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使徒

ソシャゲのプロデューサーをやっていて

つくづく思うのだが、ガチャってのは

仕込みが肝心なのだ。

例えば、ゲームのメインストーリーで印象的な

活躍をさせたキャラを間髪入れずに

ガチャに実装する。

時限イベントを高難度にして

プレイヤーにストレスを与えたところで

そのイベントに適したガチャキャラを

ピックアップしたガチャを実装する。

データを参照しながら

ユーザー全体の無償ゲーム内通貨が尽きたところを見計らって

有償通貨のお得キャンペーンを始める。

八月には水着キャラを毎年実装する。

クリスマス、正月、ヴァレンタイン、ホワイトデーなんかも

稼ぎ時なので、時期を逃してはならない。

こういう、言ってみれば単純なことだ。

うちのゲームは、俺の有能な判断能力を十全に発揮できない

無能開発者たちを大勢抱えていたので

イベントとガチャのタイミングなどが

上手く立ち行かなくなり、売り上げを大幅に落としたが

きっと実現できていれば、未だに覇権ゲームだったはずである。

そして、今、目の前のシャマリーヌは

仕込みに成功したと言っている。

つまり、ドラル城に関して言えば、あとはガチャを実装して

ユーザーから利益を搾り取りに行く段階と言うことだ。

ふっ、余裕だな。

ソシャゲならセルラン一位間違いなしである。


シャマリーヌと俺は部屋を出て行くと

祭壇の上に積まれた金は、残り僅かになっていた。

俺は近づいて、左手をかざし、また空気から金を錬成して

山と積んでやる。

この世界では金は要らない。

俺は、正義の使徒どもをぶっ潰すのだ。

理由はよく分からんが、そうしないと

この悪夢はいつまでも覚めないような気がしている。

中身のないローブだけのジジイが

どこからともなく寄ってきて

「お目覚めですな。さあ、バルヌスを崩しにかかりましょうか」

と邪悪な声色で言ってきた。

「まだシャマリーヌの話を聞いてからだ。

 バスネルの進行具合も教えろ」

「仰せのままに」

ジジイとシャマリーヌは同時に跪いた。


その場で俺は報告を聞く

人間に変装して居たシャマリーヌは一週間ほど前に

努力が実ってバルヌス夫人となり、盛大な結婚式を挙げて

今では王妃としての生活を送っているそうだ。

事務員につけたバスネルは金を使って

事務員の男を完全に堕落させるのに成功して

今では思うがままに、男は俺たちに従うようになったらしい。

あの男は、城内でそれなりの立場だったらしく

かなりの情報が、今ではこちらへと筒抜けになっているらしい。

つまり中央ドラル城は、今、俺と残った魔物全員で攻め込めば

一夜にして、こちらの拠点に早変わりである。

攻め込んで浮足立った所を、シャマリーヌに

バルヌスの背中から、ブスリとやって貰えば片付きそうである。

そこを足掛かりに世界制覇を狙うのも良いが

問題は、この大陸が残りの六つの大陸から

囲まれていることである。

「おい、透明ジジイ、今バルヌスを討ったら

 すぐに周囲の大陸から加勢が来るよな」

「そういうことになりますなぁ。

 だが、魔王様の能力があれば、問題ないのでは?」


「ジジイ、違うぞ。ファンタジーでは魔王が慢心してるから

 いつも、正義の連中にやられちまうんだ。

 追い詰められる前に打てる手はすべて打っとく。

 それが真の賢者ってもんだ。わかるな?」


俺だって、無能開発に足を引っ張られなければ

ゲーム運営で打てる手はすべて打ちたかったが仕方ない。

「かかかか……さすがですわい。

 で、どのような手を打つのですかな?」

「バルヌスはあとは背中から刺すだけ

 つまり、いつでも殺れる。ならば他の大陸の

 正義の使徒どもの首根っこも捕まえちまおう。

 どうだ?可能だと思うか?」

「かかか……バイスェル大陸の勇者アルバーンと王妃セリナ夫婦

 そして他の大陸に居る賢者スラッグ、あとは道化のモルグ以外は

 隙が大きいですから、調略が可能かと」

「弱い奴から殺りたい。一番弱い正義の使徒を教えてくれ」

透明ジジイはローブの中から、サッと地図を取り出すと

東側の小さな大陸を指して


「この大陸を治めるシモタシロ・マツゴロウが最弱ですな。

 バッファーつまり、支援魔法専門の魔法使いなので

 他の強力な使徒が居なければ

 何もできませぬ」


「おい、ジジイ、冗談で言ってるのか?

 下田代松五郎だと?辞めたうちの元ディレクターだぞ?」

下田代はHDゲーム化の大失敗の後、

ネットでの俺の十分の一程度の誹謗中傷に心を病んで退社して

そのまま失踪していたはずだ。

俺の夢に出てくるとは、無意識でよほど気になっていたのだろうか。

まぁ、いい。たまたま名前が似ているだけと思おう。

「とにかく、その最弱の使徒の所に行くぞ。

 監視所は相変わらず、節穴ぞろいか?」

四か月前に、ドラル城から行き帰りしたときも

簡単に抜け出られた。

「かかかか……四か月前より、人員が減らされて

 今は全監視所に老兵が十人も居りませぬな。

 どうやら、人間どもは我らが

 滅んだと思っておるようです」

透明なジジイは、嬉しげに話す。

「ならば、東の大陸まですぐに行ける

 飛行部隊を少数精鋭で見繕ってくれ。

 ジジイはここでこの大陸を見張れ、シャマリーヌは

 また妃に戻って、バルヌスの隙や弱みをもっと探って握れ」

「ははっ、仰せのままに」


十分後。

俺は簡単に監視の目を潜って

上空を浮かんでいた。

眼下には、毒沼が広がっている。

辺りには三匹の鳥人たちが翼を羽ばたかせている。

身長二メートルほどの背中から翼が生えたマッチョで

頭が鷹によく似たのがシナウグ

身長一メートル七十ほどでずる賢そうな鶏顔がラーンスバン

そして身長一メートル六十ほどで、両手が翼になっている局部が

羽毛に覆われた裸の女のような形状なのがピナウグだ。

ジジイによると、全員魔王軍が健在なら

空挺部隊を任せられるくらいの腕前だそうである。

俺はシナウグの背中にまたがって

三人と共に高速で東の大陸へと向かっていく。

下田代か……あのメンタル豆腐のクソ雑魚は

俺の足を引っ張った無能開発の中でも

最悪な部下だったが、もし、この夢の世界に居るなら

失踪されて、迷惑かけられた落とし前くらいは

しっかりつけときたいもんだ。

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