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2話 はこべさん

 いつどうやって何のためにここに連れてこられてきて、こんなアライブゲームとやらをさせられるのか。

 それを考えるより先にここに集まった俺達は、互いに自己紹介をした。


 何もわからない相手と一緒にこの状況へ立ち向かうのは大きなストレスになると、真面目そうな高身長眼鏡茶髪男のが言ったからだ。


 だけど

 名前は覚えきれなかった、当然だ、俺をいれてここには7人もいるのだから。

 医者、弁護士、主婦の妊婦、フリーター、ホームレス、さっき蹴られてたサラリーマンがいるのだと覚えられただけでもよいだろう。

 ……名前は三人くらいしか覚えられなかったが今後どうにかしよう。


「それでは皆さん三組に別れてそれぞれ探索をしましょう、」

 

 さっき言った高身長で眼鏡で茶髪だけど真面目そうな、医者の男が提案する。

 彼は鈴城 良助という名前だった。

 人と交流するための賢さがあるらしくいつの間にかリーダーシップを発揮している。


 そして探索というのはドアの向こうの事である。

 この部屋には、俺の正面以外の壁一つ一つにドアがある。その先になにがあるのかはわからなかった。

 というわけで、3組に分かれて調べるのだ今から。


「いや、こういう時大勢でいた方ががいいんとちゃいます?だってこんなのつけられるヤバイ状況だし」

 弁護士の男が彼自身の腕時計を指さして反対した。

 どこかからか、ここに危険な人がいないとは限んないからみんなでいたいなんて聞こえた、女性の声だ。

 フリーターの人と妊婦の人しか女性はいないから多分どっちかだ。

「ですが、ここでじっとしていても何も変わりませんしこの状況を打破することも出来ません」

 鈴城さんは淡々と返していく。


「こ、ここで、ここでじっとしてよう、助けがきっと来ますよ」

 さっき蹴られてたサラリーマン……野座さんが怯えているが、周りを困らせている。

「……ですが、来なかった場合は?動けるうちに動くべきでは無いでしょうか」

 そんな風にして、渋々だったり積極的だったり、様々な態度で皆は行動を望んでいた。

 鈴城さんの言う通り三つの組が出来ていく。

 野座さんもそれにつられて、組の中に入っていく。


 俺は当然探索に賛成だ、動きたい。

 ここでじっとしてるのは不安がつのる。

 さてと、どこに入るか。


 だが、はねっかえりはどこにでもいるらしかった。

「僕は嫌だ」

 一人だけ座り込み、ぶちぶちと髭を抜く男がいた。

 ぼろぼろの服を着ていて、髭も髪も妙に長く、やっぱりぼろぼろな緑のニット帽をかぶっている彼も印象的なので名前を覚えていた、ホームレスのはこべさんだ。 

「勝手にしてくれよ」

 なんて言って立つつもりは一切無い。


 なぜ彼がそんな態度を取るのかわからない。

 ツライ出来事でもあったのだろうか。娘が死んだりとか。


 周りの人は文句をぶつくさ言っている。

 怖いのはみんな一緒だ、とか、言っている。


 ヤバそうだ。

 こういう時、そういう風に仲が悪くなるのは。

「はこべさん、どうして一緒に来てくれないんですか?」

 とりあえず、俺が率先してはこべさんに聞くことにした。

 これで納得できる理由を言ってくれれば、人間関係の悪化はある程度防げるはずだ。

「ハ こんな状況で、誰とも一緒にいたくないね、誰も信じられない」

 あ。嫌そうな表情の人が、増える。はこべさんに対する、怒りが高まる。

 



それが爆発する前に俺は割り込む。


「……わかりました、皆さん俺とこの人で三組目になりますので二つ分の探索お願いします」

「は?」

 はこべさんはあからさまに鬱陶しそうだけど、コレをするべきだと俺は思った、止めない。

「では八女さん、お願いしていいですか?」

 鈴城さんが、俺にたずねる。

 容易く名前を覚えていてくれることと、俺の意図を簡単に察してくれてるみたいだ、凄い。

「はい、鈴城さんお願いします」

「わかりました、皆さんここは八女君に任せましょう」

 鈴城さんは、そう言って俺から視線を逸らし、他の人達へ向ける。


 そのまま、皆を上手く指示して部屋から去っていく。

 他のみんなは俺に懐疑的な様子だけど鈴城さんにリーダシップがあって、ありがたい。


 ここで、皆で足止めを食らってストレスを食らう事は最悪だ、ただでさえ精神を消耗させる閉鎖空間ではちょっとしたことでも凄惨な光景が生まれやすくなる……と聞いたことがある、妹に。

