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06

「思わぬことになった……」

 屋敷へ帰るとダニエルは深くため息をついた。


「まさか……殿下の初恋が母上だったとは……」

「あら、大人の女性を好きになるなんて子供らしい話じゃない」

 笑いながらそう言ったアレクシアだが、直ぐに顔を曇らせた。

「でも……お義母様に顔が似ているからマリアンヌを婚約者に選んだなんて……」

 それは、母親であるアレクシアにとって複雑な気持ちだろう。


 フレデリク殿下は幼い時、祖母であるローズモンドが持っていた私の絵姿を見て一目惚れし、私のことをあれこれ尋ねたらしい。

 ローズモンドは昔から私を過大評価するきらいがあり、殿下にも良いことばかり吹聴したのだろう。

 殿下は『リリアン』に恋心を抱いてしまったのだ。

 しかし現実のリリアン、つまり私は子供も孫もいる、祖母と同じ、四十以上も歳上のお婆ちゃんだ。

 到底恋が実るはずもない。


 そんな殿下の前に現れたのがマリアンヌだった。

 私の孫で絵姿によく似たマリアンヌを婚約者にしたい、と殿下は陛下に願い出た。


 元々、私とローズモンドの子供――つまり王家とバシュラール侯爵家との間に婚姻を結びたいという話はあった。

 だが互いに産んだのは男子のみで叶うことはなく、ならば孫同士で……と、婚約話はすぐにまとまった。

 あの時、私もローズモンドと喜んだのだけれど……まさか、フレデリク殿下がマリアンヌを望んだ理由が「私と似ているから」だったなんて。


「マリアンヌは……このことを知っていたのかしら」

「さあ……」

「――マリアンヌと殿下の仲が悪くなったのはお義母様が亡くなられた後なので……知ったのかもしれませんわ」


 確かに、婚約が決まった時、マリアンヌは嬉しそうに私に報告してくれた。

 そのマリアンヌが自分が婚約者に望まれた理由を知って……その私が、マリアンヌの身体に入り、殿下と会ったことを知ったら……あの子はどう思うのだろう。

「あの子……傷ついたわよね……」

 マリアンヌ……きっと悲しい思いをさせてしまった。


「……それで、婚約の話はどうなりましたの?」

 アレクシアがダニエルを見た。

「とりあえず保留になった。何せ殿下が拒否しているからな」

「そうですか……」


「……ごめんなさいね、アレクシアさん」

 私はアレクシアに頭を下げた。

「まあ、どうしてお義母様が謝るのです」

「マリアンヌは婚約を解消したいと望んでいたのでしょう。……それに婚約したのは私と似ていたせいだわ」

「――婚約を望んだのは殿下ですわ。こちらからお断りできませんし、それに理由だって誰も知らなかったのですから」

「それに……こうしてマリアンヌの身体に私が入ってしまったわ」

 嫁姑の仲は悪くなかったと思っているが。

 それでも娘の身体に義母がいるなんて、不快だろう。


「それについては……」

 アレクシアはダニエルと顔を見合わせた。

「……まずは目覚めてくれて良かったと思っておりますの」

「医者からこのまま目覚めなければ死んでしまうと言われていましたからね」

「そうなの……?」

 確かに……いつまでも眠り続ければ栄養が取れなくて衰弱してしまうだろう。

「ですから、とりあえず目を覚ましてくれて良かったですわ」

 アレクシアは私の手を取った。

「マリアンヌのことは心配ですが……お義母様が気に病む必要はありませんわ」

「アレクシアさん……」

「お義母様は、どうか健やかにお過ごし下さい」


「……ありがとう……」

 婚約時代からいい子だったけれど。

 優しいお嫁さんで……本当に良かった。


 こうなった原因も、殿下との婚約の件も今はどうすればいいのか分からない。

 ならば私は――マリアンヌがこの身体に戻ってきた時のために。

 あの子のためにできることを考えよう。

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