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005 訓練場とPT

 朝、宿屋の食堂で朝食を済ませた俺は訓練場へやってきた。


「訓練場とは名ばかりだな」


 それがこの場所に対する俺の感想だ。


 訓練場は更地に無数の案山子(カカシ)が点在しているだけ。

 屋根や休憩所などはない。

 当然ながら係員のような者もいなかった。

 現代の日本なら「公園」と呼ばれそうな場所だ。


「おりゃあああ!」


「せいやぁああ!」


 訓練場では複数の冒険者が武器を振るっていた。

 でたらめな動きで案山子を破壊している。

 不思議なもので、破壊された案山子は約10秒で元通りになった。

 ゲームのように一瞬で回復するのだ。


「ストレス発散に最適だな! この案山子は!」


「旋風斬りぃ! なんつって! がはは!」


 上機嫌で案山子をいじめる冒険者連中を見ていて思った。

 ――こいつら、何も分かってねぇ。


 訓練場はイマジンムーブの訓練をする場なのだ。

 ヘルプにもそう書いてあるが、おそらく見ていないのだろう。

 それとも、イマジンムーブであんな動きをしているのか?


「ま、他人のことなんかどうでもいいか」


 俺はフリーの案山子に近づいた。

 ここでイマジンムーブの訓練をしてから今日の狩りに向かう。


「来た!」


 想像が形になり、案山子を斬り捨てた。

 相変わらず達人のような動きだ。我ながら感動する。

 

「なんだ今の!?」


「お前すげーな!」


 付近の冒険者が俺の動きを見て興奮し、集まってきた。


「なぁ、今の動き、もう一回やってみせてくれよ!」


「見逃したから俺にも見せてくれ!」


 俺は苦笑いで「やれやれ」とため息をついた。


「見世物じゃないんだが……別にいいよ」


 精神を集中させる。

 だが、今度はなかなかイマジンムーブが発動しない。

 周囲の視線やざわつきで気が散っているのだ。


「どうした?」


「立ち尽くしたまま動かないぞ」


 周りの表情が険しくなり始める。

 その時、イマジンムーブが発動した。


「フンッ!」


 高速の三連斬撃が炸裂する。

 次の瞬間、どっと歓声が上がった。


「本当にすげぇよ! なぁ、俺とPTを組まないか?」


「いや、俺と組もうぜ! 俺だってそこそこ強いぞ!」


 誰もが我先にと俺を誘ってくる。


「すまないが今日の予定はすでに埋まっているんだ」


 多くの冒険者ががっくしと肩を落とした。


(イマジンムーブなんて誰でもできるのにな)


 ヘルプを見れば分かるので教えてあげようか悩んだ。

 しかし、言えば時間を食うに違いないからやめておく。


「強くなりたいならスマホの〈ヘルプ〉を熟読するといいぜ」


「ヘルプ?」


「ああ、そこに答えが載ってある」


 最低限の助言だけして、回復した案山子と対峙する。

 またしても、イマジンムーブの発動までに時間がかかった。


「うーん、やっぱり駄目だな。こんなんじゃ実戦で死にかねない……」


 イマジンムーブの発動が遅すぎる。

 もっと早く、それでいて確実に発動できねばならない。

 そう思っての発言だったが、周囲は違う風に捉えた。


「これだけ動けて駄目なのか……」


「すげぇ、どんな高みを目指しているんだよ」


 思わず「いや」と訂正しそうになる。

 だが、そうするとイマジンムーブの話になるだろう。

 時間を食いたくないので何も言わなかった。


(ここじゃ注目され過ぎて支障を来すな)


 そう判断した俺は、馬車を手配して移動することにした。

 スマホを操作する動きすらもイマジンムーブで行う。

 もちろん、馬車に乗るのも同様だ。


(これはいい訓練になるぞ)


 日常における全ての動作をイマジンムーブで行うことにしよう。

 脳を働かせすぎて頭の疲労が凄まじいが、訓練にはもってこいだ。


 ◇


 街の外が迫ってくると、馬車が降下を始めた。

 眼下に広がっていた建物が横に並び、そして、俺よりも高い位置になる。


「おい、なんで降下するんだ?」


 今回の馬車は狩場までの直行便だ。

 昨日1日分の生活費に相当する運賃を支払った。

 なのに、なぜ。


「すみません、門はくぐる決まりですので」


「そうだったのか」


 ヘルプには書いていなかった情報だ。

 見落としかと思って調べたが、やはり書いていない。


「門を出たら速度を上げますのでご容赦ください」


「分かった」


 石畳の上を歩く馬車。

 客車の窓から見える景色がゆっくりしている。


「おっ」


 門の傍に冒険者が集まっている。

 その数は数百から1000人といったところ。

 何をしているのだろう。


「ちょっと降りても大丈夫?」


「大丈夫でございます」


「すまない、すぐに戻るから待っててくれ」


 俺は客車の扉を自分で開き、地面に降り立った。

 その足で冒険者の群れに近づいていく。


(なるほど、そういうことか)


 適当な人間に事情を尋ねるまでもなく分かった。


「PTメンバー募集! 残り3人! 誰でもオッケー!」


「こっちはあと1人で出発するぞー!」


「一緒に戦おうぜー! PTメンバー募集だ!」


 そこら中でPTメンバーの募集が行われていた。


(門の前で募集するのは賢いアイデアだな)


 狩りをする時、冒険者は必ず門を通る。

 故に、この場所ほど募集に適した場所はない。

 この様子なら残り三方の門も同じ状況だろう。


「あ! 文人様!」


 名前を呼んできたのはシャーロットだ。


「昨夜ぶりだな」


「はい!」


「PTに入るつもりか?」


「そうです! 問題ありましたか?」


「いや、いいと思うよ。PTを組めば生存の可能性をグッと高められるし、〈ヘルプ〉でもPTでの戦いを推奨している。仲間がいるのは心強いものだ」


「ですよね!」


 そこでシャーロットの目つきが変わる。

 胸の前で両手の指をもじもじしながら、上目遣いで俺を見てきた。


「文人様、私とPTに……」


「いや、今日はソロの予定だから断る。ここにいるのは門の前に人が集まっていたから状況を知りに来ただけだ」


「そうですか……」


「事情が分かったから俺は失礼するよ」


「分かりました。今度、通話やチャットをしてもよろしいでしょうか?」


「もちろん。いつでも歓迎だ」


「ありがとうございます!」


「おう」


 シャーロットに背を向け、待機させてある馬車へ向かう。

 背後からシャーロットの「よろしくお願いします」という声が聞こえた。

 どうやらPTを見つけられたようだ。


(誰よりも高いレベルを目指すならPTは必須だよなぁ)


 PTはレベルを効率的に上げる仕様だ。

 ソロに比べて経験値が4割少ないが、最大で6人PTを作れるから問題ない。

 同程度の実力者で構成されたPTなら、3人以上でソロより効率的になる。


(そうは言ってもなぁ……)


 俺はPTに消極的だ。

 理由は協調性がないから。

 昔から他人に合わせるのが苦手だ。

 いわゆるコミュ障である。


(ま、PTを組むにしてもしばらく先のことだな)


 俺の見立てだと、冒険者の大半はいずれ失速する。

 そして、一部の冒険者だけが上昇志向で奮闘するだろう。

 ゲームで言うところのエンジョイ勢とガチ勢のようなものだ。


 PTを求めるのは、誰がガチ勢か分かってからでも遅くはない。

 今はいけるところまでソロで頑張るとしよう。

お読みくださりありがとうございます。


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