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02

「え……母上……?」

 私が名乗ると息子夫婦は目を見開き息を飲んだ。


「お義母さま……本当に? 二年前に亡くなった……?」

「まあ……二年も経っていたのね」

 どうりでマリアンヌの顔が記憶より大人びていたはずだ。


「いや、そんな……信じられないな……」

 ダニエルが困ったように眉根を寄せた。

 確かに、一度転生経験がある私でも、孫の中に入っているのは信じられない。


「でも本当に私は私なの……そうねえ」

 私しか知らないことを話せば認めてくれるだろうか。

「ダニエルは子供の頃は本当に怖がりで。十二歳の時だったかしら、兄が遊びに来た時に怖い話を聞いて布団の中から出られなくなって、トイレにも行かれなくておね」

「うわぁ!」

 おねしょをしたと言いかけた所でダニエルに遮られた。


「ダニエル。人の話は途中で遮らないといつも言っているじゃない」

 大人になっても焦りやすいのは相変わらずだ。

「そうねえ、あとはアレクシアさんと初めて会った時に感想を聞いたら、まるでりんご……」

「もういいです! 母上だと分かりましたから!」

 だから途中で遮るのはだめだと言っているのに。


「あら、それは是非聞かせて欲しいですわ」

「うふふ。後でこっそりね」

「……その言い方や笑顔は確かにお義母さまですわね」

 アレクシアが納得したように肯いた。



「しかし……一体どういう事なんだ?」

 ダニエルが首を捻った。

「マリアンヌの中身が母上とは……」

「そうよね、私二年前に死んだのでしょう? それに……身体中が痛いのだけれど」

「ああそれは……」

 息子夫婦は顔を見合わせた。


「――実はマリアンヌは三日前、学園の階段から落ちまして。以来意識不明のままだったんです」

「階段から!?」

「医者からは、頭を強く打ったようなので……もしかしたらこのまま意識が戻らないかもしれないと」

 それって……もしかしてマリアンヌはもう……。


「――どうして階段から落ちたの?」

「それが……どうやら誰かに突き落とされたようで」

「ええっ」

 突き落とされた!?


「ど、どうして……誰に……」

「目撃した者がいないので分からないのです。ただ状況から自分で落ちたのではないことは確かなようで」

「……そんな……」


 可愛い孫娘のマリアンヌ。

 あれから二年ということは……おそらくもう、「ゲーム」は始まっているのだろう。

 マリアンヌが階段から落とされるなんて、そんな「エピソード」はどこにも……誰の「ルート」にも出てこなかったはずなのに。

 ああ、でも……マリアンヌはゲームとは違う性格のはずだ。

 ゲームとは関係ないのかも……。


「階段から落ちて意識のないマリアンヌの身体に、母上の心が入ってしまったのでしょうか」

 ダニエルが言った。

「でも……確かに私、死んだはずなのに……」

 家族みんなに見守られて……。


「――そういえば」

 私は大切なことを思い出した。


「アルノー……旦那さまは?」

 私を見送ってくれた最愛の夫。

 ここはおそらく王都にある屋敷だから、領地にいるのだろうか。


 私の言葉にダニエルがはっとしたように、その顔を強張らせた。

 ドクン、と心臓が強く震えたのを感じた。


「――父上は……半年ほど前に……」

「お義母さまが亡くなった後、お義父さまはひどく気落ちして……流行病にかかってそのまま……」


「……そう……」

 ぽたり、と手の甲に何かが落ちた。


「母上……」

「あの人らしいわね……」

 寂しがり屋で、いつでも私と一緒にいたがったアルノー。

 私が先に死んだらきっと……耐えられないとは思っていたけれど。

(それでも)

「……長生きして欲しかった……」

 そうすれば、また会えたのに。


 あふれ出す涙の熱さがこの身体が生きていることを強く感じさせて。

 涙が止まらなくなってしまった。

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