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007 ボス戦と戦利品

「邪魔だ、どけ!」


 立ちはだかるゴブリンを斬り捨てながら駆け抜けていく。

 どこを見渡しても廃墟とゴブリンが目に入る。


「SiriN、次はどっちだ!」


『右に曲がってください。その先、二つ目の十字路を左へ曲がると到着します』


「了解!」


 一秒でも早く駆けつける為、俺はレッドのPTに参加した。

 PTの一員になることで、仲間の正確な位置が特定可能になる。


 もっとも、厳密にはレッドではなくシャーロットのPTだ。

 PTリーダーをシャーロットに移し、彼女がフレンドリストの機能を使って遠距離で招待してきたから。


「よし、見つけたぞ」


 SiriNの案内によって迷うことなく現地に到着した。

 そこには大量のゴブリンに包囲されているレッド達の姿があった。

 そして――。


「あいつが“ボス”だな」


 1体だけ、ひときわ大きなゴブリンがいた。

 肌の色が赤色で、頭上には赤黒い光の王冠が浮かんでいる。

 その王冠こそボスの証だ。


「文人だ!」


「文人様!」


 最初にレッドが気づき、次にシャーロットが歓声を上げた。


「どうにか無事のようだな」


「俺も含めて死にかけの連中もいるがな……」


 レッドを含む3人の男が、背中に強烈な引っ掻き傷を作っている。

 見ているだけで肌がヒリヒリしてしまう程に痛そうだ。


「死んでいなければセーフさ」


「ポジティブだな、文人は。それより、死にたくなくて救援に呼んだが、ご覧の通り戦況は絶望的だ。文人がどの程度の実力かは知らないが、無駄死にさせてしまう可能性が高い」


 レッドが「すまない」と苦しそうな笑みを浮かべる。


「気にするな」


 俺はニヤリと笑う。

 それからこう付け加えた。


「俺も無理をしたい気分だっただけだ」


 飛びかかってくるゴブリンを斬り捨てる。


 ボスは雑魚の後ろで動こうとはせず、ジッとこちらを見ている。

 どうやら俺のことを警戒しているようだ。


「ところでレッド、救援に駆けつけたことに対する報酬なんだが」


 レッド達の表情が変わる。

 シャーロットも含めて、5人の顔に「えっ、今その話!?」と書いていた。


「ここまで来てもらったんだ。無事に帰還できたらなんだってするさ。帰られたらの話だがな」


「いや、その必要はない」


「ぬ?」


「俺の求める報酬は――」


 俺は左手でスマホを操作し、PTから脱退した。


「――経験値と金の独り占めだ」


 そして動き出す。

 ギアを上げて一気に戦況を覆していく。


「うっそ、まじすかー!?」


 一人称が「僕」の男が驚愕の声を上げる。


「すげぇ動きだ……! この場でイマジンムーブを発動できるのかよ」


 レッドも口を愕然としている。

 驚くことに彼はイマジンムーブのことを知っていた。

 なかなか珍しいヘルプに目を通す人間のようだ。


「レッドはPTを立て直しつつ雑魚を頼む。ボスは俺が倒す」


「分かった! だが気をつけろよ! ボスはザコとは比較にならない強さだ!」


「ああ、そうだろうな」


 ボスが雑魚だったら俺は呼ばれていなかったはず。


「勝負だ、クソ野郎!」


「ゴヴォオオオオオオオオオ!」


 ボスが「かかってこいよ」と言いたげにファイティングポーズをとる。

 雑魚が自分から突っ込むのに対し、コイツは受け身のスタイルらしい。

 うっかり仕掛けると手痛いしっぺ返しが待っているだろう。


「――と、分かっていても攻めるのが俺だ!」


 ジグザクにステップしながら距離を詰め、すくい上げるように剣を振るう。


「ゴッブブーン!」


 ボスはあざ笑うかのように横へ飛んで回避。

 そしてそのまま俺の後ろへ回り込もうとする。


「その動きを待っていたんだ!」


 ボスの動きに呼応するかのように、俺の体も動く。

 剣を水平に寝かせて、そのままぐるりと時計回りに回転した。


 この攻撃は警戒心の強いボスでも避けきれない。

 致命傷こそ避けたものの、腹部に結構なダメージを与えた。


「ゴヴォ!?」


 驚くボス。


「相手の動きをお読みになったのですか!?」


 シャーロットもびっくりしている。

 他の連中も目を点にしていた。


「そういうことだ。どこかのタイミングで背中をついてくることは予想できていたからな」


「どうして分かったのですか? もしかして文人様、このボスと戦った経験がおありで!?」


「そんなことない、初見だよ」


「ではどうして!?」


「レッド達の背中にできた傷から推測したのさ」


「あっ……!」


 シャーロットが表情をハッとさせた。

 どうやら分かったらしいが、それでも俺は説明を続けた。


「一様に正面の怪我は軽微で、背中に強烈な引っ掻き傷がある。そのことから、ボスが背後からの攻撃を得意としていると分かった。で、実際に戦ったところ、ボスは受け身のカウンター狙いときた。となれば、カウンターを仕掛ける際に背中をつこうとすることは容易に想像がつく。後はそうしたくなるように動けばいいだけのこと」


