体が勝手に動きましたわ! 自分じゃないみたいです!」
「最初は気持ち悪く感じるよな。何度もしていれば慣れるぜ」
「これがイマジンムーブ……!」
シャーロットが「すごい」と呟いた。
「だが、今は発動までに時間がかかりすぎて使い物にならない。だから最初は、案山子だったりスライムやミニウルフだったりで練習するといい。俺やシャーロットみたいな戦闘の素人はイマジンムーブが全てだ。強くなるにはこれを極めるしかない」
「分かりました!」
「教えられることは以上だ。今後は自力でどうにかしてくれ」
「はい! ありがとうございます! いつかゴブリンロードのマントを手に入れますので、その時は絶対に私を仲間にしてくださいね。約束ですよ」
「もちろんさ。じゃ、これにて失礼する」
俺はすぐ近くにある大きめの宿屋へ向かって歩き出した。
そこなら食堂で晩ご飯を食えるし、その後はすぐに寝ることも可能だ。
「あの、私もついていっていいですか?」
と言いつつ、既についてきているシャーロット。
「おいおい、仲間になるのはゴブリンロードのマントを……」
「分かっていますわ。ただ、もう少し文人様とお話したいのです。話が終われば別行動でかまいません」
「それなら通話でいいじゃん」
「そうですが、せっかくなので一緒にいたいのです。駄目ですか?」
「変わり者だな。ま、かまわないさ、好きにするといい。シャーロットも部屋を借りる必要があるだろうしちょうどいいかもな」
こうして俺達は、仲良く宿屋に入った。
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