 だから俺がここに残り、はこべさんを説得する。

 はこべさんが周りに与えるストレスは、それをあまり気にしないで入れる俺だけが被ればいい。

 皆でイライラしてそれが、このデスゲームを加速させる事になったら最悪だ。


「あの、一緒に来てくれませんか」

 はこべさんと同じよう、俺も座ってみる。

 こういう時立った状態だと多分威圧的に思われるから。

「行けばいいんだろ?行かなかったら暴力だろ?」

 特に拳を振り上げてもいないのに随分な言い草だ。

「俺が人を殴るのは、殴らないと誰かが死んだり大怪我したりするときだけです」

「どうだか、弱い奴、見下せる奴は平気で虐げて笑うヤツばっかだ、お前もそうだろ?」

 はこべさんは俺の言葉に一切重みを感じていなかった。


 けれどそう言われても、困る。

 俺は本当に、人を殴りたくない。

 誰かに嫌な思いをさせたら、俺は凄く嫌な気分になる。人に優しくありたい。

 ……と言っても納得しないとは彼を見たら簡単にわかるのだ。

 この様子だとそういう善性を受け入れてくれない気がする。

 ならばなんと言うべきか。


 その選択肢はもう一つある。

 恋愛アドベンチャーゲームを思い出す。

 何を言うか選んで、女の子の好感度を上げるヤツを、目の前の相手はおじさんだけど。


 さて、言うか?

 言わなければ状況はきっとこのままだ。

 迷う事は無いな。


 もう一つの理由を言う事にした。

 これも正直な考えで、嘘じゃあない。

「困ってる人や弱ってる人を傷つけて当たり前な世界を作って、困るのは落ち目の時の自分じゃないですか」

 少し大げさな言い方だけど、8割方言いたい事は言えてると思う。

 俺も世界を作る一員ではある、俺一人が世界を変えられるわけでは無いけれど自分から悪くしていくのはごめんだ。

 ちなみに残り2割は”困るのは落ち目の時の自分だけじゃなく、自分の大切な人も”ってこと。


「……綺麗な理屈がもてはやされるのは、実行できる人がいないからだ」

 はこべさんは少し卑屈に言った。

「それでも、それを実行したい人が一杯いるからもてはやされるんでしょう」

「フン、くだらない」


 文句は言うけど、はこべさんは立った。

 俺の言葉を信じてはくれてないみたいだけど。

 まぁ、きっとそういう思考になった理由があるのだろう。

 それは俺からしてみれば、大したことが無いかもしれないし、もしくは俺なんかじゃ自殺をしてしまう程の重大なことかもしれない。

 でも、きっとこの人にとってはおそらく重大な事だ。

 だから、踏み込んでたずねるのはやめておいた。

 無意味に人の傷口に手を突っ込んでほじくるような真似したくない。


 ともかく、立ち上がってくれた事に感謝だ。


「早く行って早く帰ってやろう」

 はこべさんは、ドアに向かって歩き出す。

 だけど、何か変だった。

 足の動かし方が、明らかに健康な人のソレではない。


「怪我か病気してるんですね?」

「……よくわかったね?」

 不思議そうにしているはこべさんは、コレまでで一番穏やかで。

 気を張り詰めていないから彼の本質の一旦が見える。ちょっと安心した。

「体の悪い妹がいるんです、それに似てるんですよ」

「似てるのか?僕に」

「はい」

 といってもそれは病気がちというだけだけど。


 俺の妹のセリは可愛くて天才なのだ。株もやって簡単に利益をあげてた。

 あまりに天才で、まだ中学生なのに噂を聞きつけた大企業から一緒に働かないかとオファーが来ていた……漁火総合グループとかいうとこから。

 だから時々、漁火総合グループに出向いて勉強とかしてたらしい。

 俺の妄想上の存在かと思う程、出来の良い妹なのだ。


 けどその頭脳の代わりか、嘘のように体が悪い。

 階段を10段上がるだけでもぜーはーぜーは息を切らす程。

 風邪はひいているのがデフォルトで、いつもどこかしら骨折している。

 俺や、父さんや母さん、誰かのサポートが無いと生きていくのは大変そうだった。


「妹を思い出したら、なんか早く帰りたくなってきました」

 今あいつはなにしてんだろうか、心配だ。胸騒ぎがする。

「……そうか」

「あ、病気とかあるなら探索も色々配慮いりますよね?」

「安心しなよ、走るのがダメな程度だ」

「ホントにヤバイ時は言ってくださいね?」

 ……とりあえず、本人が何と言おうとマジでヤバそうならサポートしよう。


 俺はどこかへつながるドアに手をかける。


 俺の妹のセリは、こんなところに俺が連れこられたと知らないだろう。

 多分俺は行方不明ってことになっているだろう。


 向こうは心配してるだろうし早く、帰らないと。状況打破の手段を求めてドアを開けた。

 長い長い廊下がその先には続いていた。


主人公のフルネームが今後出る予定は無いので今いいますが“八女ひゆ”です。

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