「すごいですわ……!」


 シャーロットは両手で口を押さえて感動している。

 今まで右手に持っていた短刀は地面に転がっていた。


「僅かな時間までそこまで読んだってのかよ……化け物だな」


 レッドが「すごすぎだろ」と苦笑い。


「こんなところで無駄死にする気はないからな、俺は」


 ボスに詰めていく。

 先ほどの一撃が効いたようで、ボスの動きにキレがない。

 一つ、また一つと、ボスの体に剣の傷ができていく。

 パワーバランスは明らかに俺が上だ。


「やはり情報は正義だ。最初の一撃が勝敗を分けたな」


 動きの鈍ったボスの首を、俺の剣がスパッと一刀両断にした。


「「「ゴヴォ!?」」」


 地面に転がるボスの頭を見た瞬間、ゴブリン共の動きが止まった。

 そして次の瞬間、一目散に周囲の建物へ逃げていった。

 先ほどまでのうじゃうじゃが嘘のように、今では1体すら見当たらない。


「おっ」


 ボスの死体が消えた。

 それだけでなく、死体のあった場所に宝箱が現れた。


「もらうぜ?」


 念のために確認しておく。

 レッド達は口々に「もちろん」と言いながら何度も頷いた。


「では遠慮なく」


 俺は剣を鞘に収め、宝箱を両手で開いた。

 中に入っていたのは――。


「なんだこの布きれ?」


「文人様、それはマントですわ!」


「マント……あぁ、言われてみればそう見える」


 そう、お宝はマントだった。

 深い赤色のマントで、黒くて大きなゴブリンのシルエットが入っている。


「カッコイイですわ! さっそく装備してくださいませ!」


 シャーロットが目をキラキラさせている。


「そうしたいが、その前に」


 俺はスマホを取り出し、〈カメラ〉を起動した。

 それで持っているマントを撮影する。

 ゲームで言うところの「鑑定」に該当する行為だ。

 これによってマントの詳細が分かる。


==============================

【名 前】ゴブリンロードのマント

【効 果】ゴブリンが怯むようになる

==============================


 結果が表示された。

 名前は見たままで、効果はなんとも言いがたい。


「ま、こんなものか。ボスといえどもゴブリンだしな」


 せっかくなのでマントを装備してみた。


「カッコイイですわ!」


 シャーロットがすかさず褒めてくれる。

 他の連中も「似合ってる」「クール」などと言った。


「たしかに悪くないな」


 俺もまんざらではない表情。

 不思議なもので、マントを装備すると冒険者らしさが大幅アップだ。

 制服にマントという組み合わせですらサマになっている。

 新たなマントが手に入るまで、このマントは大事に装備していこう。


「それはさておき、怪我は大丈夫か?」


 俺はレッド達の様子を確認した。

 すると驚いたことに、彼らの怪我はすでに回復していた。

 まだ傷跡は残っているが、すでに出血は止まり、傷口も塞がっている。

 数分前までドバドバと血が出ていたとは思えない。


「見ての通りもう大丈夫だ。思ったより効くぜ、コレ」


 レッドが赤い液体の入った小さな瓶を見せてくる。

 話の流れから察するに〈ポーション〉に違いない。


「そのポーション、高いやつか?」


「いや、二番目に安いやつだよ。ライトヒーリングポーションだかそんな名前の代物だ」


「それでそこまでの回復力を誇るのか」


「どうやらそのようだ」


 今度から俺もポーションを買っておこう。


「なんにせよ問題ないならよかった。日が暮れるしサクッとここを出よう。ダンジョンから出ないと馬車を手配できない」


「そうだな」


 雑談を切り上げ、俺達はダンジョンを出ることにした。

 その道中でゴブリンが襲ってくることはなかった。

 それがマントの効果なのかボスを倒したからなのかは分からない。

 とにかくあっさりダンジョンを出ることができた。


 この最高の結果をもって、初めてのダンジョンは終了だ。

お読みくださりありがとうございます。


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