06
「まあ、素敵……!」
温室のその一画には何種類もの百合の花が咲き乱れていた。
「こんなに沢山あるなんて……」
「王太后様のご希望です。一年中百合の花を咲かせたいと」
案内してくれた二人の内、温室を管理している庭師の中年男性が答えた。
「まだ研究中なので、真冬に咲く百合は未完成ですが。来年の冬には出来ると思います」
もう一人の青年が言った。
彼は庭師の息子で、植物の品種改良の研究をしているという。
「貴女が一年中百合が見たいと言っていたから。……亡くなってしまったのが残念だったけれど、見せられて良かったわ」
耳元でローズモンドが囁いた。
「……私のために?」
「私も見たかったの。リリアンの花ですもの」
そう言って、ローズモンドはピンク色の百合を指差した。
「見て。どうかしらこの百合」
「可愛らしくて素敵だわ」
他の百合よりも小ぶりだけれど、花びらが縁から中心に向けて淡い色へのグラデーションになっていてとても綺麗だった。
「ふふ、これは『リリアン』という名前なのよ」
「え?」
「貴女をイメージして作ってもらった新種なの」
え……私を?
「どう? 気に入ってくれたかしら」
「……ええ……とても素敵だわ。ありがとう、ローズモンド」
私がこんな素敵なイメージなのかは……謎だけれど。
でもわざわざ私のために、こんな……新しい品種を作ってくれていたなんて。
「この『リリアン』はまだ試作中なので無理ですが、こちらの白い百合はお帰りの時に切ってお渡ししましょう」
庭師が大ぶりの百合を示した。
「魔術で切り花にしても一ヶ月は持つように作りましたから」
「魔術……?」
聞き慣れない言葉に私は首を傾げた。
「息子は魔術の心得がありまして。それで様々な花を作っているのです」
「魔術というのはこの国では馴染みがありませんが、国によって様々な形で使われています」
青年が説明した。
元々は黄金を作り出そうとする、いわゆる錬金術があった。
そこで得られた知識を活かして植物の品種改良などの生活に役立つものから、呪いのような物騒なものまで多くの技術が生まれたのだという。
――前にいた世界でも、錬金術から後の科学に発展したと聞いたことがある。
それと同じだろうか。
「呪いとは物騒だな」
話を聞いていた殿下が言った。
「そうですね。例えばミジャン王国では黒魔術と呼ばれて盛んに研究されているようですよ」
「ミジャン……」
それって確か、今王子が留学中の……。
「まあ……恐ろしいわね」
ローズモンドが眉をひそめた。
「その黒魔術とはどのようなものだ?」
「私も詳しくはありませんが……先ほどお話しした呪いや未来視といったものがあるようです。多くは気休め程度だそうですが、王家が抱えている黒魔術師は不思議な力を持っていて王位争いに暗躍しているそうです」
殿下の問いに青年が答えた。
黒魔術を使った王位争いなんて、まるで小説の中の世界のようだ。
それをいったらこの世界もゲームの世界だけれど……この国は小さいながらも平和だし、王位争いも少なくともここ百年ほどはない。
平和な国に生まれてよかった。
そう思っていると、ローズモンドが私をじっと見つめているのに気づいた。
「……何?」
「いえ……もしかしたらリリアンが今ここにいるのも黒魔術だったりしてと思って」
「え?」
「ふと思いついただけよ。何となくそう思っただけ、気にしないで」
笑いながらそう言ったローズモンドだが、彼女の「何となくそう思う」は昔からよく当たったことを、私もふと思い出した。




