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05

「なんと、リリアン殿が……」

 国王ブレンダン・エナンは大きく目を見開いた。


「本当なのか? ダニエル」

「はい。信じられないとは思いますが……」

 ダニエルは隣の私を横目で見た。

「ふむ……いやしかし……」

 眉根を寄せて私を見つめる陛下の顔には疑いの表情が浮かんでいる。


「リリアンが生き返るなんて!」

 その隣で目を輝かせているのは王太后で親友のローズモンドだ。

 こちらも兄同様、六十を過ぎているとは思えないほど肌も綺麗で若々しい。

 夫を亡くして気落ちしていないか心配だったけれど、元気そうで何よりだ。


 マリアンヌの婚約者であるフレデリク殿下は、真剣な表情でじっと私を見つめていた。

 ――初めて会うけれど、その容姿はゲームで見た通り、鮮やかな赤毛に綺麗な緑色の瞳を持つ爽やかな見た目の青年だ。

 ゲームでの性格は明るくて笑顔のスチルが多く、社交的ないわゆるワンコ系だ。


 ちなみに、続編ゲームの攻略対象は五名。

 殿下以外は、ツンデレタイプの留学生で、ミジャン王国の第三王子アドリアン・ミジャン。

 そして私の兄の孫であるカミーユ・アシャールは沈着冷静なクールビューティー。

 騎士団長子息のモーリス・ラファラン、彼はいわゆる脳筋タイプ。

 最後は平民でヒロインの幼馴染のディオン、穏やかで癒し系だ。


 そしてもう一人、お助けキャラの頼れるお兄さん、図書館司書カイン・バシュレがいる。

 前作でお助けキャラを攻略したいという声が多かったので、今回は隠しキャラとして五人全員を攻略すると攻略できるようになるのだ。


「ううむ……やはり信じられぬな……」

「私が確かめるわ」

 未だ疑いの眼差しを向ける陛下を横目で睨んでローズモンドが立ち上がり、私の前へ立った。


「ねえリリアン、あなた覚えているかしら。息子ブレンダンの初恋相手」

「ええ。うちの息子のダニエルでしょう」

「は?」

「は、母上!」

 ダニエルと陛下が同時に声を上げた。


「六歳の頃だったかしら。貴女がお忍びでうちに連れて来た時に見かけたのよね。ダニエルを女の子と間違えて」

 あの頃のダニエルは私の子供の頃によく似ていて……自分で言うのも何だが、とても可愛かった。

「そう、王宮に戻って『今日会った子と結婚したい』と言うからあれは男の子なのよって教えたら号泣して……」


「母上!」

 顔を真っ赤にして陛下が叫んだ。

「ここでそのようなことを暴露しなくても……!」

「あら、貴方がリリアンを信じないからじゃない」

 ローズモンドは眉をひそめた。

「これで信じたかしら? まだなら次は……」

「分かりました、信じますから! ――まさか昔の黒歴史をこんな所で暴露されるとは……」

 陛下は深く息を吐いた。


「……私も母に同じことをやられましたよ」

 ため息をつきながらそう言って、ダニエルは複雑そうな表情を改めた。


「それで、エドガール・アシャール卿に調べて頂いたのですが過去にこのような事例はなく……医師にも原因が不明と言われまして」

 ダニエルは一度私を見ると、再び陛下に向いた。

「マリアンヌの心が戻るか分からないため、フレデリク殿下との婚約を解消していただきたく、本日は参った次第です」


「ふむ……」

 陛下は顎に手を当てた。

「そうだな、確かに……」

「僕はリリアン様と結婚します!」

 突然声が響くと――その言葉を理解するより早く。

 私の身体はフレデリク殿下に抱きしめられていた。


「フレデリク⁉︎」

「僕は絶対彼女と結婚します!」

殿下は叫ぶと私を見た。

「……僕はずっと、リリアン様をお慕いしていました」


「……え?」

「お祖母様からよく話を聞いていて……ずっと憧れていたんです」

 思わずぽかんと口を開けてしまった私を……とても愛しそうな顔で見つめて殿下は言った。

「結婚するならリリアン様がいいと思っていたけれど、既婚で……侯爵と別れる前に亡くなられてしまうし。でも諦めきれずにいたら、まさかこうやって出会えるなんて!」

 キラキラした眼差しで語るけれど……突っ込みどころが多すぎるのですが⁉︎


「まあ……貴方、リリアンの話をよく聞きたがると思っていたら。そんなことを考えていたの」

 ローズモンドが呆れたように言った。

「――そういえば私が持っていたリリアンの若い頃の絵姿、貴方に取られたのよね」

「はい、宝物として大切に保管しています」

「待って、ローズモンド。絵姿って、何でそんなもの持ってるの⁉︎」

 そんなの描かれた記憶ないのだけれど!


「だってリリアン可愛いんだもの」

「あの絵姿を見て一目惚れしたんです」

 未だ抱きしめられたまま……殿下に間近で見つめられる。

「リリアン様。絶対幸せにするので僕と結婚して下さい」

「え……って私、お婆ちゃんですけど」

 身体は若いけど! しかも私の身体ではないし!


「年齢なんか関係ありません」

 その真剣な表情と眼差しは、かつてゲーム画面で見たヒーローそのものだった。

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