趣味
有能プロデューサーである俺は
事前のリサーチは忘れない。
移動中に部下三匹に、下田代についての
情報を話すように命じると
隣を飛ぶピナウグが憤った表情で
「あいつは卑怯者です!
強いバルヌスや、アルバーンに筋力増強魔法と
防御魔法をかけまくって、私たちが
手も足も出ない状態に強化するんですよ!
それから魔法を使えるスラッグにじわじわと何度も
魔法威力強化魔法をかけるんです!
魔王城を守っていた私の親もそれで……」
「……さっきジジイも言ってたが
支援魔法専門ってわけだな。
よーし、分かった。性格的にはどうなんだ?」
俺が乗っているシナウグが
「敵を褒めるのもよくないですが
やつは堅実ですね。人間どもにも慕われているようです」
「……そうか。ラーンスバンは何かあるか?」
「くへへへ……そいつらは情報収集がたりねぇんですよ。
堅実、卑怯者。それもやつには違いないが
魔法様、やつの裏の趣味を聞いたら笑いますよ」
「話してみろ」
ラーンスバンは下田代の驚愕の趣味を俺に話してくれた。
「……そうか、ならやつの居城で最初に探索するのは
そこにするか」
三匹とも頷いて、東へとさらに速度を速めていく。
下田代が居城にしている東の大陸の
東端にあるトーンムの街の上空まで
俺たちは一時間も経たずに辿り着いた。
関所や要塞は地上にしかなく
飛行船の類にも一切会わなかったので
まっすぐにここまでこられた。
それほど大きくない城を取り囲む城下町は
近くの港や東西南北の地平線まで伸びていて
大都会の様相である。
下田代は慕われているらしい。
いや、待て、まだ同姓同名の別人かもしれない。
とにかく、その真偽を確かめるしかない。
俺たちは小城の尖塔の屋根へと降り立つ。
「この下の部屋ですぜ」
ラーンスバンが、下卑た笑みを浮かべて指さす。
俺たちは静かに窓から尖塔内の部屋へと入っていった。
中の壁一面に貼ってあるものを眺めたとき
俺は乾いた笑いしか出てこなかった。
様々なポーズをした裸の女を描いた絵が五十くらい貼ってある。
十代半ばくらいから
四十近いものまである。
ここはどうやらオナニー部屋のようだ。
「けひひひ……かわいい趣味でしょう?」
「ああ、そうだな。だけど脅すにはまだ迫力不足だ」
ピナウグは興味津々の顔で裸の女の絵を見回して
「ふんっ、大したことないわね」
と自分の胸や尻を触って確認しだした。
シナウグは呆れた顔で
「気に入った女とは馬鍬えばいいでしょう?
人間の男は回りくどいことを考えるものだ」
まあ、脅すには弱いが起点にはなりうるな
と俺が考えていると
ラーンスバンが
「まだ、あるんですよ。くひひひ。今度は地下です」
と邪悪な笑みと共に言ってくる。
尖塔の螺旋階段を下りていく。
途中に居た邪魔な衛兵やメイドたちは
気付かれる前に、俺が指をさして眠らせる。
やったのは初めてだが、無意識で指が動いた。
「けひっ、いいですなぁ。
やはり、今度の魔王様は有能だ」
ラーンスパンが両手の爪を引っ込める。
「まだ殺すなよ。
そういう場が、いずれできる」
鳥人たちは深く頭を下げる。
「礼儀はいいからさっさと案内しろ」
さらにラーンスバンは城内を進み続けて
地下の食料貯蔵庫の壁の石を押して
隠し通路への扉を開いた。
真っ黒な隠し通路を進んでいく。
明かりは無いが、自然に見える。
さらに進んで、突き当りの扉をラーンスバンが開くと
そこには書庫が広がっていた。
これらが何か、俺にはすぐにわかった。
「禁書だな?」
それも、エロに振り切った内容のやつだ。
見るまでもない。精液の匂いがこの部屋には漂っている。-
「……さすがですなぁ」
「ふーん……エッチな本かぁ」
ピナウグが、翼を起用に使い、一冊取り出して読み始めた。
「シモタシロは、これらの禁書には一切満足しておらぬようで
なにやら裸の女が馬鍬う絵本を
指示して造っておるようでしてなぁ」
俺はその意味がすぐ分かって、大笑いしだしてしまう。
不思議な顔で、見つめてくる鳥人たちに
「……俺の知っている男のようだ。
さあ、会いに行くか」
「これ持って行っていい?」
「けひひっ、後で貸して貰えばいいのでは?」
ラーンスバンが下卑た笑い声をあげる。
「それもそうかぁ。ここも今日で魔王軍の支配地になるわけだし」
俺は思わず口を歪めて笑い。
「よく分かってるな。その通りだ」
ピナウグからウインクされる。
見張りを次々に眠らせながら城の中を進んでいき
城主の寝室に俺たちは立ち入る。
広い一室の中心に天幕付きのどでかいベッドが置かれてあり
その中で小柄な、ナイトキャップを目深に被った男が寝ていた。
「くく……くくくく……」
俺は思わず笑みが漏れてしまう。
ベッドへと近寄り、横から紫色の腕を伸ばして
男の肩を軽く揺さぶる。
背後では三匹の鳥人がニヤニヤしながら見ている。
「……ん……寝室には入るなと言っただろうが……。
僕は眠りが浅いんだ……」
高めの声がベッドの中からして
こちらを寝ぼけ眼をこすりながら見つめてくる。
「よう、下田代、久しぶりだな」
「プッ、プロデューサー……」
下田代はその太めの鼻の左右についた細い目を見開いて
俺を見つめてくる。