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4話 「最初の審判」

 俺達は缶詰を何個かもって最初の部屋に戻ってきて。

 他の人達と情報交換をした。

 はこべさんが本当に探索に行ったことに驚く声が、サラリーマンから漏れていた。

 周りにサポートしてもらえるよう、はこべさんの足が悪い事を伝えようとしたらはこべさんに止められた。


「び、病気がバレて余計にひどく虐げられることもある」

 小声で俺に語るそれは、はこべさんの実体験らしい、となれば俺がサポートする必要があるようだ。

 まぁべつにいいけど。サポートするのはセリで慣れてる。


 さて。情報をまとめる。

 俺が行っていない二つの扉の先には、廊下があり、部屋があったらしい。

 トイレもあった。

 それらの違いは、ベットの数。

 左の扉の先には男の数だけで、右は女の数。

 寝室、という事らしい。


「じゃあ、私眠りにいくっスから」

 右……つまり女性用の部屋にフリーターの人があくびをしながら、立ち去っていく。

 それをなんとなく眺めていたら、今さら彼女が青い髪に染めている事を意識した。

 そうか、染めてるのか。


 俺も学校卒業したら一回か二回は染めてみたい、ゲームの主人公っぽい色に。

 ……青も金も黒も全部主人公っぽいが、どうしようか。


「なんかわからへんけどだいぶ疲れたわ」

 茶髪の弁護士も左へ行った。

 時計の表示は16時21分、探索を出る前からせいぜい三時間くらいしか経ってない気がするけど、やけにみんな疲れてる。


 皆目覚めてから思った以上に体力を消耗しているのだろう。

 少しずつ、見つかった寝室にそれぞれ向かう。

 それをながめていた。


 俺とはこべさんがここに残った最後の人間となった。

「俺達も寝に行きます?」

 はこべさんに聞いてみた。

「僕は、ここでいい」


「え?」

 何を言っているのか、よくわからなかった。

「……部屋に僕が行っちゃ臭いだろう、ここ最近ずっと洗えてないから」

「あぁ、なるほど」

 たしかに少し臭い気はする。

 俺はもはや慣れたのか気にならないが無理に連れて行くのは、はこべさんのためにも皆の為にもならないだろう。

「じゃあ寝具とか持って来れるものあったら、ここに持ってきてますね」

「いいのかい」

「えぇ」

 断る理由とか特にない。

 防寒無しに寝て風邪でもひかれたら俺は嫌だ。


 長い廊下を駆け抜け寝室、とやらまでいった。

 そこそこ綺麗で広かったが男の人数分、病院で使うようなベッドがあるせいで狭く感じる。

 隅っこに簡素なトイレ部屋があるのを見ても特に何ともないなーと思いながらシーツを二枚取る。


 当然俺の行動は怪しいらしく皆訝しんだけど、鈴城さんに事情を説明したら納得してくれた。

 すぐに走って戻った。


 そして、シーツを体に巻き付け寝っ転がるはこべさん、その横で俺もそうする。

「一緒に寝るのかい?」

「まぁ、なにが起きるかわかんない状況ですから一人にするわけにもいきませんよ」

 あと、セリは一人で寝てる時急に発作が起きて死にかけた事がある。

 はこべさんの脚にセリを重ねたせいか、そういうのが不安だった。


「八女君、この状況はいつまで続くんだろう?」

「……わかりませんよ」

「誰が僕達を連れてきたんだろう」

 はこべさんも、俺が疑問に思うような事は考えているらしい。

 寝る前に少し話すことにした。

「漫画とかだと、神様の試練だったり、ヤバい人が醜い殺し合いを鑑賞するため、あとは理由が無かったりとかですね」

「どうやって連れてきたんだろう?この場所はどこにあるんだろう」

 俺の説明である程度納得したのかはこべさんは話題をちょっと変える。

「俺は寝て起きたらここに来たし、寝てる間でしょう、それとその間に運べる距離から考えるとここは一応日本だと思います」

「でも君は学生服じゃないか」

「ゲームしてたら寝落ちして」

 シュミレーションRPGですっげー強いボスが倒せなくて、レベル上げをしてたんだ確か。

 魔王が主人公で、天使長との戦いになるヤツをやってたんだ。

 こんな場所に連れてこられるんだったら、あのゲームを多少無理して起きても終わらせればよかったと、何となく思う。


 考えていたら頭が突かれた。……ん?浸かれたって言うべきたっけ?就かれたって言うべきだっけ?

 あたまがまわらなくなってきた。ねむい。

「……じゃあおやすみなさい」

「あぁ、おやす」

 俺が気絶するように眠ったのか、はこべさんの言葉は途切れていた。



「小さい頃、蝶を私は殺した」

 目の前にセリがいて蟻の話をしていた。

 賢そうで、小さくて可愛いセリはアライブゲームをしている俺の前にいるわけがない。

 あぁ、夢だなとすぐにわかった。

「もちろんわざとじゃない、だけどその日の私は蝶に殺される夢を見てうなされた」

「蝶が人を殺せるのか?」

 夢の中とわかっていても、今すぐセリを抱きしめに行きたい。

 その体温を感じたい。

 でも夢の中だからから俺は動けない。

「不可能か可能かだけでいうなら蝶は人を殺せるよ、毒でもまとって口の中に特攻をかければいい」

「けれど、基本は蝶と人が争って勝つのは人」

「……つまり、結局お前が伝えたい事ってなんだよ」

 夢に聞いてもしょうがないけど、聞かないのも何となく嫌だ。

「人は蝶を殺して行く」

 なにそれ。


 結局よくわからなかった。夢だからか。

 まぁ、いいかセリと話せるのだし。

 だけど、俺の夢はここで終わりだった。

 そろそろ目覚めるなぁ、という感覚があるから。



 目覚めたら周りに人がいた。

 はこべさんと俺は、囲まれていた。

 ココに連れてこられた皆に。


 鈴城さんが

「食料を見つけましたが、このままの状況が続けば食料は確実にすぐ尽きる、だけど食料は人が減る程相対的に増える」

 と言った。俺は倉庫の中で審判について考えたことを思い出す。

 さらに

「それに、もしかしたらゲームが終わる条件に審判の使用は含まれているかもしれませんし」

 と何やら言っている。

 ひどく冷静な声が妙に不愉快。やめろ。



 寝起きの俺は隣のはこべさんが、立ち上がって震えていた。

「……はっきり言いましょう、死んでも悲しむ人間と社会的損失が少ない人間を選ぶべきだ」

 皆、はこべさんを見ていた。

 申し訳なさそうにだったり、真っ直ぐだったり、チラチラだったり、とにかく見ていた。


 俺は確信した、今から起きる事が何か。

「やめてください、やめろよ」

 俺の声は震えていた。

 頼んでも無視されて、腕時計ボタン二つを、何人も押していた。

「審判開始」

 どこからだろう、無機質な声が響く。

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