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元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?  作者: 冬野月子
第3章 ヒロイン

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01

「ごきげんよう、マリアンヌ様」

「ようこそお越しくださいました、バーバラ様」

 私は屋敷の玄関で客人を出迎えた。


 学園に復帰して二回目の休日。

 私はバーバラ様を家に招いた。

 マリアンヌのことを聞きたかったのだが、学園では常に殿下かカミーユが張り付くように一緒にいるため、なかなか二人きりで話すことができない。

 ダニエルに相談すると『よく互いの家に訪問していたから我が家に招くといい』と言ってくれたので、今日の招待となったのだ。


 ちなみに今日のお茶会は殿下とカミーユにも伝えており、家には来ないよう伝えてある。

 また私を王宮に招くつもりだったらしい殿下は不服そうにしていたけれど、マリアンヌとして友人と交流を深めるのも大切だと言って納得してもらった。



「マリアンヌ様とは二人でゆっくりお話ししたいと思っていましたの」

 お茶の用意を整えた私室に入り、椅子に座ると早速バーバラ様が切り出した。

「私もですわ。記憶をなくす前の自分のことをお聞きしたくて」

「……そうですわね、この二週間見ていて思ったのは、マリアンヌ様は随分と変わられましたわね」

「そうですか……?」

 それは、中身は別人なのだから当然なのだけれど。

「どのように?」

「何というか、幼い……いえ、可愛らしくなられましたわ」


(幼い……?)

 中身は六十歳なのだけれど!?

「そう……ですか」

「本当に全て忘れてしまいましたの?」

 バーバラ様は不思議そうに首をひねった。

「でも言葉やマナーといったものは分かるのでしょう。不思議ですわ」


「ええ……でも稀にあるそうですわ、自分のことだけを忘れてしまうことが。階段から落ちた時に強く頭を打ったせいでしょうと」

 今回は記憶喪失ではないが、ついでに兄が調べてきた。

 頭を強く打ったり、とても衝撃的なことが起きた時に自分に関わることだけ忘れてしまうという事例は時々あるらしい。

 大体は少しずつ記憶を取り戻すらしいが、中には一生思い出せない場合もあったとか。


 私の場合は……どうなのだろう。

 マリアンヌの魂はやがて戻ってくるのだろうか。


「そうなんですの……聞いた時は驚きましたわ」

 バーバラ様はほう、とため息をついた。

「記憶がなくとも身体が元気になられて本当に良かったですわ」

「あの……どうして私はあんな場所にいたのか、バーバラ様はご存知ないですか」


 カミーユに、マリアンヌが落ちた場所へ案内してもらった。

 図書館の裏手にある階段は非常時に使うもので、樹々に隠れて他からは見えづらくなっている。

 誰かに呼び出されたり、内密な用事がなければ行くはずもない場所だ。


「分かりませんけれど……あの日、マリアンヌ様はどこか思いつめていたような顔でしたわね」

「思いつめて……?」

「ずっと殿下のことで悩んでおりましたから」

「……あの、悩んでいたとはどのようなことででしょう。家族に聞いても知らなくて」

 一応殿下本人にも聞いてみたけれど……心当たりはないと返されてしまった。


「私も詳しくは聞いておりませんが、婚約を解消したがっておりましたわ。『私を見てくれる人がいい』と」

「……そうですか」

 やはりマリアンヌは、私と似ていたから殿下の婚約者になった事を知っていたのだろうか。

 そしてそれは彼女にとって、婚約解消したいほど辛いことだったのだろう。


「傍から見ていても殿下との仲はどこかぎこちなかったですわ。最近は片時も離れず、すっかり溺愛されておりますけれど」

「……そうですね」

「それに、あのカミーユ様まで」

「あの?」

「カミーユ様は婚約者も親しい方もいなくて、いつも女性に冷たい態度を取っているのに、それがあんなにマリアンヌ様の事を気遣うなんて。皆驚いていますわ」

「……そうなのですか」


 侯爵家の後継であるカミーユに婚約者がいない理由は聞いている。

 幼い頃から美しさが際立っていたカミーユを巡って女子たちの間で熾烈な争いが起きていたという。

 婚約者の有力候補とされた少女が他の少女たちの虐めにあい、引きこもりになってしまったこともある。

 それらに辟易したカミーユは、成人するまでは婚約者も恋人も作らないと宣言したのだ。

 ゲームでは、そんなカミーユが唯一心を許す相手がヒロインだった。


 カミーユが私に優しいのは、私が彼の大叔母だからだ。

 彼のことは生まれる前から知っているし、マリアンヌ同様、孫のように可愛がってきた。

 カミーユも祖母同然の私には心を許してくれているし、心配もしてくれている。

 本当は女性に優しくできるのに、見た目のせいで辛い思いをして……可哀想な子なのだ。


「それにしても、本当に殿下の溺愛ぶりは見ている方が照れてしまうほどですわね」

 バーバラ様が笑顔と共に言った。

「……あれは……とても恥ずかしいのですけれど……」

 人前であろうと構わず私を抱きしめたり、好意を表す言葉を口にする殿下。

 止めるよう頼んではいるのだが、まるで叱られた仔犬のようにしゅんとされたりすると強くは言えないのだ。


「ふふ、誰も間に入れないくらいですわね……ああ、そういえば」

 バーバラは思い出したように顔を上げた。

「殿下にまとわりついていた平民の女生徒がいましたけれど。流石に彼女も遠慮しているようですわね」

「平民の……」

「一年生で、入学当初から何かと殿下に近づこうとしているのですわ」


「……確か、シャルロットという名前の方でしょうか」

「お会いになられましたの?」

「ええ、復帰した初日に……」

 あれ以来、彼女が私たちの前に現れることはないけれど、こちらを見ているのに気づいたことは何度かある。

 殿下ではなく私をじっと見つめている瞳には、嫉妬といった感情は見えず……どこか冷静に観察するような眼差しに違和感を感じた。


「マリアンヌ様は彼女と直接会話をしていましたわ」

「カミーユから聞きました、言い争っていたとか。何を話していたのかしら」

「私も内容までは聞いておりませんけれど、『どうせ無駄なのに』と呟いていたのは聞きましたわ」

「そうですか……」


 乙女ゲームのヒロインと悪役令嬢。

 殿下を巡って二人がやり取りする場面はゲームでも何度もあったけれど、あれは悪役令嬢も殿下のことを好きだったからだ。

 殿下と婚約解消したがっていたマリアンヌは……シャルロットと何を揉めていたのだろう。

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